HOTEL SHE,スタッフらが見た世界の変化 京都と北海道の仕事と生活

HOTEL SHE,スタッフらが見た世界の変化 京都と北海道の仕事と生活

編集
石澤萌(CINRA.NET編集部)

2020年のはじまり、新型コロナウイルス感染症が本格的に流行の兆しを見せてから、言うまでもなく私たちの生活は大きく変化した。外出は避け、できるだけ自宅で生活を完結させ、旅行などはもってのほか。

そうした「新しい生活様式」の定着によって危機にさらされたのが、宿泊・観光業界だ。ホテルプロデューサー龍崎翔子が代表を務め、北海道、京都、大阪、湯河原等に宿泊施設を営む「L&G GLOBAL BUSINESS」も、とてつもない大きな余波を受けたという。

しかし、彼 / 彼女たちは素早く、そして鮮やかに、「家=安全」とは言い切れない人に向けたホテル「HOTEL SHELTER」や、「未来に泊まれる宿泊券」などさまざまな手を打ってみせた。それらは、大きな見えない敵と対峙し絶望を感じていた誰かの心に、たしかな希望を届けただろう。

変化が強いられる世の中で、軸を持ちながらも柔軟でい続けることは、きっと容易いことではない。日本や世界中が迷いながら進もうともがく中で、その行動や考え方からヒントを得ることはできないだろうか?

そんな思いから、北欧カルチャーマガジンFikaでは『ホテルから見た外の世界 / 組織が作る内なる世界』として、全2回の短期コラムを連載することに。変わりゆく日常を、ホテルスタッフたちはどのように見つめていたのか。そして、会社として存続していかなければならない中で、代表である龍崎は自分たちの組織に何を思い、決断していたのだろうか。

前編となる今回は、京都の「HOTEL SHE, KYOTO」、北海道・層雲峡の「HOTEL KUMOI」のスタッフたちが筆を取り、ここ数か月の変化と気づきを綴る。

京都は一喜一憂しない / テキスト:鎌上真帆(「HOTEL SHE, KYOTO」スタッフ)

<冬はつとめて>
マンション1階のコンビニでコーヒーを買い、バスに乗り込む。朝7時前、暖かい車内でうとうとしていると、気づいたらもう降り場近くまで来ていて、イヤホンから流れていた音楽に意識を戻す。

2019年11月から始まった京都での新生活は、心の底から楽しかった。今と昔が平気な顔して共存しているような街。いつか住んでみたいと思っていたし、ずっと「HOTEL SHE, KYOTO」で働いてみたいと思っていた。

毎日がものすごいスピードで過ぎていった。冬は静かに到着し、私が仕事や生活に慣れていくのに反比例して、気温はどんどん下がっていった。思い出すのは朝食担当シフトの日、早朝バスでの通勤時間。寒さと合間ってしんと静まった京都の街に、少しだけ人の気配を感じて、私もその一部であることを嬉しく思った。透けてしまいそうな水色に優しく冷たい空気。充満する1日が始まる期待感。いつだって美しい、氷砂糖のような冬の朝だった。

<春はあけぼの>
と言いつつ、春に夜明けをみたことがない。というかそもそも、今年の春をあまりよく覚えていない。自粛前に花瓶を人から頂いたので、チューリップを買って部屋に飾ってみた。思い出すのは、本当にそれくらい。

2020年4月、京都から人がいなくなった。「Authentic」という言葉がある。「本物の」「正真正銘の」「真正の」という意味。どこかへ旅行へ行くとき、人々はそこにある本物を求めている。その土地に根付く伝統や歴史、ローカルな暮らしを体験してみたいと考える観光客は多くいる。

そんな中、近年オーバーツーリズムが問題視されていた京都では、もはや何が本物なのかわからなくなっていたように思う。観光客向けに整備されたものは、その時点でもう「作り物」なのかもしれない。地元の人は、道の途中で立ち止まって地図を確認する私のような移住者に、うんざりしていたのかもしれない。「春はあけぼの」と清少納言が綴ったその日に比べると、もしかしたら京都の街は丸ごと偽物になってしまったのかもしれない。

街から人を消したウイルスは、一時的だとしても京都を本物に戻したのだろうか。そもそも、本物の京都って何だったのだろうか。

<夏は夜>
梅雨が明け、「緊急事態宣言」が明け、湿った夏が京都にやってきた。鴨川沿いにかわいいルーフトップバーがあり、夜、友人や先輩と何回か飲みに行った。10階建てビルの屋上から京都全体を見渡すことができて、南には京都タワー、川を挟んだ西側に河原町、その裏側に真っ暗な山々。

夏は夜。京都の夜。きっとどんなときも、この街は美しかった。

人々が定義の曖昧な本物を求めようとも、そして勝手に偽物だと思ったとしても、この街の知ったことではない。素性の分からないウイルスのせいで表層の何かが変わろうとも、一喜一憂したりしない。だって今もなお、そこに残る美しいものをこの街はずっと守り続けている。例えば、明け方の淡い空の色。鴨川の草むらを飛ぶ蛍の光。ひんやりと柔らかな1日の始まり。

何となくだけど、私が京都に住むことはもうない気がした。もしあったとしても、それは随分遠くの話で、だけどそのときもこの街は姿を変えずにあり続ける。京都という街は大きな時間の中で生きている。私の人生の長さなんて、この街にしたらほんの一瞬なのだ。

<秋は夕暮れ>
2020年8月中旬、半年とちょっとの京都生活を終えて実家のある北海道に戻ってきた。秋の季節を知らないまま去るのは名残惜しいけれど、やり残しがあるということは、次にまたその場所を訪れるための口実になる。

街を囲む山と、夕暮れの空が同じ色に染まる季節。きっと「HOTEL SHE, KYOTO」は、また忙しくなるんだろうな。小さな祈りのように、今はそんなことを考えている。

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ホテル情報

「HOTEL SHE, KYOTO」
「HOTEL SHE, KYOTO」

京都の中央を貫く烏丸通のロードサイドにひっそりと佇む旅の果てのオアシス

「HOTEL KUMOI」

Vaporに包まれた北海道・上川町の秘境の温泉街・層雲峡。大雪山にひっそりと佇む温泉旅館・HOTEL KUMOIはあなたがこの街に訪れる日を待っています。

プロフィール

鎌上真帆(かまがみ まほ)

1998年、北海道生まれ北海道育ち。高校卒業後、単身渡英し秋から英国サリー大学4年生。大学では観光学・ホテル学を専攻し、業界について幅広く勉強中。大学3年時に、学校の就業体験プログラムを使い、2019年7月から2020年8月までL&Gにてフルタイムインターンとして働く。現在イギリスより就職活動中。将来は文章を書く人になりたい。

池田智哉(いけだ ともや)

L&G GLOBAL BUSINESS, Inc. HOTEL KUMOI支配人。
1991年、福井県鯖江市生まれ。JR西日本の新幹線エンジニアを経て、2018年L&Gに入社。その後、HOTEL SHE, KYOTO支配人およびリニューアルのPMを務める。2019年よりHOTEL KUMOI支配人となり、大雪山国立公園内に位置する層雲峡温泉で自然を愛でながらホテルマネジメントと地域振興に励む。

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