『ワイスピ』のルーツを宇野維正が解説 カスタムカー文化を紐解く

クルマを好きになれば、ポップカルチャーへの理解はもっと深まる。そんなコンセプトではじまった、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正による連載企画。

今回のテーマは、映画や音楽との関連性も密接なカスタムカー(改造車)の文化について。『アメリカン・グラフィティ』『ボーイズ'ン・ザ・フッド』といった往年の映画や、初のスピンオフ作の公開を控えた『ワイルド・スピード』シリーズを、クルマ文化における「かっ飛ばす」「見せびらかす」「走り」という3つのキーワードを基に掘り下げます。さらに、大金を手にしたラッパーたちが超高級車を乗り回すその文化的側面についての考察も。クルマを知り、文化を知るための連載「ポップカルチャー愛好家のためのクルマ講座」、第3回をお届け。(Fika編集部)

(メイン画像:『ワイルド・スピード SKY MISSION』より / ©Universal Pictures)

白人富裕層による「かっ飛ばす」ためのクルマの文化=「ホットロッド」

連載1回目では映画におけるクルマの「プロダクト・プレイスメント(=広告)」(いい映画は、クルマを見ればわかる。その理由を宇野維正が解説)、2回目は近年の映画やドラマにおける「旧車ブーム」の背景(映画・ドラマにおける旧車ブーム。その理由を宇野維正が解説)について書いてきた本連載。それらはいずれも、劇中で活躍する「市販車」の話であったが、ポップカルチャー的な観点からクルマを語るうえで絶対に欠かせないのは、カスタムカーの文化だ。

「ローライダー」と呼ばれるカスタムカー文化を垣間見ることができるミュージックビデオ

カスタムカーの文化は、アメリカのクルマ文化(≠自動車産業)における「魂」の部分と言えるだろう。代表的なのは、ルーツを辿れば1930年代にまで遡ることができる「ホットロッド」だ。若者が手頃な中古車を手に入れ、よりパワフルなエンジンに載せ替えて、「大出力エンジンから立ち上がる炎」に代表される派手なイメージのペイントをボディに施し、ストリートでドラッグレース(直線コースでの加速と最高速を競うレース)に興じる。映画のなかで描かれた「ホットロッド」で最もよく知られているのは、ジョージ・ルーカス監督の出世作となった『アメリカン・グラフィティ』だろう。

1973年に公開されたこの作品の時代と舞台は、1962年の夏、カリフォルニア州の小さな町。当時20代後半だったルーカスは、自身の10代の頃の記憶をこの作品に封じ込めた。つまり、「ホットロッド」の文化も、劇中で流れ続けるロックンロールも、すでに1973年の時点でノスタルジーの対象だったわけだ。

『アメリカン・グラフィティ』本編より

「ホットロッド」の文化はその後、カスタムによって速さだけなくクルマの美しさや派手さを追求していく「ストリートロッド」、ボディをさらに極端に装飾していく「ファニーカー」、際限のないパワー競争の果てにNHRA(National Hot Rod Association)が設立されてサーキットでの競技としておこなわれるようになった「ドラッグレース」と枝分かれしながら、アメリカ国内で現在まで根強い人気を保っている。もっとも、『アメリカン・グラフィティ』が描いていたようにもともとはユースカルチャーのひとつであった「ホットロッド」は、そのカスタムの対象となる年代のクルマのビンテージ化がすすむにつれて、「アメリカの田舎に住む白人富裕層の趣味」へと変質していった。

ラップカルチャーとも接続する、ストリート発のクルマ文化=「ローライダー」

1950年代のロサンゼルスのコンプトン地区が発祥の地と言われている「ローライダー」の文化は、そんな「ホットロッド」へのカウンターとしてとらえるとわかりやすい。「高所得層」の「白人」が生み出した「かっ飛ばす」ためのクルマの文化だった「ホットロッド」に対して、「ローライダー」は「低所得層」の「チカーノ」(メキシコ系移民)が生み出した「見せびらかす」ためのクルマの文化。

具体的にはハイドロリクスという油圧式の車高調整システムによって極端に車高を下げるカスタムが施されたクルマのことを表す「ローライダー」は、エンジンに手を入れるのがマストな「ホットロッド」よりもカスタムとしては安上がり。そんな「ローライダー」は、不法就労者も多かったチカーノたちの間で単純に人気を集めたというだけなく、町の自動車工場という身近な雇用先において「仕事」と「趣味」を兼ねた、リアルなストリートカルチャーでもあった。

『ローライダー ~絆をつなぐ改造車~』トレイラー映像

「ローライダー」のカルチャーを描いた映画としては、近年も『ローライダー ~絆をつなぐ改造車~』(アメリカ映画だが監督も出演者もすべてヒスパニック系)のようなそのものズバリの作品が製作されているが、注目すべきはその文化が西海岸を中心に1980年代には黒人の間でも定着するようになっていたこと。

先日51歳の若さで亡くなってしまったジョン・シングルトン監督の出世作『ボーイズ'ン・ザ・フッド』(1991年)で、元N.W.AのICE CUBE演じる主要キャラクターのダウボーイが、1963年式のシボレー・インパラのローライダー仕様をこれ見よがしに街で転がしていたのを記憶している人も多いだろう。その頃、日本でもアメ車のローライダーブームが起こったが、それは『ボーイズ'ン・ザ・フッド』をはじめとする当時のブラックムービーや、2PACやSnoop Doggy Dogg(現在はSnoop Doggとして活動)をはじめとするウェストコーストラッパーのミュージックビデオからの影響も大きかった。

