「ほっこり、かわいい、おしゃれ」というイメージを持たれることの多い北欧。それだけではなく、国連の発表する「幸福度ランキング」ではつねに上位にランクインし、近年ではジェンダーや環境という観点でも、先進的な考えを目にする機会も多い。
北欧の国々が持つ思想や暮らしから、もっと学べることがあるはずーーそうした思いのもと、北欧の思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、カルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けしているのが、北欧カルチャーマガジン「Fika」だ。
これまで「Fika」では、北欧の知られざるカルチャーや、北欧と直接的な関係はなくとも、北欧らしい精神を感じられる人や作品を対象とした取材・記事の発信を行なってきた。今回は、2020年1月~10月において「Fika」で最も読まれた記事をランキング形式で紹介。初めて「Fika」を読む人も、愛読しているがじつは過去の記事には目を通していない……という人も、この記事が「北欧の精神」への理解が深まるきっかけになることを願う。
まずは10位から8位まで。退職代行の生みの親や北欧出身コメディアンへのインタビューが並ぶ
第10位:退職代行の生みの親・新野俊幸が肯定「幸せのために辞めていい」
第10位にランクインしたのは『テラスハウス』(フジテレビ系)にも出演した、起業家・新野俊幸へのインタビュー。新卒で入社した会社を約1年で退職し、一時はニートになるも、再度就職。しかし2社目も合わずに退職した彼が、自身の苦悩をバネに立ち上げたのが「退職代行サービス」だ。
インタビューでは、「働くこと」を通して幸せな生き方を考え続けてきた新野に、日本の労働環境への疑問を語ってもらった。
第9位:フォロワー100万人超のミスターヤバタンが追い求める笑いの高み
SNS上で動画をアップし、「本当にびっくりしたー!」のセリフでおなじみのコメディアンであるミスターヤバタンは、じつは北欧・ノルウェーの出身。
日本文化に興味を持ち移住。英会話の先生と保育園の先生の仕事を掛け持ちして動画を作っていたけれど、誰も動画を見てくれない……という、下積みとも言える苦労の時代や、緻密なお笑いに慣れている日本人を笑わせたいと思った理由を聞いた。
第8位:さらば青春の光・森田らが世界大会へ。「モルック」ってなんだ?
北欧諸国には、私たちの知らない祭りやスポーツといった文化もたくさん。「モルック」は、フィンランド発の競技スポーツで、木の棒を投げ、数字の書かれた木のピンを倒すというシンプルなルールのもと行われる。
日本だけでなく世界的に見てもマイナーな「モルック」だが、毎年世界大会が行われており、2019年には日本の芸人であるさらば青春の光・森田が日本代表として出場。世界大会で戦い抜いたチーム「キングオブモルック」のメンバーであるみなみかわ、タイーク・金井貴史とともに、モルックの魅力をたっぷり語ってもらった。
7位から4位には、2018年掲載のロングヒット記事もランクイン
第7位:愛されクズ芸人・空気階段。借金と仕送りで生きた二人の幸福論
第7位は、『キングオブコント』直前である2020年9月末に掲載された空気階段へのインタビュー。前述大会の決勝戦にも出場し、人気と注目を集める彼らだが、「借金700万円」「働きたくなくて親の仕送りを頼りに生きる」などのエピソードを持ち、「愛されクズ芸人」としても知られている。
2020年になりライフステージの変化が訪れたという鈴木もぐら、水川かたまりのふたりに、これまでの人生を振り返ってもらいながら、北欧的な「幸福論」についての考えを聞き出してみた。
第6位:暴力を捨てたC.O.S.A.は、ラッパーとして言葉で人を動かす
「Fika」では作り手のクラフトマンシップを伝える記事も多数掲載しているが、その中からC.O.S.A.のインタビュー記事が第6位にランクイン。
<知立の角に立つC.O.S.A.>(C.O.S.A. × KID FRESINO“LOVE”より)というリリックもあるように、愛知県知立市に生まれ育ったC.O.S.A.。孤独なイメージをまとう彼に、暴力でコミュニケーションを取っていたという幼少期から今までを振り返ってもらった。
