レゴはなぜ愛される? 日本で唯一の認定ビルダー三井淳平に訊いた

北欧の国・デンマークのみならず、世界で愛されるおもちゃ、レゴ。単純なブロックや人型を組み合わせることで生まれる無限の世界は、子どもはもちろん大人をも魅了し続けている。

日本にもレゴファンは数多くいるが、そのなかでも「神」として熱烈に支持される人がいる。三井淳平は、幼少時からレゴに親しみ、中高時代にはレゴで自作したロケットや大型船で世界的に知られるようになった「レゴビルダー」だ。その功績を認められて、2011年に彼は日本で唯一のレゴが公式に認めるビルダー、「プロビルダー」の称号を与えられた。

先日発表した『宝塚大劇場』は、宝塚歌劇の華やかさが伝わってくる精巧な作りが話題を呼んだ。レゴ一色で歩んできた三井の活動は、今後ますます進化していくだろう。そんな三井と、レゴジャパンのブランドマネージャーである今井理代に、レゴの現在、そして未来を聞いた。

「この順番で遊んでね」とか「こういうふうに遊ばないとダメだよ」とはおすすめいたしません。(今井)

—レゴと言えば、プラスチック製のカラフルなブロックをまず思い出しますが、最初は木工おもちゃを作る会社として始まったそうですね。

今井:はい、創業は1932年まで遡ります。当時のデンマークは世界大恐慌の真っ最中で、世の中全体に暗い雰囲気が広がっていました。そこで創業者オーレ・キアク・クリスチャンセンは、子どもに向けておもちゃを作れば、世の中はもっと明るくなるだろうと考えて、アヒルのおもちゃを作ったんです。紐で引っ張って遊ぶような素朴なおもちゃで、今のレゴブロックとはまったく違うものでした。

今井理代(レゴジャパン ブランドマネージャー)

—現在に続くレゴの原型はいつ頃できたのですか?

今井:改良を重ねつつ、現在のように複数のブロックがぴたっと重なる構造・機能を持つようになったのは1958年。ですから、今年でちょうど60周年を迎えました。

現在に続く、レゴの原型

—子どものための物作りの意識からレゴは生まれたんですね。三井さんもずっとレゴで遊んできて、いまはプロビルダーとして活躍なさっていますが、レゴとの最初の出会いは?

三井:物心つく前、0歳から触っていたと思います。3つ年上の兄がいたこともあって、おそらく兄の作ったものを崩すところからスタートして、そのうち兄の作ったものを真似たり、一緒に作るようになりました。小学生の頃は、レゴセットの組み立て説明書にしたがっていろんなものを作っていましたね。

三井淳平
阪急三番街「HANKYU BRICK MUSEUM」に設置されている『宝塚大劇場』

今井:レゴとの出会い方は人によって様々なんですよね。商品ラインナップとしてはお子様を対象にした小さな手でも持ちやすい大きなサイズで作られた「レゴ デュプロ」シリーズから始まります。

そのあと、乗り物だったり動物園だったり、好きなものの方向性がそれぞれのお子様ごとに出始めるようになっていくかと思います。そういう多様さを重視したいこともあって、弊社としては「この順番で遊んでね」とか「こういうふうに遊ばないとダメだよ」とはおすすめいたしません。

三井:そういったレゴ社さんの姿勢にも助けられて、僕はずっとレゴに親しんできたと思っています。

—自分の作品を作りたい、と三井さんはいつ頃から思うようになったんでしょうか?

