戸田真琴と考えるアイドル業界の歪み。一方的に夢見るだけじゃない「推し活」を

戸田真琴と考えるアイドル業界の歪み。一方的に夢見るだけじゃない「推し活」を

2021/12/27
テキスト
戸田真琴
撮影:飯田エリカ 編集:石澤萌、CINRA編集部

「推し」活動がはらむ影――無邪気な暴力性を考える

<b>戸田真琴(とだ まこと)</b><br>2016年より活動開始。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラムなどを執筆し、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018を受賞。愛称はまこりん。著書に『あなたの孤独は美しい』(竹書房)、『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』(KADOKAWA)。2021年より、少女写真家の飯田エリカとともにグラビア写真を再定義するプロジェクト「I‘m a Lover, not a Fighter.」をスタート。ディレクション・衣装スタイリング・コピーライティング等を務める。
戸田真琴(とだ まこと)
2016年より活動開始。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラムなどを執筆し、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018を受賞。愛称はまこりん。著書に『あなたの孤独は美しい』(竹書房)、『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』(KADOKAWA)。2021年より、少女写真家の飯田エリカとともにグラビア写真を再定義するプロジェクト「I‘m a Lover, not a Fighter.」をスタート。ディレクション・衣装スタイリング・コピーライティング等を務める。

あなたは、アイドルが好きですか?

アイドルをはじめ、「推し」の存在ってとても偉大で不思議ですよね。自分にしっくり来た誰かのことを応援し、友人や恋人とも違って直接触れることはないながら、一人ではどうにもできない心の薄暗いところをその眩しい光で照らしてくれるような、奇跡を何度も起こしてくれる存在。迷い、悩み、苦しみながら生きる途方もない人生というカレンダーの上で、セーブポイントのように待っている推しとの邂逅(かいこう)の日。

2021年、さまざまな人が苦しみながら生きることを強いられている世界で、「推し」の存在に心を守ってもらった人も多いのではないかと思います。そこには、恋心や友愛の気持ちでは分析しきれない未知の感覚がうごめき、十人十色さまざまなかたちで「直接の関わり合いのない誰か」に愛情を捧げる営みがあります。アイドルや2.5次元俳優など誰かに「推される」ことがメインの業務に組み込んである職種の人たちはもちろん、スポーツ選手や棋士、接客業に従事する店舗スタッフなど、「推される」ことを視野に入れていない人たちのことを「推し」と称してファンのように振る舞う人もいます。「推せる」人を見つけたことで人生が潤ったと感じる人も多いことから、一見ポジティブな面ばかりが印象に残るこれらの現象。光の部分が強い分、その影の部分にも目を凝らすことを忘れないようにしたいと個人的には考えています。

きっと何かに心を救われながらなんとか生ききってきた私たちの、繊細だからこそ見つけていきたい小さな綻びたちを、今回は一緒に探していきたいと思っています。

戸田真琴

「君のこと、『推せる』のに」にぞっとした記憶

一昔前に比べると、アイドルに強く興味を持つことを他者に打ち明けやすくなったように感じます。特異な趣味という見方もされてきた文化が一般化され、だれもがカジュアルにその話をできるようになったことはいいことである反面、いくつか同時に思い出す腑に落ちない出来事もありました。

私がレストランでアルバイトをしていたときのことです。店長は控え室でYouTubeを流しながら作業をしていることが多く、私たちアルバイト店員が休憩を取るあいだや、帰り支度をするときもよくアイドル映像を見ていました。

たまにタイミングが合うと、店長にパソコンの前まで呼ばれて、アイドルの映像を見せられながら「このグループにいそうだよね」「アイドルに似てるって言われない?」と質問を投げかけられました。ある程度までは受け流していたのですが、ある日仕事の話があると言われ業務時間外に控え室に呼び出された際に、店長がいつも見ていたグループのオーディションが開かれるからそこに出てほしい、と言われたのです。アイドル活動に興味はなかったし、そもそもただアルバイトに来ているだけの自分を勝手にアイドルの卵として見繕っていた店長の眼差しにぞっとして、すぐに断って帰りました。「君のこと、『推せる』のになあ」と言われたことを覚えています。

もうひとつ。高校生の頃にクラスの女子たちで話題になっていた、カフェの男性店員さんがいました。噂をしていた本人たち曰く、人気俳優に似ているそうで、彼女らはその店員さんのファンを自称していました。登下校時に接触や名札の名前を盗み見る目的で店を利用したり、買い物をしない日も店舗の外から観察したり、業務終了時間を狙って待ち伏せをしたり、「ファン活動」のやり方は多岐に渡っていました。「あの店員さんがいるから頑張れる!」などと無邪気な好意を発露しているさまは一見健全な高校生に見えますが、当時から私は彼女らの行動に違和感を持っていました。

戸田真琴

私やカフェの店員さんに起こったこれらの事例に共通するのは、「ただ業務を行なっているだけで、一方的なアイドル視をされ、それを軸に干渉されている」ということです。店員さんへの感情が募り、コントロールができなくなって迷惑行為や刑事事件に発展することも実際に起きていて、接客業に従事する人々のなかにはおそらく、明るみになっていないところでもさまざまな迷惑行為の被害に遭っている人がいるのだろうと予想します。

現代に溢れる「推し」という言葉には、こういった「恋人関係になることを目的としない他者への好意」のことをカジュアルに表現し、日常のなかのよくある風景として紛れ込ませる機能があります。そこには、「誰かを好きだと思う気持ちが日々の幸福度を上げてくれる」といったテーマパーク的なエンタメ性がありながら、「推す」対象をある種キャラクター化して一方的に観察して楽しむような無邪気な暴力性が窺えます。なぜ人は「推し」をキャラクターとして消費しようとしてしまうのか、また、なぜその過程で相手の人権が見えにくくなっていくような事象が起こるのか。そこには、アイドル文化とジェンダー問題のあいだにある、一言では割り切れない複雑で強固なつながりが深く関わっているように感じます。

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プロジェクト情報

『I’m a Lover, not a Fighter.』

AV女優 / 文筆家として活動する戸田真琴と、盟友である「少女写真家」飯田エリカによる、「グラビア」を見つめ直すプロジェクト。

配信情報

『Podcast 戸田真琴と飯田エリカの保健室』

毎週月曜日20時に、Apple Podcast、Spotifyほかで配信中。

書籍情報

『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』

2020年3月23日(月)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:KADOKAWA

『あなたの孤独は美しい』

2019年12月12日(木)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:竹書房

プロフィール

戸田真琴(とだ まこと)

2016年より活動開始。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラムなどを執筆し、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018を受賞。愛称はまこりん。著書に『あなたの孤独は美しい』(竹書房)、『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』(KADOKAWA)。2021年より、少女写真家の飯田エリカとともにグラビア写真を再定義するプロジェクト「I‘m a Lover, not a Fighter.」をスタート。ディレクション・衣装スタイリング・コピーライティング等を務める。

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