小林聡美が語る、肩の力の抜き方。むきだしの自分でいる大切さ

映画『かもめ食堂』『めがね』など数多くの出演作で、自然体に生きる女性を演じてきた女優の小林聡美。2021年1月15日にスタートした連続ドラマ『ペンションメッツァ』(WOWOW)では、カラマツ林のなかに佇むペンションのオーナー・テンコを演じている。

フィンランド語で「森」を意味する「メッツァ」がタイトルに入っているとおり、大自然のなかでのゆるやかな暮らしが描かれている本作。ペンションを訪れるゲストとテンコの気さくなやりとりは、心にじんわりと温かいものを残す。同時に、忙しい日々のなかでしばし立ち止まり、気持ちを緩めるきっかけを与えてくれるようなドラマだ。

コロナ禍による日常の閉塞感から、しばし開放してくれそうな本作の見どころはもちろん、私生活で実践している肩の力を抜くコツについてなどお話をうかがった。年齢を重ねるに連れて、意識するようになった「むきだしの自分」でいることの大切さとは?

ハイジのような暮らしは難しい? 大自然での生活における魅力と大変さ

―『ペンションメッツァ』の撮影は、長野県の森のなかで行われたそうですね。自然に囲まれた環境のなかでの撮影はいかがでしたか?

小林:癒やされましたね。撮影以外の時間はずっとホテルにいて、どこにも出かけられませんでしたが、撮影現場に行けばたっぷり自然と触れ合えるので。

都内での撮影だと新型コロナウイルスの影響もあって、より緊張感が伴います。もちろん、今回も細心の注意を払いながらの撮影でしたが、現場が森のなかだったことで気が紛れました。空気もおいしくて息苦しさがなかったので、東京にいるときに比べてストレスの感じ方が違ったように思います。個人的にも森は好きなので、とても気持ちの良い時間でしたね。

小林聡美(こばやしさとみ)
1965年生まれ。東京都出身。1982年に出演した映画『転校生』で初主演を飾る。ドラマや映画などで女優として活躍する一方で、著書も多数出版。著書には『読まされ図書室』『散歩』『聡乃学習』などがある。映画の主な出演作は、『かもめ食堂』 『めがね』『ガマの油』『プール』『マザーウォーター』『東京オアシス』『紙の月』など。テレビドラマの主な出演作は、『やっぱり猫が好き』『すいか』『パンとスープとネコ日和』など。2021年1月15日からスタートしたWOWOWオリジナルドラマ『ペンションメッツァ』では、主人公のテンコ役として出演。
『ペンションメッツァ』ダイジェスト

―小林さんは以前、エッセイのなかで「都会を離れて自然豊かな場所で暮らしたい気持ちが年々強くなっている」と書かれていました。今でもそれは変わりませんか?

小林:自然に寄り添って暮らしたい気持ちは、ずっと持ち続けています。美しい森に囲まれたところで、小さな畑があったり、たまに動物たちが来たりして、そんな暮らしに憧れはあります。ただ、実際に大自然のなかで暮らすとなると生活していくだけでも大変で、ある意味、命がけですよね。そう考えると、ハイジのように大自然のなかで天真爛漫に生きていくことは難しそうだなと感じます。

ですから現実的には、山が見えるようなところで自然と触れながら暮らしつつも、ある程度は都心部にアクセスしやすい場所が良いなと。あと、文化的なものにも触れたいから、美術館や図書館も近場にあってほしいし……。欲張りなんですけど(笑)、本音を言うとそういう生活が理想です。

ドラマ『ペンションメッツァ』の第4話「ヤマビコの休日」より(画像提供:WOWOW)

―今回のドラマ『ペンションメッツァ』の主人公・テンコさんは、森のなかで暮らしつつも、ペンションに来る人たちとの関わりを持っています。そういった暮らしは、いかがですか?

小林:拓けた田舎での一人暮らしだけど、さまざまな人とも交流できるのは、ペンションならではですよね。テンコさんを演じて感じたのは、普段は自然のなかで一人静かに過ごしているからこそ、人との関わりをより大切にできるのかなということ。

人は一人で生きていけない生き物ですし、さまざまな人に助けられながら生きている。けれど、都会で暮らすのと、大自然のなかで暮らすのは、そのありがたみの感じ方もまったく異なるだろうなと思いました。

とはいえ、自宅にお客さんを招くのって緊張しますよね(笑)。友達や親戚がたまに遊びに来るくらいだったら良いですけど、日常的に見ず知らずの人が家に来るのはちょっと大変そうですし……。テンコさんの、誰と対峙する時でも自分らしく振る舞っていられるところは魅力的だと思います。

