愛されクズ芸人・空気階段。借金と仕送りで生きた二人の幸福論

国際機関のOECD(経済協力開発機構)による「世界幸福度ランキング」で、北欧の国々が上位を占めていることは有名な話。しかし、当たり前だが「人の幸せ」は一概にはいえないもの。幸せに生きるとは、どういうことだろう?

「ギャンブル好きで借金は700万円」「働きたくなくて、親からの仕送りは1,000万円」。そんな型破りなエピソードをいくつも持つ芸人がいる。鈴木もぐらと、水川かたまりによる空気階段だ。愛されクズ芸人として私生活の話が前に出がちだが、日本一のコント師を決める「キングオブコント」では決勝の常連で、深夜ラジオの冠番組は業界関係者にもファンが多く、その実力は疑いようもない。

今年になり、もぐらは別居していた妻子と一緒に暮らし始め、かたまりはラジオでの号泣プロポーズを経て一家の主人となった。そんなふたりに、いままでの人生をほんの少し振り返ってもらい、「幸せ」について考えてみてもらった。

※取材時、スタッフはマスク着用し、出演者との距離を保ち、換気のある場所で行うなど、新型コロナウイルス感染防止対応を徹底したうえで実施しています。

「とにかく人に怒られたくなかったので、漫才はもうやりたくないって思いました」(かたまり)

―まず芸人としてのお話から。最近はテレビ出演も増えていますが、手応えを感じた瞬間というと、何が挙がりますか?

もぐら:テレビに呼んでもらえるきっかけになったのは、やっぱり「クローゼット」のコントですね。2018年の年末に『有吉のお饅頭が貰える演芸会』という特番(テレビ朝日)でネタを披露して、番組の最後に有吉さんがぼくを優勝者にしてくれたんです。

かたまり:あの番組をテレビ業界の方たちが見ていたようで、そこから呼ばれる機会が増えた感じはあります。あとは爆笑問題の太田さんがラジオで褒めてくださったり、ラジオのネタ大会で優勝させてもらったりしたのも、大きかったなと思いますね。

空気階段。左から:鈴木もぐら、水川かたまり

―それきっかけで、ラジオの冠番組も始まったんですよね。そもそもふたりがコント師を選ばれた理由は?

もぐら:コント番組を見て育ったので、もともと好きだったというのはあります。漫才をやったこともあるんですけど、ちょっと照れちゃって。キャラにのって演技しちゃったほうが楽というか。

―かたまりさんはコントがやりたいと思って芸人に?

かたまり:ぼくはどっちでもよかったんです。そんなに器用でもないし、なんとなくどっちかを専門にしたほうがかっこいいなとは思っていたので、NSC(吉本興業の養成所)ではどっちにするかを考えながら、両方やっていたんです。

でも、授業で漫才をやったら講師の方にめちゃくちゃ指摘されて、すごい嫌な気持ちになって。そのときのネタを覚えていないので指摘が真っ当だったかもわからないんですけど、とにかく人に怒られたくなかったので、もうやりたくないと思ってやめましたね(笑)。

有名大学に進学するも、中退・除籍をしたふたり。学歴をどう見る?

―北欧は「福祉国家」ともいわれていて、たとえば、フィンランドの国民は大学までの学費が無償なんです。かたまりさんは慶應義塾大学に、もぐらさんは大阪芸術大学に進学されていますが、「学歴」をどう見ていらっしゃいますか?

かたまり:お笑い芸人になったので仕事で役に立ったということはひとつもないですけど、大学に行ったら親戚が優しくなりましたね。受験を頑張ってるときも優しくしてくれましたし、合格したらいっぱいお金をくれました。

もぐら:大学に行けば親戚から甘い蜜が吸えると(笑)。

かたまり:ぼくは大学を3か月くらいでやめたので、ちゃんと大学生活をしたときのメリットがピンときてないです。でも興味がある人は行ったらいいと思いますよ。専門的な勉強もできますし、一生の友だちもできると思います。知らないですけど(笑)。

―大学に行くこと自体はおすすめだと。かたまりさんは、どういう目的や将来像を持って受験したのですか?

