「好き」だけが仕事の基準。ifs未来研究所所長 川島蓉子が才人に愛される理由

「好き」だけが仕事の基準。ifs未来研究所所長 川島蓉子が才人に愛される理由

テキスト
唐川靖弘
写真:玉村敬太 編集:高橋直貴

異なる価値同士を繋げることができる「うろうろアリ」がイノベーションをリードする。

みなさん、こんにちは。「うろうろアリ・インキュベーター」の唐川靖弘です。世に「うろうろアリ」を増やすことをライフワークとしています。

「うろうろアリ」とはいったい何なのか? 多くの方が疑問に思われたことでしょう。「うろうろアリ」とは文字通り、うろうろと歩き回るアリのこと。といっても単にさぼっているだけのアリではありません。アリの世界でも、全員が目一杯働くアリの巣よりも、働かないアリや寄り道をしてさまようアリがいる巣のほうが、環境変化や脅威に強く、長続きするのだそうです。そんな「うろうろアリ」の特技は、いろいろな場所に足を運び、誰も気づかないような新しい餌場、つまり価値を見つけること。

人間の世界でも同じことが言えると僕は考えています。変化のスピードと不確実性が増す現代において、「組織や役割の枠に捉われず、さまざまな知や情報を見いだし、繋げ、新しい価値を生む」うろうろアリこそがイノベーションをリードするのではないかと思うのです。

僕は、うろうろアリの英文表記を「Playful Ant(遊びまわるアリ)」と名付けました。目標に向かって直線的に効率良く進むのではなく、内面から湧き出る「何か」に突き動かされ、人生を楽しみながら境界線の区別なく楽しげに歩き回る。こんな「うろうろアリ」の働き方は、まさに最先端の働き方ともいえるでしょう。

かといって決して楽しいことばかりではないはずです。うろうろする過程では当然、壁にぶつかり、沼地にはまり、谷底に落ちるような経験も数多くすることでしょう。

北欧の「クラフトマンシップ×最先端技術」をテーマにしたウェブマガジン「Fika」でお送りするこの連載では、日本で最先端の働き方を実践する「うろうろアリ」へのインタビューを通じて、彼らの生き方や失敗や困難を乗り越える姿を紹介していきます。

今回お話を伺ったのは、川島蓉子さん。伊藤忠ファッションシステム(以下ifs)取締役を務めながら、三越伊勢丹新宿店「みらいの夏ギフト」や虎屋「みらいの羊羹」の開発などクリエイティブディレクターとして企業やクリエイターとのコラボレーションなどを手がけられています。また、ライターとしてのキャリアも長く、『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『みらいをひらく、私の日用品』(リトルモア)など著書も多数。境界線を超え価値あるものを結びつける川島さんを突き動かすものはいったい何なのでしょうか。

「経営者の人と話し、クリエイターがつくったものをみて私自身の心が動くかどうか。この感覚を一番大切にしています」

—川島さんは、取締役を務めるifsで精力的に活動されていますね。伊勢丹や虎屋、ビームスといった企業とコラボレーションをしたり、プロデュースなさった伊藤忠商事の企業広告が2年連続で『日経広告賞』の大賞を受賞するなど、まさに八面六臂の活躍ぶりです。

川島:伊藤忠商事の子会社であるifsの役員として、ちょっと先の素敵な未来を創るような製品やサービスを企業の方々と共に考えたりする「ifs未来研究所」というものを立ち上げ、運営しています。この組織での活動をベースに、親会社の伊藤忠商事の企業広告をクリエイターチームと一緒につくったり、クライアントと共同でプロジェクトをたちあげたりいろいろなことに首を突っ込んでいますね。

川島蓉子(伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役 / ifs未来研究所所長 / ジャーナリスト)
川島蓉子(伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役 / ifs未来研究所所長 / ジャーナリスト)

—ifsの活動と並行してライターとしても活躍されています。数々の書籍を出版され、Webの連載など執筆活動も精力的に行われていますよね。

川島:そうですね。生業は何ですかと問われたら、 迷わず「もの書きです」と答えるぐらい書くことは自分の根幹にある活動です。好きで好きでたまらないですし、何かに興味を持ったり心を揺さぶられたりしたら、その現場に出向き、人に会い、話を聞いてくる。そしたら、それをどうしても伝えたくなって、書かずにはいられなくなるんです。

—その感受性と行動力が、川島さんの全てのお仕事の原点のような気がします。そうした会社という枠にとらわれない仕事をどのように生み出していらっしゃるのでしょうか?

