伝統工芸が持つ、北欧ならではの暮らしのエピソード
北欧のかわいらしいテキスタイルやアイテムの背景には、実は北欧ならではのエピソードや職人魂が詰まっていること、ご存知ですか? 本連載『北欧おみやげ図鑑』では、北欧の日用品やインテリアを輸入・販売するWEBサイト「北欧雑貨」がピックアップしたアイテムと、それを通して見える北欧の暮らしや風景を、各回のテーマごとにお伝えしていきます。第2回は、フィンランド、デンマーク、スウェーデンの代表的な伝統工芸品を基点として、この200年ほどを振り返り、北欧のルーツの一端を見てみようと思います。
フィンランド編:先住民族から伝わる、幸福のマグカップ「ククサ」
幸福のマグカップ「ククサ」(詳細を見る)
森と湖の国・フィンランドのラップランド地方で、白樺のコブをくりぬいて作られるマグカップ、ククサ。1本の白樺から取れるコブの量は限られているため、その貴重さから「贈られると幸福になる」と言われています。元は、狩猟や、トナカイの遊牧を生業とする先住民族サーミ人の工芸品で、トナカイの角の飾りやシャーマン文字が刻まれたものもあります。
オーロラのように表面に浮き出た濃淡のある木目は、使うごとに味わい深い色合いに変化していきます。その優しい口当たりは、特にコーヒーによく合います。北欧はバリスタのワールドチャンピオンを6人も輩出し、世界有数の消費量を誇るほどコーヒーが大好き。北欧に思いを馳せながら、ククサでコーヒータイムはいかがでしょうか。
デンマーク編:海兵隊員が広めた、200年の歴史を持つ「ホーンウェア」
ホーンウェアの靴べら。独特の模様が美しい(詳細を見る)
唯一無二の美しい模様と、その独特な温かみのある質感で愛されるデンマークのホーンウェア(角細工品)。時を遡ること200年余り、半島戦争でイギリスの捕虜となったとあるデンマークの海兵隊員が、牛の角を使ったホーンクラフトを学び、母国に戻りその技術を広めました。
ホーンクラフトは、デンマークの貧しい自給自足の農民たちの貴重な副次的収入源として彼らの暮らしを支える大事な産業でした。1935年から伝統的な製法でホーンウェアを作り続けている、デンマーク西部・ボーリンビャール村の老舗工房「Hornvarefabrikken(ホルンバーレファブリッケン)」などの職人技により、その製品の美しさとクラフトマンシップが脈々と今に受け継がれています。
スウェーデン編:ナイフ1本で作られる鮮やかな馬のおもちゃ「ダーラへスト」
伝統的な花模様が描かれたダーラへスト(詳細を見る)
スウェーデンの人々にとって、馬は信頼できる友であり、また働き手でありました。冬場には森から大量の木材を運び、夏場には農場のしごとをこなしてくれる彼らの姿をモチーフに、森の奥深くの小さな丸太小屋の暖炉の火の前で人々が作った木彫りの玩具、それがダーラヘストの原型です。
当時の人々は、たいていナイフ1本という簡単な道具だけを使い、子供たちのために玩具を作ったのです。次第に、農民絵画として知られる伝統的な花模様「クルビッツ」の美しい絵付けがなされるようになり、現在では彫り職人と絵付け職人によって個性ある馬が生み出されています。色づけが異なったり、農耕馬のようながっしりとした馬や、やせ型の馬がモチーフになるなど、村によって違いがあるのも味。特に老舗ブランド「Grannas(グラナス)」の馬は美しいことで有名です。
プロダクトをただ愛でるだけでなく、成り立ちについて好奇心をもって学び、知識を得ることで、「見える」ことは飛躍的に多くなり、毎日がより自由になります。Have a good life!
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デンマークでは「hygge(ヒュッゲ)」という感覚をとても大切にしています。意味は「自分の好みにぴったり添う心地よさ」といったところ。「北欧雑貨」では、北欧・欧州から輸入した、暮らしをhyggeにするアイテムをご用意しております。
- プロフィール
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- 加藤麻由子 (かとう まゆこ)
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1985年生。武蔵野美術大学建築学科卒。アート・デザイン・建築界隈を経て、2013年(株)ピーオーエス入社。現在は制作とストアマネジメントの両刀使い。海外買付に行く度に自由時間をすべて建築見学につぎ込みます。公私関わらず一日中北欧のことを考えて、隙あらば映画館に滑り込み、休日は気が済むまで読書と昼寝と料理を楽しみます。「Hyggeたれ」が座右の銘。マッツ・ミケルセンさんの大ファンです。