北欧には、古くから数多くのメタルバンドが存在している。たとえばスウェーデンのBATHORYやノルウェーのEMPERORは、1980年代後半~1990年代初頭に登場し現在の北欧メタルシーンを牽引してきた双璧。そこから派生し、あるいは間接的に影響を受けながら誕生したメタルバンドは、様々なサブジャンルへと枝分かれし細分化しながら、独自のスタイルを築き上げてきた。
今回紹介するKORPIKLAANI(コルピクラーニ)は、フィンランド神話をベースに民族音楽とメタルを融合したサウンドによって、「フォークメタル / ヴァイキングメタル」、あるいは「森メタル」とカテゴライズされているバンドである。日本では、そのユニークな響きのバンド名やどこか牧歌的な聴き心地もある音楽性から「酒場で格闘ドンジャラホイ」「慌てんぼうのポルカ」「神風北欧隊」など、原題からは全くかけ離れたキテレツな曲名がつけられ、メタルファン以外にも広く認知されている。
このたび、6年ぶりの来日公演を敢行したKORPIKLAANI。リーダーのヨンネ・ヤルヴェラとツォーマス・ロウナカリの二人に、なぜ北欧ではメタルバンドが数多く輩出されるのか、メタルと北欧のライフスタイルや精神性との関わりはどのようなものか訊いた。また、せっかくなので日本語タイトルについてどんな感想を持っているのかも尋ねてみた。
北欧の気候を想像してみなよ。あんな寒いところでレゲエなんてやる気にならないだろ?(笑)(ヨンネ)
―フィンランドに限らず北欧には、数多くのメタルバンドが存在していますよね。Fikaでは、北欧メタルに関する考察記事(コラム:なぜメタルは北欧で大量に輩出されるのか?この20年を振り返る)も掲載したのですが、当事者から見て、その理由はなぜだと思いますか?
ヨンネ(Vo,Gt):北欧の気候を想像してみなよ。あんな寒いところでレゲエなんてやる気にならないだろ?(笑) 冬が長くて陰鬱とした気候だから、ダークな音楽をやりたくなるんじゃないかな。
ツォーマス(Violin):フィンランドには、独りで長い時間を過ごす人が大勢いるんだよ。だから良質なミュージシャンが多いのかもしれない。練習時間もたっぷりあるし、楽器と過ごす時間が長いぶん、上達も早いんだよ(笑)。隣の家との間隔が広いのも大きいかもな。ギターのカッレ(・サヴィヤルヴィ)の家なんて、隣が見えないくらい離れているから音も出しやすかったみたいだよ。
―なるほど。「北欧は日照時間が少なく、外で遊ぶ時間が少ないから、地下にこもってギターの練習ばかりしている」などと、まことしやかに言われてましたが本当だったんですね(笑)。それから北欧の人は、「クラフトマンシップ」が高いというか、職人気質の人が多いと聞いたんですけど、それもやっぱり同じような理由でしょうか?
ヨンネ:うん、そう思うよ。
―ノルウェーやスウェーデンのメタルと、フィンランドのそれには細かい違いなどあります?
ヨンネ:同じスカンジナビアのメタルとして共通点も多いけど、フィンランドのほうがよりメランコリックかな。KORPIKLAANIも結構マイナーコードを使うし、メロディーラインもちょっと長めだと思うね。
―気候はほとんど変わらないはずなのに、どうしてフィンランドのほうがメランコリックなサウンドになるんでしょうね?
ヨンネ:俺たちは他のどの北欧の国に比べても、お金がないんだ(笑)。それも大きいかな。ぶっちゃけノルウェーが一番お金を持ってるんじゃないの?
ツォーマス:間違いないね(笑)。
「女性を排除する」という発想自体あり得ないんだよね。(ツォーマス)
― やはり同じ北欧でも違うのでしょうか?
ツォーマス:文化的にも経済的にもノルウェーは豊かだよ。フィンランドは貧しい時期が長かったから共働きの生活スタイルも当たり前で、男女とも同じくらい働く。女性が働かなかった時代なんてないんだ。
ずっと一緒に働いてきたから、「女性を排除する」という発想自体あり得ないんだよね。社会のなかで、非常に活動的な役割を女性が担ってきた。それにドイツ人やスウェーデン人みたいに金持ちになれるなんて、思ったことすらないんだ。
―スウェーデンには、若い人たちがバンド活動しやすいよう国が支援する制度があると聞いたのですが、フィンランドにも似たような制度ってあります?
