龍崎翔子率いるHOTEL SHE,が楽しむ逆境 いつでも未来を切り開く

新型コロナウイルス感染症の流行とともに、大きな打撃を受けた観光・宿泊業。京都に構える「HOTEL SHE, KYOTO」など、複数の宿泊施設を営むL&G GLOBAL BUSINESSも、影響を全く受けなかった……とは言えなかった。それでも代表の龍崎翔子含むメンバーたちは、新しい選択肢を世に放つように数か月の間にさまざまなプロジェクトを立ち上げ、希望を体現してみせた。

「Fika」では、そんな彼女たちにフォーカスした記事を全2回に分けて掲載。前編では「HOTEL SHE, KYOTO」「HOTEL KUMOI」スタッフから見た世界の様子を切実に綴ってもらったが(「HOTEL SHE,スタッフらが見た世界の変化 京都と北海道の仕事と生活」)、後編となる今回は龍崎自身が見たコロナ禍と、それでも行動し続けることができたのはなぜか、という理由を振り返ってもらった。

19歳の現役大学生時に起業し、チームメンバーとともにここまで未来を切り開いてきた彼女自身が見た、会社の姿、世界の姿を綴る。

龍崎翔子が見た、京都の街と「HOTEL SHE, KYOKO」がコロナ禍に突入するまで

龍崎翔子(りゅうざき しょうこ)
2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に「petit-hotel #MELON」をはじめとし、大阪・弁天町に「HOTEL SHE, OSAKA」、北海道・層雲峡で「HOTEL KUMOI」など、全国で計5店舗をプロデュース。京都・九条にある「HOTEL SHE, KYOTO」はコンセプトを一新し、3月21日にリニューアルオープン。

2020年の3月、私が暮らしていた京都にある「HOTEL SHE, KYOTO」は連日のTV報道がにわかに信じられないほどたくさんのゲストで賑わっていた。卒業旅行のシーズンと重なっていたこともあり、一人ひとりが一生の思い出となる時間を過ごしていて、売上は昨年を大幅に超え、東京で未知の新型感染症が猛威を振るっていることは、果たして現実なのだろうかと思われる気分だった。

でも、夜の京都に繰り出せば、好立地のビジネスホテルでさえどこも漆黒で、ポツポツと灯かりのついている窓がわずかにあるばかりなのを目の当たりにして、これが夢じゃないことを実感し、足元からゾワっと寒気が込み上がってきた。3月は本来なら桜のシーズンで、どの宿もはちきれんばかりに旅行客で溢れるのが例年の光景だったのに。

京都・九条にあるホテル「HOTEL SHE, KYOTO」

やがて4月に近づくにつれて不穏な噂が出回るようになってきた。確かな筋から4月2日に東京がロックダウンするという情報が入った、だとか、交通封鎖するから今のうちに脱出しなくては、だとかまことしやかに囁かれて、まだ自由に移動できるうちに旅行しているんです、というお客様もいらっしゃったりするようになった。

そして鳴り止まぬキャンセルの電話。感染症防止対策のためのキャンセルだから、ゲストにキャンセル料を請求するのも忍びなく、とはいえホテルが無償キャンセルしないといけないという風潮にも疑問を感じていて、痛み分けじゃないけれど本来のキャンセル料の半額とご案内することになった。ありがたいことに私たちのホテルはご寛大なゲストに恵まれていて、「応援しています」「落ち着いたら泊まりに行きます」という優しい言葉をいくつもいただいた。

L&G GLOBAL BUSINESSのメンバー

「果敢に立ち向かった」のではなくて、新しい選択肢のきっかけを作っただけ

やがて、社会の荒波には逆らえず4月から全館休業。最繁忙期の4月、そしてGWが泡沫のごとく消えた。幸いなことに、私が代表を務めるL&G GLOBAL BUSINESSはホテル事業を軸としつつも、色々な事業を準備してきていて、たまたまこの時期にリリースされるものが多かったこともあり立ち止まらずにすんだ。

今振り返ると本当にたくさんのことをしたと思う。たった30人ばかりの会社でよくやった。オンラインホテル「HOTEL SOMEWHERE」や「未来に泊まれる宿泊券」、家が安全な場所だとは言えない人向けのサービスである「HOTEL SHELTER」やホテル向け感染症対策ガイドラインの策定、オンラインイマーシブシアターに、『不要不急愛好会』などのコラボアイテムのリリース、セレクトECショップ「SOCO Select」の立ち上げ。