三井:大きなきっかけは自分で買うようになったことですね。中学生くらいになるとお小遣いやお年玉がまとまって入ってくるようになるので、自分が欲しい特定のパーツを集めたくなってきます。例えば真っ赤なロケット発射台が作りたいので、赤いブロックを集中的に購入するとか。

今井:レゴストアの店頭におりますと、少年時代の三井さんのような男の子が大勢やってきて「このパーツのこれが欲しい!」って熱く語られます。現時点でレゴは特定のパーツの個別販売をしていないので、いつも答えに悩んでしまうんですが(苦笑)。

三井:プロビルダーになると欲しいパーツを好きなだけ買えるので、長年の悩みがなくなったのがとても嬉しかったです。

—中学生のときに作られた「サターンV型ロケット」は写真で見る限り、相当大きいですよね。

三井:全長2メートルあります。ピース数で言うと約2万ピースです。

中学生で作った『サターンV型ロケット』」

—生々しい話ですが、制作費はおいくらくらい……?

三井:一般的に市販されているブロックの単価が、平均すると1つ10円くらいですね。今まで買ってきたものをコツコツ積み重ねて作りました。

—ということは、に、にじゅうまんえん……!

レゴとサラリーマン生活の両立が困難になり、「自分に大事なのはどっち?」と迷って、選んだのがレゴだったんです。(三井)

—三井さんは、何がきっかけでここまでレゴに取り憑かれたのでしょうか?

三井:もともと物作りが好きで、自分が作ったものを人に披露するのが好きだったんです。夏休みの自由研究として、ダンボールでかなり大きなオブジェを作ったりしていました。レゴは生まれたときから身近にありましたから、手に取りやすい素材でもあったんです。

—高校生にして『TVチャンピオン』(テレビ東京系列で、1992年から2006年まで放送されたバラエティ番組。プラモデル、クイズ、大食いなどのテーマで競技を行い、各分野の優勝者を決める)の「レゴブロック王選手権」に出場し、準優勝を果たすなど三井さんは順調にレゴ道に邁進していきますが、大学卒業後にいちど就職なさっています。

三井:鉄鋼メーカーにエンジニアとして勤めました。

—大手メーカーですよね。ところがその仕事を辞めて、レゴ1本に絞った。人生の大決断ですよね。

三井:最初はエンジニアとして働きながらレゴの制作も続けようと思っていたんです。でも作っていくレゴ作品の規模がだんだん大きくなり、レゴの時間が足りなく感じるようになってきました。

レゴのイベントに参加するにしても、休みの日などで作品を作るしかないですから、大きな作品を作る余裕も確保できない。レゴとサラリーマン生活の両立が困難になり、「自分の人生にとって大事なのはどっちなんだろう?」と迷って、そして選んだのがレゴだったということです。そもそも、レゴをすっぱり辞めるという選択肢は僕の中に存在しませんでした(笑)。

—レゴ=人生、なんですね! 東京大学では理科I類に進学していますから、レゴを極めるために理数系の才能を伸ばしてきたかのようです。

三井:こういう活動をしていると、レゴを作る=理数系脳が必要と理解されがちなんですけど、個人的にはレゴのよさって「感覚的」な部分だと思っています。

例えば折り紙で精巧な作品を作ろうと思うと、ある部分に突起をつけたいと思ったら、設計を構想する段階で下準備が必要になりますよね。もちろんレゴにも下準備が必要な大作はありますが、それを飛ばしても楽しめるのがレゴのよいところなんです。だから、大学時代に創設したレゴ部の部員数も文系・理系がちょうど半々でした。思いついたらすぐに手を動かしてかたちにできるのが、レゴのよさだと思います。

もちろんエンジニアリングの技術や経験も役に立っていますし、思わぬ接点を発見して嬉しくなったりもします。顕微鏡で金属を観察すると、レゴブロックを組み合わせたような作りを結晶レベルでしていて、それが強度につながっているのがわかります。それが大作での構造設計にとても役立ちます。

—「構造設計」と言うと、まるで建築のようです。

三井:建築的な発想はけっこう強いですね。ビルダーに限らず、レゴ社のデザイナーさんも強度は意識されているはず。

今井:そうですね。子どもが遊んでも壊れない強度が求められるので、かたちの美しさ、かっこよさ、かわいらしさと強度の両立は重要なポイントです。

三井:何も考えずにブロックを組んでいくと脆くなりがちですし、大作になると重量問題も起こります。以前、3メートルのパックマンをデュプロブロックで作ったことがありましたが、中身までブロックで埋めてしまうと強度は得られても、あまりにも重くなってしまう。自重によって壊れる可能性が増すこともあります。

3メートルのパックマン ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

—それに対応するためには、内部の作りを工夫していく?

