Teenage Engineering OP-1のシンセ革命 10周年を機に考える

Teenage Engineering OP-1のシンセ革命 10周年を機に考える

2021/12/03
テキスト・編集
山元翔一
イラスト:ケント・マエダヴィッチ 取材協力:三船雅也(ROTH BART BARON)、Kuro(TAMTAM)

シンセサイザーは私たちの生活に何をもたらしうるのだろうか?

「パンデミックにより社会はどんどん変わっている。デモも起こってるわ。取り組むべき問題がたくさんあるのは明白よね。だからこそアーティストやーーマイノリティーの人々や女性に参加してほしい。このマシンは未来の音を生む。みんなが未来の声を生んだらどうなるかしら」

Apple TV+で公開されている『サウンドを語る with マーク・ロンソン』(2021年)のなかで、シンセサイザー歴史家のエミー・パーカーは視聴者にこう語りかける。「このマシン」というのは、シンセサイザーのことだ。

そしてこのパートで番組がフィーチャーしているのが、スウェーデン・ストックホルムを拠点にする電子楽器メーカーTeenage Engineeringが2011年に発表したOP-1というシンセサイザーである。

『サウンドを語る with マーク・ロンソン』予告編。本稿で参照したエピソード4「シンセサイザー」には、ポール・マッカートニーらも登場する(外部サイトを開く

シンセサイザーとともに日常を送っている人はそう多くはないだろう。だが、あえてこう問いかけてみたい。私たちにとってシンセサイザーとは何か?

番組のなかで、ホストであるマーク・ロンソンは「素人レベルのミュージシャンをプロに変えてしまう」ものだと語り、エミー・パーカーは「自由のためのツール」と表現し、ケヴィン・パーカー(Tame Impala)は「電気の箱(シンセ)を通して自分の世界を表現できる」と語る。

言葉にしがたいものを表現するために、絵を描いたり、写真を撮ったり、詩を書いたりする……シンセサイザーで音をつくり、鳴らすという行為は、そういった営みと本質的には同じことであり、シンセサイザーは人々の心のうちに眠るクリエイティブなエネルギーを解放するものだーーこの番組からはそんなメッセージを受け取ることができるように思う。

Teenage Engineering OP-1(筆者撮影)
Teenage Engineering OP-1(筆者撮影)

SNS時代に増加するアマチュアミュージシャンとメンタルヘルス

SNSに動画を投稿できるようになったことで、自らのベッドルームから音楽を発信するアマチュアのミュージシャンが増えている。エミー・パーカーはこう指摘し、SNS時代を象徴するシンセサイザーのひとつとしてOP-1を紹介している。

@op1andchillより

「@op1andchill」は、ホームスタジオで録音して日常的に音楽を発表するミュージシャンたちの動画をキュレーションしてシェアするInstagramアカウントで、「#OP1」のハッシュタグをつけた投稿は10万件以上にものぼる(2021年12月現在)。

@op1andchillでシェアされる投稿のなかには、アンビエントや実験的なエレクトロニックミュージック、そしてローファイヒップホップ(別名、チルホップ)と呼ばれるものも少なくない。

非常にシンプルかつ予定調和的で「誰にでもつくれる」としばしば指摘されるローファイヒップホップは、「特に若年層の抱える社会的ストレスを開放する手伝いをしている」という言説もあり(※1)、アマチュアミュージシャンの増加と照らし合わせて考えると興味深い。

24時間ライブ配信している「lofi hip hop radio - beats to relax/study to」は、ローファイヒップホップを象徴するもののひとつ。YouTubeのチャット機能がリスナー同士の交流を生み、チャンネル自体がコミュニティーのような機能を持つに至っている。また機材としてはRoland「SP-404」というサンプラーを抜きにローファイヒップホップを語ることはできない

※1:HYPEBEAST.JP『カルト的に支持される“ローファイ・ヒップホップ”の人気の秘密を探る』参照(外部サイトを開く

ローファイヒップホップに限らず、オノ・ヨーコが「Art is a way of survival(アートは生存方法だ)」という言葉を残しているように、SNS時代に増加するアマチュアの音楽家たちは、「音楽をつくる」という行為を通じて、自らのメンタルヘルスのケアをし、ストレスフルな社会を生き抜く糧を得ているのではないか。

当然、それはOP-1以外の楽器にも当てはまることだが、マーク・ロンソンが「装置はアナログなのに現代のシンセ時代に適応している」と番組で語ったように、このSNS時代において、ユーザーの創造性と可能性を限りなく刺激する楽器でありながら、おもちゃのように手軽に扱えるというOP-1の優位性は特筆すべきだろう。

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