ふかわりょうが語るアイスランドと人生 臨機応変こそラクで楽しい

ふかわりょうが語るアイスランドと人生 臨機応変こそラクで楽しい

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:鈴木渉 編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

「僕が嘘をついたのではなく、君が僕に嘘をつかせたんだ」みたいな、「使役」の概念が好きなんです。

―今の羊の話もそうですし、先ほどのウイルスの話もそうですが、ふかわさんの中にある視点の置き換え、物事の多面的な考え方は、どのように培われたものなのでしょうか。

ふかわ:昔から、いろんなところに主語を置き換える癖があったんですよ。「僕が嘘をついたのではなく、君が僕に嘘をつかせたんだ」みたいな、「使役」の概念が好きなんです。それが、人間以外のものにも派生していって。窓や家、車……みたいに。そういうものに気持ちが移りやすいタイプなんですよね。

もともと持っていたそういう感覚が、アイスランドやフィンランドとは相性がいいんですよ。北欧は、主観的な目線だけでいると退屈に感じるかもしれないけど、視点をずらしていくといろんな発見がある。

―そもそも人間主体で動いていない国だから。

ふかわ:そう。それが、いい加減のお湯に浸かっているような心地よさなんです。もちろん、そんなことを常に考えながら旅をしているわけでは全くなくて、現地では常に頭が空っぽになっています。ただただ羊たちを愛でにいこうという感じ。帰国して文章に起こしたときに、ようやく自分の気持ちが分かるというか。

ふかわりょう

―ふかわさんは以前、芸能人としてデビューして10年くらい経ったときに、本来の自分とテレビのイメージとの乖離に葛藤を覚え、破裂しそうになり「ありのままの姿を見せよう」と思ってから、生き方がかなり楽になったと、どこかの番組で話していました。そのことと、海外に目を向けるようになったこととは、何かしら関連はありますか?

ふかわ:どこかで繋がっているのかもしれないですね。海外へ行くようになったから、そういう心境になったわけではないですけど、アイスランドに限らずいろんな価値観に触れることって、すごく意味のあることだと思っているので。一方的な価値観しか持てないのって、生き方をすごく限定してしまうと思うんですよ。「あ、こういう生き方もあるんだ」「こういう考え方もあるんだ」というものに出会えることは、とても心地いいことなんです。そのために一人旅をしているわけではないのですが、結果的にそういう気づきが得られるので、一人旅をすると豊かな気持ちになれるんですよね。

それに、一人旅だと自分のペースで行動できるし、ものを見たときの吸収の仕方も違う。自分でチケットを手配したり、バスの時刻を調べたり、そういう一つひとつの行動に心が動くし、些細なことでも感動できると思うんです。道に迷って人に道を聞いたりすれば、そこでのちょっとした触れ合いにも気持ちが和んだり、思い出の一つになったりもしますしね。

ボーッとする時間が必要だと思う。だからみんな、焚き火をしに行くんでしょう?

ふかわりょう

―『風とマシュマロの国』には、旅をすると脳がクリーンアップされるとも書かれていましたが、それも今おっしゃっていたことと繋がりますか?

ふかわ:脳がクリーンアップされると感じたのは、具体的にいうと旅先でスマホが繋がらなくなった状況に置かれたときですね。初めてアイスランドへ行ってスマホが繋がらなくなったときに、最初はちょっとソワソワしたけど、2日目からはむしろ気持ちが軽くなっていたんです。スマホが登場する前は当たり前だった「繋がっていない状況」が、どれだけ身軽なことなのかを改めて感じたんですよね。

もちろん不都合なこともいろいろあるのですが、それって言い換えれば、たかだか数100グラムのスマホに人間の脳や心がどれだけ支配されているということじゃないですか。「携帯」とは言うものの、心への負荷は相当重く、いくら収集しても場所を取らない情報こそ危ないものなのだなと実感したわけです。

―「デジタルデトックス」を、半ば強制的に経験したわけですね。日本にいるときも、スマホとの付き合い方など気をつけていることはありますか?

ふかわ:僕はSNSを極力やらないようにしていますね。TwitterやInstagramに投稿したとき、フォロワーからレスが返ってくるじゃないですか。あれ、負担に感じるときがあるんですよ。それがポジティブなものだとしても、人が発した言葉に一つひとつ向き合ってしまう。それを考えると「もう上げなくてもいいかな……」と思ってしまうんです。ネットを介したアクションに、あまり心を動かされたくないというか。

―人によっては、それで承認欲求が満たされ止められなくなってしまうわけじゃないですか。

ふかわ:そうか、確かに。おそらく、僕も承認欲求を満たしたいときもあると思うんですよ。でも、常にそれを求めてはいない。レスが欲しくなるのは年に数回くらいかな(笑)。人がどう思うかを気にしだすと、キリがないし、沈んでいくように思います。かつては、人がどう思っているか分からない状況だったし、その方が今考えてみるとよっぽど楽だったよなって。

ふかわりょう

ふかわ:話が横に逸れましたが、たとえば電車に乗っているときも、人と待ち合わせをしているときでもスマホをいじっている人が多いけど、頭の中を整頓し脳をクリーンアップするために、僕はボーッとする時間が必要だと思うし、意味があるからこそ昔はやっていたんじゃないのかな。だからみんな、焚き火をしに行くんでしょう? ボーッとする時間を、手間暇かけて意図的に作り出すというか。

―ソロキャンプやアナログレコードのブームもそうですけど、「手間暇をかける」ことの大切さが、昨今見直されているところはありますよね。

ふかわ:スマホを含め、テクノロジーによって面倒臭いことが排除されて。まあ、人間関係の新たな面倒臭さは生まれたのですが、基本的には効率化がどんどん進んでいったわけですよね。でも実は僕ら、効率化だけを望んでいたわけではなく、面倒臭いことも愛していた。そのことにようやく気づき、ソロキャンプだとか、アナログレコードを聴くことで取り返している側面もあるとは思いますね。

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書籍情報

『世の中と足並みがそろわない』

2020年11月17日(火)発売
著者:ふかわりょう
価格:1,485円(税込)
発行:新潮社

『風とマシュマロの国』

2012年3月29日(木)発売
著者:ふかわりょう
価格:1,760円(税込)
発行:幻戯書房

プロフィール

ふかわりょう

1974年8月19日生まれ。神奈川県横浜市出身。慶應義塾大学在学中の1994年にお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いヘアターバンを装着し「小心者克服講座」でブレイク。後の「あるあるネタ」の礎となる。「シュールの貴公子」から「いじられ芸人」を経て、現在は「バラいろダンディ」のMCや「ひるおび!」のコメンテーターを務めている。また、ROCKETMANとして全国各地のクラブでDJをする傍ら、楽曲提供やアルバムを多数リリースするなど、活動は多岐に渡っている。著書に、アイスランド旅行記『風とマシュマロの国』など。

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