三井:「レンガ積み」と呼ばれる、互い違いに組んでいく方法で、強度を担保しつつ使用するブロック数を抑えました。それでも全体重量は1トンを超えましたけど(笑)。

—い、いっとん……! レゴの話を聞いていると、数に圧倒されることが多いです。

三井:ここまで大きくなると、たしかにもはや建築ですね。

私の上司はデンマーク人で、主体的に何かを作る、それが課題を解決する材料になるということを大事にしています。(今井)

—三井さんが認定されているプロビルダーについてもお聞きしたいです。世界的に見ても限られた人数しかいないと聞きました。

三井:現在のところ16名います。イメージとしては各国に1名ずつで、市場規模の大きいアメリカのように、複数人いる地域もありますね。

今井:三井さんたちビルダーの皆さんには、弊社が大きなイベントを開催するときなどに協力していただいています。作品を制作・発表していただくだけでなく、レゴファン向けのワークショップを指導していただくこともありますね。

—プロビルダー世界一決定戦、みたいな競技会もあったりしますか?

三井:『TVチャンピオン』がそれに相当していたと思いますが、公式にはありません。というのは、レゴは競い合いの場ではなくて、自由な創作の場だからです。「俺の作品を見て欲しい!」という表現欲求を大勢が持っていて、お互いの作品のよいところを見つけ合うのがレゴなんですよ。

今井:競い合うことが目的でないという意味では、レゴは親と子どものためのコミュニケーションツールとしての役割を持っているんですよね。

—そういったレゴ社のマインドは、デンマーク固有のものとも言えるかもしれません。例えば北欧は教育面でとても先進的な地域で、抽象的なかたちを積み木に採用して想像力を育む方法を始めたのも北欧だったと聞きました。

今井:私の上司はデンマーク人で、答えを与えられるのではなく、主体的に考え、自ら定義する、自ら作り出すということが大事であるとよく話しています。そこにはデンマークの教育が土台にあると思いますし、それは弊社の社訓にも見てとれます。

「Value(価値)」「Fun(楽しさ)」「Innovation(革新)」「Caring(思いやり)」「Creative(創造性)」というふうに、シンプルな言葉だけがある。日本の企業だと「●●は■■である」という風に、文章で定義されますよね。「Fun」という言葉の意味を自分で紐解き、そしてレゴにとってのFunとは何なのかを常に考えさせられる。そういうカルチャーのある会社なんです。

三井:レゴ社さんの考え方自体がレゴブロック的発想ですよね。つまり、1つのピースを与えるけれど、そこから作品を創造するのは、それぞれの個人の考え方に委ねられている。

今井:みんなが違う価値観を持っているのは当然で、そこで起こる違いや衝突は話し合って解決する、ということを好むんですよね。北欧のルーツが海洋文化にあって、船で航海をしていたことも関係しているかもしれません。船の中の社会では、合議制で物事が決まっていきますからね。

三井:シンプルなレゴブロックと何か別のアイデアを掛け合わせて新たな創造性を生み出すのが、レゴの大好きなところです。選択肢の豊かさ、選択のしやすさがレゴの本質にある限り、一生楽しめるんだろうなって思います。

