『ワイスピ』のルーツを宇野維正が解説 カスタムカー文化を紐解く

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テキスト
宇野維正
編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

『ワイルド・スピード』に日本車が数多く登場する理由

白人の「ホットロッド」、チカーノや黒人の「ローライダー」、そんなアメリカン・カスタムカーのトラディショナルな二大潮流に新風を巻き起こしたのが、2001年にシリーズ1作目が公開された『ワイルド・スピード』だった。公開前はそこまで期待されていなかったにも関わらず、その年を代表する大ヒット作となり、やがて21世紀を代表する人気シリーズへと大化けしていくことになる『ワイルド・スピード』。日本独自の「走り屋」というマイナーカルチャーを基に作られたB級カーアクション映画が、いきなり全米映画ランキングでぶっちぎりの1位に初登場したことは、当時世界中で大きな話題となった。

『ワイルド・スピード』トレイラー映像

『ワイルド・スピード』に多くの日本車のカスタムカーが登場しているのは、1作目から劇中にもチラッと登場しているテレビゲーム『グランツーリスモ』からの直接的な影響だ。画期的だったドライビングシミュレーターとしての精度に加えて、日本車を中心とする膨大な車種と、サーキットだけではなく世界各国のリアルな公道でのレースを選択できる『グランツーリスモ』の登場は、テレビゲーム界の重要トピックにとどまらず、世界中のクルマ好きにとって革命的な出来事だった。

最初の『グランツーリスモ』が北米やヨーロッパで発売されたのが1998年(日本発売は1997年)。『ワイルド・スピード』の公開が2001年。その3年間という時間は、そのままこのゲームがもたらしたカルチャーショックがゲーマーから一般のクルマ好きへと広がっていったタームと重なる。『ワイルド・スピード』の世界的サプライズヒットが意味するものとは、当時のゲーム界で起こっていた『グランツーリスモ』現象の映画界における顕在化であった。

ド派手なカーアクションだけじゃない。『ワイスピ』シリーズの映画界における先見性

「ホットロッド」の「かっ飛ばす」という文化、「ローライダー」の「見せびらかす」という文化に対して、『ワイルド・スピード』が描いたのは「走り」の文化だ。クルマ好き以外にとっては「かっ飛ばす」と「走り」の違いがわかりにくいかもしれないが、ごく簡単に言うなら、直線で最高速を競うのが「かっ飛ばす」文化、最新のテクノロジーやドリフトなどの運転テクニックを駆使することでコーナーを制覇してタイムを競うのが「走り」文化。もちろんF1やラリーなどの競技の世界ではその「走り」こそが問われてきたわけだが、それをストリートレベルに持ち込んだのが日本の走り屋カルチャーであり、それを元にして作られたのが日本のゲーム『グランツーリスモ』であり、その先にあったのが『ワイルド・スピード』の大ヒットによる走り屋カルチャーの世界的な拡散だった。

『ワイルド・スピード MEGA MAX』(2011年)本編より

ハリウッド映画における人種の多様性は今でこそ当たり前のことになっているが、2001年公開当時に、主要キャストがポール・ウォーカー(白人)、ヴィン・ディーゼル(黒人とイタリア系のミックス)、ミシェル・ロドリゲス(プエルトリコ系)、ジョーダナ・ブリュースター(パナマ出身)、リック・ユーン(韓国系)であった『ワイルド・スピード』(2作目からはそこにアトランタの黒人ラッパー、リュダクリスらが加わる)は時代を先取りした作品でもあった。

そして、特に初期『ワイルド・スピード』シリーズが描いてきた走り屋カルチャーが、白人の「ホットロッド」とチカーノ&ブラックの「ローライダー」のアメリカにもたらされた、アジア(日本)発の大変革であることを考えれば、作品における人種の多様性も必然であったことがわかるだろう。

2019年8月に公開を控える『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』の予告映像

成功を手にした音楽家たちのクルマ愛。その2つの傾向

現在も運用されている自身のTumblrにおけるタグ(PREZA 555)がスバル・インプレッサの競技車(IMPREZA 555)に由来し、かつて愛車ホンダNSXに捧げる曲(“Acura Integurl”)まで発表してきたフランク・オーシャン。日本の走り屋の間で憧れのモデルであるマツダRX-7(FC3S型)のカスタムカーを所有し、自身のミュージックビデオにまで登場させているThe Weeknd。現代のポップミュージックのスーパースターのなかにも、走り屋カルチャーを代表する日本車を偏愛しているカーマニアは少なくない。

もっとも、近年のポップミュージックやラップのメインストリーム作品のミュージックビデオやリリックに登場するクルマは、最新のランボルギーニ、フェラーリ、マクラーレン、ベントレーなどのヨーロッパの超高級車が中心。それは、かつて「持たざるもの」であるがゆえに「見せびらかす」ための「ローライダー」を転がしていた黒人のスターたちが、「ホットロッド」的な「かっ飛ばす」ためのスピードと、『ワイルド・スピード』以降の「走り」のための最新テクノロジー、そのすべてを手にした証でもある。

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作品情報

『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』

2019年8月2日(金)から公開
監督:デヴィッド・リーチ
脚本:クリス・モーガン
出演:
ドウェイン・ジョンソン
ジェイソン・ステイサム
イドリス・エルバ
ヴァネッサ・カービー
配給:東宝東和

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