第5位:ビョークは、アイスランド国民にとっての国民的歌手ではなかった
第5位はアイスランド出身の世界的歌手であるビョークについて考察した記事がランクイン。2018年3月にアップされて以来のロングヒット記事だ。
アイスランド在住で通訳やコーディネーターをしている小倉悠加に、アイスランドの音楽事情やその中でのビョークの立ち位置を伺うと、なんと、タイトルの通り「ビョークは『国民的シンガー』というと少し違う」という答えが。その真意とは何なのか? ビョークだけではなく、同じくアイスランド出身のSigur Rósや、アイスランドの文化についても語る。
第4位:11歳のタトゥーアーティストNOKOと父親GAKKINのオランダ生活
世界的に有名なタトゥーアーティストであるGAKKINは、彼の娘・NOKO含む家族とともに4年前からオランダへ移住。現在11歳になるNOKOも、小学生でありながら現地でタトゥーを彫っている。
日本ではまだ理解がじゅうぶんあるとは言えないタトゥーだが、北欧やヨーロッパ諸国では個性を表現する方法のひとつで、当たり前のものだと考えられている(フィンランドにはタトゥーの博物館まである)。オランダでも個性を伸ばすのびのびした空気を感じているというGAKKINとNOKOに、親子インタビューを敢行した。
いよいよ3位から1位まで。もっとも読まれた記事は、あの人気作品の解説?
第3位:黒沢清の語る映画界 深夜労働やモラルの欠如は作品の質を左右する
「働き方改革」が進められ、劣悪な労働環境が見直されつつある近年。しかし、映画をはじめとする映像制作の現場では、いまだに長時間労働や低賃金のイメージがはびこる。
最新作『スパイの妻』で『ベネチア国際映画祭』銀獅子賞を受賞した映画監督・黒沢清は、そんな現場の「当たり前」に従うことなく、作品の質をより高めるためにも労働環境に配慮するという。
著名な映画監督に、作品ではなく労働問題について語ってもらうという異例の記事が、第3位にランクインした。
第2位:オードリー若林「生きづらさ」の答え。あるべき論から自由になる
2020年10月に記事アップと、ランキング集計時点でわずか10日あまりしか掲載されてない、オードリー・若林正恭のインタビュー記事がなんと2位に。2016年に自身のキューバへの旅を書籍化した『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』の文庫化を記念したインタビューだ。
かつて「人見知り芸人」と呼ばれた若林は、自身の感じる「生きづらさ」の原因を新自由主義的な仕組みなのではないかと気づく。自己肯定することの難しい東京で、どうやって生きていくか? 「おじさん論」も含め、この社会でサバイブするための方法を学ぶ。
第1位:『ミッドサマー』はなぜこんなに怖いのか?幸せな村人たちの狂気
映えある第1位に輝いたのは、鬼才アリ・アスター監督の今年2月公開映画『ミッドサマー』。観た人を恐怖に陥れると話題になった、ホラー映画だ。
舞台となるのはスウェーデンの秘境の村。90年に一度の祝祭が開かれるという村に、その村出身の留学生アテンドのもと4人の旅行者が訪れる。おいしい食事、フレンドリーに歓迎してくれる村人たち、でも、どこかおかしい……。
人の価値観は、その人が育った環境や文化によって形成されるところが大きい。誰かにとっては当たり前のことも、ほかの誰かにとっては「信じられない異文化」なことも多々あるだろう。『ミッドサマー』では、そうした独自文化や習慣を恐怖に昇華させている。
本コラムは若干のネタバレを含むが、まだ未見の人も、映画は観たけど記事はまだ……という人にも読んでほしい。
「直球」だけじゃない北欧の姿を届けたい
10位から1位まであらためて紹介してみて自明なのは、Fikaでは「北欧」と聞いてイメージされるもの以外の、「直球」だけじゃない北欧の姿を映し出そうとしているということ。それゆえ、もしかしたら「変化球」に収まらない「ボール」な記事もあるかもしれないが、少しでもまだ見ぬ北欧の価値観や考えを伝えられたらと願っている。「Fika」はこの11月で誕生から2年半。これからも一味違う北欧カルチャーを届けていくので、目を通してくれたら嬉しく思う。