北欧デュオSmerzの『Believer』 クラシック要素からその深層に迫る

北欧デュオSmerzの『Believer』 クラシック要素からその深層に迫る

テキスト
八木皓平
編集:久野剛士
2021/04/26
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2021年2月26日、ノルウェー出身のユニットSmerz(スメーツ)がデビューアルバム『Believer』をリリース。エレクトロニックミュージックに北欧の伝統文化やクラシックを取り入れた先進的なサウンドは、多くの音楽ファンの耳目を集めた。今回、ポストクラシカルにも造詣が深い音楽評論家の八木皓平に、このユニットの不可思議な引力に迫ってもらった。

Smerz(スメーツ)<br>ノルウェー出身のエレクトロニック、ポップデュオ。カタリーナ・ストルテンベルグ(写真左)、アンリエット・モッツフェルト(写真右)によって構成され、デンマークのコペンハーゲンを拠点に活動。2017年にデンマークのESCHOからデビュー。2018年にXLからEP『Have fun』で世界デビューを果たす。2021年に1stフルアルバム『Believer』をリリース。
Smerz(スメーツ)
ノルウェー出身のエレクトロニック、ポップデュオ。カタリーナ・ストルテンベルグ(写真左)、アンリエット・モッツフェルト(写真右)によって構成され、デンマークのコペンハーゲンを拠点に活動。2017年にデンマークのESCHOからデビュー。2018年にXLからEP『Have fun』で世界デビューを果たす。2021年に1stフルアルバム『Believer』をリリース。

ゴシックでダークなサウンドやMVから「北欧的」な感覚がにじみ出る2人組

アンリエット・モッツフェルトとカタリーナ・ストルテンベルグが、ノルウェーの首都オスロで生まれ、デンマークの首都コペンハーゲンにある音楽学校で関係性を深めていったことは、いうまでもなくSmerzの音楽性に多大な影響を与えている。ぼくがSmerzの新作『Believer』を聴いたときに「北欧的な音楽性」というフレーズが頭をよぎる瞬間があるのは、その地域性がSmerzの音楽にもたらしたものも大きいからだろう。もちろん「北欧的な音楽性」という言葉はかなり大雑把だし、北欧諸国がそれぞれ培ってきた豊かで多様な音楽性へのリスペクトが欠けているだろうから、あまりみだりに使わないほうがいいかもしれない。

Smerz“Believer”MV

とはいえやはり、サウンドやアートワークに漂うゴシックでダークな雰囲気や、各所で指摘されているようにラース・フォン・トリアー(デンマークの映画監督、代表作に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』など)を思わせるMV、そこで展開されるノルウェーやスウェーデンの伝統舞踊「ハリングダンス」、ポストクラシカル的な鍵盤やストリングスの音色、チャレンジングで刺激的なエレクトロニックミュージックといった要素が絡み合っているのを見ると、ついつい「北欧的」というフレーズを口走ってしまう。それこそSmerz『Believer』について書かれた多くの記事の中で、「ビョーク」というビッグネームが飛び交うのも、正直頷ける部分がある。Smerzの音楽性がビョークと似ているかどうかに関わらず、ビョークという「音楽における北欧性の象徴」(もちろんビョークの音楽のスケールはそこに留まるものではないが)と並べたい誘惑に駆られるのだ。ただ、ここで大雑把に「北欧的」と表現したものだけが、Smerzの魅力ではない。このあたりでアプローチの角度を変えるために、すこし時間を遡ってみよう。

北欧の伝統舞踏「ハリングダンス」を取り入れた、Smerz“I don't talk about that much / Hva hvis”MV

筆者が注目したSmerzと、その後の変貌

ぼくがSmerzと出会ったのはEP『Have fun』(2018年)。XL(イギリスのインディーレーベルXL Recordings)がノルウェー / デンマークのアンダーグラウンドから優秀な若手をフックアップしたということでチェックしたのだ。ジューク / フットワークの影響を受けたハードでキメ細やかなビートミュージックに歌 / スポークンワードを乗せ、ときにトリップホップを思わせる折衷的なサウンドに思わず前のめりになった。そこにアリーヤのような1990年代USにおけるR&Bのフレイバーが漂っていることにも魅力を感じたものだ。今挙げた要素は、『Believer』まで続く音楽性といえる。

Smerz『Have fun』を聴く(Apple Musicはこちら

今から思えば、2010年代後半からコペンハーゲンでは「ファストテクノ」と呼ばれるテクノシーンが徐々に盛り上がってきてもいたので、もしかしたらそういった挑戦的なクラブミュージックの現場の空気を吸っているからこそ作れた音楽という部分もあったのかもしれない。そのときのぼくは、「デビューEP『Okey』(2017年)の翌年に『Have fun』をリリースしているし、その勢いのまま順調にサウンドのクオリティーを上げて、1年後くらいにヤバいデビューアルバムをリリースしてくるんじゃないかな」なんてボンヤリ思っていて、その後3年近く沈黙するなんて想像もしていなかった。でもその3年間はまったく無駄じゃなかったということをSmerzは『Believer』で証明してみせた。それどころか、以前の方向性を軸にしながらその音楽性を一気に拡張させ、格段にスケールアップして帰ってきたのだ。

Smerz『Okey』を聴く(Apple Musicはこちら

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リリース情報

Smerz『Believer』
Smerz
『Believer』(CD)

2021年2月26日(金)発売
価格:2,420円(税込)
XL1156CDJP
レーベル:XL Recordings / Beat Records

1. Gitarriff
2. Max
3. Believer
4. Versace strings
5. Rain
6. 4 temaer
7. Hester
8. Flashing
9. The favourite
10. Rap interlude
11. Sonette
12. Glassbord
13. Grand piano
14. Missy
15. I don't talk about that much
16. Hva hvis

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