海外ドラマの固定概念を解きほぐす、北欧ドラマ考

刺激的な性愛も「普通」に描く北欧ドラマ『Threesome・スリーサム』。20代の感情を繊細に掬い上げる

各種さまざまな映像配信サービスによって、海外ドラマに触れることが多くなった昨今。なかでも注目を集めるのは英米作品ばかりだが、膨大なライブラリのなかで、それ以外の作品を見過ごしてしまうのはもったいない。

そこでこの連載では、「海外ドラマ=英米ドラマ」という固定観念を解きほぐすための「北欧ドラマ考」として、世界中で愛される北欧作品から、現地で愛される人気作までを幅広く紹介していく。今回は、ロンドンで暮らすスウェーデン人カップルを描くドラマ『Threesome(スリーサム)』について、辰巳JUNKが綴る。

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スリーサムを題名とした、ヤングアダルト・ロマンス『Threesome』

多様な価値観がひろがる昨今「あたらしいかたちの異性愛」が注目を集めている。ハリウッドでは、ウィル・スミス夫妻がオープンリィ・マリッジ(伴侶以外との性愛関係に合意している婚姻関係)を発表して話題になった。こうした勢いにテレビドラマも対応しており、北米ではごく普通の夫婦が大学生とポリアモリー(複数恋愛)関係を築くテレビドラマ『僕と君と彼女の関係』が人気を博した。3Pを意味する「スリーサム」の描写も人気を博している。リメイク版『ゴシップガール』にも登場したように、若者向けの刺激的な展開としておなじみだ。

そんなスリーサムを題名とした北欧ドラマ『Threesome』は、ヨーロッパのみならず韓国でも人気を博した話題のヤングアダルト・ロマンスだ。

コロナ禍に撮影された作品にもかかわらず、すぐさまグローバルヒットしてシーズンを更新。日本では、WOWOWにて2月1日よりシーズン1と2が同時配信される。性描写の多い20代恋愛ものだが、真に注目すべきは、前述したような「特異な過激さ」を売る作風の真逆をいっていることだろう。若者の心理調査をもとに、多くの人が共感できる「2020年代版の普通の男女カップル」を丁寧に描いているのだ。

若者たちの「恋愛事情や不安」について調査のもと脚本を執筆。リアルな現代ロマンス事情とは

『Threesome』の主役は、絵に描いたような優等生カップルだ。高校時代から7年間つきあっているスウェーデン人の二人で、20代となった今はロンドンで同棲中。しっかり者の主人公シリは国際法を学ぶ学生、温和な彼氏のダーヴィドは仕事についている。

住居のボロアパートではヒビの入った天井から粉がふってきたり家主が突然入ってきたりするが、恋人関係は安定しているようだ。そんな二人が男友達に誘われて夜遊びに出向くと、パリ出身の美大生、カミーユに話しかけられる。魅力的な彼女とアルコールとドラッグを嗜むうちに、泥酔したシリはダーヴィドを参加させるかたちでスリーサムへと突入していく……。

『Threesome』でまず驚かされるのが、淡く繊細な雰囲気だろう。1話25分程度なこともあって、性描写が苦手な視聴者でも鑑賞しやすくなっている。

若き才能がつどったキャストも見どころだ。本作が初の大役となるスウェーデンの若手俳優を主演に据えたうえで、『カンヌ国際映画祭』パルム・ドールに輝いた仏映画『アデル、ブルーは熱い色』に出演したアルマ・ホドロフスキー、米ドラマ『エミリー、パリへ行く』の「イケメン英国男子」でおなじみのルシアン・ラヴィスカウントが脇を固めている。さらに、監督と脚本をつとめたのは、人気北欧ドラマ『THE BRIDGE/ブリッジ』に俳優として出演していたリサ・リンネトルプだ。

脚本執筆前に若者たちの恋愛事情や不安について聞く調査が行なわれたというだけあり、リアルな現代ロマンス事情も見どころだ。

たとえば、シリの女友達は、アジア系フェチが人種差別的なのか相談したり「アジアン男子はテクニックはいいけど酒に弱い」と論評したりする。国際都市ロンドンに住む若き彼女たちにとって、一夜かぎりの性的関係を持つことは簡単なようだ。マッチングアプリにはたくさんの男性がいるのだから、選択肢は山のようにある。だからこそ「安定した愛と刺激的なセックスどちらをとるか」悩む女子もいる。

安定を象徴するような主人公カップルのほうが希少かもしれない。高校で出会った彼らは7年間もつきあいつづけている。ロンドン留学を選んだシリは真面目だし、ダーヴィドは滅多に怒らない好青年として恋人を支えている。夜遊びに明け暮れている若者たちからすれば、かなり落ち着いた家族のような関係だ。

異国で孤独を感じて行き詰まっているシリの本当の戦いは「自分の人生の確立」

本作がさまざまな文化圏で好感触を得た理由も、主人公たちの普通さにあるだろう。『Threesome』は「魅惑的な第三者とのスリリングな情事に挑戦していく平凡なカップル」といった典型的な物語ではない。重要なのは、非日常的な行為がその後の日常にもたらす余波なのだ。

「『Threesome』には、室内劇のような感覚があります。親密で身近で、日常生活の小さな出来事が大きなドラマのように感じられる。だから共感しやすい作品なのです」(リサ・リンネトルプ)

