結成10年のミツメが証明。インディ、DIY、マイペースな活動の幸せ

2010年代前半の日本の音楽シーンは、間違いなく「インディ」の時代だった。それまでのメジャー予備軍的な価値観ではなく、むしろそうした産業的な枠組みからはみだしたところで、数々のインディミュージシャンが独自のネットワークを築きあげていった、2010年代前半の東京。インディ音楽シーンが日本でこれほどの活況を呈した時代は過去になかったし、こうした一連のムーブメントは、生き方や働き方が多様な時代、組織に属すことが必ずしも正解じゃなくなった時代の到来を、見事なまでに体現していた。

ミツメはそんな2010年代のインディを象徴するバンドであり、今もDIYなスタンスを貫きながら、活動の規模を東アジア圏にまで拡大させた稀有な存在だ。リスニングの主流がストリーミングサービスへと徐々に移り、音楽産業の再整備が進められている今日この頃。すべてが効率化されていく一方、ミツメはそんな時代の移り変わりをマイペースに楽しみ、楽曲制作やライブパフォーマンスはもちろん、マーチャンダイズなどのバンドに関わるクリエイティブすべての精度と強度をアップグレードさせつづけている。

あくまでも自然体でインディペンデントなバンド活動を続けてきたミツメ。そんな彼らが歩んできた10年間を紐解けば、これからのタフな時代を生き抜くヒントが見えてくるかもしれない。そんな思惑をすこしだけ胸に秘めつつ、ミツメの4人にマネージャーの仲原を交え、話を聞いてみた。

新しいことに挑戦し始めたあたりから、少しずつなにかが見え始めたのかもしれない。(大竹)

―今日は、結成からの10年の活動の仕方や状況、みなさんの考え方を聞かせてもらいたいと思っています。まず、ミツメが結成された当時って、みなさんは学生だったんですよね。メンバーそれぞれの進路とかも含めて、その後のバンド活動についてなにかしらの決断をするタイミングもあったと思うんですが、1stアルバム『mitsume』(2011年)を制作していた時期はどんな状況だったんですか?

ミツメ『mitsume』を聴く(Apple Musicはこちら

須田(Dr):『mitsume』を作っていた時期に関しては、何か決断を迫られたりしたことは全然なかったんじゃないかな。デモCD-Rを何枚か作って、ライブハウスでライブをやるっていうのを1年くらいやってみた結果、「これをただ繰り返してもなあ」みたいな話になって。それでいったんライブ活動を休んだ時期があったんですけど、『mitsume』はたしかその頃に録ってたんだよね?

川辺(Vo,Gt):たしか1stはライブ活動休止期間の前に録った気がする。

大竹(Gt):当時は7曲程度のストックをひたすらライブでやってる感じで、お客さんも友達だけだし、たくさん曲を作れてるわけでもないし、その先になにがあるのか全然わからなかったんです。それでちょっとライブ活動を休むことになって、シンセを使ってみたり、いろいろ新しいことに挑戦し始めたあたりから、少しずつなにかが見え始めたような感じだったのかもしれない。

ミツメ
左から:大竹雅生、川辺素、須田洋次郎、nakayaan
2009年、東京にて結成。4人組のバンド。2019年4月にアルバム『Ghosts』をリリース。

nakayaan(Ba):1stは章義さん(田中章義。ミツメの全作品を手がけるレコーディングエンジニア)の実家でミックスしたんですよね。懐かしいな。

須田:そうだったね。それまでのデモCD-Rは完全に4人だけで完結させたもので、それこそ大竹くんがミックスまでやってくれていたんですけど、田中くんが「一緒になにか録ろうよ」と言ってくれて。僕らもちゃんとレコーディングしてみたいという気持ちがあったので、そこで彼に声をかけてもらえたのは、すごくありがたかった。

川辺:僕らとしても、いずれはプレスしたCDを作りたいという気持ちはあったんです。でも、そのためにはどうしたらいいのか、当時はぜんぜんわからなくて。

須田:本当になにも知らなかったよね。すべてが手探り。『mitsume』をレコーディングした頃の僕らは、それこそ流通という言葉すら知らなかったので。

初期のミツメ

レーベルと一緒に組んだら、自分たちが搾取されちゃうんじゃないか、みたいな(笑)。(川辺)

―2ndアルバム『eye』(2012年)を録音したのは、田中さんがエンジニアとして所属するスタジオグリーンバード。バンドの録音環境はここで一気に向上します。駆け出しのインディバンドからすれば、本当に贅沢な環境ですよね。ある意味、その段階でミツメの制作環境はほぼ整ったと言えるのでは?

