クリエイティブ都市の特徴は? ストックホルム在住の編集者が語る

ストックホルムと東京の二拠点生活。「都市の編集者」として感じる文化の重要性

現在こちらの気温は9℃。11月のストックホルムはカラッと晴れることもあれば、霧雨が延々と降り続くこともあるのですが、ここ最近は生憎の曇り空で優柔不断な天気が続いています。

思い起こせば、「ストックホルムにも拠点をつくろう」と8年前にこちらに来たのも11月で、まさに空が雨を降らせようか決めかねているような日でした。

松井明洋(まつい あきひろ)
1982年生まれ。都市の編集者集団、MEDIASURF代表。日本橋兜町のマイクロ複合施設「K5」共同運営、同エリアのビアバー「Omnipollos Tokyo」、ビアホール「B」、コーヒースタンド「SR」なども運営。コロナ以前は、東京とストックホルムをベースに世界中を回り、都市の定点観測することを趣味としていた。現在もストックホルムと東京の二拠点で活動中。

そもそも、東京をこよなく愛するぼくがなぜストックホルムに行くことになったのか。それは、当時の彼女、つまり現在の妻との出会いがきっかけでした。

東京で出会ったストックホルム出身の彼女。東京駐在の任期が切れるタイミングで、「家族で長い時間を過ごすならストックホルムも良いね。寒いだろうけど、自然も多そうだし。何度かぼくも行ったことあるしね」という何気ない会話から、二拠点生活を決意。仕事がある東京に居を構えつつ、ストックホルムにも年の半分ほど滞在する生活が始まりました。

冬は長く、降雪が多いストックホルムの風景

東京とストックホルムを行き来する生活は、仕事においても役立っています。われわれMEDIASURFは自分たちを「都市の編集者」と位置づけ、エリアを文化の力をもって編集し、活性化する、ということを行っています。

「都市の編集」とは具体的に、対象エリアの目に見えない文脈を読み解き、レストラン、バー、カフェ、ショップ、ホテル、ギャラリーなどさまざまな文化コンテンツ=「点」をキュレーションしエリアに散りばめ、情報や人の流れでそれらをつなぎ「線」にして、最終的にそのエリアをユニークな「面」にしていく行為です。

そのためには、世界中で起きている大きなトレンドや流れ、時代のうねりのようなものを自身の体験を持って理解し、解釈することが大事。そうした感覚を東京や日本各地に照らし合わせて、新たな都市文化を創造していきたいと考えています。

ですから、世界有数の魅力的な都市として知られるストックホルムという街で起きているさまざまな事象を体験しながら東京と比較できる状況は、プラスに働いていると実感しています。

皆違ってそれで良い。ストックホルム特有の価値観と街の魅力

さて、そんな二拠点生活を送る私が、今回「Fika」で前後編のコラムをお届けすることになりました。この前編では「ストックホルムの街の魅力と、クリエイティブな都市の要素」について。近日公開予定の後編では、「ストックホルムを参考に、東京に活かす理想の都市づくり」をテーマに綴ります。

ストックホルムの都市をヒントにMEDIASURFが手がけてきたプロジェクト事例などは後編に譲るとして、話をストックホルムの魅力に引き戻しましょう。

スウェーデンは人口が約1,000万人。ストックホルムだけで見ると約97万5,600人で、日本だと千葉市(約97万1,900人)と同じくらいのようです。そんなストックホルムですが、まずは完全に個人的見解に基づく「グッドなポイント」をいくつか挙げたいと思います。

・かもめが多い

ストックホルムはよく「水の都」といわれますが、小さな島の集合なので、水が非常に近く、かもめが飛んでいるのをよく目にします。『かもめのジョナサン』や『かもめが翔んだ日』などといった本を愛読する、かもめ好きの私にとっては非常にポイント高し。憧れの港町感もあって素敵です。

14の島々が橋で結ばれた水上に浮かぶ街「ストックホルム」

・言葉に(そこまで)困らない

スウェーデンは北欧で一番の人口を誇る国とはいえ、世界的に見れば小国です。国内のマーケットが限定的であることから近隣他国への文化輸出(音楽や映画)ないし、輸入に頼ることが多く、かつ移民を多く受け入れています。ですから、スウェーデン語という母国語がありながら、同時に英語でのコミュニケーションが円滑です。

・デザインが良い

東京もデザインで溢れていますが、こちらも同様です。やはり気候的に冬は暗く寒い、という厳しい条件下で過ごすことが求められるので、家のなかにいる時間が少しでも豊かになるよう、素敵なデザインの家具や照明が多いです。たまに街のビンテージショップや蚤の市で良い家具や陶器、ラグなどを見つけることが密かな楽しみです。