—やっぱり「レゴ=人生」なんですね(笑)。

今井:LEGOって言葉の成り立ちは「よく遊べ(Play well)」という意味から来ていますから、三井さんのコメントはとても光栄です。

私たち社員も、月に1回くらいの頻度で「プレイタイム」という時間を設けているんですよ。勤務時間内に、レゴを使ってゲームをしたり、チームを組んでいろんなものを作ったりしています。例えば「デュプロを組み立ててトンネルを作って、全員がいちばん最初に通過できたチームが勝ち」というお題を与えられたとします。もしもチームメンバーにぽっちゃりした人がいたとすれば、その人も通れるような造作が必要になるし、同時に強度も求められる。そういったさまざまな課題を考えながら、私たち自身が「よく遊ぶ」んです。遊んでいないと子どもたちや世の中にレゴの創造性を提供できませんからね。

変わらずに大事にしているのは「想像力を育む」こと、そして「未来のビルダーを作る」です。(今井)

—今後、レゴはどんな未来を描いていくでしょうか?

今井:想像力を育み、子どもたちの健やかな成長をサポートできるブランドでありたい、というのは普遍的な願いです。

ただ、時代とともに子どもたちの遊び方も大きく変わっていきますから、新しい掛け合わせ方を発見し、開拓していく必要を感じています。例えばタブレットを使ってプログラミングできる「ブースト」シリーズは、2020年にプログラミングが日本の学校では必修科目になることを想定して企画されました。

左から:タブレットを使ってプログラミングできる「ブースト」シリーズ、新作の「VOLTRON」シリーズ
会議室にはレゴ商品が並んでいる
会議室内には、デンマークと日本の時刻を示す時計があった

—レゴ商品以外への広がりも最近の特徴ですよね。映画『レゴムービー』や『レゴバットマン ザ・ムービー』は、レゴの世界観を伝えるだけでなく、コメディーとしても素晴らしい内容でした。かなり攻めたブラックジョークも満載で(笑)。

今井:さまざまな子供たちのさまざまな興味関心がありますので、映画を接点として子どもたちに関心を持ってもらうことは重要だと考えています。それは同時に、かつてレゴで遊んだことのあるお父さんやお母さんにもレゴ体験を思い出していただくチャンスでもあります。映画シリーズのテーマが「家族」や「コミュニケーション」なのは、そういう理由なんですよ。

『レゴムービー2』特報(2019年公開予定)

三井:レゴ関係の映画に関しては「評論1本書けるぞ!」というぐらい、レゴオタクとしての視点がいっぱいあります。私の個人的な見解ですけど、レゴブロック自体の規格化された環境が、逆に複数の世界観が入り混じっても許される環境を作っていると思うんです。『レゴムービー』のなかで『指輪物語』のガンダルフと『ハリーポッター』シリーズのダンブルドアが「お前たち名前も見た目も似ていてややこしいぞ」っていじられる描写があります。もちろん、それぞれの原作でそんなクロスはできませんよね。

でも、レゴブロックであればクロスすることは現実に起こっている。だから彼らが共存している状態に違和感が生まれないのだと考えています。

—愛知県のレゴランドのように、レゴを軸にしていろんな世界を作り、そして体験することができる場所や機会がどんどん増えているのも特徴的です。親から子へと受け継がれる時間軸だけでなく、現在におけるレゴ文化の広がりの横軸も加わっています。

三井:レゴのシンプルなルール、シンプルな構造が想像力を広げていくんでしょうね。レゴブロック自体のかたちはとても単純です。でもそのシンプルさがあるからこそ、複数の世代の支持を得ていく未来を描けるのではないでしょうか。

プロフィール
三井淳平 (みつい じゅんぺい)

レゴ®認定プロビルダー(LEGO Certified Professional)/世界で16人しかいないレゴ社公認のプロのレゴ職人/マツコの知らない世界・TVチャンピオン等出演。阪急三番街・HANKYU BRICK MUSEUMで作品展示中。

今井理代 (いまい まさよ)

レゴジャパン シニアブランドマーケティングマネージャー。複数のフランチャイズ(ブランド)の戦略立案からマーケティング施策立案、実施までを担当。



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湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

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スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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