生理を憎まず生きるために 戸田真琴が綴る優しい想像力の大切さ

日本人の女性の平均寿命は約87歳(2017年、厚生労働省の調査による)だと考えると、生理は人生の半分以上において付き合っていくもの。その名の通りの「生理現象」として、抗うことは難しく、「当たり前」のものだと考えている人も少なくないはずだ。

それなのに、私たちがいまだに生理に対してネガティブな感情を隠せないのはなぜだろう? それは、生理が行動を制限する足枷になり得たり、生理の存在によって心の傷を負ってきた、苦い思いを抱えた人が存在するからかもしれない。

現役のAV女優である戸田真琴と「性」について考えるコラム連載第2回目のテーマは、「生理」。SNSを中心に、生理についてもさまざまな議論が交わされている「性の過渡期」日本で、彼女が考える生理との向き合い方とは? 女性の身体を持つ人だけではなく、男性へ向けても綴られた、彼女からの手紙をお届け。(Fika編集部)

女性の身体を持って生まれた人が、長い間人生を共にする「生理」というもの

みなさんこんにちは。戸田真琴です。吹き荒れる嵐の音を聞きながら、自分の部屋でこれを書いています。こんなふうに天気が荒れ、その影響からくる身体の気怠さに耐えていると、いつも思い出すことがあります。それは風邪をひいたときや、寝不足のとき、うまくいかないことがあって落ち込んでいるときにも連想される、私にとっては「不調のマイスター」のような存在です。

それは、「生理」。女性の身体を持って生まれた人にとっては、人生の半分以上もの間、付き合うことになる身体的現象です。

戸田真琴(とだ まこと)
2016年にSODクリエイトからAV女優デビュー。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラム等を執筆。ミスiD2018、スカパーアダルト放送大賞2019女優賞を受賞。愛称はまこりん。

近頃は、ユニ・チャームの生理用品ブランド「ソフィ」がハヤカワ五味さんらをメンバーとして、生理時の選択肢の多様化を目指すプロジェクト『#NoBagForMe』を立ち上げて話題になったり、小山健さんによる漫画『生理ちゃん』が人気を博し、実写映画化が予定されていたりと、なにかと話題の存在でもあります。

生理についてポジティブにしていこうという働きが加速し、より自由になっていく世界を夢見る一方、それでもまだまだ誤解されることが多いのも事実です。特に当事者ではない男性からの誤解は多く、「生理の血は一度に全部出てすぐに終わる」「努力次第で生理を止められる」といったものから、「処女には生理が来ない」「エロい気分になると生理になる」といった「エロ」に関連付けられた内容もあります。

こういった誤解は、女性が聞くと驚いてしまうことも多いですし、実際に生理に関する誤解で炎上騒ぎになったりすると、「そんなことも知らないなんて……」と落胆してしまったり、馬鹿にしてしまう女性がいるのも無理もありません。

しかし、前回お話ししたように、現状私たちが受けてきた性教育の上では、「知らない」ということは仕方のないことでもあります。私が生理について学校で教わったときは、男子と女子が別々の教室に集められて保健の授業が行われました。今までずっと一緒くたに扱われ、なんの違いもないと思っていた男の子たちと、決定的になにかが違うのだと思い知らされるような不安感。よく思い返すと、私は「あの日」に男の子たちがどんな授業を受けていたのか、実のところ今も知らないのです。

たとえば語学を勉強するときもそうですが、「知らない」「間違っているかもしれない」ということを周りの人間が嘲笑ってくるとするならば、笑われた人の語学の上達は険しい道になるでしょう。それと同じで、相互に理解をしていこうと努めるとき、お互いの「知らない」に過剰に驚いたり、ましてや馬鹿にしたりといった態度をとることはあまりいいことではありません。

私は「あの日」の例の授業で、「これを持って帰って、生理の授業があったということをお母さんに伝えてくださいね」と先生から配られたサンプルのナプキンを、結局お母さんに見せることができませんでした。勉強机の鍵付きの引き出しにしまわれたそれは、その机がとっくになくなった今でも頭の中のどこかにあって、「恥ずかしい」という感情をそっと隠し持っているのです。

