Kings Of Convenienceが12年ぶり新アルバムで響かせる「静寂」

11歳のときに出会った2人。ノルウェー発、約20年前の「静かな衝撃」

ノルウェーの2人組、Kings Of Convenience(以下、KOC)の登場は静かな衝撃だった。

彼らが注目を集めるきっかけになったメジャーデビューアルバム『Quiet Is The New Loud』(2001年)がリリースされた当時、ロックシーンではThe StrokesやThe White Stripesなどロックンロールに原点回帰したバンドが次々と登場して、「ロックンロール・リバイバル」とも呼ばれたムーブメントが生まれていた。荒々しいギターのリフ、力強いビート。そうした攻撃的でラウドなサウンドがトレンドになるなかで、KOCは「静寂は新しいラウド」と宣言したのだ。

『Quiet Is The New Loud』は本国ノルウェーでチャート1位を記録。海外でも話題を呼んだが、それから今年で20年目を迎えるなか、彼らの新作『Peace Or Love』がリリースされた。前作『Declaration of Dependence』(2009年)からじつに12年ぶりのオリジナルアルバムだ。

Kings Of Convenience(左から:アーランド・オイエ、アイリック・ボー)

ここで彼らのキャリアを振り返っておこう。

ノルウェーのベルゲン出身のアイリック・ボーとアーランド・オイエがKOCを結成したのは1999年のこと。ともに1975年生まれの2人は、11歳のときに学校の同じクラスで出会って仲良くなった。

そして、16歳になるとSkogという4人組バンドを結成。当時はThe CureやJoy Divisionといったイギリスのバンドに影響を受けていたそうだが、1996年に1枚のEPを発表してバンドは解散。ボーとオイエはイギリスに移り住んで音楽活動を続け、再びベルゲンに戻るとKOCを結成してデビューシングル『Brave New World』をリリース。そして。アメリカのインディーレーベル、Kindercoreから2000年にアルバム『Kings Of Convenience』を発表した。

ノルウェーでもイギリスでもなく、アメリカのインディーからデビューしたのが面白いところだが、当時、Kindercoreには1960年代のポップスから影響を受けたバンドが多く、そんななかでKOCはSimon & Garfunkelと比較されたりもしていた。

Kings of Convenienceのメジャーデビューアルバム『Quiet Is the New Loud』を聴く(Apple Musicはこちら

『Kings Of Convenience』はライブ音源も入れたアットホームな作品だったが、メジャーデビュー作になった翌年の作品『Quiet Is The New Loud』は、Coldplayなどを手掛けたケン・ネルソンがプロデュースを担当。サウンドはクリアになり、曲によってはトランペットやチェロが加わってアレンジに磨きがかけられた。

このアルバムを初めて聴いたときに思い出したのは、1980年代にイギリスで巻き起こった「ネオ・アコースティック(ネオアコ)」と呼ばれたムーブメントだ。当時のネオアコシーンには、Everything But the Girl、Aztec Camera、The Pale Fountainsなど、パンクな反抗精神を持ち、1960年代のポップス、ジャズ、ソウルなどに影響を受けたバンドが登場。シンセを多用して音がケバケバしくなっていくロックシーンのなかで、ソングライティング(歌)を重視した彼らの歌には、まさに「Quiet Is The New Loud」な姿勢を感じた。

1984年にリリースされたEverything But The Girlのデビュー作『Eden』。ベン・ワット、トレイシー・ソーンによるイギリスのデュオ(Apple Musicはこちら

盟友Feistとのコラボに手応え。制作に約5年を費やした最新作

『Quiet Is The New Loud』以降、KOCは一貫して「quiet(静かな)」なサウンドを貫いてきた。楽器の編成はミニマルで2人は囁くように歌う。

彼らの登場以降、注目を集めるようになった北欧のポップスシーンからは、ソンドレ・ラルケやホセ・ゴンザレスなどKOCに通じるテイストを持ったアーティストがデビュー。また、KOC、エリオット・スミス、Belle and Sebastianなどアコースティックな音楽性を持ったバンドの活躍を、海外のメディアが「Quiet Movement」と称するなどKOCは存在感を増していく。

アルバム『Declaration of Dependence』(2009年)を発表して以降、しばらくはそれぞれのソロワークが中心になっていたが、今作『Peace Or Love』に取り掛かったのは2016年のこと。その年のツアーで新曲を披露してレコーディングを始めたものの思うように作業がはかどらなかった。何曲か録音したがアルバムにまとめられないまま1年が過ぎ、疲れ果てた2人は作業を一旦中止することに。オイエは音楽活動を休止してリフレッシュした。

