松浦弥太郎が語る。一過性のブームではない定着した北欧の魅力

松浦弥太郎が語る。一過性のブームではない定着した北欧の魅力

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:西田香織 編集:青柳麗野・飯嶋藍子
2018/09/13
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「LifeWearという言葉に、僕は、すごい嫉妬した」(松浦)

—ユニクロが「LifeWear」というコンセプトを最初に打ち出したのは……。

松沼:2013年ですね。2013年の展示会で、初めて打ち出しました。

松浦:そう、いまからちょうど5年ぐらい前ですよね。そのときに、僕はすごい衝撃を受けたんです。それまでは正直、ユニクロの服を普段から着ていたとか、ユニクロの服が自分の生活の中にあったかというと、そうではなかった。でも、ユニクロが「LifeWear」という概念を発信したときに、それまでにはなかった言葉だったから、僕は本当にビックリして。単なる服ではなく、「LifeWear」と言い始めたことは、とてつもない発明をしたなって思ったんです。

—なぜそう思ったのですか?

松浦:僕は、メディアとはなんだろう、雑誌とはなんだろうっていうのを、いまも頭がちぎれるぐらい考え続けていますが、それと同じように、「服ってなんだろう」っていうのを、ユニクロはずっと考えていたんですよね。そうやって考え抜いた結果、出てきたのが「LifeWear」という言葉だったんじゃないかと僕は思っていて。それに僕は、すごい嫉妬して。

左:松浦弥太郎

—そこで出てきた感情が嫉妬なんですか?

松浦:や、嫉妬しますよ。そういう発明をされたってことがめちゃめちゃ悔しくて(笑)。それ以来、僕の中でユニクロの存在が変わったんです。当時はまだ、僕のまわりの人は、「ユニクロは安い」とか、そういうスペックの話しかしてなかったんですけど、僕は結構早い段階から、そのスペックの背後にあるものすごい概念、その「LifeWear」という概念と哲学に気づいて、それに嫉妬していて……。

実際にユニクロの方々と話をしてみたら非常に面白かったし、共感できたんですよね。つまり、僕たちはお互い、常に悩み続けているわけです。そういう中から生まれていったのが、今回の「LifeWear Story 100」というプロジェクトなんです。

右:松浦弥太郎

—なるほど。最初にこの話を聞いたときはちょっと意外だと思いましたが、お互いの中で共通する問題意識のようなものがあったわけですね。

松浦:そう。やっぱり僕自身もそうなんだけど、僕らはどうしても、いままでの長い歴史の中で培われてきたマーケティングによって、服に対する値段観とかクオリティー……たとえば、「外国のものが素晴らしい」とか「手作りがいちばん」とか、そういう概念に囚われているわけです。「1,000円以下の服なんて、いいわけないよね」とか、そういう感覚がどっかにあるというか。

その感覚っていうのは、すごく根深くて、自分の中で固定されちゃっているんですよね。それに対してユニクロが果敢にチャレンジをしたことに、僕は非常にシンパシーを感じたし、それを外国ではなく日本の企業がやり始めたことに嬉しさもありました。

「日本も北欧も、時代に合わせた形でシンプルを再定義し合っているし、いまはその交流がようやくでき始めた」(松浦)

—そんなユニクロがこの8月に北欧での1号店となるストックホルム店をオープンさせるというのは、非常に面白い話ですよね。

松沼:そうですね。僕たちは、世界中すべての国の人々に、自分たちの服を届けたいという思いがあって。今回のスウェーデン進出は、スペインに続き全世界で20番目、ヨーロッパで7番目の市場になるのですが、プレスカンファレンスなどで、スウェーデンのメディアの方とかに実際に商品を見ていただいたときに、「待ってました」という反応が、すごく多かったことが嬉しくて。先ほどのお話にもあったように、とりわけ北欧の国々とは、ものの価値観や生活の価値観みたいなものが、非常に近いんだと思います。

松沼礼

松浦:そう、あともうひとつ、北欧との相性を考えると、ちゃんと秩序があるところだと思います。ヨーロッパの日常の美意識のクリーンさと、日本人が持つそれって意外と違うと思うんですけど、北欧の国々のお店も商品も、日本と非常に近い感覚のクリーンさがある気がします。北欧の人たちもそういった感覚を求めているのかもしれないですよね。

—たしかに、IKEAの店内とか商品も、非常にクリーンですよね。

松浦:そう、秩序立っているでしょ。あの感じは、僕たち日本人にすごくフィットすると思うし、すごく求めているものなんですよね。それは北欧の人たちにとっても同じなんだと思うんです。先ほどの話ではないですが、そうやって、時代に合わせた形でお互いに「シンプル」を再定義し合っているし、いまはその交流がようやくでき始めたと思います。だから、いまこうして、ユニクロのお店が北欧にできるというのは、ものすごく自然なことのように、僕には思えるんです。

左から:松浦弥太郎、松沼礼

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プロフィール

松浦弥太郎(まつうら やたろう)

2005年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年7月にウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。2017年、(株)おいしい健康・共同CEOに就任。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。

松沼礼(まつぬま れい)

2004年にグラフィックデザイナーとしてUNIQLOに入社。2007年グラフィックデザインチームリーダーとなりUTブランドを発足。UT Store Harajuku.の立ち上げの中心となる。2011年にはデジタルマーケティングチームリーダーを兼務し、「Uniqlooks」「Voice of New York」などを多数のデジタルマーケティングを展開。MoMAとのアートプロジェクトやPharrell Williams、KAWSなどとのプロジェクトも実施。現在、UTコラボレーション事業推進部部長・グローバルマーケティング部PR部長を務める。

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