月に一度やってくる理不尽な「不調」。キラキラなんてできるわけない

きっと私たちはあの日から、どこかずっと生理について話すことが恥ずかしいまま、生きてきました。

教わらなかったことは、想像で補うほかありません(もちろん家族や異性との関わりの中で適切に学んでいく人もいるかもしれませんが、環境によって個人差があります)。

漠然とした「月に一度血が出る」という情報、テレビで流れる爽やかでキラキラした生理用品や鎮痛剤のCM……。現実に女性の身体にのしかかる「生理」のつらさは、きっと性教育の授業や街で目にする広告からは適切な想像ができません。おそらく私は生理が重いほうで、1日うずくまってベッドから動けないほどの腹痛があるときや、授業を休まざるを得ないときもありましたし、痛みだけでなくホルモンバランスの乱れから精神的にも不安定になります。

正直、「生理中でもキラキラしよう!」なんて生理用品や鎮痛剤の広告を目にしようものなら、「できるわけあるかーい!」と思いっきりツッコミを入れたくなります。どんなに対策しても、努力しても、理不尽にマジでキラキラできない期間が毎月1週間、私の場合は生理の前1週間くらいもすこぶる調子が悪いので、約半月、淡々とやってくるのです。「勘弁してくれよ~」というのが、私の「生理」に対する本音です。

「不調」全体で考えると男性にも理解しやすいと思いますが、「不調」はそれを患っている本人が一番つらいものです。もちろん社会は基本的には不調を想定せずにスケジューリングされて回っているし、そんな中で身体に故障やバグが起こると、流れが滞ったり周りの人に手間が足されたりもします。しかし、そういうときはきっと不調である本人が一番、悔しい思いや煩わしい思いを味わっているのです。

誰かのつらい状況を想像することは、人間の最も理知的で優しい想像力の1つ

生理を「女性特有のもの」として考えると、バイアスがかかってしまって痛みや苦しみについてまっすぐ共感したり助けあったりすることが難しくなることもあると思いますが、起こっている現象自体は特別想像が不可能なものではなかったりもします。

さらにはややこしいことに、女性間でも一人ひとり生理の症状には個人差があって、それこそ生理の軽い女性には生理が重くて仕事を休んでしまう女性の気持ちが分からなかったりもします。「私は生理でも働いているのに、どうしてあの子は休むの?」と不満に思う人もいるでしょう。女性なら必ずしも女性同士の痛みを分かち合えるわけではないのです。

不調の重さやそれに対応する能力には、人の数だけパターンがあります。経験や情報収集は予測の正確度を高めはしますが、どんなに高めても完全などなく、やっぱり一人ひとり、毎回、新たな気持ちで向き合い直していくよう心がけることが大切なのだと感じます。

自分には関係ないこと、と切り捨てる生き方もあると思いますし、「男性は分かってくれない!」「女性は難しい!」と罵り合う戦い方もあるのだということは理解しますが、それでも私は、「自分以外の人の持つ辛さを想像する」という行為は、人間の持つ最も理知的で優しい行動の1つだと思っています。

そして、誰かの苦しみや不便を想像することは、結果として自分の在りかたを知ることにもつながります。いざ自分に苦しみや不便がのしかかったとき、「自分ばっかりがつらい」という気持ちになることは、悲しい思考停止です。そうならないためには、普段から苦しみや不便に対して考えること、他人の苦しみを自分のこととして考える機会を作ることが大切です。人の苦しみを知ることは、巡り巡っていつか自分のことを助けてくれるのです。

自分にとって分からないものは、エロいものであるように感じる。中には生理を誤解する男性の存在も

生理の誤解についてはこういった身体的症状についての誤解のほかに、もうひとつ深刻なものがあります。それは生理がどこか「いかがわしいもの」「エロに関係しているもの」として見られてしまうという誤解です。