唐川靖弘(EdgeBridge LLC代表取締役 / うろうろアリ・インキュベーター)
唐川靖弘(EdgeBridge LLC代表取締役 / うろうろアリ・インキュベーター)

川島:元々、ミーハーで飽きっぽいというのもあるのでしょうが、好奇心の強さなんでしょうね。見たことのない世界を見てみたい、自分の知らないことを知りたいという欲が、ものすごく強い。それは多分昔からです。

小学校3年生のとき、背の高い松の木があって「そこから見える景色はどんなかな?」と思ったらどうしても見たくて我慢できなくなって。特に運動神経が良いわけでもないのにスカートのままよじ登って、そのあと降りられなくて困ったこともありました(笑)。

—木に昇るとき、つまり、自分の知らないことや新しいことに挑戦するとき、川島さんはどのような基準で「やる・やらない」を判断しているのでしょうか?

川島:例えば何かのプロジェクトを始めるとき、目利きのように「正しいか正しくないか」「これから売れそうかどうか」などでは判断していませんね。つまりは、「自分が好きか嫌いか」で判断しているという感じです。経営者の人と話をして、あるいは、クリエイターの人が作ったものをみて、私自身の心が動くか、この感覚を一番大切にしています。

『第66回日経広告賞』大賞を受賞した2017年の企業広告。「稼ぐ・削る・防ぐ」という伊藤忠商事が抱いてきた考え方が、豪胆で豊かなイラストと、社会にひらかれた文言で表現されている
『第66回日経広告賞』大賞を受賞した2017年の企業広告。「稼ぐ・削る・防ぐ」という伊藤忠商事が抱いてきた考え方が、豪胆で豊かなイラストと、社会にひらかれた文言で表現されている

—自分の心の声に従うことが、重要だと。

川島:じつはifs未来研究所を設立したのも、ずっと計画していたことではなくて、会社を離れる決心をしたことがきっかけだったのです。当時、もの書きに専念したくてトップに辞意を相談したところ、「辞める前に何かやりたいことはないのか?」と改めて聞かれて、ふと、「どうせなら、未来に向けて面白いことをやってみたい」と。そして設立することになったのがifs未来研究所でした。

私、キャリアプランという言葉が大嫌いなんです。キャリアをプランする、そうすれば実現する、なんてどうしても思えません。キャリアプランという言葉からは「ゴールを設定して、効率的にゴールに向かって突き進んで行く」というイメージを受けますが、人生そんな容易に予想できるものでもないし、そもそも思う通りに事が運ぶなんて滅多にない。たくさんの失敗があって、そこから思いもしなかった道が出来上がるから面白いんだ、と思います。

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プロフィール

川島蓉子(かわしま ようこ)

1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科終了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)『ビームス戦略』(PHP研究所)『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。

唐川靖弘(からかわ やすひろ)

1975年広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント、戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院 Center for Sustainable Global Enterpriseマネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクトや新市場開拓プロジェクトをリード。自身のイノベーションファームEdgeBridge LLCを拠点に、企業の戦略顧問や人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。フランスの経営大学院INSEADにおいて臨床組織心理学を研究中。

連載『イノベーションを生む「うろうろアリ」の働き方』

変化のスピード増す現代において、既存の価値観や会社という枠組みに囚われないない「うろうろアリ」こそがイノベーションをリードする。自由な発想で新たな価値を生み出し続ける彼らの、最先端の働き方を紹介するインタビュー連載です。

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