信頼することで、相手も心を開いてくれる。フィンランドの幸福度が高い理由

―テンコさんの人への接し方って、とても素敵ですよね。突然の来客にもやわらかく、自然な態度で迎えてくれます。

小林:妙に気負ったり、警戒したりしない性格ですよね。いろんなタイプのお客さんが来るので、私だったら「この人大丈夫かな?」と疑ったり、怪しい雰囲気の人だったら追い返したりしてしまう気がしますが(笑)。

ドラマ『ペンションメッツァ』の第2話「ひとりになりたい」より(画像提供:WOWOW)

―初めてペンションを訪れるお客さんは、いつの間にかテンコさんに心を許し、身の上を語り出します。テンコさんには、相手の心を開かせる不思議な魅力があるように感じました。

小林:自分が人を信頼しているから、相手も心を開くのだと思います。森のなかでペンションをやるって、基本的に他人を信頼していないとできないですよね。きっとテンコさん自身も、これまで人を信頼したり、信頼されたり、そんな人間関係を築いてきたからこそ他人に優しくできるのかなと。

ドラマ『ペンションメッツァ』の第3話「燃す」より(画像提供:WOWOW)

―なるほど。その結果、お互いに心を開ける関係性が築けるのかもしれませんね。

小林:そうですね。あと、以前、フィンランドについて書かれた本で読んだのですが、他人を信頼することって自分自身の幸福度にもつながるそうですよ。たしかに私もフィンランドの人と接するたびに、そんな印象を受けます。

―フィンランドは世界のなかでも特に幸福度が高いことで知られていますが、他人を信頼するという価値観も、その一因かもしれないと。

小林:そう思います。逆に考えると、相手を警戒したり、怯えたり、人に頼み事ができずに結局自分で抱えてしまったりするのは、たしかにストレスにつながりますもんね。

日本人も基本的には優しい性格だと思うんですが、残念なことに物騒な事件も多いから、「そう簡単に人を信じちゃいけない」っていう意識がどこかにある。無防備すぎるのは危険だけど、日々の生活のなかでもう少し他人を信用することができたら、幸福度もちょっと高まるかもしれません。

肩の力を抜いて過ごすコツは、ニュースを見過ぎないこと

―テンコさんは自然体というか、どこか肩の力が抜けているような印象も受けます。演じるうえで意識した点はありますか?

小林:テンコさんは、周囲のいろいろな雑音に惑わされない人なのかなと思います。森のなかで生活していることも影響していると思いますが、心にさざ波を起こさず、つねに静か。だから、どんなときも慌てず、肩の力が抜けているように見えるんじゃないかと。演じるにあたって、そんなことを意識していました。

ドラマ『ペンションメッツァ』の第1話「山の紳士」より(画像提供:WOWOW)

―小林さん自身は、雑音に惑わされないために心がけていることってありますか?

小林:ニュースを見過ぎないこと、ですかね。私の場合、SNSもほとんど見ません。よく言われることですが、情報を捨てる勇気を持つというか。もちろん情報を知っていると便利なこともあるでしょうけど、知らなくてもそれはそれで別に困らないことも多いし、余計な気を張らずに済む。

もちろん新型コロナの状況や、最低限知っておいたほうが良いことはあるけど、あまり世間の騒ぎに巻き込まれないようにするというのは心掛けています。

―小林さんはご自身のエッセイでも、普段テレビもつけず、「無音状態」で過ごすことが多いと綴っていましたね。

小林:そんなことまで書いていましたか(笑)。最近は、たまに音楽をかけたりしますけどね。それでも毎年、紅白歌合戦を見ると新鮮な気持ちになります。今、日本ではこういう音楽が流行っているんだなーって。

でも、それに対して、無知を恥じることはありません。みんなが知っていることを知らなくても、別に良いんじゃないかな。あとから聞いて「え! そうなの!?」とびっくりするのも楽しいですし。

自然体を保つための意識とは? 「むきだしの自分」でいることの大切さ

―また、ほかにもエッセイのなかで綴られていた、「年齢を重ねるにつれ、『むきだしの自分』で生きることを意識するようになった」というエピソードも印象的でした。普段、テレビや映画に出ている自分は実際よりも魅力的に盛られているがゆえに、むきだしのままで外を出歩くことに抵抗がある。だからこそ、むきだしの自分でいられる場所を増やしていきたいと。

