AAAMYYYが映画から学ぶ、個人への想像力が争いなき世界へ導く

AAAMYYYが映画から学ぶ、個人への想像力が争いなき世界へ導く

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AAAMYYY
編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

「どうしたら人間は平和に共存していけるのか」という問いへの、ひとつの答えを映画に見出す

『幸せなひとりぼっち』で、規律に従順であるにも関わらず降り注ぐ不条理を経て孤独となったオーベは、近所の規律を守ることでその不条理から自己を隔離し、平穏な家で亡き妻との美しい思い出に浸ることを選んだ。<運命とは人の愚行の積み重ねだ>という彼のセリフがある。それはオーベ自身の愚行ではなく、他者の愚行によって彼自身の運命が決められていくという意味である。

オーベが経験した不条理とは、彼が「白シャツ」と比喩する人々による「正義」の振りかざしにある。「白シャツ」とは、会社というひとつの力を背負いながら、人々の善悪概念を巧みに操り、愚行をも巧みに善として罷り通らせる人々のことだ。その「白シャツ」によってオーベは何度も人生を踏みにじられてきたし、だからこそ孤独で叱言の多い変質者と周りに呼ばれるような老人となってしまったのである。

『幸せなひとりぼっち』場面写真 / ©Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.
『幸せなひとりぼっち』場面写真 / ©Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.

脳科学者の中村信子著『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム、2020年)の序章に「他人に正義の制裁を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質であるドーパミンが放出される」とある。私はこれはオーベに当てはまるのではないかとも考える。近所の住人に執拗に注意喚起することで彼自身の精神は保たれていたのかも知れないし、不条理から自分を救うために、オーベ自身が正義を貫くことで平然と生きていくことができたのかも知れない。

パルヴァネ一家はオーベから何度も厳しく怒られながらも、自分の非を認めつつ前向きに、周囲を思いやりながら過ごしていた。近所の人々がオーベを変人と呼ぼうとも、彼女はオーベをひとりの人間として向き合い、共存を試みた。彼女は少しずつオーベに歩み寄り、彼の頑なな心を溶かしていったのだが、パルヴァネの行動が私がこのコラムの最初に述べた「どうしたら人間は争いをせず平和に共存していけるのか」という問いへの、ひとつの解答なのではないかと考える。それは彼女が持ち合わせていた、「非を認める」こと、「想像力」、そして「優しさ」ではなかろうか。

『幸せなひとりぼっち』場面写真 / ©Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.
『幸せなひとりぼっち』場面写真 / ©Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.
『幸せなひとりぼっち』場面写真 / ©Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.
『幸せなひとりぼっち』場面写真 / ©Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.

二次元で見る相手が、三次元に生きる人間であると想像すること

昨今ではご近所同士のコミュニケーションは、地方の小さな市町村では未だあるものの、都市ではもはやほとんど見かけない。テクノロジーの目まぐるしい発達で、誰もが画面越しの仮想現実に没入し、そこで不特定多数との友好関係の確立や対人交流、仕事までもがスムーズにできてしまう。

文字列やデータによって表現されるすべてのものに「暗黙のルール」とでも呼ぶべき規律が発生し、誰もが発信可能な二次元の世界は、矛盾するようだが、無法地帯化している。仮想現実と現実の差も、もはやあってないに等しく思える。画面越しに悪口を書いた、どこの誰だか知らない他者。三次元世界にその人物の実体があって、息をし生きていると想像することすらもやめてしまった。そして、想像をやめてしまったという非を認めることも、やめたのである。そんな我々が二次元で巻き起こす正義論争の意義は一体何なのであろうか。

撮影:AAAMYYY
撮影:AAAMYYY

このご時世、凶悪犯罪や悲しい事件が増えているが故に、誰もが警戒し、誰かを常に疑ってかからなくてはならないのもわかるし、その中で他者に想像力を持ち、優しく接することはすごく難しいことだ。

しかし、我々すべての人間が善にも悪にもなりうるということを忘れてはならないと強く思う。日常に巻き起こるすべてのことには必ず原因があって、正義らしき概念の上に立つ規律が生む不条理があることを、想像しなければ何も変わらないのである。だから一度、当たり前とするすべてが本当に正しいのかどうか熟考し、違和感があるのならばその非を認めるのも間違ってはいないはずだ。そして我々が他に対して想像力を持ち、温厚に物事を見ることができれば、負の連鎖はどこかで止まるのではなかろうか。

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作品情報

『幸せなひとりぼっち』
『幸せなひとりぼっち』

監督・脚本:ハンネス・ホルム
出演:ロルフ・ラスゴード

プロフィール

AAAMYYY
AAAMYYY(えいみー)

長野出身のシンガーソングライター / トラックメイカー。キャビンアテンダントをめざしてカナダへ留学、帰国後の22歳より音楽を制作しはじめ、2017年よりAAAMYYYとして活動を開始。2017年の『WEEKEND EP』を皮切りに、『MABOROSI EP』『ETCETRA EP』と3作品をカセットテープと配信でリリースしている。さらに、RyohuのゲストボーカルやTENDREのサポートシンセ、DAOKOへの楽曲提供やCMソングの歌唱、モデル、ラジオMCなど多方面に携わるなか、2018年6月からはTempalayに正式加入。2019年2月、ソロとしての1stアルバム『BODY』をリリースした。

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