『ボーイズ'ン・ザ・フッド』本編より

『ワイルド・スピード』に日本車が数多く登場する理由

白人の「ホットロッド」、チカーノや黒人の「ローライダー」、そんなアメリカン・カスタムカーのトラディショナルな二大潮流に新風を巻き起こしたのが、2001年にシリーズ1作目が公開された『ワイルド・スピード』だった。公開前はそこまで期待されていなかったにも関わらず、その年を代表する大ヒット作となり、やがて21世紀を代表する人気シリーズへと大化けしていくことになる『ワイルド・スピード』。日本独自の「走り屋」というマイナーカルチャーを基に作られたB級カーアクション映画が、いきなり全米映画ランキングでぶっちぎりの1位に初登場したことは、当時世界中で大きな話題となった。

『ワイルド・スピード』トレイラー映像

『ワイルド・スピード』に多くの日本車のカスタムカーが登場しているのは、1作目から劇中にもチラッと登場しているテレビゲーム『グランツーリスモ』からの直接的な影響だ。画期的だったドライビングシミュレーターとしての精度に加えて、日本車を中心とする膨大な車種と、サーキットだけではなく世界各国のリアルな公道でのレースを選択できる『グランツーリスモ』の登場は、テレビゲーム界の重要トピックにとどまらず、世界中のクルマ好きにとって革命的な出来事だった。

最初の『グランツーリスモ』が北米やヨーロッパで発売されたのが1998年(日本発売は1997年)。『ワイルド・スピード』の公開が2001年。その3年間という時間は、そのままこのゲームがもたらしたカルチャーショックがゲーマーから一般のクルマ好きへと広がっていったタームと重なる。『ワイルド・スピード』の世界的サプライズヒットが意味するものとは、当時のゲーム界で起こっていた『グランツーリスモ』現象の映画界における顕在化であった。

ド派手なカーアクションだけじゃない。『ワイスピ』シリーズの映画界における先見性

「ホットロッド」の「かっ飛ばす」という文化、「ローライダー」の「見せびらかす」という文化に対して、『ワイルド・スピード』が描いたのは「走り」の文化だ。クルマ好き以外にとっては「かっ飛ばす」と「走り」の違いがわかりにくいかもしれないが、ごく簡単に言うなら、直線で最高速を競うのが「かっ飛ばす」文化、最新のテクノロジーやドリフトなどの運転テクニックを駆使することでコーナーを制覇してタイムを競うのが「走り」文化。もちろんF1やラリーなどの競技の世界ではその「走り」こそが問われてきたわけだが、それをストリートレベルに持ち込んだのが日本の走り屋カルチャーであり、それを元にして作られたのが日本のゲーム『グランツーリスモ』であり、その先にあったのが『ワイルド・スピード』の大ヒットによる走り屋カルチャーの世界的な拡散だった。

『ワイルド・スピード MEGA MAX』(2011年)本編より

ハリウッド映画における人種の多様性は今でこそ当たり前のことになっているが、2001年公開当時に、主要キャストがポール・ウォーカー(白人)、ヴィン・ディーゼル(黒人とイタリア系のミックス)、ミシェル・ロドリゲス(プエルトリコ系)、ジョーダナ・ブリュースター(パナマ出身)、リック・ユーン(韓国系)であった『ワイルド・スピード』(2作目からはそこにアトランタの黒人ラッパー、リュダクリスらが加わる)は時代を先取りした作品でもあった。

そして、特に初期『ワイルド・スピード』シリーズが描いてきた走り屋カルチャーが、白人の「ホットロッド」とチカーノ&ブラックの「ローライダー」のアメリカにもたらされた、アジア(日本)発の大変革であることを考えれば、作品における人種の多様性も必然であったことがわかるだろう。

2019年8月に公開を控える『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』の予告映像

成功を手にした音楽家たちのクルマ愛。その2つの傾向

現在も運用されている自身のTumblrにおけるタグ(PREZA 555)がスバル・インプレッサの競技車(IMPREZA 555)に由来し、かつて愛車ホンダNSXに捧げる曲(“Acura Integurl”)まで発表してきたフランク・オーシャン。日本の走り屋の間で憧れのモデルであるマツダRX-7(FC3S型)のカスタムカーを所有し、自身のミュージックビデオにまで登場させているThe Weeknd。現代のポップミュージックのスーパースターのなかにも、走り屋カルチャーを代表する日本車を偏愛しているカーマニアは少なくない。

もっとも、近年のポップミュージックやラップのメインストリーム作品のミュージックビデオやリリックに登場するクルマは、最新のランボルギーニ、フェラーリ、マクラーレン、ベントレーなどのヨーロッパの超高級車が中心。それは、かつて「持たざるもの」であるがゆえに「見せびらかす」ための「ローライダー」を転がしていた黒人のスターたちが、「ホットロッド」的な「かっ飛ばす」ためのスピードと、『ワイルド・スピード』以降の「走り」のための最新テクノロジー、そのすべてを手にした証でもある。

作品情報
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』

2019年8月2日(金)から公開
監督:デヴィッド・リーチ
脚本:クリス・モーガン
出演:
ドウェイン・ジョンソン
ジェイソン・ステイサム
イドリス・エルバ
ヴァネッサ・カービー
配給:東宝東和



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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