ノルウェーで『オリンピック』並の視聴率。「新時代の北欧ドラマ」を象徴する重要作『EXIT』シリーズ

各種さまざまな映像配信サービスによって、海外ドラマに触れることが多くなった昨今。なかでも注目を集めるのは英米作品ばかりだが、膨大なライブラリのなかで、それ以外の作品を見過ごしてしまうのはもったいない。

そこでこの連載では、「海外ドラマ=英米ドラマ」という固定観念を解きほぐすための「北欧ドラマ考」として、世界中で愛される北欧作品から、現地で愛される人気作までを幅広く紹介していく。今回は、物語の70%がノンフィクションとされており、ドキュメンタリー的魅力もあるダークコメディ『EXIT』『EXIT2』について、辰巳JUNKが綴る。

(メイン画像:(c) Ingeborg Klyve)

物語の70%が実話。閉ざされたリッチコミュニティの「リアル」を垣間見られる、ドキュメンタリー的魅力も

「唯一誰もが信じてることが カネはリアルだということ それだけが紛れもなく世界共通の宗教だ」

大胆な物言いだが、このセリフが放たれたテレビドラマ『EXIT』自体の成功も表しているかもしれない。2019年より開始した同シリーズは、ストリーミングサービスによって国際的躍進を遂げる「新時代の北欧ドラマ」を象徴する重要作だ。母国ノルウェーでは、なんと国民の36%が視聴(*1)した「オリンピック並」のメガヒットを達成。19~29歳間の10人中4人が視聴したほか、男女比も半々で、さまざまな地域、学歴層にリーチする国民的人気を誇っている。

熱狂はフィンランド等の北欧諸国にも広がった。そして2022年、ここ日本でもWOWOW「Viaplayセレクション」を介してお目見えする。

『EXIT』© 2021 FREMANTLEMEDIA LIMITED. All rights reserved.
『EXIT2』© 2021 FREMANTLEMEDIA LIMITED. All rights reserved.

ノルウェーが舞台のドラマだが、おそらく、日本の視聴者も入り込みやすいだろう。冒頭のセリフにもあるように、世界中で関心が高まる「お金の話」なのだ。

「裕福で不道徳、そして政治的に正しくない『EXIT』の主人公たちは、大衆、そして若者の視聴者を魅了してみせた」(*2)

特に、海外映画やドラマのファンには刺さるところが大きい。レオナルド・ディカプリオ主演映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)、ポン・ジュノ監督によるアカデミー賞受賞作『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、エミー賞を獲得したテレビシリーズ『メディア王~華麗なる一族~』(2018年~)……これら人気作には、スーパーリッチな人々を皮肉に描くダークコメディという共通点がある。リーマンショック以降、世界各国で増幅していった経済格差問題、および超富裕層に対するフラストレーションに応えるグローバルヒットと考えられるが、今回紹介する『EXIT』は、さらにその先の「リアル」を描く。

© Ingeborg Klyve

『EXIT』の主人公は、30~40代にして「ノルウェー経済の未来を担う男たち」と報じられる金融エリート男性4人組だ。株主仲買人として富を増やし続ける彼らのライフスタイルはまさに華麗で、視聴者にとっては鑑賞のしやすさにつながっている。パーティーファッションや高級車も眼福ものだが、なかでも、北欧ラグジュアリーならではなのは、陽光が注ぐガラス張り建築、洗練されたインテリアだろう。もう一つ、この作品らしさとしては、警察の取調室すらスタイリッシュであることだろうか。

© Ingeborg Klyve

一見きらびやかな本作は、スキャンダラスな違法行為に満ちている。友情で結ばれた4人組は、妻子のいる家には寄りつかず、男同士でドラッグや買春に興じ、危険な違法行為にふけっているのだ。娼婦を集めたパーティーでは、仰向けの女性にペグをくわえさせゴルフボールを打とうとするなど、危険な暴力行為を続けている。ドラッグ依存であることもはたらいて「外」の世界ですら蛮行を繰り返す。公園で放尿をした際に視線を向けてきたカップル男女の両方を殴打したり、家族単位で集ったパーティーで「美人な妻を持つ知人」に嫉妬し殴り倒して湖にけり落とすなど、暴力衝動をおさえられていない。

ここまで過激なドラマが国民的ヒットしたとは驚きだが、それこそ、人気の鍵だった。なんと『EXIT』は、物語の70%がノンフィクションとされているのだ。つまり、閉ざされたリッチコミュニティの「リアル」を垣間見られる、ドキュメンタリー的魅力もあるコメディなのである。

シーズン1のベースになっているのは、2017年に行われたノルウェーの株主仲買人の匿名取材だ。たとえば、主人公の一人であるアダムは、妊娠のために4年間はげんでいる妻に対して、パイプカット(精管切除)していることを秘密にしている。オイスタイン・カールセン監督いわく、このエピソードも実話だという。

© Ingeborg Klyve

金融界の「聖職者」像を求められながら不道徳な行為に依存する男性たちが求めるものは「EXIT(出口)」、つまり逃げ場

「北欧版『ウルフ・オブ・ウォールストリート』」と謳われた本作の先進性は、いまや世界的な「市民の仇敵」とされるインモラルな富裕層男性たちが、なぜそこまで堕落したのかを描くことにある。その答えが題名「EXIT」だ。作中、メディア取材に答える主人公の一人は、価値観が多様化した現代社会において金銭こそ人類の信仰であり、大金を稼ぐ自分は「聖職者」だと驕る。しかし、その語りはこう続くのだ。

