山村紅葉が読む北欧ミステリー 美しい土地で事件が起きやすい理由

山村紅葉が読む北欧ミステリー 美しい土地で事件が起きやすい理由

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:伊藤惇 編集:川浦慧

(スウェーデンは)男女平等な社会のイメージが強かったのに、この小説を読むと、必ずしもそうではないんだなと。

—ちなみに、山村さん自身は、実際スウェーデンに行かれたことは?

山村:実際に訪れたことはないですね。ただ、「ストックホルム」というスウェーデンのスモーガスボードのお店があるのですが、そこにはよく通っていました。だから、スウェーデン料理には、けっこう馴染みがあるんですよね。アクアヴィットを飲んだりして。(参考記事:菊地成孔の美食コラム 北欧バイキング「スモーガスボード」を堪能

—スウェーデンという国に対して、どんなイメージをお持ちでしたか?

山村:美しい自然や、きれいな住宅や家具のイメージがありました。あとは、ゆりかごから墓場までじゃないですけど、社会保障が充実していることでしょうか。まあ、社会保障が充実しているからこそ、消費税が25%と高かったりするんですけど。私は昔、国税局で働いていたものですから、そのあたりのことには詳しいんです(笑)。

—なるほど(笑)。

山村:社会保障の充実した素晴らしい国で、憧れはいっぱいありましたよね。

—とはいえ、この小説で描き出されるスウェーデンは、必ずしも素晴らしいだけではないですよね。

山村:そう、社会保障の充実した男女平等な社会というイメージが強かったのに、この小説を読むと、必ずしもそうではないんだなと。その根っ子の部分では、さまざまな差別が根深くあるんだと知りました。ちょっと調べてみたら、本当に強姦犠牲者数が多かったりするみたいで。

美しい自然や充実した社会制度とは真逆のことが、現実として起こっている。そういう意味では、現実にちゃんと立ち向かっているし、大きな挑戦をしている小説だと思います。

山村紅葉

—それこそ、スウェーデンの負の歴史にも触れていますよね。

山村:はい。だから、情報量がすごく多い作品ですよね。私は普段、タブレットで小説を読むことが多いんですけど、読む前に、推定の読了時間が出るんです。普通のミステリーの読了時間は3~4時間ですけど、この小説は、11時間って出てきて。それぐらいかかったら、普通は読むのをやめるじゃないですか?

—そうですね。11時間はけっこうヘビーです。よっぽどの理由がなければ途中でやめてしまいます。

山村:だけど、やっぱり面白かったんですよね。それぐらい時間をかけても、最後まで読みたくなる面白さがあるんです。

私の母は、基本的に3時間で読み終えることができるものを、いつも意識していたみたいなんです。その昔、新幹線で東京から大阪までって、大体3時間だったじゃないですか。その間に読み終えられるものとして、書いていたみたいなんです。

—たしかに、それ以上になると集中力も続きませんよね。

山村:そうなんですよね。上下巻になったとしても、3時間で読めるものにしていたようです。だけど、『ドラゴン・タトゥーの女』は、その11時間をまったく途切れることなく楽しめたんですよね。その理由を考えてみると、この小説が映画化されたときに見た映像がとてもきれいだったんです。水や空の色も、日本では見たことがないような美しい色をしていて。雪とか氷って、どこか聖なるイメージがあるんですが、そのなかに生々しい現実があるっていう異物感が、物語を面白くさせるひとつのポイントなのかなと思っています。

—美しい場所で恐ろしいことが起こる、という対比なのでしょうか。

山村:以前母が、「なぜ、いつも京都が舞台なのか?」と聞かれたときに、深い歴史があること、歴史が積み重なっている街であること、それと同時にすごく美しい街だからと言っていて。京都の街にある美しい建物や自然のなかで、殺人事件という生々しいものがあると、すごくインパクトがあるんですよね。

山村紅葉

—変な話、汚い場所で、どす黒い事件が起こっても、それはそれで当たり前のように感じますね。

山村:そのコントラストですよね。この小説も、舞台が北欧じゃなかったら、かなり印象が変わったように思いますし。

—なるほど。事件としてはかなり陰惨なものだと思いますが、北欧の豊かな自然の描写によって、ちょっとその息苦しさが紛れるというか。

山村:そうなんですよね。そういうものを見て、ちょっとホッとする。起きている事件はえげつないし、その背景にあるものも深いし、作者が言いたかったことも、きっといっぱいあると思うんですけど、景色や建物が美しいから、そういった問題がスッと入ってくるというか。美しい景色があるから、濃密な話でも、読み続けることができたんだろうと思います。

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プロフィール

山村紅葉(やまむら もみじ)

早稲田大学在学中にANB「燃えた花嫁~殺しのドレスは京都行き~」で女優デビュー。以来在学中に20数本出演するが、国税庁国税専門試験に合格し、卒業後は国税局に勤務。結婚退職を機に、ふたたび女優の道へ。400近い原作を残した、亡き母・山村美紗さんの作品を中心に、「赤い霊柩車」「名探偵キャサリン」「京都祇園芸妓」「狩矢警部」などの代表シリーズ出演。また、バラエティーや舞台にも活動の幅を広げ、2006年9月 山村美紗没十年追悼「京都 都大路謎の花くらべ」(南座)や新春喜劇公演「俺はお殿さま」(新宿コマ劇場)。2010年10月 山村美紗サスペンス「京都花灯路恋の耀き」(南座、東京、他地方公演)に出演。日本喜劇人協会理事でもある。

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