北欧現地の人々が支持する3作品を紹介。海外ドラマ=英米ドラマだけじゃない。北欧ドラマ考

各種さまざまな映像配信サービスによって、海外ドラマに触れることが多くなった昨今。なかでも注目を集めるのは英米作品ばかりだが、膨大なライブラリのなかで、それ以外の作品を見過ごしてしまうのはもったいない。

そこでここでは、「海外ドラマ=英米ドラマ」という固定観念を解きほぐすための「北欧ドラマ考」として、世界中で愛される北欧作品から、現地で愛される人気作までを紹介していく。

(左)(c) 2021 FREMANTLEMEDIA LIMITED. All rights reserved.
(右上)(c) 2021 Nordic Entertainment Group. All rights reserved.
(右下)(c) 2019 Nordic Entertainment Group. All rights reserved.

北欧作品の「ハートウォーミング」と「ダーク」のふたつの顔。ヒット作から振り返る

北欧の映画にはふたつの顔があるような気がする。ひとつはハートウォーミングな物語。『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』(1985年)、『ロッタちゃんのはじめてのおつかい』(1993年)といった子どもたちを描いた作品や、アキ・カウリスマキ監督の作品(『過去のない男』『希望のかなた』など)のように、独特のユーモアセンスで市井の人々をみつめた物語は、北欧の絵本のような風景にぴったりだ。

アキ・カウリスマキ監督『希望のかなた』予告編

そして、もうひとつは観客をじわじわと追い込んでいくダークな物語。『ぼくのエリ 200歳の少女』(2010年)、『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)、『ハウス・ジャック・ビルト』(2019年)など、暴力や性描写を取り入れて人間の暗部を描いた作品も多く、なかでもサスペンスの人気は高い。

『ドラゴン・タトゥーの女』予告編

北欧サスペンスドラマで描かれる「繊細な心理描写」と「重厚な物語」

振り返ると、北欧にはミステリー小説の長い歴史がある。現在の北欧ミステリーの原点ともいわれているのが、スウェーデンの作家、マイ・シューヴァルとペール・ヴァールー夫妻による警察小説『刑事マルティン・ベック』シリーズで、1965年から1975年まで10年間にわたって10冊の長編が刊行された。このシリーズが画期的だったのは、それまでミステリーの多くで犯人を探すのは探偵だったが、本シリーズでは警察官、マルティン・ベックを主人公に据えて警察署を舞台にしたこと。

人間関係が丁寧に描かれていて、マルティン・ベックは10年の間に歳をとり、出世をしたり、仲間の命を失ったりする。まるで全10話のドラマシリーズを見ているような面白さで、世界中で翻訳されて映画化もされた。

『刑事マルティン・ベック』トレーラー

また、近年世界的に注目を集めたのが、同じくスウェーデンの作家、スティーグ・ラーソンが2005年に発表した小説『ドラゴン・タトゥーの女』だ。ある裕福な一族に隠された秘密を巡って展開する本作は世界的なベストセラーになり、2011年にデヴィッド・フィンチャー監督によって映画化されると大ヒットを記録した。そして、『ドラゴン・タトゥーの女』以降、北欧のミステリーやサスペンス小説が脚光を浴びるようになり、ドラマも次々と制作された。

そのなかで人気を呼んだのが、2007年に放映されたデンマークのドラマ『THE KILLING / キリング』だ。ひとつの殺人事件を解決するまでの20日間の捜査過程を1日1話で描いた本作は、国内で過去最高の視聴率を記録。2011年にイギリスで放映されると、英国アカデミー賞国際シリーズ作品賞を受賞する。

その人気を受けて、デンマークの刑事とスウェーデンの女性捜査官が連続殺人事件を追う『THE BRIDGE / ブリッジ』(2011年)や、女性刑事と法医学精神科医が協力して殺人事件の真相を解明する『ゾウズ・フー・キル 殺意の深層』(2011年 / WOWOWオンデマンドでアーカイブ配信中)といった北欧ドラマがイギリスで次々と放送されて北欧ドラマのブームが起こり、その盛り上がりが世界へと広がっていった。近年では、デンマーク警察の二人の刑事が未解決事件を追うベストセラー小説を映画化した『特捜部Q』シリーズ(これまで5作が映画化)が人気を集めている。