ミツメ『eye』を聴く(Apple Musicはこちら

大竹:そうですね。強いて言うなら、普段の練習場所とか、いつでもみんなで曲作りに取り組める場所があったらいいな、とは思っていたかな。でも、その当初は川辺の家にみんなで集まってたんですけど、今では倉庫を借りることができたので、そこまで不自由を感じることはなくなりましたね(参考:ミツメの秘密基地に初潜入。組織から離れ、遊ぶように働く生き方)。

川辺:時間を気にすることなく、制作と録音の境目がないような感じでダラダラやれたらいいなー、みたいなことをたまに思うんですけど、今は倉庫を作業場として使えるおかげで、それに近いことがある程度はできるんです。そういう意味では、やりたかったことが実現できてるようにも感じてて。

とはいえ、僕らに当初からなにかしらのビジョンがあったのかというと、別にそういう感じでもないんです。その場その場で頑張ってきたというか。

左から:川辺素、nakayaan

―バンドの知名度が上がっていくなかで、レーベルから声がかかることもあったと思うんです。でも、結果的にミツメはこれまでどの組織にも所属しなかった。そこにはなにかしらの強い意思もあったんでしょうか?

川辺:いや、そういうのはなくて。なんていうか、猜疑心も強かったんです。当時はCDがちょうど売れなくなってきてるという話を呪いのように聞かされていた時期でもあって、どこかのレーベルと一緒に組んだら、自分たちが搾取されちゃうんじゃないか、みたいな(笑)。

一方でその頃はSoundCloudとかMyspaceにいろんな可能性がある、みたいな話もあったし、これからは自分たちでハンドリングしていくのがいいんじゃないか、みたいなことは当時みんなで話してました。

須田:たとえば、僕がどこかのレーベルの方とお話していると「バンド的にはどう考えているの?」みたいなことを聞かれたりするんですけど、正直それってどう答えていいのか、わからないんですよね。「バンド的にどう考えてるのか、わかんないな。自分自身も含めて」みたいな(笑)。

具体的に次のアルバムを作ることは考えてるけど、各メンバーがこのバンドからなにを得たいのか、バンドでなにをしたいのかは、多分それぞれで違うところもあるんです。それは組んだ頃からずっとそうだし、このバンド自体がそういうことを決めずにここまできたので。

須田洋次郎

―じゃあ、「これからもみんなでこのバンドをやっていこう」みたいな意思確認をしたことって、特にないんですか?

須田:ないかな。そういうことをこれまで一度も明確にしないまま、気づけば10年が経ってたというか(笑)。作品をひとつだしたら、じゃあ次はこれをやってみようよとなって、そうなると僕らは頭がぜんぶそっちにいっちゃうので(笑)。でも、それを繰り返していく中で、すこしずつ手伝ってくれる人や一緒に考えてくれるスタッフが出てきてくれて。そのおかげで僕らのアイデアの幅も広がってきたと感じています。

ミツメ『eye』(2012年)収録“cider cider”

ミツメ『eye』(2012年)収録“煙突”

僕たちは、とにかくずっと話し合うんです。(川辺)

―ミツメがDIYで活動していくうえで、いろんなヒントや知識を与えてくれた先輩のミュージシャンもきっと大勢いますよね。たとえばde.te.ri.o.ra.tion(東京のインディペンデントレーベル)の橋本竜樹さんはそうだと思うのですが。

須田:それこそミツメの1stと2ndのレコードって、de.te.ri.o.ra.tionとWhite Lily Recordsのダブルネームで出してるんですよ。

nakayaan:竜樹さんの提案がなかったら、もしかしたら「自分たちの作品を必ずアナログ化していく」というその後の流れはなかったかもしれないですね。インディペンデントでもレコードが作れるっていう方向性を示してもらったというか。

nakayaan

川辺:刺激を与えてもらったという意味では、同世代の存在も大きいです。同い年のスカートの澤部くんとか、Teen Runningsの金子くんにも勇気をもらっていましたし、タッツ(仲原達彦。ミツメのマネージャー)もそうですね。

仲原:客観的に見ていると、ミツメってめちゃくちゃ民主主義的という感じで、誰かひとりの意見を通すってことがなくて、4人が納得できない限りは前に進まない。メンバーの誰かひとりが「うーん……」みたいになってたら、とにかく話し合う。そういう、わりと時間のかかるバンドではあるんです(笑)。こういうバンドって、じつはけっこう珍しいんじゃないかな。我を通す人がいないというか。

―バンド活動の中身については、メンバー間の意思統一を徹底的にやるんですね。

大竹:それはすべてにおいてそうですね。なにかイベントの誘いがあったときとか、アー写を決めたりとか、「Tシャツのデザインとボディ、どうする?」とか、バンドに関することはすべて話し合うし、全員が「うん」と言わない限り、いつまでも決まらない(笑)。

大竹雅生

仲原:ツアー先のどこで飯を食うか、くらいですね。ミツメに関することで勝手に僕が決めていいことは(笑)。

川辺:とにかくずっと話し合うんです。それで最終的にみんなが納得できたら、それでようやく決定みたいな。

このバンドに関わるすべてのことが、この4人にとっては他人事じゃない。(須田)

―それで雰囲気がピリピリしたりは?

