男女平等1位のアイスランド。「主婦の学校」の教えを監督が語る

男女平等1位のアイスランド。「主婦の学校」の教えを監督が語る

2021/10/14
テキスト
村尾康郎
編集:後藤美波

世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダーギャップ指数」で12年連続1位を記録しているアイスランド。つまり、世界でもっとも男女平等な国の首都・レイキャビクに、1942年に設立された「主婦の学校」がある。かつて、教育の機会に恵まれない女性が「よき主婦」になるため、家事一般を学ぶ「主婦の学校」は世界中にあったが、いまでは時代遅れなものとして姿を消した。

そんななか、レイキャビクの「主婦の学校」は「家政学校」と名前を変え、1997年から男女共学で運営されてきた。アイスランド全土から集まった生徒たちは学校に3か月間通い、自立して生きるために役立つ知恵や技術を学ぶという。そこでは一体どんな授業が行なわれているのか。

学校に興味を持った監督、ステファニア・トルスが、入学した生徒たちの様子を追いかけたドキュメンタリー映画が『〈主婦〉の学校』だ。これまで仕事と家事を両立させてきたトルス監督は、取材を通じて家事に対する考え方が大きく変わったという。家事を学ぶというのはどういうことなのか。監督に話を訊いた。

「女性が学校に通って料理や掃除を学ぶなんて時代錯誤だと思った」

―監督は学校の存在を知ったとき、「時代遅れなのでは?」と思われたそうですね。女性の就業率が上がったいまの時代に「主婦の学校」という名前を聞くと、監督と同じように感じる人も多いと思うのですが、監督はリサーチをしていくなかで学校に対する印象が変わったとか。どういうところに興味を持たれたのでしょうか。

トルス:以前、私は学校が建っている通りに住んでいました。そこはレイキャビクの真ん中にあって、交通量の多い、騒がしい場所なのですが、学校は古風な美しさがあって、そこだけ時が止まったような雰囲気が漂っていたんです。はじめは何の建物かわからなくて、気になって調べたら「主婦の学校」でした。

女性が学校に通い、料理や掃除を学ぶなんて時代錯誤だと思ったのですが、調べてみると生徒たちがじつに多くのことを学んでいることがわかりました。特に興味を惹かれたのは、編み物や刺繍、機織りなど、アイスランドの伝統的な文化を学んでいたことです。学校は若い人たちが伝統文化を学べる場所でもあり、この学校を通じて次の世代に伝統が受け継がれていることがとても素晴らしいと思ったんです。

ステファニア・トルス<br>アイスランド・レイキャビク出身の映像作家。プラハで演劇を学び、舞台芸術アカデミーで修士号を取得。在学中に編集助手を務め、2007年に初の長編映画『The Quiet Storm』の編集を担当。その後、アイスランドに戻り、映画編集者として活躍している。本作がドキュメンタリー監督デビュー作。
ステファニア・トルス
アイスランド・レイキャビク出身の映像作家。プラハで演劇を学び、舞台芸術アカデミーで修士号を取得。在学中に編集助手を務め、2007年に初の長編映画『The Quiet Storm』の編集を担当。その後、アイスランドに戻り、映画編集者として活躍している。本作がドキュメンタリー監督デビュー作。

―家の仕事を学ぶ、ということは、伝統文化を学ぶことでもあるわけですね。

トルス:例えば作中で現在の生徒がドーナツをつくっている場面がありますが、あれは昔ながらのお菓子で、私は子どもの頃に祖母からつくり方を教わっていました。でも、いまの在学生のような18歳の若い子たちにとってドーナツは、自分でつくるものではなく、「お店で買うもの」だったと思います。

―アイスランドでは、若い人たちが伝統的なことを学べる機会は少なくなっているんでしょうか?

トルス:一般の学校の家庭科では少し学ぶことができます。編み物や料理なんかを。

『〈主婦〉の学校』ポスタービジュアル。映画は10月16日から全国順次公開 © Mús & Kött 2020
『〈主婦〉の学校』ポスタービジュアル。映画は10月16日から全国順次公開 © Mús & Kött 2020

―「主婦の学校」が1997年から男子生徒の受け入れを始め、共学になっているのも興味深かったです。日本では家庭科が女子のみ必修だった時代もありますが、現在は高校において男女必修となっています。アイスランドでは一般の学校でも男子生徒は編み物や料理を学んでいるのでしょうか。

トルス:そうです。女子生徒は木工も学びます。男女が若いときからジェンダーに関係なく、同じことを学ぶのは重要なことだと思います。(Zoomでこちらの部屋の様子を見て)あなたの後ろにピンクのぬいぐるみがあるでしょう? とても可愛いですが、女の子だからピンク、男の子だからブルー、というふうに色分けするのもよくないと思うんです。あなたみたいに、男性がピンクのぬいぐるみを持っていてもおかしくないですから。

―確かに。男性の卒業生の一人である、アイスランドの環境大臣は「自分の面倒は自分で見たかった」と、学校で料理や裁縫を学ぼうと思った理由を語っていましたが、アイスランドでは男性がこうした家政学校に通って家事を学ぶのは特に珍しいことではないのでしょうか?

トルス:普通のことだと思います。家庭においても、男性も女性も平等に家事をこなしています。男性が床掃除や皿洗いをするのは自然なこと。私も家の掃除を怠けたいときは、夫にお願いすることもあります。そういうふうに夫婦で家事をするのが普通なんです。

アイスランドの環境・天然資源大臣グズムンドゥル・インギ・グズブランドソンも卒業生。1997年に在学した © Mús & Kött 2020
アイスランドの環境・天然資源大臣グズムンドゥル・インギ・グズブランドソンも卒業生。1997年に在学した © Mús & Kött 2020
『〈主婦〉の学校』予告編

Page 1
次へ

作品情報

『〈主婦〉の学校』
『〈主婦〉の学校』

2021年10月16日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督・脚本:ステファニア・トルス
出演:
アゥスロイグ・クリスティヤンドッティル
グナ・フォスベルグ
ラグナル・キャルタンソン
グズムンドゥル・インギ・グズブランドソン
上映時間:78分
配給:kinologue

プロフィール

ステファニア・トルス

アイスランド・レイキャビク出身の映像作家。プラハで演劇を学び、舞台芸術アカデミーで修士号を取得。在学中に編集助手を務め、2007年に初の長編映画『The Quiet Storm』の編集を担当。その後、アイスランドに戻り、映画編集者として活躍している。本作がドキュメンタリー監督デビュー作。

感想をお聞かせください

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Category カテゴリー

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。