「未来に泊まれる宿泊券」メインビジュアル

コロナショックの中で果敢に立ち向かい……みたいな言葉とともに紹介されるようになって約半年が経った。でも、正直自分の中で、コロナだからといった理由で変わったことは何もない。文字通り、何ひとつ。

もしかしたら外から見たら、矢継ぎ早に様々なプロジェクトを立ち上げて……と見えるかもしれないし、事実そうだった部分はあるけれど、本質的には私たちは何も変わらず、やるべきことをやっただけだと思う。なぜなら、私たちはホテルの会社ではなく、新しい選択肢が生まれるきっかけを作る会社だから。

「イケてるホテルがない」と思えばホテルを作り、結婚式のあり方に納得できないと思えば新しい結婚式を提案する。そうやって自分の生活や人生に足りないパーツを自らの手で作り出していき、それがやがて新しい価値観となり、市場が育ち、より多くの選択肢が生まれるきっかけをもたらすのが私たちの仕事だと思っている。

だから社会が、経済が、生活が大きく揺らいだときこそ、今までの当たり前が通用しなくなったときこそ、たくさんの仕事が私たちを待ち受けることになる。同時代的に多くの人々が直面する、新しい生活様式の中での些細な不満や不安、不便や不都合、それらを少しずつ解きほぐしていく。

必ずしもビジネスになるとは限らないのが歯がゆいところだけど、利益をたくさん生みだすために事業をしているわけじゃないので仕方ない。私は、究極的には利己的であるべきだと思っていて、「自分のために自分が本当に欲しいもの」を生み出すことが、回り回って同じような感覚を持つ多くの人のよりよい選択につながると信じてる。

予定なき不調の中でも、私たちは運命のカードをもって未来を切り開く

私たちの会社、L&G GLOBAL BUSINESSには、たったひとつだけ社訓がある。「STAY STREET」、直訳すると「ストリートに居続けろ」的な意味になるんだけれど、ここには色々な意味が込められていて、HOTEL SHE,が今のHOTEL SHE,じゃなかった時代、私たちが何も持っていなかった時代から大事にされ受け継がれ続けてきた精神性が反映されている。

そもそも今の私たちが外からどう見えているか分からないけど、元はと言えば資金もない、ノウハウもない、知名度もない、ただの19歳の女子大生とそこに人生を賭けてくれた何人かの仲間でできた会社だった。順風満帆とは程遠い。誰も何も教えてくれないし何かが思い通りになることなんてさらさらない。世界をよく観察して、自分たちの向かうべき場所にたどり着くまで、自分たちの手の中にあるカードだけで運命を切り開いてきた。

そんなバックグラウンドもあってか、私たちは逆境を愛してる。向かい風の中でこそ感じる恍惚があると思う。「STAY STREET」を因数分解した要素のひとつに、「逆境を楽しもう」というキーワードがある。これはL&Gのメンバーなら間違いなく全員の頭の中にある言葉。外部環境の変化や、予定不調和。微妙な風向きの変化を敏感に感じ取り、向かい風の中でも前進することに喜びを感じる。そんなスタンスが私たちの中に浸透していたから、折れなかったのだと思う。

昔母に聞いた、祖父に与えられた私の名前の由来。伝説上の2人の仙女の名前にちなんでいるという話。美しさを競い合っていたその2人は、毎日鏡の前でめかしこんで、機織りをろくにしなかったので神様の怒りを買い、戒めとして月に飛ばされた。月は荒涼として凍えるように寒く、仙女といえど耐えがたい環境だったのだけれど、そこでも2人は美しさを競い続けたという。

どんな逆境でも自分の本質を磨き続ける、多分そんな精神性が私の中に流れてる。

プロフィール
龍崎翔子 (りゅうざき しょうこ)

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に「petit-hotel #MELON」をはじめとし、大阪・弁天町に「HOTEL SHE, OSAKA」、北海道・層雲峡で「HOTEL KUMOI」など、全国で計5店舗をプロデュース。京都・九条にある「HOTEL SHE, KYOTO」はコンセプトを一新し、3月21日にリニューアルオープン。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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