さらば青春の光 森田が考える「やすみ」とは?仕事と遊びの狭間で

「Fika(フィーカ)」とは、仕事や家事の合間にコーヒーを淹れて、ゆっくりひとやすみする時間のことで、スウェーデンの人々が大切にしている習慣のひとつです。「やすむこと」は、人が生きるうえでとても大切なことなのに、忙しさに追われるとつい忘れてしまう。本連載「みんなのFika時間」では、慌ただしい毎日を過ごす著名人に、休憩時間の過ごし方や「やすむこと」についてうかがいます。

第2回は、さらば青春の光 森田哲矢さんです。テレビやラジオの収録、YouTubeの撮影、そして事務所社長と、多忙な仕事の合間によく行くのは、いまも昔も「喫茶店」だと言います。また、最近ではDIYのためにホームセンターを巡ることも。個人事務所がゆえに仕事とプライベートの境目がない環境のなかで、「やすむこと」をどのように考えているのでしょうか。さらば青春の光が携わり、内装も自分たちで手がけたお店「さらばBAR」で、まさにDIY中の森田さんを訪ねました。

まわりにちょっと雑味のある喫茶店のほうが、ネタを考えやすい

―仕事の休憩時間は喫茶店などで過ごされているそうですね。よく行くのはカフェですか? 昔ながらの喫茶店ですか?

森田:どちらもありますけど、タバコが吸えればどこでもいいんです。メイド喫茶でも(笑)。収録と収録のあいだにちょっと時間が空いたら、だいたい喫茶店に行って、SNSを見たり投稿したり、番組のアンケートを書いたり、ネタを考えるために行ったりもしますね。

―まわりに誰かいる環境のほうがネタを考えやすいとか?

森田:そうですね。無の状態よりは、まわりにちょっと雑味があるほうがヒント的なものを考えやすいと思っていて。ファミレスもそうですけど、となりの人の会話が聞こえてくると、そこにヒントがないかなって聞き耳を立ててみたり。「なんでこの人、こんな言い方するんやろ」「こういうしゃべり方の人おるよな」とかからネタになったものもあります。

森田哲矢(もりた てつや)
1981年生まれ、大阪府出身。2008年に相方の東ブクロと「さらば青春の光」を結成。『第33回ABCお笑いグランプリ』(2012年)準優勝、『キングオブコント2012』準優勝など、数々の賞レースで活躍。個人事務所の株式会社ザ・森東の代表取締役社長も務める。テレビ、ラジオ、YouTubeと多数のレギュラー番組を抱える。モルック日本代表。2022年秋には初の主演映画『大阪古着日和 THE MOVIE』の公開が決定。

―喫茶店にはどれくらい滞在しているものでしょう?

森田:どうしてもその日までに考えなきゃあかんってときは5、6時間いることもありますね。迷惑でしかないですけど(笑)。

―お気に入りの喫茶店はありますか?

森田:最近でいうと恵比寿のルノアール。もともとルノアール自体が好きなんですよね。メニューがちょっと高いじゃないですか。だからルノアールに行けるようになって、大人になったなってことを感じるというか、「いま俺はこの高い空間を買っている!」という気持ちになれるので。

あとは六本木のルノアール! あそこにはちょっと変わっているお金持ちのお客さんが多くて、めちゃめちゃ楽しいです(笑)。そういう意味では六本木のルノアールが一番好きかもしれない。なんの仕事してんねんって人たちでごった返しているので、聞こえてくる会話も面白い。一般の人なのに話すネタが濃くて、そういうときに「東京ってすげーな」って思いますね。

―喫茶店にはいつ頃から行くようになりましたか?

森田:お笑いの世界に入ってからで、大阪時代はネタ書いたり時間をつぶしたりするのに喫茶店やファミレスばかり行ってましたね。最近は、やすみの日をYouTubeの撮影にまわしちゃうので、喫茶店は仕事の合間に行くことが多くなりました。

「ぼくは『自分でつくった感動』ではなくて、『出来上がったときの喜び』のほうが強い」

―その撮影は、森田さん個人のYouTubeチャンネル「五反田ガレージ」ですね。今回取材をしている「さらばBAR」をはじめ、いろいろな場所でDIYをされていますが、そもそもDIYに興味を持ったきっかけは?

森田:コロナ禍でYouTubeを見る機会が多くなって、たまたまDIYの動画を見ていたらハマって。モノが出来上がっていく様が好きで、家やガレージがつくられていくのをずっと見ちゃう。最近は「佐賀よかでしょう。」というYouTuberが山を切り開いてすごいことをやろうとしていて、それは毎日チェックしてますね。自分は大きいものが出来上がっていくのを見るのが好きってことに、YouTubeをきっかけに気づいたというか。

―DIYの魅力はどこなんでしょうね。

森田:DIYの先にあるのってハッピーエンドじゃないですか。ボロボロだったものがきれいになっておしゃれになる。失敗もあるんでしょうけど、単純にビフォーアフターを見ていると、楽しくてわくわくします。

―そこから自分も始めてみようかなと思ったわけですね。

森田:そう。ひろちゃんっていう作家(放送作家の廣川祐樹)がDIY好きだったから、ぼくがYouTubeを立ち上げて、彼にものづくりを手伝ってもらって。結果、ぼくはひろちゃんがDIYをしている横でおしゃべりしているだけなんですけど(笑)、DIYをやっている感を味わえています。

―ご自身でやらなくていいんですか?

