映画・ドラマにおける旧車ブーム。その理由を宇野維正が解説

映画・ドラマにおける旧車ブーム。その理由を宇野維正が解説

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宇野維正
編集:山元翔一

『ジョン・ウィック』と『13の理由』の両作に共通する、フォード・マスタングというクルマ

一方で、アメリカの映画やドラマに出てくる旧車のなかでも「絶対的スター」と呼べる存在が、1960年代後半製造のフォード・マスタングだ。最大の理由は、1968年に公開されたピーター・イェーツ監督作品『ブリット』で、主人公のブリット警部補演じるスティーブ・マックイーンが乗っていたのが、1968年型フォード・マスタングGT390だったから。

ちなみに、同作品で敵役が乗っていたのは1968年型ダッジ・チャージャー。フォード・マスタングとダッジ・チャージャーとの宿命のライバル関係(アメリカのスポーツカーマーケットにおいても両車は長年競合車であり続けている)は、その後、無数の映画やドラマで描かれ続けていく。

『ブリット』トレイラー映像

いずれも設定は現代で、1960年代後半のフォード・マスタングが登場した近年の作品の筆頭といえば、映画ならば『ジョン・ウィック』シリーズ(主人公の愛車。1969年型フォード・マスタングのトップグレード、BOSS429)、ドラマならば『13の理由』シリーズ(登場人物トニーの父親の愛車。1968年型フォード・マスタング)だ。

『ジョン・ウィック』(2015年日本公開、監督はチャド・スタエルスキ、 デヴィッド・リーチ)のトレイラー映像

どちらの作品でも、オーナーから特別な愛情をかけられ、極上のコンディションに保たれていたフォード・マスタング。しかも、それが破壊された瞬間にストーリーが急展開するところも共通している。自慢の愛車が破壊されること、ましてやそれが1960年代後半のフォード・マスタングならば、自分の家族が殺されること、あるいは自分が信じる神を踏みにじられるのと同じくらい重大なことである。その気持ちがよく理解できるクルマ好きならば、登場人物の激しい憤りへの共感度もグッと上がるわけだ。

『13の理由』のオフィシャルInstagramより。トニー役を演じるクリスチャン・ナヴァロと1968年型フォード・マスタング

ハイスペックな新車から旧車へ。ハリウッドの大作映画にも変化の兆しが

このように、販売中、あるいは販売前の新車の「プロダクト・プレイスメント」とは別のところで、クルマへのフェティシズムが込められた作品は近年増え続けている。最近驚かされたのは、『007』シリーズと並んで「全編プロダクト・プレイスメントだらけの映画」の代表とも言える『トランスフォーマー』シリーズの最新作『バンブルビー』(2019年日本公開、監督はトラヴィス・ナイト)で、主人公の少女チャーリー・ワトソンが遭遇することになる「愛車」が、1960年代後半の黄色いフォルクスワーゲン・ビートルであることだ。

『バンブルビー』トレイラー映像

本作の舞台は1987年のカリフォルニア。したがって、いずれにせよ現代のクルマには出番はないわけだが(『トランスフォーマー』シリーズのことだから何が起こるかはわからないが)、ハリウッドにおける「プロダクト・プレイスメント」主導の映画作りにも、変化の時期が訪れているのかもしれない。

というのも、今後ハリウッドのアクション映画は『バンブルビー』だけでなく、アメコミヒーロー映画の世界においても『キャプテン・マーベル』(2019年3月公開予定、監督はアンナ・ボーデン、ライアン・フレック)、『ワンダーウーマン 1984』(2020年6月公開予定、監督はパティ・ジェンキンス)と、時代設定が近過去(『キャプテン・マーベル』は1990年代初頭。『ワンダーウーマン 1984』はタイトルの通り1984年)で、主人公は女性、という作品が目白押しなのだ。

『キャプテン・マーベル』トレイラー映像

近過去の街並みを描く上で、背景描写におけるクルマは間違いなく重要なポイントとなるはずだが、それは必然的に旧車や「ちょい古」のクルマが作中に多く登場することを意味する。また、もちろんクルマへのフェティシズムは男性だけのものではないが、主人公が女性であることで、クルマの描写方法もこれまでのアクション映画とは違うものになっていくかもしれない(ワンダーウーマンがクルマに乗っている姿は想像しにくいが)。

時代は新車から旧車へ、そして男性主人公から女性主人公へ。しかし、その一方で、拝金主義の象徴として、同時代のヨーロッパの高級車が崇拝され続けている映像ジャンルもある。ラップのミュージックビデオだ。次回はラップのミュージックビデオにおけるクルマ、そしてそのカルチャーとも深くリンクし、現代クルマ映画の絶対王者として君臨し続けている『ワイルド・スピード』シリーズについて論を進めていく。

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リリース情報

『ブレイキング・バッド シーズン1 ブルーレイ コンプリートパック(2枚組)』
『ブレイキング・バッド シーズン1 ブルーレイ コンプリートパック(2枚組)』

2015年7月22日(水)発売
価格:5,966円(税込)
発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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