かたまり:ぼくはマジでレアル・マドリードの監督になりたくて。全国高校サッカー選手権で優勝している野洲高校という、美しいプレイをする学校があるんですね。そこの監督はサッカー未経験なのに、すごい指導者になった方で。どうせプロになれないならその路線からサッカーの指導者になろうと思って、大学に行きました。

―将来像を見たうえでの大学進学だったんですね。

かたまり:とはいえ、そんな確固たるものではなくて、なんとなく、大学、東京、楽しそう、行こう! ってくらいの気持ちで受験していました。だって本当は文学部に行きたかったのに、「法学部政治学科には美人が多い」って聞いてそっちにしたくらいですし(笑)。

―もぐらさんは除籍ということですが……。

もぐら:はい、そういうことになっています(笑)。

―そういう意味では大学まで学費が無料という環境に対しては?

もぐら:それは素晴らしいですよね。税金っていうことは、普通に暮らしているだけで大学が無料になるなんて最高ですよ。

―学費さえあれば、卒業していた?

もぐら:していましたよ! でも学歴が必要かって言うとどうなんですかね。それよりも義務教育が終わる中学や高校で、いろいろな「人生のルート」を教えてあげたほうがいいんじゃないかと思っていて。

いまの学校は「表街道」しか教えないじゃないですか。でも絶対、世の中には「裏街道」があるんですよ。たとえば出版社に勤めたい人が頑張って大学に入るという道はありますけど、バイトから手伝いで入って知り合いの先輩についているうちに「こいつ仕事できるな」みたいに、好きこそ物の上手なれじゃないですけど、気づいたらその出版社の社員になっていたみたいな人は絶対いるじゃないですか。

もちろん大学に行ったほうが簡単に社員になれるし、いい給料を貰いやすいかもよとか。そういう、なりたいものになるための方法はいろいろあることを、ちゃんと教えたほうがいいと思いますけどね。多分ほかの道があることを知らずに大学に行く人も多いはずですよ。

かたまり:マジで教えてほしいよね。

もぐら:だってうちのラジオのディレクターさんも大学には行ってないですけど、TBSラジオのいろいろな番組を作っているわけで。たしか最初は、先輩の手伝いでADみたいなことから始めたみたいですよ。

番組を作りたいんだったら大学に行かなくてもいいけど、局長とかを目指すなら大学に行ったほうが確率は上がるよとか、どうなりたいかで必要なものがわかってくるはず。

―そういうことを教えてくれる大人がいてもいいですよね。

もぐら:1クラスに30人いたとしたら、社会に出たときにそれぞれ自分の役割があると知ることも重要だと思うんです。別に「この道だけがすべてじゃないです」とか言っちゃう授業があってもいいかもしれないですね。

―もぐらさんには現在、2歳になるお子さんがいますが、将来は「裏街道もある」ことをお話しするのですか?

もぐら:中学くらいになったら「違う道もあるんだよ」っていうのは話しますね(笑)。将来何になりたいのかをわかっていないなら勉強したほうがいいとは言いますけど。だって手段としては学歴があったほうが簡単になりたいものになれるパターンが大いにあるので。

―もしお子さんが高校には行かないと言ったら?

もぐら:もう中学を出たなら好きにやってくださいって言う。俺の役目はそこで終わるので。だって日本の義務教育は中学までって決まっていますし、昔の人は12歳で結婚とかしていたわけですからね。もう好きに生きてくださいって。

「ぼくはギャンブルで負ける恐怖なんて、知る必要ないと思いますよ」(かたまり)

―おふたりが後悔や失敗したと思っていることはありますか?

もぐら:小さい失敗はもちろんありますよ。もうちょっと早く歩いていたらあの台に座れたとか。前回、前々回はあの馬を買っていたのに今回のレースでは切っちゃったとか、3連単だったら入っていたのにとか。

―パチンコと競馬の話、ですね……? そういうとき、もぐらさんはどうやって気持ちを切り替えているのですか?