森田:はい。ぼくのDIYの理念は、「だれがやってもいい」っていう。自分はやらなくてもいいんです。

―俗に言う「DIY(Do It Yourself)の醍醐味」と森田さんの考えは、ちょっと違うようですね(笑)。

森田:材料を選んだりするのは楽しいですよ。それこそ仕事の合間にホームセンターに行って、こんなんあんねやって。そのなかから材料を選んで、こうしたいとかを考えるのも好き。でもまあやるのは自分じゃなくていいというか。ひろちゃんに全部要望を伝えて、ぼくは出来上がっていく様子を見ている。この感覚ってなんですかね、デザイナー気質なのかな、よく言えば(笑)。

―森田さんにとってDIYのよさは? と、聞こうと思ったのですが。

森田:それでいうと、出来上がったときの嬉しさじゃないですか?(笑) ぼくは「自分でつくった感動」ではなくて、「出来上がったときの喜び」のほうが強いというか。

森田さんの仕事カバンの中身は? モルック、けん玉などの遊び道具が登場

―連載のテーマ「仕事の休憩時間」にちなみ、仕事カバンを見せてください!

森田:いいですけど、このカバンばかり使っているし、持ち物も出し入れせずにいるから……ごちゃごちゃしてますよ。とりあえず(個人事務所「ザ・森東」の)オリジナルグッズのポーチには、充電器、歯磨き、ワックスとかが入ってます。

カバンから大量のおしぼりが。「新幹線でもらえるおしぼりはどんどん溜まってしまいますね……もう今日ぜんぶ捨てます(笑)」

森田:最近持ち歩いてるけん玉は、小学校で学童クラブに通っていたときにわりとできるようになりました。技ができると楽しいですよ。あとはミニモルック(森田はフィンランド発祥のスポーツ・モルックの日本代表。参考記事:さらば青春の光・森田らが世界大会へ。「モルック」ってなんだ?)。芸能人がやりたいって言ってきたらできるように入れてます(笑)。収録の合間にもできるのがいいところ。

服の上にはおるものはカバンに必ず入ってますね。喫茶店に長くおったら寒くなるじゃないですか。そういうときにあるといいんです。ネタの小道具で一番出番が多いメガネはいつも持ち歩いてます。『有吉の壁』(日本テレビ系)とかの収録でめちゃくちゃ使うんですよ。

はおりのジャケットは古着屋で購入
「世界一周」などの技も楽々とできる腕前
コントで一番出番が多いという小道具の「おじさんメガネ」

「ほんまになにもせず1日中やすんだら、夕方くらいに今日なにやしてたんやろうって自己嫌悪になる」

―ここからは、「やすむこと」についてうかがいたいと思います。DIYや喫茶店での過ごし方を聞いていると、森田さんの休憩時間は、「ゆっくり過ごす」というより、頭や体を動かしているほうが性に合っているみたいですね。

森田:そうかもしれないですね。それか、根っからの銭ゲバ気質か。やすみすらYouTube撮影にして、お金に変えようとしているという(笑)。そもそも、じっとしているのはもったいないタイプかもしれないです。めちゃくちゃダラダラしていたいと思って、ほんまになにもせず1日中やすんだら、夕方くらいに「今日なにしてたんやろう」って自己嫌悪になる。西日が痛々しいときあるじゃないですか。「俺を照らすな」って。

―やすみたいけど、なにもしないまま終わるとモヤモヤする気持ち、わかります。

森田:自己嫌悪になるけど、それはそれで必要なのかもしれないですね。いま思ったのですが、もしかしたら、「明日、やすみだ!」って思ったそのテンションだけでもう勝ちなんじゃないかなって。結果なにもしなくても、やすみの前日にテンションが上がったんならいいじゃないかな。みんなもそのテンションのために仕事を頑張ってるんじゃないですかね。

この前まで(コロナ感染の濃厚接触者になり陰性だったが)自宅待機していて、最初のころはNetflixを見まくってたんですね。でも途中からもうやすみはええなって、ずっとこのままは嫌やなと思うようになって。人が好きだから、人と触れ合ってない時間が続くと嫌になりましたね。

―YouTube動画での森田さんは、肩肘張らずに楽しんでいるように見えます。やすみの日に撮影されることもあるんですね。

森田:「五反田ガレージ」の撮影は、仕事している感覚がないですね。遊んでいるというとあれですけど、オーバーオールを着てしゃべっていると1日が終わっていて、ほぼプライベートに近い。コンビでやっているオフィシャルチャンネルのほうが仕事している感覚はあります。まあでもそれもたかが知れていますが。

さらば青春の光「オフィシャルYouTubeチャンネル」。再生回数が100万を超える人気動画も多数

―プライベートと仕事の境目がないのは、個人事務所で活動しているいまの環境が大きいですか?

