探検家・角幡唯介とグリーンランド。土地と暮らしの無限の広がり

探検家・角幡唯介とグリーンランド。土地と暮らしの無限の広がり

2021/12/24
インタビュー・テキスト
山田卓立
撮影:山田英博 編集:矢澤拓

例年幸福度ランキング上位に名を連ね、北欧デザインや先進的なテクノロジーが生み出される地、北欧。

そのなかでもとりわけ異彩を放つ、極北の地・デンマーク領グリーンランド。世界最大の島で、大部分が北極圏に属し、80%は氷床と万年雪に覆われている。

この過酷な大地で、旅をする男がいる。極地探検家・角幡唯介だ。角幡は、2016年に「白夜」と正反対の、まったく太陽が出ない「極夜」を、グリーンランドから北極圏まで、4か月に渡り徒歩で旅する「極夜行」を遂行した。旅を終えて以降は、グリーンランドの小さな村に拠点をおき、目的地を目指すような旅ではなく、犬ゾリを使い、狩猟を行ないながら、イヌイットの文化圏で旅をしている。

「極夜行」で得た境地と、現在の狩猟を行ないながら続ける旅のスタイルへの変化。そこに生じた思いとはなんだったのか。角幡への取材は、私たちが忙しない日々のなかで忘れてしまいがちな「暮らし」への大切な視点を思い出させてくれた。

<b>角幡唯介(かくはた ゆうすけ)</b><br>1976年、北海道芦別市生まれ。探検家・作家。長いあいだ「謎の峡谷」と呼ばれていたチベット、ヤル・ツアンポー探検を描いた『空白の五マイル』(集英社)で2010年に開高健ノンフィクション賞、2011年に大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞した。そのほか、『雪男は向こうからやって来た』(集英社 / 新田次郎文学賞)、『アグルーカの行方』(集英社 / 講談社ノンフィクション賞)、『極夜行』(文藝春秋 / Yahoo!ニュース 本屋大賞2018年ノンフィクション本大賞、大佛次郎賞)など著書多数。
角幡唯介(かくはた ゆうすけ)
1976年、北海道芦別市生まれ。探検家・作家。長いあいだ「謎の峡谷」と呼ばれていたチベット、ヤル・ツアンポー探検を描いた『空白の五マイル』(集英社)で2010年に開高健ノンフィクション賞、2011年に大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞した。そのほか、『雪男は向こうからやって来た』(集英社 / 新田次郎文学賞)、『アグルーカの行方』(集英社 / 講談社ノンフィクション賞)、『極夜行』(文藝春秋 / Yahoo!ニュース 本屋大賞2018年ノンフィクション本大賞、大佛次郎賞)など著書多数。

北欧デンマークの一部でもある、極北グリーンランド。自給自足で生きるイヌイット

―これまで極北への旅の中継地として、デンマーク・コペンハーゲンには何度も訪れていると思いますが、北欧にはどんな印象を持ってらっしゃいますか?

角幡:北欧といっても、ぼくが主に滞在しているのはグリーンランド(デンマーク領)のイヌイット社会です。コペンハーゲンには、極北地域へのトランジットとして数泊することが多く、旅の準備としてアウトドアショップで不足している装備を補充したり、旅先の地図を購入したりしています。

世間一般にいわれる「北欧」のイメージがぼくにはよくわからないのですが、アジア諸国のような、発展途上のパワフルさとは対照的な、物静かでシックな、成熟した印象です。

角幡唯介

―角幡さんが旅を続けているグリーンランドの印象はいかがでしょうか。

角幡:まずは人種からデンマーク本土とは違いますね。イヌイットはモンゴロイドで、顔立ちは日本人に非常によく似ています。

グリーンランドはもともとデンマークの植民地で、現在はデンマーク領として通貨にデンマーク・クローネが使われていたり、警察や役所はグリーンランドが自治を進めていたりしますが、現地で生活しているのは、多くが先住民系です。