映画『特捜部Q 知りすぎたマルコ』予告編

そして、ある時期から、北欧サスペンスは「北欧ノワール」と呼ばれるようになった。「ノワール」とはフランス語で「黒」という意味。1940〜50年代にハリウッドで量産された、悲劇的で暗い犯罪映画が「フィルム・ノワール」と呼ばれていたことからつけられたのだろう。「フィルム・ノワール」とはフランスの映画評論家が思いついた呼び名で、フランスの犯罪小説を「ロマン・ノワール(暗黒小説)」と呼んでいたことに由来しているが、たしかに北欧ミステリーにはノワール的な、重苦しく悲観的雰囲気が漂っていて、それが不思議とクセになるのだ。

そうした北欧ノワールブームのなかで生まれた北欧のサスペンスドラマの魅力は、謎解きや犯人探しの過程で描かれる繊細な心理描写と重厚な物語。そこには『刑事マルティン・ベック』シリーズのリアルな人間ドラマや、『ドラゴン・タトゥーの女』の暴力性、ダークなムードが受け継がれている。そして、ゴシック的ともいえる退廃的で美しい映像も特徴だ。北欧ドラマがイギリスで人気を集めたのは、イギリスも複雑な人間ドラマや美意識を愛する国だからであり、それは日本人にも通じるところがあるのではないだろうか。

北欧現地で根強い人気を誇る配信サービス「Viaplay」が日本初上陸

いまや英米のドラマに負けないほど北欧ドラマは根強い人気を得ているが、北欧でもっとも人気がある配信サービス「Viaplay」を日本でも見ることができるようになった。WOWOWが「Viaplayセレクション」として、Viaplay作品のなかからピックアップしたものを配信していくという。Viaplayとはどんなサービスなのか、今回、アジアで初めてViaplayと独占契約を結んだWOWOWのプロデューサー、大朏ちなつさんはこんなふうに説明してくれた。

大朏:ViaplayはWOWOWと同様、総合チャンネルです。ドラマ、映画、キッズ、スポーツなどさまざまな番組があり、ドラマや映画はオリジナルの作品を制作しています。ドラマでいちばん多いのはサスペンス。今回、「Viaplayセレクション」として4月に放送・配信する3作もサスペンスが中心になっています。

WOWOWには週末に海外ドラマのシリーズ作品を一挙に放送する「WOWOWプレミア」という枠がありまして、そこでは英国と北欧のサスペンス作品が特に人気があるんです。今回、Viaplayと独占契約をしたことで、これまで以上に北欧サスペンスを紹介できることになりました。

WOWOWでは、これまでにも数々の北欧ドラマが放送されてきた。大朏さんから見て北欧ドラマの魅力はどんなところなのだろう。

大朏:ダークで骨太。脚本がしっかりしていて、社会問題も積極的に取り入れているので共感できるんです。役者さんの演技も巧みでリアリティーがあります。あと風景の美しさやドラマに出てくるインテリアのおしゃれさも、北欧ドラマならではの見どころだと思います。キャンドルを立てて食事したり、日常風景がおしゃれなんです。

4月から「Viaplayセレクション」で放送・配信が始まる『フリア~孤高の潜入捜査~』、北欧サスペンス『BOX 21』、北欧ダークコメディ『EXIT』(R15+指定相当)の3作も、そんな北欧ドラマの魅力がたっぷり味わえる。この3作はViaplayのなかでも特に人気がある作品ということで、ここからはそれぞれの作品について、大朏さんの見どころポイントも添えて紹介したい。

北欧サスペンスの集大成のようなドラマ『フリア~孤高の潜入捜査~』

『フリア~孤高の潜入捜査~』 (c) 2021 Nordic Entertainment Group. All rights reserved.