先日、現地のビンテージストアで購入したスウェーデンにまつわる雑貨たち。エリック・ホグランがデザインしたものやホガネスの水差し、伝統工芸品である木彫りの馬「ダーラナホース」など

・寛容性が高い

個人的には、これが最も大きなアドバンテージだと思います。さまざまな出自やバックグラウンド、考え方、指向性に対する受容度は高く、「皆違ってそれで良い」という考え方が広く一般に普及しているのです。ただ、なんでもありかというとそうでもなくて、集団としての一体感、みたいなものを重視している風潮がある。言葉では説明しづらいのですが、個性を尊重しつつも、より良い社会や文化をともにつくっていこうという意識が根づいている気がします。

なぜ面白い企業や文化が生まれやすい? クリエイティブな都市の特徴とは

最後に挙げたグッドなポイントの「寛容性」ですが、じつは都市発展においてとても重要なのです。それは、有名な都市社会学者であるリチャード・フロリダ氏の著書『クリエイティブ都市論』(2009年)でも綴られています。

彼の学説では、都市における経済成長の鍵を握る職業が「クリエイティブ・クラス」という階級として紹介されています。幅広い職種が含まれますが、主には技術職や芸術家、デザイン、メディアの発信者など、新しい価値を生み出すような知識労働者が該当します。そうした人材や企業を受け入れる土壌がイノベーションを生み出し、都市の魅力的な文化にもつながっていくのです。

つまり寛容性が高い都市こそ、新たなチャレンジがしやすいので、ほかの地域にはない企業や文化が生まれる可能性も広がり、面白い都市文化につながっていく。ストックホルムが世界的なクリエイティブ都市であることも、寛容性の高さが寄与していると考えられます。

あらゆる場面で多様性を実感するストックホルムの社会(photo by Unsplash)

その証拠に、スウェーデンは比較的コンパクトな社会にも関わらず、VOLVO、H&M、IKEA、Acne Studios、Spotifyなどのクリエイティブかつイノベーティブな世界的企業を輩出してきました。さらに新時代のスタートアップにおいても、フィンテックの分野で最近アメリカのStripe社との業務提携で界隈を賑わせたKlarna、エシカルファッションのAsket、電動バイクのcakeなど、枚挙に暇がありません。

後編で詳しく記述しますが、ぼくらMEDIASURFが日本上陸をサポートした、ビールのイメージを根底から覆そうとしているOmnipollo(オムニポロ)や、先鋭的なコーヒーロースターのStockholm Roastなども、つねにさまざまなトライをしています。

最近の彼らの動きを間近で見ていると、特徴的なのが「属性の拡張」にあるのではないかと思います。たとえば、Omnipolloは自分たちのことを「ビールブランド」やブルワリーといった属性でなく、ビール自体のあり方を変えるような「ライフスタイルブランド」と宣言していますし、Stokcholm Roastにいたっては、自分たちの焙煎所でランチのコース料理を出している(しかも大人気!)。

ついコレクションしたくなるボトルのデザインが特徴的なOmnipolloのビール
現地ストックホルムのStokcholm Roast

彼らをはじめ、スウェーデン発の多くのスタートアップに共通しているのは、自分たちに対する社会からの定義づけを嫌い、新しいチャレンジをし続けていること。やりながら考え、途中でなにか問題が起こったら柔軟に対応して、いままでの方程式にとらわれずにやり切る印象があります。

また、スウェーデンの国内市場だけでは規模も小さいため、つねにヨーロッパやアメリカ、アジアをマーケットの対象としているのも大きい。フラットに世界市場を見ながら、本質的な価値で勝負をしていると感じます。

そうした価値観や行動力が文化として根づき、世界的に見ても唯一無二の企業やプロダクトがストックホルムから生まれている。それがこの街の魅力にもつながり、クリエイティブな都市を醸成している理由にもなっているのではないでしょうか。

後編では、実際のクリエイティブ都市の編集について、事例を絡めながら考察したいと思います。一旦、いまにも泣き出しそうな空模様に支配された現場からは、以上です。

プロフィール
松井明洋 (まつい あきひろ)

1982年生まれ。都市の編集者集団、MEDIASURF代表。日本橋兜町のマイクロ複合施設「K5」共同運営、同エリアのビアバー「Omnipollos Tokyo」、ビアホール「B」、コーヒースタンド「SR」なども運営。コロナ以前は東京とストックホルムをベースに世界中を回り、都市の定点観測することを趣味としていた。現在もストックホルムと東京の二拠点で活動中。



フィードバック 4

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Art,Design
  • クリエイティブ都市の特徴は? ストックホルム在住の編集者が語る
About

「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。