これは特に女性が身近でない男性に多く、生理について性教育では教わらなかった詳細の部分を、想像などで補完してしまうことによって起こるのではないかと考えています。例えば、「生理は血が出る」という情報を「初体験は血が出ることが多い」という情報と混同して「セックスをすると生理がくる」と思い込んだり、精通と生理を教科書でシンメトリーのように同時に紹介することで生理も性欲に強く影響されるものだと思い込んだり、といった誤解が挙げられます。また、「生理が女性特有のもの」ということで、どことなくエロティックな気持ちを抱く人もいるかもしれません。

もちろんそういう性癖の人がいてもいいと思いますし、女性側にもその気持ちを理解できる人もいるとは思いますが、女性にとっての生理はもっと、どちらかというと毎月決まった時期に来る風邪とか、変な話でいうと排泄にも近い、生命活動の一環であるような感覚が強いように思うのです。

AV女優をしていて気付かされたエロの法則のひとつに、「分からない=エロい」というのがあると思っています。女性の身体って神秘的だなあ、という感情や、分かりやすいところでいうと、普通の言葉でも途中途中を伏字にしてみるといかがわしいものに見えてくるように、なんだかよく分からないもの、というのは仕組みを分かりきっているものよりも興味を惹かれ、エロく見えてしまったりするのです。

生理をエロと一緒くたにする人には、ただ単純に「細部の理解」が足りていないのだと思います。そして、あっけらかんと理解し合うことがいつかできたら、生理をここまで恥ずかしいものと捉えなければならない世の中も少しは変わって来るのかもしれないと思います。

生理の重さもそれに対する感情も、人それぞれ。だから、向き合い方も人それぞれでいい

男性にも生理を理解して、できれば支えてほしいと願う気持ちがある一方で、やはり植えつけられた恥ずかしさは拭きれず、なるべくそっとしておいてほしいと思うときも、もちろんあります。辛さを分かっていてほしいけれど、過剰に気を使われたり腫れ物を触るように扱われるのも、いたたまれない気持ちになる。そんな一見わがままな気持ちが、生理を取り巻くリアルな感情だったりもします。

生理の重さもそれに対する感情も人それぞれなのだから、向き合い方も人それぞれでいい、というのが、この過渡期の中、ひとまずの結論なのだと思います。

カジュアルに生理について意見交換することを求める人、SNSなど匿名の場でのみ話せるという人、女子同士なら話そうと思う人、誰にも生理の話をしないで自分で解決しようと望む人、生理用品や生理中の過ごし方を好みの形にしようと模索する人、産婦人科医と相談して痛みや負担を和らげる方法を探す人、アロマやヨガなど精神的に安らげるようアプローチする人、痛み止めを飲んで我慢をしてもバリバリと働くことを選ぶ人……。

男性側も、なるべく深く理解したいと願う人、困ったときに支える人、不快にさせないためにわざと関わらないようにする人……自分にとって気持ちのいい「生理」との距離感を探って、そしてどのように生理に向き合う人に対しても、頭ごなしに否定することなくそれぞれの向き合い方を尊重し合えたらいいのではないかと思います。

余談ですが、私の理想としてはどんな職種や学校においても、生理休暇が当たり前にあって、周りの人たちや決定権を持つ大人もそれに対する理解が自然になされている社会になってほしいと思っています。ある種理不尽にやってくる苦痛を伴う生理的現象、それを憎まず快く付き合っていくには、生理のせいでなにかを諦めたり誰かに疎まれたりすることがなく、理解して助け合える社会になることがとても大切なのではないかと思うからです。

すぐに制度は変わらないので、まずはこれを読んでくれたあなたから、「生理を憎まずにいられる世界」を作るお手伝いをしてほしいと願っています。ずっと付き合っていくものだから、「恥ずかしい」とか「つらい」を超えて受け入れて生きていきたいですものね。生理がない人も、自分の身体や心を憎まずに受け入れていきていくことを想像するように、たまに考えてみてくれたら嬉しいです。

プロフィール
戸田真琴 (とだ まこと)

2016年にSODクリエイトからデビュー。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラム等を執筆、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018、スカパーアダルト放送大賞2019女優賞を受賞。愛称はまこりん。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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