『フリア~孤高の潜入捜査~』はノルウェーの田舎町に、警官のアスゲールが小さな娘と赴任してきたところから物語が始まる。アスゲールには隠さなくてはいけない過去があり、赴任先の署長や仲間たちにも彼の経歴は明かされていなかった。そして、アスゲールが赴任してすぐに、難民を収容している施設が放火される騒ぎが起こる。アスゲールは捜査を進めるなかで、一部の住人が結成したテロ組織が大きな計画を立てていることに気づくが、その組織にはラグナという女性捜査官が潜入していた。アスゲールとラグナはともに事情を抱えながらテロ事件に関わっていく。

物語はラグナを中心に進んでいくが、潜入捜査というだけでも緊迫した状況なのに、そこにアスゲールをつけ狙う者たちも現れて、スリルは2倍。物語が進むに連れて二人の過去が明らかになり、そこに現代社会が抱える差別や暴力といった問題が浮き上がっていく。

(c) Haakon F. Lundkvist
(c) Haakon F. Lundkvist

ラグナを演じるのは『妹の体温』(2016年)でノルウェー・アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされたアイネ・マリー・ウィルマン。アスゲールを演じるのは『コン・ティキ』(2013年)で主演を務め、『特捜部Q Pからのメッセージ』(2016年)で重要なキャラクター、ヨハネスを演じていたポール・スヴェーレ・ハーゲンだ。物語の舞台になっているムーレ・オ・ロムスダールは『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』や『ブラック・ウィドウ』の撮影も行なわれたノルウェーの土地で、その美しい自然も見どころのひとつだ。

大朏:危険を顧みず、体当たりで捜査に挑んでいくラグナ。その芯の強い女性像が魅力的なんです。中盤から物語の舞台がドイツに移っていきますが、最後の最後までラグナがどうなるのかわからない。北欧サスペンスの集大成のようなドラマです。

人身売買、強制売春、マフィアなど、社会の闇が題材の北欧サスペンス『BOX 21』

『BOX21』 (c) 2019 Nordic Entertainment Group. All rights reserved.

一方、北欧サスペンス『BOX 21』は、スウェーデンの作家、アンデシュ・ルースルンドとベリエ・ヘルストレムによる同名小説をドラマ化したもの。アンデシュとベリエはストックホルムを舞台に、グレーンス警部とスンドクヴィスト警部補が活躍するシリーズもののミステリー小説を書いてきた(ベリエが2017年に亡くなってからはアンデシュが単独で執筆)。このシリーズは日本でも翻訳されて、ミステリーファンの間で人気があるが、『BOX 21』はシリーズ2作目を独立したドラマとして脚色している。

ヒロインはルーマニアでウェイトレスをしているリディア。彼女は店で知り合った男から、良い仕事を紹介すると誘われてスウェーデンに渡るが、そこで斡旋されたのは売春だった。自由を奪われてアパートに閉じ込められたリディアは、売春婦仲間のアリーナに頼んで客から盗んだ金や貴重品を駅のロッカーに隠す。それはいつか復讐を果たすための準備だった。

そして、復讐を企てたリディアが起こした事件に、刑事のエーヴェルト、マフィアの殺し屋・ヨックムの思惑が絡み合って物語は思わぬ展開を見せていく。人身売買、強制売春、マフィアなど、社会の闇が題材になっているが、原作者の二人が実際に取材して得た事実をもとにしているらしい。

(c) Benjam Orre
(c) Benjam Orre

大朏:性的人身売買の犠牲になった女性の話ではあるんですけど、「彼女が自分の運命にどう立ち向かって行くか?」が描かれているのが見どころです。そして、組織売春という社会問題を取り上げているところも北欧ドラマらしいと思いますね。

セレブのリアリティー番組のような、欲望と愛憎が入り乱れたスキャンダラスな北欧ダークコメディ『EXIT』

『EXIT』 (c) 2021 FREMANTLEMEDIA LIMITED. All rights reserved.