森田:それはありますね。プライベートのようなノリでやっていることもお金になるんだって感じるときはあります。個人じゃなかったらこんなプライベートとの境目なく仕事することはできないと思います。毎週劇場の出番があるわけでもなく、変なしがらみもないからこそできることというか。

いまとなってはこの環境で良かったと思いますね。良くも悪くも芸能界じゃないというか。働いている感覚はもちろんありますけど、芸能界に浸りきっていないという感覚もずっとあるから。ちょうどいいところで自由にやれているし、自分のことを「芸能人」と思っていないですしね。だからこそ、いろいろな番組でもわりと自由に発言できたりするのかもしれない。一番いいところにおるなって思いますね。でも会社として売上を上げなきゃいけないから、そこは焦りつつ頑張るというか。

「あるときから『なんとでもなるよな、人生って』と思うようになりました」

―テレビやラジオなどのマスメディアから、YouTubeなどの動画配信、そして個人事務所の社長業とフル回転で動いていて、大変とかつらいとか思ったことはないですか?

森田:「つらい」はないですね。でも、「いまの楽しい時期がいつまでいけるのかな」とは思います。この世界って水モノやから、衰退しないように頑張っているけど、ときどきふと「一生食っていけるようなお金がドンと入ってこないかな」って考えることもあります(笑)。そうなったら心にゆとりができるじゃないですか。

―その不安は、自分たちでなんとかしないといけないという個人事務所の社長だからこそ思うことかもしれないですね。番組や動画などの森田さんはいつも楽しそうで、豪快な笑い方がとても印象的です。落ち込むことはありますか?

森田:収録とかで失敗したなってときは、たまに落ち込みますよ。それでいうと反省のほうが多いかもしれないですが、あまり考えないようにしています。この仕事はこういうもんでしょって開き直ってみたり。言い方が悪いんですけど、一個ミスったとしても、「世の中に何個の番組があんねん」って考えたら、まあいっかって。そう思っているほうがラクというか。

でも、失敗したときのことを思い出して、わーってなることも全然あります。嫌な出来事の記憶って突然ぽーんと戻ったりするじゃないですか。ぼくはそれを思い出すのがなぜかいつも風呂場なんですけど、そうなったら「あーあーあーあー!」って声に出して、風呂から上がったらちょっと忘れている。

―そこまで引きずらないタイプですか?

森田:引きずらないようにしてますね。なんとなく。嫌なことばかり考えていると自己嫌悪になっていくだけじゃないですか。それこそ若手のころは「俺はなんでもできる」って思っていたときもあったし、将来が不安でしかたなかったときは、「俺どこまでやんねんこの仕事」って嘆くこともあったし。

でもあるときから「なんとでもなるよな、人生って」と思うようになりました。年齢と経験を重ねたことで考え方も変わってきて、だんだん自分なんてこんなもんやからなって、俯瞰で見られるようになって。

「ぼくらの生命線はネタだから、ネタさえやっていればなんとかなる」

―それはいつのタイミングからですか?

森田:2013年に独立して、会社の売上がちょっと上がってきたときに、人生はなんとかなるんやなって感じて、結局いまもなんとかなっている。ってことは、この先もなんとでもなるんじゃないかって。

―それは大手事務所からフリーランスになって仕事がなかった時期など、「なんともならないかも」というところからの這い上がりがあったからこそ思えるんですかね。

森田:そうですね。相方のスキャンダルとかで、あー危ないなってときもなんとかなるかもって思うようになりましたね。

―そういうつらいときにこそ大事にしていたものってなんでしょうか?

森田:生命力じゃないですかね。ゴキブリ並みの生命力でなんとか這い上がってきたのかもしれないです。そういう意味では、ぼくらの生命線はネタだから、ネタさえやっていればなんとかなると思っていたかもしれない。(ネタづくりを)やめずに続けてきたのは大きかったですね。やっぱり、喫茶店のあの時間があったからこそなんですよ。って、さっきの話の伏線回収がこんな見事にできるもんなんすね(笑)。

―ほんとですね(笑)。では最後に、忙しい仕事のなかで自分らしくいるために心がけていることを教えてください。

森田:えー難しいですね……。なんやろな。ぼくってわりとすぐにテンパるんで、1日に3つの仕事があったら、1つ目のことしか考えられない。それが終わったら2つ目の仕事に向き合う。だから目先の仕事を全力で頑張るというのはあるかもしれないです。あと仕事で心がけていることでいうと、「笑うこと」かもしれないです。少し大げさにでも笑っていたほうが、周りも楽しくなるし、運も回ってくるんじゃないかなって思いますね。

プロフィール
森田哲矢 (もりた てつや)

1981年生まれ、大阪府出身。2008年に相方の東ブクロと「さらば青春の光」を結成。『第33回ABCお笑いグランプリ』(2012年)準優勝、『キングオブコント2012』準優勝など、数々の賞レースで活躍。個人事務所の株式会社ザ・森東の代表取締役社長も務める。テレビ、ラジオ、YouTubeと多数のレギュラー番組を抱える。モルック日本代表。2022年秋には初の主演映画『大阪古着日和 THE MOVIE』の公開が決定。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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