「最高の私」への変身を見せる『ル・ポールのドラァグレース』

「最高の私」への変身を見せる『ル・ポールのドラァグレース』

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後藤美波(CINRA.NET編集部)
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

「誰でも変身できる」。美しいクィアな空間を演出した『WERQ THE WORLD』

3月に東京・お台場のZepp DiverCityで行なわれた『WERQ THE WORLD』は、そんな『ドラァグ・レース』のエッセンスに直接触れることのできる貴重な機会だった。番組の歴代出場者がラインナップされる本ツアーは待望の初来日。クイーンたちがそうであるように、多彩なファッションに身を包んだ観客が詰めかけ、開演前から「ここではどんな格好でどんな振る舞いをしても大丈夫」というような安心感があった。

今回の出演者は、『ドラァグ・レース』シーズン11からプラスティーク・ティアラ、シーズン10の優勝者アクエリア、同じくシーズン10出場者でオールスターシーズン4の優勝者モネ・エクスチェンジ、シーズン8からキム・チー、シーズン7から優勝者のヴァイオレット・チャチキ、シーズン5からデトックスの6名。番組では「きれいなだけじゃダメ、お客を楽しませなきゃ」という言葉もあったが、『WERQ THE WORLD』でのクイーンたちは、観客への愛情を惜しみなく表現し、観客を楽しませることを第一に据えたユーモラスでクールでキュートなパフォーマンスを見せてくれた。

ホスト役を務めたのはモネ。「ここでは叫んだって声をあげたって、オシッコしたっていい。写真もバンバンとってクイーンたちをタグ付しまくって! 何がおきても、just have fun!(とにかく楽しめ!)」と会場を盛り上げ、観客を見渡して「ここは愛に満ちた、美しいクィアの空間」と口にしていた。

この日、ホスト役としての腕を十二分に見せたモネ・エクスチェンジ
この日、ホスト役としての腕を十二分に見せたモネ・エクスチェンジ

雪の姫のように可憐なプラスティーク、ヒヨコの衣装と映像という期待通りのコミカルなステージを見せたキム・チー、ダークな世界観で男性ダンサーとのセクシーな絡みやリフトを披露したデトックス、ブロードウェイミュージカルのような楽しげなステージだったモネ、人魚のような出で立ちで空中を連続回転するアクロバットも見せたアクエリア、同じくダンサー2人を乗せたセットで空中パフォーマンスを披露したチャチキ。危険をともなう空中でのパフォーマンスのインパクトは強烈で、チャチキがステージを去ったあとは場内にどよめきと余韻が残った。

ヴァイオレット・チャチキ。その絞り上げたウエストは、アリアナ・グランデを驚愕させた。
ヴァイオレット・チャチキ。その絞り上げたウエストは、アリアナ・グランデを驚愕させた。

衣装や髪型もくるくると変わり、ソロやコンビ、全員で、と形を変えてパフォーマンスを見せてくれるクイーンたちは、まさにプロのエンターテイナー。美貌や多彩なパフォーマンスの影には泥くさい努力があるのだと感じられた。観客をステージに上げる参加型のコーナーでは、用意された衣装やウィッグを使って4人の観客がドラァグクイーンに扮しリンプシンク対決を敢行。まさに「誰でも変身できる」という精神を象徴しているような企画といえよう。

さらに公演の最後で、今回の東京公演がワールドツアーのファイナルだったことからスタッフもステージに呼び込み、ツアーマネージャーやアシスタント、テック、照明など、一人ひとりに感謝を述べ、クイーンたちが「私たちがこうやって立ててるのは彼らのおかげ」と話す姿も印象的だった。そして観客に向けても、「このツアーのメインキャストはあなたたち。自分自身に拍手を!」とステージを締めくくった。観客を楽しませること、完璧なパフォーマンスを披露することへのエンターテイナーとしてのプロ意識と、観客やスタッフ、他のクイーンたち、そして自分自身、つまり「人」への愛情深さによって支えられた祝祭的な空間だった。

『ル・ポールのドラァグ・レース』におけるル・ポールの決め台詞は「自分を愛せなければ、他者を愛せない」である。10年以上にわたって一貫してそのメッセージを伝えてきた。自分に自信を持ち、自分自身を高めること、他者を理解し愛すること。そんなスピリットを感じながら、笑えて泣けて、元気をもらえる。不寛容でときに驚くほどの残酷さを露呈するこの社会を生き抜くために、『ドラァグ・レース』とクイーンたちから私たちが得るもの、学べることはたくさんあるのだ。

ル・ポール“Theme from "Drag Race"”を聴く(Spotifyを開く

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イベント情報

『WERQ THE WORLD 2020 in TOKYO』

日程:2020年3月2日(月)
会場:東京 Zepp DiverCity Tokyo

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