ツォーマス:ないね。一度だけ、アメリカツアーへ出かけたときに国の支援を受けたくらいかな。思うに、スウェーデンとフィンランドの大きな違いは、政府が音楽に対して理解を持っていて、ジャンルにこだわらず「ビジネスの一部」として捉えていることなんじゃないかな。
フィンランドでは、芸術にサポートなんかしていたら国がやっていけなくなってしまう。たとえば交響楽団への資金援助なんてフィンランドでは不可能なんだよ。ましてや俺たちみたいなバンドに、そういう援助を受ける機会なんてない。実は、今年は政府が文化に資金援助をする最後の年なんだよね。今後、国が支援として使えるお金から0.8%しか文化支援に使えないことにもなっている。
ヨンネ:芸術に関するものすべてで0.8%なんだ。フィンランドの場合、多くのお金はギャンブルから入ってくる。国がカジノなど、ギャンブルの施設を所有しているからね。だから政府の支援も、カジノ業界にいくことが多いんだ。そこが面白い場所なのかどうかは、俺にはわからないけどね。
フィンランドには伝統的な形式のポエトリー(詩)が世界で一番多く残っているんだよ。(ツォーマス)
―KORPIKLAANIの音楽は、フィンランド神話をベースに民族音楽とメタルを融合した、非常にユニークなものですよね。そもそも、こうしたサウンドを目指した経緯は?
ヨンネ:ごく自然な流れだったんだよ。俺は民族音楽もメタルも好きだったから、好きなものを組み合わせてみたっていうだけ。音楽活動をはじめた頃は民族音楽しかやってなかったんだけど、2003年にバンド名をKORPIKLAANIにして、メタルを融合させたら一気に反響が大きくなって。2005年にはヨーロッパ中をツアーするようになるくらい、最初から評判は上々だった。ツアー三昧の生活になってからはもう、かれこれ8年近く経つね。
ツォーマス:このバンドには様々な側面がある。みんなで楽しむような曲もあれば、もっとダークでディープな曲もあるからね。伝統音楽でいうと、フィンランドには伝統的な形式のポエトリー(詩)があるんだ。独特の言語を用いて昔の神話を伝える「口承文化」だね。それがフィンランドには世界で一番多く残っているんだよ。
ツォーマス:KORPIKLAANIの音楽にも、そうした形式のポエトリーを用いた曲があって、歌詞の一部は既存のポエトリーから直接引用もしている。もちろん、フィンランドの古代語を使って自分たちで書き下ろした曲もあるよ。だから俺たちの歌詞は、同じフィンランド人でも理解できないことがあるんだよね。歴史をたどってじっくり考えないと、理解できない部分がある。実はポエトリーとしては非常にハイレベルなことをやっているんだ。
―知的好奇心をくすぐる音楽なのですね。実際のところ、フィンランド神話というのは今のフィンランド人に、どのくらい浸透しているのでしょうか。
ツォーマス:『カレワラ(kalevala)』って知ってる? 今話したような口承説話をまとめたフィンランドの国民的な民族叙情詩なのだけど、それは一般常識となっているね。細かいところや正確なところまではわからなくても、誰もがその存在を知っているし、『カレワラ』に登場する人物や神々の名前、役割、キャラクターについては理解しているはずだよ。
フィンランドは森だらけで、それが普通のこと。(ヨンネ)
―ギリシャ神話やローマ神話のようなフィンランドの叙情詩を、メタルに落とし込んでいると。KORPIKLAANIはマイクスタンドに鹿のツノを取り付けてパフォーマンスしたりしていますが、それも神話やポエトリーに由来したものなのですか?
ヨンネ:あれは単にクールだと思ってやってただけ(笑)。鹿はフィンランドでもっともありふれた動物だし、鹿の飾りものが普通に家にあるんだよ。そういう意味ではまあ、フィンランドを象徴するアイテムともいえるね。でもあの角、チリで失くしてしまったんだよね。ああいうの持ち込んじゃいけない国だったみたいでさ、税関で没収されちゃったんだ……。
―それは残念ですね……。鹿の角を飾ったりするのって、「バック・トゥ・ネイチャー」的な思想も関係しているのかなと思ったんですけど、どうですか?
ヨンネ:個人的には全くその通りだと思うよ。「バック・トゥ・ネイチャー」的な考え方は、KORPIKLAANI独自の歌詞を作るためにもすごく重要だと思っている。というかフィンランドは森だらけで、自然があるのが普通のことだしね。
ツォーマス:そう。フィンランドは決して「都会の文化」じゃないからね。ほとんどのフィンランド人はサウナハウスやコテージを持っているんだけど、冬の間に働いて金を貯めて、夏が来るとみんな自然に囲まれたコテージへと移動しそこで過ごすんだよ。みんなサウナハウスにエスケープして働かないから、7月は事実上の休業状態(笑)。
―それって最高ですね。
ツォーマス:羨ましいだろ?(笑)
ヨンネ:俺も、自由な時間があれば家族と一緒に自然のなかでくつろぐ。自然と触れ合うことで充電するんだ。テニスをすることもあるかな(笑)。
フィンランドでもメタルは取り残されたカルチャーのひとつなんだ。(ツォーマス)
―フィンランドは「メタル大国」というイメージがあります。ある調査によると、フィンランドは人口10万人あたりのメタルバンド数が世界で一番多いそうですが、どのくらい市民権を得ているんでしょう。
ヨンネ:数年前はすごく人気があったよ。今じゃポップスのほうが人気で、メタルは下火になったような気がするな。とはいえチャートには常にメタルの曲がある状態。
ツォーマス:フィンランド出身のメタルバンドってたくさんいるから、海外の人は、「フィンランドへ行けば、どこでもメタルが聴ける」と思っているみたいだよね。でも実際はそうじゃない。フィンランドでもメタルは取り残されたカルチャーのひとつなんだ。
それと、面白い現象だなと思うのは、フィンランドではあまり目立たなくても、海外では人気のメタルバンドもいるし、逆にフィンランドではめちゃくちゃ人気のあるバンドが、海外では全然知られてなかったりもする。まあ、どこを拠点にライブをやっているかによって違ってくるんだろうね。海外の人が考えるほどフィンランドのメタルシーンって、活発なわけではないんだ。
―なるほど、悩ましいところですね。KORPIKLAANIはどうなんでしょう。フィンランドでのファン層は?