「俺は崇拝の対象なんだ くだらないね だって俺自身は汚れてる 普通の汚れた男だ」

取材ベースを打ち出す作品なだけあり、現実のビジネス事情も取り込んでいる。ただでさえ激務におわれる主人公たちだが、職種がさらなる悪循環を生み出しているのだ。株式売買を仲介するブローカーは「知識より外見」といった「信頼」が第一と語られる。上客を増やして稼いでいくために重要なのは、家族を含めた「社会規範から逸脱しない品行方正なイメージ」の徹底だ。彼らが属するリッチなコミュニティでは即座に噂が回るため、世間体の維持に気を張らなければならない。

金融界の「聖職者」像を求められるプレッシャーを背負いながら不道徳な行為に依存するエリート男性たちが求めるものは「EXIT(出口)」、つまり逃げ場なのだ。主人公4人はおおむね豊かな出自だが、機能不全家庭に育ったトラウマを持っており、なかには希死念慮に苛まれる者もいる。仕事を理由に妻子を放置する彼らは、男友達との過激な遊興で「本当の自分」にかえる体感を得ていく。しかし充足感は長く続かないから、立場の弱い娼婦に暴力を振るったあと「自分はこんな男じゃなかった」と嘆くのである。経済的な時事性で注目される『EXIT』だが、ジェンダー面では「トキシック・マスキュリニティ(他者のみならず自身をも蝕む男性らしさ)」の深層を描く作品とも言えるだろう。

監督が言うところの「他者を売買できる商品として扱う」(*3)主人公たちが肯定されるシリーズというわけではない。取材量が増えたシーズン2では、よりグローバルな金融犯罪を扱いながら、主人公たちに虐げられてきた女性の反乱がヒートアップしていく。ノルウェーは厳しい金融規制で知られるが、それでも近年は、反金融業界を打ち出す政党の支持率が上昇していると報告されている。そのため、シーズン2では「やりたい放題な男性ブローカー」を有罪にせんとする復讐劇に熱狂する視聴者が多かったそうだ。

© Ingeborg Klyve

現地テレビ局は、同作のような「社会問題の発信に効果的」なテレビドラマへの投資を増やしていくと発表

北欧文化ファンにとっては、現代ノルウェー社会の問題について学べる作品でもあるだろう。たとえば、作中のリッチコミュニティは白人ばかりである。主人公たちが接する有色人種は、移民が多いハウスキーパーやセックスワーカーに偏る。さらに「(肉体労働者に多い)東欧系はヨーロッパの馬車馬」だとする欧州間差別も飛び出す。

『EXIT』を制作した公共テレビ局、NRK1(ノルウェー放送協会)は、同作のような「社会問題の発信に効果的」なテレビドラマへの投資を増やしていくと発表している。北欧ドラマといえば、日本ではサスペンスジャンルが有名だが、ノルウェー現地ではドキュメンタリー調フィクションも評判のようだ。Viaplay作品ではないが、6月にWOWOWで放送される北欧サスペンス『ハント・フォー・キラー 狂気の呼び声』も、実話ベースの人気作だという。

『EXIT』が国民的ヒットを遂げたのは、視聴者が能動的に作品を選ぶストリーミングでのリリースを志向していたためテレビ放送に向かない内容(*4)を盛り込めたところが大きいという。ともなると、グローバル配信を軸とする「新時代の北欧ドラマ」とは、多様で斬新なクリエーションの発露ではなかろうか。北欧最大の配信サービスのコンテンツを提供する「Viaplayセレクション」では、まだまだ刺激的なラインナップが待ち受けているはずだ。

(*1)Nordvision「36 percent of the entire Norwegian population watched the first season.
In a country of just 5.4 million people, this is a viewing figure of Olympian proportions.」より(外部サイトを見る

(*2)Nordvision「The wealthy, immoral and politically incorrect protagonists in N12 series Exit have a broad appeal and capture a youth audience.」より(外部サイトを見る

(*3)Teller Report「These people treat others as goods that you can buy and sell, says Øystein Karlsen.」より(外部サイトを見る

(*4)Nordvision「Managers at NRK have been very clear in saying: ‘Our emphasis will now be on TV drama, and we are prepared to invest in that.’ TV drama is no less important than discussing society and news stories. They’ve said, ‘This is what we want to do’ and doubled the budget.」より(外部サイトを見る

(*5)Nordvision「If we had broadcast Exit on a linear schedule on primetime TV, it’s guaranteed we would’ve received a lot of complaints. When people stream and actively choose what they want to watch themselves, we never get complaints, not a single one. Quite the opposite.」より(外部サイトを見る

サービス情報
WOWOW 「Viaplayセレクション」

北欧から世界へ拡大中の配信サービス「Viaplay」のラインナップから厳選したドラマをWOWOWオンデマンドで年間200本以上独占配信。

作品情報
北欧ダークコメディ『EXIT』[R15+指定相当]

WOWOWオンデマンドで配信中[無料トライアル実施中]

© 2021 FREMANTLEMEDIA LIMITED. All rights reserved.

北欧ダークコメディ『EXIT2』[R15+指定相当]

WOWOWオンデマンドで配信中[無料トライアル実施中]

© 2021 FREMANTLEMEDIA LIMITED. All rights reserved.



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

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かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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