大槻ケンヂが読むミステリー 小説もロックも古い名盤に手が伸びる

大槻ケンヂが読むミステリー 小説もロックも古い名盤に手が伸びる

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:豊島望 編集:川浦慧

スマホ依存症の人は、今こそミステリーを読めばいいんじゃないかと思いましたね。

大槻:この小説を読んで面白かったので、ハリウッドで映画化した『マシンガン・パニック / 笑う警官』(スチュアート・ローゼンバーグ監督、1973年公開)という映画も見てみたんです。

―『マシンガン・パニック』って、すごいタイトルになってますよね。

大槻:そんなタイトルなのに、全然マシンガンが出てこないんだけど(笑)。それで映画を見てみたら、原作と別物かな。物語は原作を踏襲しているんですけど、舞台がストックホルムじゃなくて、サンフランシスコになってるんです。そこがまず、違うかもなと思うんですよね。『笑う警官』は、やっぱりストックホルムの話だからこそ、面白い部分もあって……。

―たしかに、ストックホルムは大事ですよね。マルティン・ベックのシリーズは、1960年代のスウェーデン、ストックホルムの街を描いていることが、重要なわけで。

大槻:ですよね。『笑う警官』も、ベトナム戦争反対を訴える1967年のデモのシーンから始まるじゃないですか。僕は、そのころのスウェーデンやストックホルムに対して、何のイメージも持ってなかったけど、「ああ、こういう感じだったんだ」って、興味が湧いたので。そういう意味でも、ロケーションはやっぱり大事だと思うんですよね。北欧ならではの、景色は美しいけど、ここで人が殺されてもわからないだろうみたいな雰囲気とか。

横溝正史の『八つ墓村』だって、岡山の田舎町が舞台だからこそいいわけで、江戸川乱歩の明智小五郎シリーズだって、帝都東京というか、昔の東京のあの感じだから合ってると思うんです。だから、マルティン・ベックのシリーズも、ストックホルムだからこそ合ってると思うんですよね。

大槻ケンヂ

―前回の連載で、山村紅葉さんにお話を伺ったときにも、ミステリーの舞台は美しい場所が多いとおっしゃっていました(参考:山村紅葉が読む北欧ミステリー 美しい土地で事件が起きやすい理由)。

大槻:やっぱり。僕はこの『笑う警官』が面白かったから、その次の作品である『刑事マルティン・ベック 消えた消防車』も読んでみたんです。だけど残念なのは、新訳がシリーズの途中で終わってるんですよ。5作目の『消えた消防車』までで、新訳の企画が打ち切りになっちゃったみたいで。

―新訳のシリーズは、10作全部出てないんですね。

大槻:そうみたいです。いくら北欧ミステリーが話題になっても、今どき本なんて、みんな読まないってことなんですかね。でも、僕は久しぶりに文庫本のミステリーを読んで、スマホ依存症の人は今こそミステリーを読めばいいんじゃないかと思いましたね。そうすれば、きっと治りますよ。まあ、出てくる銃とか車を、ちょいちょい検索しちゃったりはするんですけど(笑)。

―でも、今はそういう楽しみ方もできるわけで。

大槻:それはあると思います。昔は何となくのイメージしか湧かなかったものが、今はすぐに調べられますから。地名とかも、Googleマップですぐに調べられるし。でも多分、実際に行ってみたら、また全然違うんでしょうね。そもそも、この本で描かれているのは、50年前のスウェーデンだし。そのギャップもまたいいと思うんだよなあ。

この小説を読んだあとに、本屋さんで『地球の歩き方』の北欧編をパラパラめくって見てみましたもん。「ああ、今はこんな感じなのかあ」って思いを馳せたりして、そういうのがまたいいと思うんですよね。

大槻ケンヂ

―外国を知るにあたって、その国のミステリーから入るのは、意外とありかもしれないですよね。

大槻:ありだと思います。僕も、北欧に限らず、「次はどの国のミステリーを読んでみようかな?」って思いましたから。何かオススメがあったら知りたい気持ちですよ。

最初に言ったように「オケミス」を始めてから、またちょっとミステリーをいろいろ読んでみようと思っていているんですけど、どうしても古典を手に取りがちなんですよね。最近のものには、あんまり手が伸びないというか。

それはロックと一緒で、どこか年長者に対するリスペクトがあるし、新しいものよりも、昔から名盤と呼ばれているような古いものに、どうしても手が伸びてしまうんですよね。そういう意味でも、今回『笑う警官』を読めたのはすごくよかったです。50年前の作品が今でも面白いっていうのは、なかなかないことだと思うし、本当にすごいことですよね。

大槻ケンヂ
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リリース情報

大槻ケンヂミステリ文庫
「アウトサイダー・アート」

2018年12月5日(水)発売
価格:3,240円(税込)
TKCA-74739

1.探偵はBARにいてGHOSTはブレインにいる
2.退行催眠の夢
3.オーケンファイト
4.ぽえむ
5.去り時
6.美老人
7.スポンティニアス・コンバッション
8.タカトビ
9.奇妙に過ぎるケース
10.企画物AVの女

イベント情報

『大槻ケンヂミステリ文庫 2019年ツアー』

2018年1月13日(日)
会場:大阪府 Music Club JANUS

2018年1月14日(祝・月)
会場:岡山県 Desperado

2018年1月25日(金)
会場:愛知県 名古屋 Electric Lady Land

2018年2月6日(水)
会場:東京都 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
ゲストに、NARASAKI(COALTAR OF THE DEEPERS / 特撮)が出演決定

プロフィール

大槻ケンヂ(おおつき けんぢ)

ミュージシャン・作家。1966年2月6日生まれ。82年、中学校の同級生だった内田雄一郎と共にロックバンド・筋肉少女帯を結成。88年にアルバム『仏陀L』でメジャーデビューし、人気を集める。筋肉少女帯としての活動の他、ソロやバンド・特撮のメンバーとしても活動。また作家としても多数の作品を執筆しており、活躍の場は多岐に渡る。

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