狩猟民族ですから自給自足で生活し、その暮らしや文化に誇りを持っていると感じます。イヌイット文化は、カナダやアラスカまで広がっていますが、アザラシやセイウチを獲ったり、犬ゾリを使ったりして生活している、伝統的な狩猟民族としてのイヌイットは、グリーンランドに住む一部にかろうじて残っているだけといわれています。

写真:角幡唯介
写真:角幡唯介
写真:角幡唯介
写真:角幡唯介

デンマークの先進的な文化に触れ、変化していくイヌイットの暮らし

―彼らと本土のデンマーク人たちは、どんな関係性なのでしょうか。

角幡:グリーンランドでぼくが接するデンマーク人は、警察や役所の人たちが多いですね。彼らはデンマーク語と英語しか話せないから、地元の人と話すのに通訳が必要なくらいです。ぼくがたどたどしくも現地語でコミュニケーションを取っていると、「犬ゾリにも乗るし、言葉も話せるのか、クレイジーだな!」と言われます(笑)。

グリーンランドには、警察や役人だけでなく、デンマーク本土から学校の先生が赴任してくることがあるのですが、馴染めていないことが多いみたいです。

実際に、グリーンランドのイヌイット社会に赴任した教師の話は映画(『北の果ての小さな村で』 / 2019年公開)になっていて、作品ではその教師がイヌイットたちの文化に魅せられていって、そこで生活していく道を選ぶ、というストーリーでした。

映画『北の果ての小さな村で』予告編

角幡:でも、イヌイットと話していて、デンマーク人のことはほとんど話題に上がらないし、彼らは彼らの文化に誇りを持っているから、いわゆる「北欧的な暮らし」とは別世界にいます。

犬たちと暮らして、獲ったアザラシやセイウチを氷の上で開腹するような生活をしてきたわけだから、どこかに勤めて、キャリアを築いて……というような、賃金労働で成り立っている社会とはまったく違う世界なんです。

写真:角幡唯介
写真:角幡唯介

―イヌイットたちも都会の先進的な文化に触れて、生活が変わっていっているのではないかと想像します。北欧諸国には手厚い福祉制度がありますが、その恩恵を受けているのでしょうか。

角幡:デンマークの福祉制度でどこまでイヌイットの生活が保護されているのか、詳しいことはわかりませんが、それが結果的に狩猟文化を衰退させているのは間違いないと思います。

自給自足をしながら毛皮を現金や商品と交換していたのが、過剰に保護されてしまうと、これまでのように狩りや釣りをしたり、犬ゾリで白熊を獲るために旅をしたりする必要性が薄れてしまいます。

私が接している村人も、生活が楽になってどんどん太ってきています。狩猟をしなくなっても、アザラシなど高カロリーな脂たっぷりの食文化を続けていたらそうなりますよね。

角幡唯介
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書籍情報

『狩りの思考法』

2021年10月29日(金)発売
著者:角幡唯介
価格:1,760円(税込)
発行:アサヒ・エコ・ブックス

『極夜行』(文庫)

2021年10月6日(水)発売
著者:角幡唯介
価格:880円(税込)
発行:文春文庫

『そこにある山 結婚と冒険について』

2020年10月21日(水)発売
著者:角幡唯介
価格:1,540円(税込)
発行:中央公論新社

プロフィール

角幡唯介(かくはた ゆうすけ)

1976年、北海道芦別市生まれ。探検家・作家。早稲田大学政治経済学部卒、同大学探検部OB。2003年大学卒業後、朝日新聞社に入社するも、2008年に退社。長いあいだ「謎の峡谷」と呼ばれていたチベット、ヤル・ツアンポー探検を描いた『空白の五マイル』(集英社)で2010年に開高健ノンフィクション賞、11年に大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞した。そのほか、『雪男は向こうからやって来た』(集英社 / 新田次郎文学賞)、『アグルーカの行方』(集英社 / 講談社ノンフィクション賞)、『極夜行』(文藝春秋 / Yahoo!ニュース 本屋大賞2018年ノンフィクション本大賞、大佛次郎賞)など著書多数。

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