黒沢清の語る映画界 深夜労働やモラルの欠如は作品の質を左右する

黒沢清の語る映画界 深夜労働やモラルの欠如は作品の質を左右する

インタビュー・テキスト
羽佐田瑶子
撮影:黒羽政士 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)
2020/03/03
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昨今、様々な業界で「働き方改革」が叫ばれ、労働環境が見直されている。しかし、その風潮はものづくりの現場に浸透しているのだろうか。特に日本の映画業界は、長時間労働、低賃金、無契約など過酷な労働環境のイメージが持たれている。

『トウキョウソナタ』『散歩する侵略者』をはじめ数々の作品が国内外で高い評価を受け、日本映画界を牽引する監督のひとりである黒沢清監督。黒沢監督の現場は、深夜までの撮影は極力行わず、スケジュール管理もきちんとされ、労働環境が整えられていると聞く。

働き方の先進国としても知られる北欧。そのスピリットを伝えるFikaが、「映画を取り巻く労働環境、性差、賃金など気持ちのいい状況が整っているかどうかが、ずばり作品のクオリティーを左右する」と話す、黒沢監督とともに映画文化のこれからを考えたい。

時間管理をしっかりしないとまともな映画は作れないと思います。

―黒沢監督の現場は労働環境に関して配慮されていると聞きました。実際にはどのような働き方を意識されているのでしょうか?

黒沢:社会人として当たり前なので自慢できるようなことではありませんが、「時間管理」はかなり真面目に考えています。映画は毎日コツコツ決まった時間働いていれば完成するものではないので、労働時間の配分は気をつけなければいけません。

黒沢清(くろさわ きよし)<br>1955年生まれ。立教大学社会学部卒業。83年『神田川淫乱戦争』で商業映画デビュー。97年公開の『CURE』で世界的な評価を集め、その後も話題作を次々と発表。2019年『旅のおわり世界のはじまり』が公開。2020年6月に、『スパイの妻』がNHK BS8Kで放送されることが決定している。
黒沢清(くろさわ きよし)
1955年生まれ。立教大学社会学部卒業。83年『神田川淫乱戦争』で商業映画デビュー。97年公開の『CURE』で世界的な評価を集め、その後も話題作を次々と発表。2019年『旅のおわり世界のはじまり』が公開。2020年6月に、『スパイの妻』がNHK BS8Kで放送されることが決定している。

―映画業界の撮影は、朝からてっぺん(深夜0時)を超えることが日常茶飯事だと聞くことがあります。

黒沢:そういう現場があることは、噂では聞きます。たしかに、天候など自分たちの力ではどうしようもない条件に左右され、計画通りにいかないことも多々あります。しかし、時間管理をしっかりしないとまともな映画は作れないと思います。なぜなら、映画というのは撮影現場だけで作るものではありません。次の日に備えた準備や体力回復のための時間は、ものづくりの上で必要なこと。なので、できる限り撮影時間をコンパクトに抑えて、個人の時間を設けられるようにしています。

―黒沢組の、基本の撮影スケジュールを教えていただけますか。

黒沢:朝は早いです。映画の撮影は太陽が昇ると始まるので、大体7時、8時スタートですね。夜は太陽が沈む17時ごろには終わります。冬はもっと早いので16時ごろ終了。早く終えるのは夜みんなで飲みに行くためではなく(笑)、僕なら次の日の撮影プランを考えたり、美術部やスタッフなら翌日の準備をしたり、俳優部ならセリフを覚えたり、それぞれやることがいっぱいあるので、その準備のための時間です。

集団でものづくりをするには、合理的な時間配分として、集団で働く時間と個々で準備をする時間の両方が必要なんです。自由に使える時間があることで、心のゆとりも生まれます。しかし、監督がその時間管理を失敗すれば撮影は真夜中までおよび、個人の作業時間も作れず、作品はひどいものになっていく。時間管理の責任は監督にあると、僕は思っています。

映画を作るのは大変ですが、1年中作っているわけではない、というのが本当に救いですね。撮影は準備を含めても約3カ月、その期間はプライベートな時間が十分にない厳しいスケジュールではありますが、終われば時間は空くので、週5日勤務の会社員のほうが大変だと思います。

―撮影時間をコンパクトにしようと思っても、自分だけではなく集団で動いているため計画通りにいかないこともあるかと思います。どのようなことを心がけていらっしゃいますか?

黒沢:「時間管理は僕の義務だ」と自分にいい聞かせて、人のせいにしないことです。多少天候が悪くても、スタッフの動きが遅くても、その中でどうやるかが監督の腕の見せ所。きちんとできるかどうかが作品のクオリティーに大きく関わってくるので、監督の一番の仕事だと意識してやっています。

映画の撮影現場は、才能あるクリエイターの集まりなので、放っておくとみなさん「あれをやりたい」「これをやりたい」といい出すわけです(笑)。しかし全ての意見を聞いていると、とてつもない時間がかかってしまいます。なので、僕はみなさんにこういいます。「それぞれやりたいことはあるでしょうが、ここはひとつ僕に任せてください。そうしたらきちんと終わって、明日も気持ちよく働けますから」と。みなさんの才能を調整してスケジュールの中で最も効率よく収めるのが僕の役目であり、その能力が少しは備わっていたので、僕は仕事を続けていられるのでしょう。

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作品情報

『スパイの妻』

2020年6月にNHK BS8Kで放送
監督:黒沢清
脚本:濱口竜介、野原位、黒沢清
音楽:長岡亮介
出演:
蒼井優
高橋一生

プロフィール

黒沢清(くろさわ きよし)

1955年生まれ。立教大学社会学部卒業。83年『神田川淫乱戦争』で商業映画デビュー。97年公開の『CURE』で世界的な評価を集め、その後も話題作を次々と発表。2019年『旅のおわり世界のはじまり』が公開。2020年6月に、『スパイの妻』がNHK BS8Kで放送されることが決定している。

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