二人の関係は、カミーユとの一夜によって揺るがされていく。彼らはすぐにもとの日常に戻ろうとするが、どこかギクシャクしてしまう。とくにシリの場合、恋人がほかの女性とまじわっている瞬間を見てしまったことに苛まれていく。その悩みをウェブ検索してポルノサイトにたどりついてしまう展開も、コメディながら今日的な災難だ。

日常を描いていく『Threesome』の登場人物は限られているが、主人公にひらかれた世界は広大でもある。現代都市ならではのロマンス環境が影響していくのだ。シリ自身は浮気経験がないものの、まわりの友人はマッチングアプリを当然のように使っており、新たなデート相手やその候補について報告しあっている。

しかも、そうしたアプリのプロフィールには、Instagramアカウントが掲載されていたりする。その気になれば、出会い系サービスを介さずに外部のSNSを経由して連絡をとることも可能なのだ。こうして、シリの試行錯誤がはじまっていく。人間関係の機微が細かく描かれているため、物議をかもす展開もなきにしもあらずだ。

そうした行動にリアリティを与えた演者のマチルダ・シェルストロムの指摘も耳に入れておこう。脚本を読んだ段階でシリのことを「嫌な子」と思っていたというが、海外の撮影地に降り立った瞬間、気持ちがわかったのだという。異国で孤独を感じて行き詰まっているシリの本当の戦いとは、自分の人生の確立なのだ。

これこそ『Threesome』のテーマだ。じつは、プロデューサーが所望していたのはティーンドラマだったという。しかし、リンネトルプ監督がフォーカスをあてたのは、現代に生きる20代特有のライフステージだった。

「20代になると、なにもかもが巨大に見えて、人生が激変するように感じられます。まだ大人になりきれてないのに、大人としての決断を求められて、自分の人生に望むものを堅持しなければいけない。かなり大変なときです」(リサ・リンネトルプ)

テーマを踏まえると、より奥深い鑑賞体験が得られるはずだ。たとえば、1話の冒頭、セックスをしている主人公カップルが呼び鈴を無視すると、デリカシーのない家主が勝手に入ってくる。脚本の構成として見るなら、小さな部屋で仲睦まじく暮らす二人は外の世界からの乱入者を防ぐことができない、つまり異国の大都市で新たな出会いを避けられない状況を示唆しているかのようだ。

カップルの関係も、実のところ万全ではないのかもしれない。真面目な彼女と温和な彼氏という組み合わせにしても、悪くいえば神経質と受け身になりうる。カミーユがシリの専攻を「ロンドンで珍しいキャリア保証」と指摘したこともひとつのポイントだろう。

勉学に励んでいる女子のほうは、卒業さえすれば国際大都市で社会的地位が見込める。一方、彼女についてきた男子の場合、本人が異国の地でなにをしたいのか曖昧なままだ。シリの挑戦をサポートするダーヴィドは「男が稼いで女を養う」プライドにとらわれない進歩的な若者なのかもしれない。しかし、二人が結婚や出産を視野に入れた人生設計をする場合、果たして合意できるのだろうか?……こうした疑念は、いちど目についたら気になりつづける天井のヒビのように二人の関係に亀裂を生じさせていく。

過去の名作には、すくいきれない現代特有の若者の精神が存在している

「25歳から30歳に向けた高品質なテレビドラマはあまりなかった」。1995年生まれのシェルストロムが語るように『Threesome』とは性愛をとおして現代の20代の感情を繊細に追求するシリーズだ。この面だと、日本で大ヒットを記録した映画『花束みたいな恋をした』に近い。

大きな人生の可能性を前に混乱していく若者の物語は、おそらく多くの国で求められている。というのも『Threesome』が好評を博した北欧や韓国、さらに日本を含めた先進諸国に共通する傾向として並ぶのが、女性の社会進出の促進、共働きカップルの増加、そして初産年齢の高齢化だ。スウェーデンの初産平均年齢は日本と近い30歳代で、韓国だと33歳とされている。要因には医療技術の進歩もあるだろうが、キャリアを積むために子育てを遅らせるパターンも多いという。

つまるところ、とくに女性の20代は、子どもの親にならなくなっている代わりに、キャリアや恋愛、家庭をふくめた人生の選択の重圧に晒されやすくなっている。リンネトルプ監督の言う通り、まだ大人になりきれてないのに重大な決断を迫られる不安を抱えることが多くなっているのだ。

こうしたライフステージのかたちは、スマートフォンありきの対人関係もふくめて、旧世代と大きく異なる。つまり、過去の名作にはすくいきれない現代特有の若者の精神が存在している。『Threesome』のような、現代の状況に沿った「普通のカップル」の苦難と成長の物語が強く求められている理由もここにあるだろう。日本でも、ロンドン留学やスリーサムはともかくとして「自分が求める人生」を模索していく主人公の姿には共感が集まるはずだ。

もちろん、登場人物に親近感がわかない人でも楽しめるシリーズになっている。脚本を読んだプロデューサーを驚かせたのは、キャラクターの感情を軸にするシンプルな物語がかくもスリリングであることだった。

主人公に変化のきっかけを与える重要人物たるカミーユは、劇中『Threesome』の魅力も代弁している。彼女の論文テーマは、「芸術家の思惑と消費者の受け止め方の不一致」。一見過激にうつるこのドラマも、予想を裏切るかたちで何度も新鮮な驚きを与えてくれる逸品だ。

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WOWOW「Viaplayセレクション」

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『Threesome』[R15+指定相当]

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2024年2月1日(木)午後0:00より一挙配信

Threesome シーズン1(全8話)
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スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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