様々な境界を曖昧に。ピピロッティ・リストが起こすフェミニズム

様々な境界を曖昧に。ピピロッティ・リストが起こすフェミニズム

インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

ピピロッティ・リストが放つ強力なメッセージ

2021年6月20日まで、京都国立近代美術館で『ピピロッティ・リスト あなたの眼はわたしの島』展が開催されている。同展はその後、水戸芸術館現代美術ギャラリーにも巡回する。

ピピロッティ・リスト(以下、親しみをこめて「ピピ」と書く)はスイス出身のアーティストで、映像を主軸にした体感的なインスタレーション、鑑賞体験を作ってきた人だ。

京都国立近代美術館『ピピロッティ・リスト あなたの眼はわたしの島』会期:2021年4月6日(火)~6月13日(日)
京都国立近代美術館『ピピロッティ・リスト あなたの眼はわたしの島』会期:2021年4月6日(火)~6月13日(日)(サイトで見る

いちばん有名な作品は、街路を軽やかなステップで進む女性が、路上駐車した車の窓ガラスをハンマーで次々と叩き割っていく『永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に』(1997年)。この説明だけではずいぶん暴力的な内容を想像するかもしれないが、鮮やかな水色のワンピースと赤い靴をまとい、花の花弁(クニフォフィアというユリ科の植物)を模したハンマーを携え、終始笑みを絶やさない女性の自由さが清々しい。

これに隣接して同時に映されているクニフォフィアのカラフルな映像もあいまって、同作はドリーミー&バイオレンスとでも呼びたくなる不思議な印象をもたらす。

左:『永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に』(1997年)、右:『わたしの海をすすって』(1996年) 展示風景
左:『永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に』(1997年)、右:『わたしの海をすすって』(1996年) 展示風景

今回の展覧会のために制作されたカタログによると、「自動車に象徴される男性的な文明社会を、野生の花の棒で破壊」する本作は、発表当時「リラックスしたフェミニズム」として称賛されたという。一般常識からすれば現行犯逮捕まちがいなしのパフォーマンスだが、作品内に登場する警官姿の女性は、この破壊行為を目撃しても穏やかに微笑んで通り過ぎる。

「現実にはありえなくても、未来においてはありえるかもしれない」いや、むしろ「ありえてほしい。ありえるべきだ」という勇気を本作は鑑賞者に与える。「想像力は現実社会の規範を凌駕する」というメッセージは、40年弱に及ぶピピの活動全体に通底しているように思う。そして、日本での美術館個展としては13年ぶりとなる『あなたの眼はわたしの島』は、このメッセージを空間全体で体現しているようだった。

安易な理解からあらがい、逃れ、撹乱する作品たち

ロの字のかたちに設計された京都国立近代美術館の3階をメインスペースとする本展は、鑑賞者がぐるりと回遊できる空間になっている。スタート地点にはミラーボールと内蔵されたプロジェクターが夜の庭園のようなイメージを作り出す『眠れる花粉』(2014年)があり、その次には冒頭で紹介した『永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に』と『わたしの海をすすって』(1996年)が上映されている。

『眠れる花粉』(2014年)展示風景
『眠れる花粉』(2014年)展示風景

さらに進むと、ネオン管で文字をかたどった『トラストミー/私を信じて』(2016年)。そしてベッドに仰向けになって天井の映像を見上げる『4階から穏やかさへ向かって』(2016年)が鑑賞者を待ちうけている。

『4階から穏やかさへ向かって』(2016年)展示風景
『4階から穏やかさへ向かって』(2016年)展示風景

これまでの活動を振り返る回顧展的な内容であるにもかかわらず、過去から現在へと一方通行的に進む時間軸を選ばず、ピピはあらゆる時代の作品を自在にシャッフルし、撹乱する。それによって得られるのは、ピピが経験し作ってきたすべての物事が等価であり、そのどれもがピピという存在を構成するために不可欠であるという肯定の感覚だ。

もしこれが時系列に準拠する展示であったなら、例えば生理や出産を題材とする『血のクリップ』『母の兄が生まれたとき、日に焼けた窓台のそばに立つと山から梨の花の匂いがした』(ともに1992年)は、30歳当時のピピの直情性や制御不能なエネルギーを伝える「若書き」として理解されるかもしれない。

つまり「昔はやんちゃだったけど、いまは立派な大人になった」ビッグアーティストの補足物として、攻撃的だったり狂気じみたりする経験は、(多くの場合、男性的である)批評やキュレーションの言説に穏当に手なづけられ、消費されかねないのだ。

そういった理解や消費に抗うがごとく、ピピは撮影手法や展示方法の工夫によってさまざまな撹乱を引き起こしているように見えた。時系列のシャッフルはその一つだが、被写体を極端にクローズアップ撮影する手法、美術館が所蔵するタカエズ・トシコや十五代吉左衛門の陶磁器をインスタレーションの一部として包含したり、鑑賞者を映像のなかに没入させるようなしつらえを作り、自己と他者の境界を曖昧に溶かしていくのもピピらしい撹乱なのではないだろうか。

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イベント情報

『ピピロッティ・リスト あなたの眼はわたしの島』
『ピピロッティ・リスト あなたの眼はわたしの島』

2021年4月6日(火)~6月20日(日)
会場:京都府 京都国立近代美術館
開館時間:9:30~17:00(金曜、土曜は20:00まで開館、入館は閉館時間の30分前まで) 
休館日:月曜
料金:一般1200円 大学生500円 高校生以下無料

巡回

2021年8月7日(土)~10月17日(日)
会場:茨城県 水戸芸術館現代美術ギャラリー

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