菊地成孔の北欧美食巡り総括 タコツボ化した東京の食事情を問う

菊地成孔の北欧美食巡り総括 タコツボ化した東京の食事情を問う

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:三宅詩朗 編集:川浦慧、野村由芽

僕、一日中、ずっとブログを書いてた頃があるから言うけど、あんなものはやめたほうがいいですよ(笑)。

—みんなライトにオタク化、もしくはライトな批評家になって、その領域以外のことには、あまり関心を持たないみたいなことなんでしょうか。

菊地:まあ、SNSっていうカルチャーが、良くも悪くもですけど、やっぱり世界を変えてしまったんですよね。人の世界感覚というか、世界把握の仕方を根底から変えてしまったという。僕は昔、ブログを書いてましたけど、っていうか、今風に言ってしまえば、ブロガー上がりの著述家なんだけど(笑)。

菊地成孔

—あ、そう言えばそうですね。

菊地:勝手にブログを書いてたら、出版社の人に声かけられたのが、『スペインの宇宙食』っていう、僕の最初の本なので。だから「お前、インターネットの悪口を言ったら、天に唾することになるぞ」とか親の悪口を言うなみたいなことを言われるんだけど、親の悪口っていうのは、みんな言うわけでさ(笑)。

あと、ドラッグをホントにやめたほうがいいですよって言えるのは、元ジャンキーの人だけなんですよね。ドラッグやったこともない人が、「ドラッグはいけません」って言ったって、何の説得力もないじゃないですか。そういう意味では、僕、一日中、ずっとブログを書いてた頃があるから言うけど、あんなものは、やめたほうがいいですよ(笑)。

—(笑)。その頃、菊地さんは、なぜそこまでブログを書きまくっていたのでしょう?

菊地:僕がいちばんブログを書いていたのは2002年なんですけど、僕、その年にパニック障害になったんですよ。で、もう仕事もできなくなって、やることがブログ書きしかなかったの。だから、ある種の自己治癒でブログを書いてたんだけど、そしたらすごい読者がついて。本を出す前から、出したら売れるってことが、ほぼ決定してたんですよね。

で、そのとき、ネットによる拡散力というか、ネットが宣伝媒体になるっていうのを痛感したんだけど、ある種のドラッグでもあるなと。試験的に、Twitterも2か月ぐらいやってみたんだけど、もうこれは完全なドラッグだし、こんなものを民の掌中に配ったら、みんなやめられなくなると思って。

—なるほど。

菊地:でもまあ、僕らよりずっと上の世代の人たちは、テレビが出てきたときに、「一億総白痴化」とか言って、いま僕らがインターネットについて言っているようなことを、テレビに対して言ってましたよね。テレビばっかり見てるとバカになるって(笑)。で、ポータブルプレーヤーなんか出た日には、「音楽っていうのは、家でゆっくり聴くもんだ」なんて言ってさ。「あんなものをつけて、音楽を聴きながら歩いてたらバカになるぞ」って。そしたら案の定、こんなバカになっちゃって(笑)。

—いやいや(笑)。

菊地:だから、SNSをマスメディアの流れの最先端のものと捉えている人たちは、「テレビのときだって、同じだったじゃないか」って言うんだけど、僕はそこには一線があると思っているのね。

菊地成孔

—その一線って何なのでしょう?

菊地:やっぱり、インターネットの登場によって、いろんなものが変わってきていて……まず、相互監視的になりましたよね。テレビは、映っているものをただ見ているだけだから。

ただ、SNSっていうのは、口を開けてコンテンツを見ているだけではないですよね。SNSは人を傷つけることによって、人を縛り付ける道具だから。いみじくも、トリュフォーが言ってますよ。「映画監督は、自分のこと誉めてくれた評論家の名前は忘れるけど、自分のことを酷評した評論家の名前は死ぬまで忘れない」って。

で、それは、音楽家も同じなんですよね。ライブが盛り上がって、いい気分で酒を飲むのがいちばんハッピーなんだけど、居酒屋でエゴサして、「みんなホントは、こんなふうに思ってたのか……」って、暗くなってるやつとかいて(笑)。俺たちは、最高とか言われて調子に乗ってればいいじゃんって思うんだけど、そういうのは怖いんですよね。裏で誰かが何かを言ってることを知っているから。

—まさに、相互監視的というか。

菊地:うん。だからまず第一に、SNSがそうやって、人に被害妄想を持たせることが、人心にすごく悪いですし……もうひとつの問題は、特にTwitterが、日本語を破壊し始めていることであって。

僕はSNSを回避することによって、自分が活き活きとしゃべっていた20世紀のエッセイストや散文の書き方に、自分を留めておくっていう。

—ネット用語やTwitter特有の文体が、日常会話でも使われるようになってきたり……。

菊地:そう。やっぱりネットは、日本人のカジュアルな言葉遣いを変えたんですよ。それって、ひとつの流行語というかスラングみたいなもので、うわーっと伝染するから。「なう」とか突端にあるバカバカしいものはともかくとして、変な体言止めを使ったりとかしてさ(笑)。

で、僕が文章を書いたりすると、すごい文章が重いし、何か敷居が高くて読みづらいとか言われたりするの。「もっと、ネットみたいに書いてくれると、スッと入ってくるのに」とか言われたりして。

—確かに、そういう人もいるでしょうね。

菊地:だから僕は一回、そのSNSを回避することによって、自分が活き活きとしゃべっていた時代、それはまあ言ってみれば20世紀で止まっているんだけど、20世紀のエッセイストや散文の書き方っていうところに、自分を留めておくっていう。そういう一種の人体実験をやっているわけなんです。

それによって、僕がクリエイターとしてダメになっちゃうのか、SNSをやらなくても大丈夫だっていうことになるのか、いま日々問うてるんですよ、自分でね。

菊地成孔

—今回の連載のような、菊地さんならではの「文体」は、そういう生活のたまものであると。

菊地:そうですね。だから、誤解してほしくないのは……僕は、SNSが嫌いだとか、SNS的なしゃべり方が嫌いだとかいうことを言っているんじゃないんです。SNSに限らず、マスが使っている言葉っていうのは、絶対魅力があるから。そこに入り込んじゃったら、僕も絶対そうやってしゃべり出すだろうし。

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連載『菊地成孔の北欧料理店巡り』

2003年に発表した『スペインの宇宙食』において、その聴覚のみならず、味覚・嗅覚の卓越した感受性を世に知らしめたジャズミュージシャン、文筆家の菊地成孔。歓楽街の料亭に生まれ、美食の快楽を知る書き手が、未開拓の「北欧料理」を堪能し、言葉に変えて連載形式でお届けします。

プロフィール

菊地成孔(きくち なるよし)

1963年生まれの音楽家 / 文筆家 / 大学講師。音楽家としてはソングライティング / アレンジ / バンドリーダー / プロデュースをこなすサキソフォン奏者 / シンガー / キーボーディスト / ラッパーであり、文筆家としてはエッセイストであり、音楽批評、映画批評、モード批評、格闘技批評を執筆。ラジオパーソナリティやDJ、テレビ番組等々の出演も多数。2013年、個人事務所株式会社ビュロー菊地を設立。

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