もぐら:パチンコ屋の常連のおじさんには、「負け運とか流れっていうものは自分じゃどうにもならないから人の力を借りるんだよ」って教えてもらいました。あとは、負けたあとにビールを飲んで「これは2万円のビールだ」とか言うおっちゃんがいるんですけど、それもひとつの切り替える方法ですよね。

―ギャンブルで負けたのにビールを飲みに行くとは、新しい発散法です……。ちなみにもぐらさんは当時どのように生活されていたのですか? 借金が700万円くらいあるとかないとか。

もぐら:日々楽しくは生きていたと思うんですけど。

―そのときも幸せだったと?

もぐら:そりゃ幸せですよ。ギャンブルは勝たないと面白くないみたいなのはやっぱりありますけど、傷が癒えた頃には負けたこともいい思い出になるというか。パチンコで負けるっていうのは失恋と同じだと思うんです。恋愛も傷が癒えた頃には「あの恋は自分を成長させてくれた」みたいに思ったりするじゃないですか。パチンコもそれを味わえるというか。人間としてはどんどん成長していきますよね。

―ギャンブルには人生の教養が詰まっていると?

もぐら:詰まってますね。

かたまり:味わうべき教養と味わわなくてよい教養がありますから、ぼくはギャンブルで負ける恐怖なんて知る必要ないと思いますよ。

もぐら:いや、やったほうがいいですよ。うまくいくときはうまくいくということをそこで学べますし。何してもうまくいかないときもありますからね。

「日本は恵まれていますよ。なんだかんだ生きていけますからね」(もぐら)

―経済格差が加速すると幸福度は下がるともいわれています。幼少期のもぐらさんは、どちらかというと裕福ではなかったというエピソードもありますが、いま振り返ってみて、幸せと経済格差をどう見ていますか?

もぐら:格差はあったかもしれないですけど、貧乏がいるということはお金持ちもいるわけです。小学校のときにお金持ちの友だちの家に行くと、よくジュースとかケーキをくれたので喜んで食べていましたし、本当にお金持ちの人は優しいなって。かといって貧乏がつらいとは思わなかったですよ。団地でみんなで楽しく遊んでいました。

―ポジティブですね。

もぐら:日本は恵まれていますよ。なんだかんだ生きていけますからね。

―かたまりさんは働きたくないなどの理由で、親からの仕送りが1,000万円になったとか。現在はバイトをされていますか?

かたまり:してますね。

―やはりバイトや働くことへのモチベーションは低いですか?

かたまり:そうですね。やりがいみたいなことはないですね。単純に生活費を稼ぐっていうことだけなので。いろいろやってきましたが、どれも本当に辛かったです。

―もぐらさんは風俗業界のバイトが多かったそうですが、なぜそこにたどり着いたのでしょう?

もぐら:最初は大阪の梅田にあるヘルスで働き始めました。きっかけは学費がどうしても払えないから働こうと思って、道端にある高収入雑誌とかを見ていて給料がよかったので入ったんですよ。やってみたら夜の世界がすごく好きだったというか、興味もありましたし。

―そういうところでアンダーグラウンドの方々と出会う機会は多そうです。

もぐら:やっぱりいましたね。ここでは言えないようなことも含めて、本当に夜の世界ではいろいろと学びました(笑)。

「とりあえず、すいませんって謝っておけばいいことも、世の中にはあるじゃないですか」(もぐら)

―お二人はお互いの性格をどう見ていますか?

かたまり:もぐらは人に対して怒ることがないですね。許せないっていうことがあんまりないんだと思います。人に対しても自分に対しても。

―それは何か理由があるのですか?