川辺:みんな無言、みたいな時間はあるかな(笑)。

大竹:その場はピリピリすることもあるけど、遺恨は残さないっていうのはありますね(笑)。

仲原:必ずメンバー全員が納得できるところにいつも持っていくし、その決定に対してあとから文句をいうメンバーもいないんですよ。「あのとき、本当はあっちのほうがよかったんだよなー」みたいな話は、まず出てこないので。

川辺:言われてみると、たしかに愚痴は出ないかもね。

仲原:たとえば3対1の局面でも、強い1があると3は負けるってことも、この4人のなかにはあるんですよ。

―理想的な民主主義じゃないですか。

川辺:でも、きっととことん付き合ってくれる人は限られると思います。「そんなささいなこと早く決めてくれ」と思う人も当然いるだろうし。

仲原:これが他のバンドだったら、たとえばメンバー内にひとりグッズ担当を立てて、その人が決めたらOKみたいなやり方もあると思うんです。でも、ミツメはそういう感じではないんですよね。基本的には担当を分業させないというか、すべてにおいて決定権がメンバー全員にあるんです。

川辺:最近は、まずタッツとかグンパン(ミツメのマーチャンダイズ担当)にだいたいのことを決めてもらうっていう方向性にもなってきてるんですけど、それでも最終的なことは4人で決めるっていうのは、いまだに続いてて。

須田:ありとあらゆる選択肢があるなかで、その一つひとつを4人で検討していくっていうのは、やっぱり必要な作業だと思うんです。

グッズひとつにしたって、そこにバンドの名前が付けられている以上はメンバーがちゃんと関わるべきだと思うし、そういうことをないがしろにしてると、ちぐはぐになっていくんじゃないかなって。

結成時から具体的な目標とか約束がなかったぶん、なにをやっても「話が違う」とはならないんです。(須田)

―ものすごく誠実な姿勢だと思います。でも、そのスタンスを貫くのってすごく労力もかかりますよね。ときにはスタッフ任せにしたくなることもあると思う。

須田:もしかしたらそうした方がいいのかなって思うときもあるけど、とりあえずここまではこういう感じでやってきて、結果的にそれでバンドが続いてるってことは、間違ってなかったのかなって。僕個人としては、ミツメとしてやることがなにか決まったら、あとはそれをやるだけだと思ってますし、そのためにフットワークを軽くいられたらなって。

nakayaan:このバンドを始めた頃から、僕はずっと気負わずに曲作りを楽しめてるんです。それぞれのメンバーに対して「おお、今回はこうきたか」みたいな感動が毎回あって、それが楽しくて続けてきたら、いつの間にか10年経ってたというか。

川辺:もしかしたら僕だけだったかもしれないけど、一時期は「ミツメはこうあるべき」みたいなことを勝手に思い込んでた部分があったなって。でも、今はそういう時期もすぎて、「みんな好きなようにやったほうがいいじゃん」という気持ちなんです。お互いに「みんな、がんばってね~」みたいに見守ってる感じが、ここ3年くらいで強まってる。とにかくこの4人全員が楽しめる状況にしたいなって。

川辺素

―今年はアルバムもだしたし、ツアーも終えたばかりですが、バンドとしては今どういう状況ですか。

ミツメ『Ghosts』を聴く(Apple Musicはこちら

川辺:今はちょうどなにもない時期です(笑)。新しい曲を作ろうとか、アレンジ変えてみようとか、そういう話をしてるくらいで、「来年はこういう感じでいくぞ!」みたいな予定は特に立てずにやってます。今の僕らって「あれをやらなきゃ!」みたいな強迫観念がなにもない状況なので。

須田:それは大きいよね、このバンドにとっては。僕らってバンドを組んだ頃から具体的な目標とか約束がなかったぶん、なにをやっても「話が違う」みたいなことにはならないんです。ただ自由気ままにやってるわけでもないし、もちろん話し合いはたくさんする。でも、そこで「らしさ」みたいなものに自分たちが縛られる必要はないんだなって。今はそう思ってますね。

リリース情報
ミツメ
『Ghosts』(CD)

2019年4月3日(水)発売
価格:3,080円(税込)
MITSUME-020 / PECF-1168

1. ディレイ
2. エスパー
3. ゴーストダンス
4. エックス
5. ふたり
6. セダン
7. なめらかな日々
8. クロール
9. タイム
10. ターミナル
11. モーメント

プロフィール
ミツメ
ミツメ

2009年、東京にて結成。4人組のバンド。2019年4月にアルバム「Ghosts」をリリース。国内のほか、インドネシア、中国、台湾、韓国、タイ、アメリカなど海外へもツアーを行い、活動の場を広げています。オーソドックスなバンド編成ながら、各々が担当のパートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けています。そのときの気分でいろいろなことにチャレンジしています。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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