そして、最後の一本が北欧ダークコメディ『EXIT』だ。これは他の2作と比べて異色の物語。登場するのは、ノルウェーのオスロで裕福な暮らしをしている4人の株式ブローカーだ。30代にして10億を稼いだアダムを筆頭に、イェッペ、ヘンリック、ウィリアムは高級車を乗り回し、大邸宅で何不自由なく暮らしているが、それぞれ問題を抱えていた。

アダムの妻、ヘルミネは子どもが欲しくて妊活をしているが、アダムは結婚前に精管切除をしたことを隠していた。イェッペは衝動的に暴力をふるってしまい、ヘンリックは結婚式を控えているのに派手な遊びがやめられず、ウィリアムは借金取りに脅かされて自殺騒動を起こす。そんな4人の面倒な男たちの巻き起こす、欲望と愛憎が入り乱れたスキャンダラスなドラマは、まるでセレブのリアリティー番組を見ているような面白さがある。

アダムを演じるシーモン・J・ベリエルは、映画『マスター・プラン』(2014年)で主役を務め、『妹の体温』では『フリア~孤高の潜入捜査~』のアイネ・マリー・ウィルマンと共演。『BOX 21』にも出演している人気俳優。ウィリアム役は『フリア~孤高の潜入捜査~』で紹介したポール・スヴェーレ・ハーゲン。イェッペ役は北欧ドラマ『ジャーナリスト事件簿~匿名の影』で主人公のペテルを演じたヨン・オイゴーレン。ヘンリック役に『コン・ティキ』(2013年)、『X-ミッション』(2016年)のトビアス・サンテルマンと、北欧の映画 / ドラマ界で活躍する俳優たちが火花を散らす。

(c) Ingeborg Klyve
(c) Ingeborg Klyve

大朏:4人の男たちの友情と裏切りを描いているんですけど、とにかくハチャメチャなドラマでどうなっていくのかわからない。4人それぞれに秘密や悩みを抱えていて、そこから逃げ出す「出口」を求めて享楽の日々を送っているから『EXIT』というタイトルなのではないかと思います。シーズン2ではアダムの奥さん、ヘルミネが反撃に出るんです。男女それぞれの視点で楽しめるドラマですね。

「Viaplayセレクション」では北欧ノワールサスペンスやミステリーを中心にしながら、今後はホラー作品の放送も予定されているとか。WOWOWで放送・配信されるViaplayの日本上陸をきっかけにして、北欧ドラマの世界はますます広がっていきそうだ。

サービス情報
WOWOW「Viaplayセレクション」

北欧から世界へ拡大中の配信サービス「Viaplay」のラインナップから厳選したドラマをWOWOWオンデマンドで年間200本以上独占配信。

作品情報
『フリア~孤高の潜入捜査~』

2022年4月11日(月)放送・配信スタート
【放送】毎週月曜午後11時[第1話無料放送]【WOWOWプライム】【WOWOW4K】
【配信】各話放送終了後アーカイブ配信[無料トライアル実施中]【WOWOWオンデマンド】

第1話「自分を見失えばすべて失う」を期間限定まるごと無料配信!
2022年4月14日午前11:59まで

(c) 2021 Nordic Entertainment Group. All rights reserved.

北欧サスペンス『BOX 21』

【配信】WOWOWオンデマンドで配信中[無料トライアル実施中]【WOWOWオンデマンド】

(c) 2019 Nordic Entertainment Group. All rights reserved.

北欧ダークコメディ『EXIT』[R15+指定相当]

【配信】WOWOWオンデマンドで配信中[無料トライアル実施中]【WOWOWオンデマンド】

(c) 2021 FREMANTLEMEDIA LIMITED. All rights reserved.

北欧ダークコメディ『EXIT 2』[R15+指定相当]

2022年5月1日(日)配信スタート

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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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