もぐら:なんですかね。そこは仕方ないだろうみたいに思うんです。でも息子には怒りますよ。たとえばメシで遊んでるときとか。

―それは怒ると言うより、注意ですもんね。誰に対しても怒らないというのは、いい意味で他人に期待していないとかがあるのでしょうか。

もぐら:そうですね。あとはとりあえず「すいません」って言って、あとで酒を飲む。謝っておけばいいことも世の中にはあるじゃないですか。そこで反論をしてもしなくても結果的には一緒というか。だったらもうすいませんで早く終わらせて酒を飲んだほうがいいわけで。「運が悪い日だった、今日は」って、出ないパチンコ台に座ったのと一緒ですね。

かたまり:その性格は絶対にラッキーですよね。でも相方としては、それがマジでむかつくときもありますよ。完全にもういま逃げ出す体制で話を聞いてるよなってときは、もう殴ってやろうかと思う! ぼくがいま怒っていることをすべて右から左に流して、次に自分が快楽を得るためのことを考えているっていうのがあからさまにわかるときがあるので。

でも生きてくうえでは、もぐらの性格でいたほうが楽だなとは思いますけどね。ぼくも怒りをぶつけているときは建設的な会話をしてやろうとは思っていなくて、むかつくという感情をただ相手に発散しているだけなので、そうやって聞き流しているくらいがちょうどいいんですよね。

―もぐらさんはそういうとき、相手に対してプライドのようなものが出てしまわないんですか?

もぐら:ないですよ。運が悪いっていうだけです。

―もぐらさんから見て、かたまりさんはどうですか?

もぐら:とにかく突っ走っちゃうことがありますね。ワーーッみたいな。それでラジオの収録中にブースから逃げるとか(笑)。「やりたくないって言ったらやりたくないんだ!!!!」って、そういうのを見ていると気持ちがいいですよ。俺は、「そりゃやんないとだめでしょ」って思っちゃいますけどね。とりあえずここはうまくやって、あとで酒飲めばいいじゃんみたいな。

―いっしょにいるうえで、それは良い部分になるのですか?

もぐら:よくも悪くもなんじゃないですか? かたまりのそういうところがあるから、ラジオの場が面白くなっていることもあると思いますし。

結婚して家族ができたふたりが思う、幸せの瞬間とは?

―ラジオで公開プロポーズをし、晴れて結婚をしたかたまりさん。どんなときに実感しますか?

かたまり:家で奥さんがおならをしたときですかね。ぼくが寝ていて聞かれていないと思ったのか、1回おならをしたことがあって。ぼくは全然気にしないので、「おい」って冗談でつっこんでから、したいときはする感じになったんです。気を使わないでいてくれたのだなと、気持ちがすごい楽になりましたね。

もぐら:いい話だね。

―最後に、お二人にとって「幸せ」とはどんなことだと思いますか?

もぐら:幸せな瞬間はいっぱいありますよ。メシを食ってるときや、子どもに食べさせているときとか、環七通りで子どもに車を見せて「ぶーぶー」って言っている姿をながめているときとか。でも基本的に幸せだなっていう感覚って本当にふとくるものであって、人生のなかのご褒美みたいなものじゃないですか。

―その数が多いという実感はありますか?

もぐら:多いとは思います。電車がちょうど来たときに、ラッキーって気持ちとか。幸せは日々くるものだと昔から思っているので。

―かたまりさんどうですか?

かたまり:嫌な時期でも楽しいことって絶対にあるもので、大学をやめて家にいたときも、「パワプロ」のゲームをしたり、芸人さんのラジオを聞いていたときは楽しいって思えました。ごはんを食べているときも幸せですしね。

もぐら:もし幸せを感じられない人は、パチンコをやったらいいと思いますけどね。

かたまり:それで最初から負けたら最悪だよ!

プロフィール
空気階段 (くうきかいだん)

岡山県出身の水川かたまりと、千葉県出身の鈴木もぐらによって、2012年に結成されたお笑いコンビ。日本一のコント師を決める「キングオブコント」では、2019年から2年連続で決勝進出。若手のコント師として頭角を現している。2017年にスタートしたTBSラジオ「空気階段の踊り場」(毎週土曜27:30~28:00)での、飾らないトークと人間味あふれるエピソードに、ファンのみならず、業界内からも注目を浴びている。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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