小林:つくられたイメージに応えようとしてばかりいると、どこかで居心地が悪くなったり、疲れたりしますからね。だから、自分を「盛らずにいられる」場所や仲間を持つことが大事だと思うんです。

外見だけじゃなく、性格もそう。必要以上に盛らない。疲れているときは「疲れている」、親切にできないときは「親切にできない」と言える居場所を増やせたら、自然体でいられる時間も多くなるはずですから。

ドラマ『ペンションメッツァ』の第6話「さすらう」より(画像提供:WOWOW)

―現在のコロナ禍では特に、周囲の情報や環境の変化に惑わされず、自分らしさを見失わないことが大事だと感じます。

小林:そうですよね。今は特に、自分に気持ちを向けてあげることが大切な気がします。自分の心がどんな状態なのか把握して、無理をしない。そして、周囲もそれを認めてあげる。そういう価値観が広がると、より過ごしやすくなりそうです。

それに実際、コロナの影響によって、そんな考え方がだんだん当たり前になっている気がします。たとえば、なにかお誘いを受けたときに「感染が心配だから、今回はやめておく」と言いやすくなりましたし、その意見を周りも尊重してくれる風潮になっているなと。お互いの意思を尊重することで、それぞれが自分らしく生きていける世の中になったら良いですね。

コロナ禍による制限があるなかで、いかに楽しく遊ぶかを考えたほうが良い

―世の中が閉塞感を抱えている今、憂鬱になったり、気分が落ち込んでしまったりする人が増えていると聞きます。小林さんは外出自粛でふさぎ込んでしまうようなことはありませんか?

小林:あまりないです。やっぱりニュースをあまり見ていないからかな(笑)。危険なことや気をつけるべきことさえ抑えておいて、あとはなるべく楽しい気持ちでいたいなと。いろいろ制限されているなかでも、いかに日々を楽しく過ごすか考えたほうが精神的に良いじゃないですか。

気分が沈んでしまっている人は、ニュースを見るのは1日1回だけにするとか、SNSを見る頻度も減らしてみるとか、意識的に情報と離れてみると良いのではないでしょうか。

その分、自分の時間と向き合って、なにかを楽しむ意識や機会を増やせたら、気分的にラクになれるのかなと私は思います。ライターさんや編集者さんのようにお仕事の都合上、情報を得なければならない人は難しいかもしれませんけど。

ドラマ『ペンションメッツァ』の第5話「むかしの男」より(画像提供:WOWOW)

―たしかに、暇さえあればついついSNSを見てしまいますが、「休日はSNSをあまり見ないようにする」とかでも自分の時間と向き合う機会が増やせそうですね。小林さんにとって、今いちばん楽しいことはなんですか?

小林:俳句の会だったり、最近習い始めたピアノを家で練習したり、本を読んだりすることですね。あとは、それこそドラマや映画を見て、非日常を疑似体験するのも楽しいです。ということで、みなさん、ぜひ『ペンションメッツァ』を見てください(笑)。

―うまくまとまりましたね(笑)。最後に、あらためて『ペンションメッツァ』の見どころを教えてください。

小林:普段の忙しい生活とは違う、ゆるやかな時間の流れを感じていただきたいです。自然に寄り添うテンコさんの暮らしや客人とのやりとりに、ほっとしていただけると良いなと。そして、なによりたっぷりの自然に、みなさんが抱えている閉塞感が少しでも晴れたら嬉しいですね。

ドラマ『ペンションメッツァ』の第4話「ヤマビコの休日」より(画像提供:WOWOW)
番組情報
WOWOWオリジナルドラマ
『ペンションメッツァ』

WOWOWオンデマンドにて全話配信中。

脚本・監督:松本佳奈
音楽:渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)
出演:小林聡美
役所広司
石橋静河
ベンガル
板谷由夏
山中崇
光石研
三浦透子
もたいまさこ

プロフィール
小林聡美 (こばやし さとみ)

1965年生まれ。東京都出身。1982年に出演した映画『転校生』で初主演を飾る。ドラマや映画などで女優として活躍する一方で、著書も多数出版。著書には『読まされ図書室』『散歩』『聡乃学習』などがある。映画の主な出演作は、『かもめ食堂』 『めがね』『ガマの油』『プール』『マザーウォーター』『東京オアシス』『紙の月』など。テレビドラマの主な出演作は、『やっぱり猫が好き』『すいか』『パンとスープとネコ日和』など。2021年1月15日からスタートしたWOWOWオリジナルドラマ『ペンションメッツァ』では、主人公のテンコ役として出演。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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