菊地成孔の北欧美食巡り総括 タコツボ化した東京の食事情を問う

菊地成孔の北欧美食巡り総括 タコツボ化した東京の食事情を問う

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:三宅詩朗 編集:川浦慧、野村由芽

いまの書き手は、ホスピタリティーを高く保たないと、叩かれると思ってるんだよね。

—ちなみに、文体的な影響を受けている人って、誰かいたりするんですか?

菊地:直接その人の文体をモノマネをしている人はいないけど、好きな文体という意味なら、最近あんまり書かれなくなっちゃったけど、呉智英さんの文章はすごく好きですね。

—漫画評論家の?

菊地:そう。あと、南伸坊さんの文章は好きですね。他にも、亡くなっちゃったけど、僕と同い年のナンシー関さんとか、小説家としての筒井康隆さんは、もともとすごい大ファンなので、影響は受けていると思います。

あとは、欧米ですよね。さっき言ったように、月刊『プレイボーイ』とか『エスクァイア』に、たまにヴォネガット(カート・ヴォネガット。アメリカン小説家)とかの翻訳エッセイとかが出ていると、シャレてるなあって思いながら読んだりしていました。だから、その時代で止まっているし……その時代で止まっている本読みの人って、結構多いんじゃないかな。僕、シェークスピアとかも、いまだに福田恆存訳で読んでますから。

—おお、それすごいですね(笑)。

菊地:あと、歌舞伎も好きです。これは、日本語がまったくわからないから。音声ガイドと一緒に見ると、「こうやって言うんだ」って感動するんです。「さようなら」って言って、舞台に入ってくるんだから。「さようなら」っていうのは「左様であらば」っていうことで……もう、全然意味が違うっていう(笑)。

そういうものを見ると、前近代の日本語っていうのは、すごく豊かだったことがわかるんですよね。だから、言葉に関しては、だんだんそういう嗜好になってきましたよね。

菊地成孔

—いまの若い書き手は、菊地さんの文体に、結構な衝撃を受けているなんて話もあるようですが。

菊地:いまの書き手は、ホスピタリティーを高く保たないと、叩かれると思ってるんだよね。その結果、なるべくわかりやすく書く。行間をいっぱい空けたりして……結局、童話の本みたいになってしまうという(笑)。でも、グワッと文字が密集していて、なおかつカッコの中が長くて、引用される教養に対して何も説明がないっていうのは、昭和では、結構普通にあったから。

—確かに、そうだったかもしれないです。

菊地:そういうインターネットやSNSの文章に対して、やっぱり僕はちょっと抵抗があって。こと、55歳にもなるとですね、大人として、どう振る舞うかってことを考えざるを得ないわけです。そういう意味では、エッジな若者に多少おっさん扱いされても、「いや、おっさんですよ」っていう態度を示すことが、やっぱり大切でね。

ただ、それは別にジャズをやっているから大人だとか、ペダンティックな文章を書いているから大人だっていうことではなく、先端のソサエティに身を置かないってことですよね。そうすると、何言ってるのかわかんない頑固爺みたいになるに決まってるんだけど(笑)。

でも、そういう人がやっぱり、共同体にひとりはいないとダメじゃないですか。まあ、そうやってニューメディアに身を置かないということを、やってみようかなっていう話なんです。それで潰れちゃったら、それまでだったっていう。そんな感じで、やってるんですけどね。

菊地成孔

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連載『菊地成孔の北欧料理店巡り』

2003年に発表した『スペインの宇宙食』において、その聴覚のみならず、味覚・嗅覚の卓越した感受性を世に知らしめたジャズミュージシャン、文筆家の菊地成孔。歓楽街の料亭に生まれ、美食の快楽を知る書き手が、未開拓の「北欧料理」を堪能し、言葉に変えて連載形式でお届けします。

プロフィール

菊地成孔(きくち なるよし)

1963年生まれの音楽家 / 文筆家 / 大学講師。音楽家としてはソングライティング / アレンジ / バンドリーダー / プロデュースをこなすサキソフォン奏者 / シンガー / キーボーディスト / ラッパーであり、文筆家としてはエッセイストであり、音楽批評、映画批評、モード批評、格闘技批評を執筆。ラジオパーソナリティやDJ、テレビ番組等々の出演も多数。2013年、個人事務所株式会社ビュロー菊地を設立。

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