北欧発フェミニズムギャグコミックが問う、現代における「恋愛」

北欧発フェミニズムギャグコミックが問う、現代における「恋愛」

インタビュー・テキスト
後藤美波(CINRA.NET編集部)

現代人は「恋に落ちる」ことが難しくなっている──。そんな主張を古今東西の言説を参照しながら紐解いていくのが、2021年2月に日本語訳が刊行されたスウェーデン発のフェミニズムコミック『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』(花伝社)だ。

本のなかで引用されるのは、20代前半の女性とばかり付き合うレオナルド・ディカプリオのエピソードに始まり、ギリシャ神話やヒンドゥー神話、プラトンにキルケゴール、そして『星の王子さま』など、現代のポップカルチャーから現代思想、古典哲学や神話までじつに幅広い。作者がユーモアを交えながらロジカルに疑問を投げかけていく対象は、「恋愛」に関する通説にとどまらず、人間関係における男女の立場の構造的な不均衡や、後期資本主義社会における自己搾取的生き方、そしてその困難さなどにも広がっていく。

作者のリーヴ・ストロームクヴィストは1978年生まれの漫画家。本国では作品が芸術性や文学性、社会批評の面でも高い評価を受け、大きな賞を受賞したり、テレビ番組を持ったりと、スウェーデンを代表する文化人として知られているそうだ。彼女の作品は、2018年に『禁断の果実――女性の身体と性のタブー』(相川千尋訳、花伝社)も日本で刊行されている。

コミックといってもかなり文字量が多く、強烈な内容も含むリーヴ・ストロームクヴィストの作品は、「男女平等先進国」といわれるスウェーデンでどのように読まれ、また作者はどんな問題意識に突き動かされているのか? 『21世紀の恋愛』の訳者で、自身もスウェーデンのフェミニストや女性たちの声や物語を伝えるZINE『ASTRID』を発行している、翻訳者のよこのななさんに話を聞いた。

現代において、人は他者と自分の境界が曖昧になってしまう

リーヴ・ストロームクヴィスト著、よこのなな訳『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』(花伝社、2021年)
リーヴ・ストロームクヴィスト著、よこのなな訳『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』(花伝社、2021年)(詳細はこちら

―『21世紀の恋愛』を最初に読まれたときの印象はどうでしたか?

よこの:すごく面白いなと思いました。花伝社さんからお話をいただいて、「ぜひ日本でも出したら良いんじゃないか」と率直に思いました。

―漫画といってもかなり文字量や情報量が多い作品ですよね。登場人物も多く、いろんな主張や考え方が書いてあるので、一度読んだだけでは咀嚼しきれない部分もありました。

よこの:たしかに最初は読むのに精一杯、みたいなところはありました。日本語で読める作品としては前作となる『禁断の果実』とも全然違うし、「これは一体……?」という感じで。何度も読んでいくと、「結局どう捉えたら良いんだろう?」と考えてしまう部分もありました。恋愛の本というよりも、現代社会批評なんだろうなと思って読みました。

『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』より。ディカプリオはなぜ若い女性のモデルと次々に付き合うのか? という問いを発端に論が展開していく
『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』より。ディカプリオはなぜ若い女性のモデルと次々に付き合うのか? という問いを発端に論が展開していく

―本書で指摘されている、現代人は人間関係も消費者感覚で合理的に選択しようとしてしまう、ということや、パートナー選びにおける男女間の立場の不均衡などは、身に覚えがある人も多いのではないかと思います。よこのさんご自身が特に共感された箇所はありましたか?

よこの:第1章は身につまされるところが多かったですね。ナルシシズムが広がった現代においては他者と自分の境界が曖昧になってしまうとか、なんでも理性で合理的に選択しようとするから他者と深い関係が結べないとか。相手に求める条件を事前に書き出していたリアリティー番組の出演者の話などは特に印象に残っています。「そうですよね、そうですよね」と思いながら読み進めていました。

『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』より。韓国出身の哲学者ビョンチョル・ハンは、本作の学術的ナビゲーターのひとり。「現代の極度のナルシシズムのなかでは、他人の他者性が奪われ、他人は自分を承認する『鏡』として機能する」と主張する
『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』より。韓国出身の哲学者ビョンチョル・ハンは、本作の学術的ナビゲーターのひとり。「現代の極度のナルシシズムのなかでは、他人の他者性が奪われ、他人は自分を承認する『鏡』として機能する」と主張する

―恋愛に限らず、資本主義社会の生きづらさみたいなものも描かれていますよね。

よこの:そうですね。リーヴさんは基本的に資本主義に対しては懐疑的です。最近は日本でも、もうこれまでのような資本主義ではこの世界は立ちゆかないということが言われ始めましたが、「なんかよくわからないけど生きづらいな」と感じている人に読んでみてもらいたいですね。「あまり深く悩まなくても良いのかも」と思えるか、「余計わからなくなった」となってしまうかはわからないのですが(笑)。

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書籍情報

『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』
『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』

2021年2月10日(水)発売
著者:リーヴ・ストロームクヴィスト
訳者:よこのなな
価格:1,980円(税込)
発行:花伝社

プロフィール

よこのなな

1977年生まれ。1990年代半ばと2000年代初めにスウェーデンの地方都市でスウェーデン語や社会科学を学ぶ。図書館勤務などをへて、翻訳者に。訳書にリーヴ・ストロームクヴィスト『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』(花伝社)、フリーダ・二ルソン『ゴリランとわたし』(岩波書店)。

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