菊地成孔の北欧美食巡り総括 タコツボ化した東京の食事情を問う

菊地成孔の北欧美食巡り総括 タコツボ化した東京の食事情を問う

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:三宅詩朗 編集:川浦慧、野村由芽

東京は、もう世界一の「食都」なんですよ。じゃあ、東京の人はみんなグルメになったかというと、なんないんだよね。

—今回の一連の取材を通じて、菊地さんは、外国の「食」に関して、非常に好奇心旺盛な印象を受けましたが、その感性はどのように培われてきたのでしょう?

菊地:実家が飲食店で、父親が僕に店を継がせようとしたから、子どもの頃から英才教育で、いろんなものを食べさせられたんですよね。フランス料理、イタリア料理は、僕が子どもの頃は、ろくなものがなかったですよ(笑)。ピザもひどいものだったし、パスタなんてアルデンテという言葉もなかった頃なので。

ただその分、いろんなものが混じっていたというか、要は居酒屋みたいなもんで、ルイベもあるけど辛子蓮根もあるみたいな。そういう意味で、昔の外国料理屋は、結構豊かだったと思うんです。もちろん、いい加減だったりしたんだけど、ある種、牧歌的な時代に、僕はインターナショナリズムというか、いろんなものを経験してきたんですよね。

菊地成孔

—小さい頃から、いろいろな国の料理を、分け隔てなく味わってきたと。

菊地:うん。それは音楽も同じで、僕は聴く音楽に関しては、もうまったくジャンルレスなんです。世界中の民族音楽を聴きますし、ヒップホップなんて、世界中にありますから。カンボジアにだってあるし、アフリカにだってある。だけど、みんな聴かないよね。アメリカのヒットチャートがあればいいとか、日本のものがあればいいとか、自分の好きなアイドルだけ追っ掛けますっていうふうに、ある種のタコツボ化が起こっていて。

—好きなものしか追い掛けない?

菊地:そう。つまり、選べ過ぎちゃうから、もう面倒くさいんだよね。そういう意味で、「食」に関していまの東京は、ある種「甘美な地獄」っていうか……何でも東京が世界でいちばんうまいから。これはミシュランのヨイショではなく、ホントにうまいの。だって、セブン-イレブンがもううまいわけで(笑)。

でも、それは一種の地獄でもあって。学校行ったら、クラスの女子が全員可愛い……なんて、ある意味地獄じゃないですか(笑)。ある程度、凸凹があるなかで、あの子が可愛いと思えるのが、やっぱり嬉しいわけで、誰に声を掛けようと、もう全員可愛いっていうんじゃ、生きている甲斐がないというか、ダイナミズムが消えちゃうんだよね。

菊地成孔

—それが理想と思いきや、いざ現実になると、ちょっとした悪夢だったという(笑)。

菊地:東京っていうのは、もう世界一の「食都」なんですよ。じゃあ、東京の人はみんなグルメになったかっていうと、なんないんだよね。ラーメン屋が、すごい流行っちゃったりして。

ラーメン屋に入ることに文句があるわけじゃないですけど、それって結局、クラスの女子が全員可愛い過ぎて、近所にちょっと特殊な女子高があったら、そこばっか行っちゃうようなことだと思うんですよ(笑)。みんな可愛くて、もう誰と遊んでいいかわからない。で、近所にはラーメン女子高っていうのがあって、うまいし、いろんなやつがいて、ヘタすると自分の好みじゃないのもいるから、選ぶ喜びがあるっていう(笑)。

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連載『菊地成孔の北欧料理店巡り』

2003年に発表した『スペインの宇宙食』において、その聴覚のみならず、味覚・嗅覚の卓越した感受性を世に知らしめたジャズミュージシャン、文筆家の菊地成孔。歓楽街の料亭に生まれ、美食の快楽を知る書き手が、未開拓の「北欧料理」を堪能し、言葉に変えて連載形式でお届けします。

プロフィール

菊地成孔(きくち なるよし)

1963年生まれの音楽家 / 文筆家 / 大学講師。音楽家としてはソングライティング / アレンジ / バンドリーダー / プロデュースをこなすサキソフォン奏者 / シンガー / キーボーディスト / ラッパーであり、文筆家としてはエッセイストであり、音楽批評、映画批評、モード批評、格闘技批評を執筆。ラジオパーソナリティやDJ、テレビ番組等々の出演も多数。2013年、個人事務所株式会社ビュロー菊地を設立。

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