そんなある日、シンガーソングライターのFeistから「イタリアに行く予定だから会わない?」と連絡が入る。彼女はKOCのアルバム『Riot On An Empty Street』(2004年)にゲストで参加していた。当時、シチリアで暮らしていたオイエは旧友からの連絡に喜び、ボーを呼んでアーランドの家で3人でセッションをした。そのセッションから生まれたのが、新作に収録された“Catholic Country”と“Love Is A Lonely Thing”だ。その2曲に手応えを感じた2人はふたたび新作に着手。録音していた音源も録り直して、ついにアルバムを完成させた。

Kings of Convenience “Rocky Trail”MV。新作のリード曲

『Peace Or Love』の軸になっているのはこれまで通り、アコースティックなサウンドと美しいハーモニーだが、そこに手慣れた感じはなく、いまなお新鮮さを感じさせるのが彼らのマジック。時間をかけて吟味したメロディーやアレンジが曲に普遍的な輝きを生み出している。

2本のギター以外にも、ベース、ドラム、マリンバ、ヴィオラなどさまざまな楽器を使用。それでもカラフルな色合いにはせず、そっとギターに寄り添うように曲に溶け込んでいる。そうした繊細な音づくりが生み出す「quiet」なサウンドが曲の魅力を引き出しているのだ。そんななか、盟友Feistの歌声がアルバムのアクセントになっている。デビュー時から音楽性は変わらないが、よりも深みと洗練を増した歌に2人のアーティストとしての成熟を感じさせた。

Kings of Convenience ft Feist“Love is a Lonely Thing”パフォーマンス映像

デビュー以来変わらない、歌の温度を伝える「quiet」な音の魅力。多様な楽器や、電子音も取り入れる

KOCがデビュー以来こだわってきた「quiet」なサウンドとはどんなものなのか。それはアコースティックな音を大切にする、ということだけではない。彼らの場合、エレクトロニックなサウンドに対してもオープンだった。

彼らは同郷のエレクトロユニット、Röyksoppとも仲が良く、『Quiet Is The New Loud』に続いてリリースした『Versus』(2001年)は、彼らの曲をFour Tetをはじめとするさまざまなアーティストがリミックス / リメイクしたコンピレーションアルバムだった。

Kings of Convenienceのリミックスアルバム『Versus』。RöyksoppやFour Tetらがリミキサーとして参加した(Apple Musicはこちら

さらにオイエは2003年にThe Whitest Boy Aliveというバンドを結成して打ち込みのビートを導入しているし、ボーはサイドユニット、Kommodeでダンサブルなサウンドを披露。どちらもエレクトロニックな楽器を中心とした編成だ。

彼らは流行りの音楽に抗ってオーガニックなサウンドに回帰しようとするフォーク原理主義者ではなく、エレクトロニカやダンスミュージックなどモダンなサウンドもしっかりと吸収している。『Peace Or Love』では珍しくプログラミングしたビートを使っているのだが、言われてみないとわからないほどアコースティックなサウンドに溶け込んでいる。

アーランド・オイエがフロントマンを務めるバンド、The Whitest Boy Aliveのライブパフォーマンス。これまでに2枚のアルバムをリリースしている

アイリック・ボーのサイドプロジェクトKommode。2017年に1stアルバム『ANALOG DANCE MUSIC』を発表した

エレクトロニックもアコースティックもこなすボーとオイエが、つねに大切にしてきたのは飾らない率直な歌だ。サウンドにも派手な装飾はしない。KOCではそうした2人の音楽に対する向き合い方が、最も研ぎ澄まされたかたちで追求されている。そして、彼らは歌の微妙な温度感を伝えるために「quiet」な音響空間を緻密に構築する。彼らのフォーキーなサウンドは北欧のモダンデザインのように温もりを感じさせながらも洗練されていて、その質感は彼らと同時期に登場したエレクトロニカのアーティストに通じるところもある。

12年ぶりの新アルバム『Peace Or Love』ジャケット

「僕たちのバンドのコンセプトはギターと歌だから、幸運なことに時代遅れになることはない。もし、時代の音を取り入れていたら、いつかは時代遅れになってしまうからね」。海外のインタビューでオイエはそう語っていたが、彼らの静寂へのこだわりは、歌のエッセンスに静かに耳を傾ける、ということでもある。

ロックンロールにかわってR&Bやヒップホップがメインストリームの音楽になり、派手で強烈なリズムがヒットチャートを席巻している現在。そんななかでリリースされた『Peace Or Love』は、KOCが奏でる静寂がいまもラウドな響きを持っていることを教えてくれる。

Kings of Convenience『Peace Or Love』を聴く(Apple Musicはこちら

リリース情報
Kings Of Convenience
『Peace Or Love』

2021年6月18日(金)発売

1. Rumours
2. Rocky Trail
3. Comb My Hair
4. Angel
5. Love Is A Lonely Thing
6. Fever
7. Killers
8. Ask for Help
9. Catholic Country
10. Song About It
11. Washing Machine



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カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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