『SNS-少女たちの10日間-』を観て、私たちが心に刻むべきこと

東欧チェコからの、衝撃的な映画が今春、日本の映画館で封切られた。『SNS-少女たちの10日間-』と題されたこの映画は、SNS上に存在する少女たちの身に実際に何が起きているのかを、ドキュメンタリーであぶり出すのだ。

実際にはぜひ映画館でその内容を確かめてほしいが、そこには現代では当たり前になっている、SNSという空間に存在する様々な課題や、児童虐待、ジェンダーに関する問題、そしてものづくりの現場の課題など、チェコに限らず世界中で解決されきっていない社会のゆがんだ部分が見出されることになる。

「北欧から、これからの幸せな社会のヒントを見つけるためのカルチャーマガジン」と銘打つFika。本作で描かれるような問題が社会に山積しているいま、改めてその真実を映し出すような作品をつぶさに見つめることで、私たちは社会と向き合うことができるはず。ひいては私たちの身の回りで起こるモヤモヤしたことや、自分自身の行動を見つめ直すきっかけにもなるのではないだろうか。

『SNS-少女たちの10日間-』予告編

10代の児童はSNS上でどのような脅威にさらされているか。騙しのテクニックで卑劣な行為をあぶり出すドキュメンタリー

先頃、日本の有名ユーチューバーが15歳の女子学生に裸の写真画像を送らせた事件が報じられた。逮捕された人物は、画像を盾に女子学生に口止めをしていたと見られ、その手口は卑劣だ。しかし、これは児童に対する現代の性犯罪における一つの常套手段でもあるようだ。このようなケースは日本だけでなく、スマートフォンなどの端末が普及した国々で共有される問題でもある。

本作『SNS-少女たちの10日間-』は、多くの人々が利用するSNSやオンライン通話を通して、10代の児童たちがどのような脅威にさらされているのかを、おとり捜査のような騙しのテクニックを駆使することでそのリアルな姿を見せていく、東欧チェコのドキュメンタリー映画だ。

©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

制作陣が用意した撮影スタジオに建てられたのは、3つの子ども部屋のセット。そこに集ったのは、オーディションを通過した、18歳以上の3人の俳優だ。彼女たちは12歳の児童の演技をしながら、少女たちを狙う大人たちと実際にメッセージのやり取りをしたり、ビデオ通話で会話していく。本作は、児童を騙そうとする大人たちを逆に騙すことで、現実の少女たちが直面する危険な実情を探っていく作品なのだ。

©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
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SNS上に存在する、児童の性に対する考え方を大きく捻じ曲げさせる危険なコミュニケーション

驚くのは、彼女たちが12歳と名乗って顔写真を公開し、メッセージを募集すると、中年男性と見られるアカウントが無数に群がってくるという事実。中には、12歳の孫がいてもおかしくない世代からのアプローチも見られる。彼らの顔はぼかし加工が加えられているが、歳の離れた児童を待ち構えて連絡を取りたがっている大人たちが、こんなにも大量に存在するという事実を目の当たりにすると衝撃を受ける。中には、多くの子どもたちと接する子どもキャンプの運営を仕事としている男もいた。

ビデオ通話では、出演者が拒否しているにもかかわらず「服を脱げ」と要求してくる男や、逆に自分が脱いで局部や自慰行為をする様子を一方的に見せつけてくる男(映画では強くぼかした加工がされてある)が、次々に現れる。さらには、過激なポルノ画像や動画を送りつける人物たちも後を絶たない。こんな大人たちに興味本位に接してしまえば、児童の性に対する考え方は大きく捻じ曲げられてしまうだろう。

©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

卑劣な行為を記録するための、行き過ぎにも思える騙しのテクニック

最も危険なのは、言葉巧みに誘われて、実際に会おうとしてくる場合である。本作では、少女に近づこうとする男たちに対してある作戦を用意した。カメラとマイクを密かに隠したカフェの席を用意して、そこを待ち合わせ場所として、男たちを誘い出すのである。かなり危険な試みだが、そんな『スパイ大作戦』のようなシチュエーションで、どんなやり取りが交わされるのかは、本編を観てほしい。

この大掛かりな騙しのテクニックは、アメリカの劇映画では「コン・ゲーム(信用詐欺)」と呼ばれるジャンルの描写に当てはまり、映画『スティング』(1973年)や、日本のテレビドラマ『コンフィデンスマンJP』などでも用いられている。こういった手法を用いてドキュメンタリー映画を制作することは、倫理面の問題から、きわめて珍しい。

©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

本作はその上で、精神科医、性科学者、弁護士、警備員など、多方面の専門家によって、精神面や適法性、安全性を最低限確保しているという。とはいえ、さすがに行き過ぎていると感じる場面も存在する。それは、本文の冒頭でも書いたケースのように、「画像を盾にした卑劣な脅迫行為」を記録に残すために、少女のヌード画像をスタッフが用意するところだ。この画像は、合成して作成されているが、児童が直面する脅威を伝えるためとはいえ、このような写真を餌にする行為は、加害者側の認識と、どこか地続きであるような気がしてならない。

©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

観客が心に刻むべきは「深淵を覗き込むとき、深淵もまたこちらを見返しているのだ」という言葉

実在する少女たちに近づいて欲望を満たそうとする登場人物たちには、子どもたちを守るという真っ当なモラルが欠落しているのはもちろんだが、さらに根底には、女性をただの消費物として蔑視していると感じられる様子が多々見られる。

だからこそ、彼らを強く糾弾するならば、映画の制作者は自分たち自身の考え方も見つめ直す必要があるだろう。映画の制作現場において、出演者と制作者との間には力関係が生じることもあるからだ。哲学者フリードリヒ・ニーチェによる「怪物と闘う者は、自らが怪物とならぬよう心せよ」という有名な言葉が思い起こされる。さらに、それに続く「深淵を覗き込むとき、深淵もまたこちらを見返しているのだ」という言葉は、この作品を観るわれわれ観客も心に刻まなければならないのではないだろうか。知識や腕力を持った大人たちが、自分よりも弱い立場の児童を喰い物にしようとする行為は、弱者を助けようとせずに追い詰めたり利用しようとする、社会の中に存在するあらゆる別の搾取構図ともリンクしている。

SNSを彼らのように悪用していなかったり、児童を性の対象にしていない人たちも、自身の属する環境の中で、強者と弱者の間で交わされるコミュニケーションにモヤモヤした思いを抱く瞬間があるはずだ。そう考え始めると、本作は制作者の意図すら超えて、多くの個々人の内面の問題にも関係する「深淵」へと続く扉を開いたようにも感じられるのである。

『SNS-少女たちの10日間』が映し出す、卑劣で醜い大人たちの姿。それは、子どもたちの周りにある脅威をわれわれに教えてくれるのと同時に、われわれを含め多くの人間が心の中に宿している、悪の象徴なのかもしれない。

作品情報
『SNS-少女たちの10日間-』

2021年4月23日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、池袋シネマロサほかで公開中

監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク
原案:ヴィート・クルサーク
出演:
テレザ・チェジュカー
アネジュカ・ピタルトヴァー
サビナ・ドロウハー
上映時間:104分
配給:ハーク



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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