北欧出身の落語家・三遊亭じゅうべえが見つめる日本社会の不思議

北欧出身の落語家・三遊亭じゅうべえが見つめる日本社会の不思議

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:中田光貴(CINRA.NET編集部)
2019/06/25
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最近は「国際化」「多様化」といった言葉が日本中を飛び交っているものの、国としてまだまだ一歩も二歩も足りない状況なのは知ってのとおり。外国人就労、移民や難民の受け入れ、社会制度の整備など、課題は山盛りである。そんな日本の東京で、落語家として日々修行に励んでいる人がいる。

ヨハン・エリック・ニルソン・ビョルクさんは留学生として日本に来日。そこで出会った落語の世界に魅せられ、現在は『笑点』(日本テレビ系)メンバーの三遊亭好楽師匠のもとで「三遊亭じゅうべえ」として前座修行中だ。なぜ彼は、遠く離れた極東の島国で落語に打ち込むことを決めたのか? また、彼が落語を通して触れる日本は、どんなものなのだろうか?

落語って、面白ければいいってものではないと思うんですよ。

―現在は三遊亭好楽師匠に入門されて、三遊亭じゅうべえとして活動されてますが、かつては「ボルボ亭イケ也」という、いかにもスウェーデンらしい名前だったそうですね。

じゅうべえ:素人時代にお世話になっていた方から、つけていただいたのがその名前だったんですよ(笑)。ちょっとした落語会をやるから出てみろ、って言われて「お前さんはスウェーデン人だから……ボルボだな。あとはIKEAだ!」と、その場で。

―ストレートすぎる命名(笑)。それにしても、海外の人が日本の話芸である落語に興味を持つというのは珍しいですね。もちろん初代快楽亭ブラック(明治~大正時代に活躍したイギリス出身の落語家)さんや、桂三輝(読み方は、かつら さんしゃいん。カナダ出身)さんといった先輩たちもいらっしゃいますが。

じゅうべえ:もともと言語や演劇、日本のアニメに興味がありまして、中央大学に1年間留学していたんですよ。サークルの新歓で、演劇部を見たり、背が高いからって理由だけでバスケ部に誘われたりもしたんですが、そのなかでたまたま出会ったのが落語研究会でした。それまではもちろん落語って存在自体を知らなかったんですが、新歓ライブで見た噺が奇妙で面白かった。それで入部しました。

三遊亭じゅうべえ(さんゆうてい じゅうべえ)<br>本名は、ヨハン・エリック・ニルソン・ビョルク。2016年8月15日、三遊亭好楽の十番弟子として入門。入門前はボルボ亭イケ也として活動。スウェーデンのストックホルム大学で日本語を学ぶ。その後、中央大学に交換留学した際に、落語と出会う。母国スウェーデンに似たようなものがないため、落語家になると決心。将来的には、落語を世界に広めていきたいと思っている。趣味はアニメ、映画、読書、ゲーム。
三遊亭じゅうべえ(さんゆうてい じゅうべえ)
落語家。本名は、ヨハン・エリック・ニルソン・ビョルク。2016年8月15日、三遊亭好楽の十番弟子として入門。入門前はボルボ亭イケ也として活動。スウェーデンのストックホルム大学で日本語を学ぶ。その後、中央大学に交換留学した際に、落語と出会う。母国スウェーデンに似たようなものがないため、落語家になると決心。将来的には、落語を世界に広めていきたいと思っている。趣味はアニメ、映画、読書、ゲーム。

―落語に惹かれた理由はなんでしょう?

じゅうべえ:いろいろありますけど、世界観の不思議さですかね。突然物語が終わったりするじゃないですか。欧米の演劇のセオリーからすれば、この後の話がもっと必要だろう、もっと盛り上がるだろうって手前で唐突に終わったりする。それが新鮮でした。

それから、日本語を勉強していったとしても、自分が普通に就職して勤め人になるイメージはまるでなかったわけですよ。興味のないものには努力できないですし。せっかく落語と出会ったのだし、これも縁だと思って真剣にやってみようと。それで三遊亭一門に入門を決めました。

―数多いる落語家のなかで、好楽師匠に惹かれた理由は?

じゅうべえ:落語を勉強しようと決めて、いろんな方の高座を見ましたが、うちの師匠の噺には「温かい感じ」があったんですね。師匠は、滑稽噺でも人情もののように聞こえる噺をする方で、人間としても尊敬できる。「師匠」というのは、単に教えてもらうだけの人ではなくてお父さんみたいなものですからね。まっすぐにリスペクトできる人でないといけない。それが理由です。

三遊亭じゅうべえ

―技術だけではなく「温かい感じ」というのが良いですね。

じゅうべえ:落語って、面白ければいいってものではないと思うんですよ。落語はコメディーというよりも演劇として見ているところがあって。多様なキャラクターが登場して、ストーリーがあって、愉快な話のなかにも人間のダメなところ、美しいところが見えてくる。それって、非常に演劇的です。

ちょっと話がそれますが、日本人は映画や芝居を見る経験を、「そのとき限りのもの」に終わらせる傾向があると思うんですよ。感動はあっても、劇場を出た瞬間にそれを止めちゃうというか。

スウェーデンや欧米だと、批評家でなくても分析的に作品を見るし、そこで扱われていたテーマや主張を持ち帰って、ずっと考えたりするんですね。例えば『ドラゴンボール』は海外でも人気ですけど、作品を見ることで「俺も強くなりたい!」みたいな前向きな気持ちになって、そのあとの人生に大きな影響を受ける人はけっこういます。と言っても、空を飛んだりかめはめ波を撃てるようになったりはしませんけど。

―そりゃそうですね(笑)。

じゅうべえ:でも、そのくらい作品が人に影響を与えるものとして認知されてるわけです。でも日本人は、漫画やアニメが「がんばって生きよう」「自分らしくあろう」「夢に向かって、あきらめずに進もう」みたいなテーマを観客に伝えても、それが人生に大きく影響を及ぼさない。まあ、実際の社会を見れば仕方ないとも思うんですけどね。社会は作品のテーマとはまったく逆のことを求めてきますから。

―たしかに。自分らしくあろうとする人は、日本ではだいたい抑圧されます。

じゅうべえ:本当にそう! それもあって落語が好きなのかもしれません。人間の良いところ、悪いところをいろいろ伝えてくれるじゃないですか。その全体で感じさせる「味」みたいなものに惹かれるのかもしれません。

三遊亭じゅうべえ
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三遊亭じゅうべえ(さんゆうてい じゅうべえ)

落語家。本名は、ヨハン・エリック・ニルソン・ビョルク。2016年8月15日、三遊亭好楽の十番弟子として入門。入門前はボルボ亭イケ也として活動。スウェーデンのストックホルム大学で日本語を学ぶ。その後、中央大学に交換留学した際に、落語と出会う。母国スウェーデンに似たようなものがないため、落語家になると決心。将来的には、落語を世界に広めていきたいと思っている。趣味はアニメ、映画、読書、ゲーム。

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