ヨンネ:これがさ、あらゆる世代の人が来るんだ。クールだよね。特に最近は若い人が増えた。男女比率は半々だから理想的だし、これって珍しいことなんだ。
フィンランド人が飲みすぎるとよくレスリングになるんだ(笑)。(ヨンネ)
―ちなみに日本では、KORPIKLAANIのアルバムのタイトルや曲名に、面白い邦題がついているんですけど、お二人は知っています?
ヨンネ:いや知らない。どんなの?
―たとえば、デビューアルバム『Spirit Of The Forest』の邦題は「飛び出せ!コルピクラーニ」。
ヨンネ:あはははは! いいんじゃない?
―曲名では“Wooden Pints”が「酒場で格闘ドンジャラホイ」。
ヨンネ&ツォーマス:ぎゃははは!(爆笑)
―“Crows Bring The Spring”は、日本語では「カラスと行こうよどこまでも」。
ヨンネ:お、それはいいね(笑)。
―“Hunting Song”は、「『狩り』こそ男の宿命」
ツォーマス:ふむふむ。
―“Spirit of the Forest“は、「森の中でハッスルハッスル」。
ツォーマス:ははははは!(爆笑) 「ファックしようぜ!」みたいなもんか。
―きっとKORPIKLAANIっていうバンド名の響きと音楽のユニークさをアピールするために、日本のレコード会社がそういう名前をつけたんだと思います。それもあって、日本ではメタルファン以外にも人気が出てるんですよ。
ヨンネ:いい仕事してるねえ(笑)。
―「酒場で格闘ドンジャラホイ」こと“Wooden Pints”は、ミュージックビデオも面白いですよね。和やかにみんなでご飯を食べていたかと思ったら、途中からいきなりケンカしはじめるなど、意味不明というかナンセンスというか(笑)。
ヨンネ:ケンカというよりレスリングかな(笑)。フィンランド人が飲みすぎるとよくああいうことになるんだ。
ツォーマス:昔のことわざに、「いい友達とは、一緒にダンス、歌、食事、酒、ケンカができる人のこと」みたいなのがあってね(笑)。
―この曲を聴くと、特にバイオリンのフレーズにはケルト民謡やアイルランド民謡っぽくもあるなと思ったのですが、フィンランド民謡との共通点などあるのでしょうか。
ツォーマス:ケルト、アイルランド、そしてフィンランドの民謡は、どれもペンタトニックスケール(5音で構成された音階)を多用しているよね。だからこそ普遍的なのだと思うし、それぞれが似た要素を持ち合わせているのかもしれない。演奏スタイルもそうだよね。バイオリンで、2本の弦を一度に弾くところとか。それはフィンランドでもアイルランドでも、民謡では普通に行われていることなんだ。
―ヨンネさんは、KORPIKLAANIの中心人物として15年以上活動をしています。それ以前の音楽活動を含めたらもう20年以上音楽活動をしているわけですよね。そのモチベーションはどこから出ているのか、最後にお聞かせいただけますか?
ヨンネ:俺は、バンドやメタルをやるために生まれてきたと思っている。子どもの頃からやりたいことが、はっきりしていたんだ。自分が将来、何をやることになるのかを確信していた。だからそれを全うしようと思っているだけだよ。それにもう歳だからさ、今から職を探すのも無理だしね!(笑)
- プロフィール
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- KORPIKLAANI (こるぴくらーに)
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フィンランド産ヴァイキングメタル・バンド。1999年、SHAMANというバンド名で1stアルバム『Idja』を発表、同名バンドがいることが判明し、KORPIKLAANIに改名。2004年、『Spirit of the Forest』で日本デビュー(本国発売は2003年)。北欧トラッドを基本に、バイオリンや管楽器の大胆に導入、母国語で綴られる独特なメロディーラインとアグレッシヴなメタルサウンドの融合で一躍注目を浴びた。