野中モモ×枇谷玲子 性別問わず生き易い社会のためのフェミニズム

野中モモ×枇谷玲子 性別問わず生き易い社会のためのフェミニズム

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:池野詩織 編集:山元翔一

左から:枇谷玲子、野中モモ

北欧も「多様性」を認め合う社会を作ろうと、必死にもがいているところだと思います。(枇谷)

—「ダイバーシティ(多様性)」という言葉は、日本でも最近よく耳にしますが、北欧はやはり進んでいるのでしょうか。

枇谷:ダイバーシティについては、他のヨーロッパ諸国同様、北欧も「多様性」を認め合う社会を作ろうと、必死にもがいているところだと思います。難民をほとんど受け入れていない日本に暮らす私が、偉そうに言えた義理じゃありませんが。

—逆に言うと、ジェンダーフリーが進む北欧でもダイバーシティは今向き合うべき課題であると。

枇谷:北欧では主婦は無業と見なされてしまうので、女性も主婦になるという選択肢はなく、就業する場合がほとんどです。ですが、いくら残業が少ないとはいえ、共働きで仕事と育児・家事を両立するのは大変なことのようです。そこで家政婦さんを雇う家も増えてきているのですが、家政婦さんには移民が多く、賃金も低い。仕事にありつけてありがたいと思う移民の方もいるようですが、平等を目指す北欧の人たちは自分たちの男女平等のために、移民の労働力を安く使うことが本当の平等と呼べるのか、と議論しているところだそうです。

女性が力をつけてきた北欧では、議論の主な焦点が女性から移民へと移ってきているのかも。とはいえ、まだまだ100%男女平等ではない、あともう少しフェミニズムが必要なのではないか、というのが最近の北欧のフェミニズムの議論によく出てくる主張です。

左から:野中モモ、枇谷玲子

—先ほど野中さんが「女性問題は、第一に人権問題である」とおっしゃっていましたが、結婚の問題の多くは女性が経済的に自立できず、「支配 / 被支配」の関係になっていることが原因の多くだと思うんです。個人的な話ですけど、「経済的に自立さえしていれば、今すぐにでも離婚したい」っていう女性の声をどれほど聞いたか。

野中:ひどい話ですよね。だから、現実問題として「男性と同じ条件で働けるようになる」ということが必要じゃないでしょうか。能力が特に高いわけではない女性が、同じ程度の能力の男性と同じ労働で同じ賃金をもらえるようにならないと。

—女性が経済的に完全に自立して、「いつ離婚しても困らない」という体制を雇用、賃金の面でもしっかり確立すれば、女性はかなり生きやすくなると思うんです。ただ、おそらくそうなるとなかには困る男性も出てくるだろうから、なかなかそういう社会にならないんじゃないかと思っています。

野中:そうですね。道は険しい。女性が個人として経済的に自立できれば、過重労働から解放されて楽になる男性もいるはずなんですけどね……。

—男も女も自由で自立した存在になったら、「結婚」「家族」とは何かも問い直さなければならなくなりそうですよね。

枇谷:ノルウェーの作家ヘンリック・イプセンの『人形の家』(1879年)って、主婦だった女性が夫から1人の人間として見られていないと気づいて出て行って終わりますよね。北欧の大半の人たちが、今では自分の生きる道を選べます。日本のようにシングルマザーになったからといって、極端な貧困に陥ることは少ないですし、たとえば同性であろうと、誰でも好きな人と結婚する自由を持ちます。これが北欧諸国が幸福度調査で上位につける要因となっているとデンマークの幸福研究所は分析しています。

ただ現在の北欧でも、家族を持つ選択をする人が多いです。あるドイツの研究によると、結婚生活を続けることで、全ての人が幸せになるとは言えないものの、全体として見ると、既婚者は概して非婚者より幸福な傾向があるそうです。

枇谷玲子

枇谷:デンマークの幸福研究所は、これは人間が意義深い人間関係なしには、生きていけない社会的生きものだからではないかとしています。ただ北欧では結婚せずとも、一緒に住み、パートナーシップを築く「サンボ」という関係が法的にも社会的にも認められています。愛とは何か、経済的に自立した者同士が、どう互いを対等な関係で支え、いたわり合えるか。パートナーシップについても、北欧から学べる点はありそうです。

これからも、人がもっと幸せになれる方法を探っていく必要がある。(野中)

—先日オーサ・イェークストロムさんに取材したとき、日本人女性と「女子会」を開いた話をしてくださって(参考記事:カンヌ最高賞受賞『ザ・スクエア』を北欧女子オーサはどう観た?)。そこにいた大半の主婦たちが、口を揃えて「旦那が育児に協力的じゃない」と愚痴をこぼしていて、でも結局、「女って大変だよね」で終わってしまうのに衝撃を受けたと。「日本の女性は、『仕方ない』と思って諦めてしまう傾向にある」って。

野中:「なぜ、そこで我慢して終わってしまうの?」という話ですよね。セクハラもそうでした。日本で「セクシャルハラスメント」という言葉が使われるようになったのが、1980年代末。日本初のセクハラ民事裁判が起こって、そこでようやく「これはいけない行為だ」と広く認識されるようになった。それまでは、お尻なんて触られて当たり前、コミュニケーションの一種みたいに思われていたと聞きます。

野中モモ

—当たり前だった時代は、「我慢」とすら思っていなかったのかもしれないですよね。『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』にも書いてありましたが、家庭の問題もセクハラも、「これは不平等だ」「著しく人権を無視されている」と気づくことが大事なのかと。

枇谷:「まず気づき、構造・仕組みを知る、そして歴史を学び、法律や意識を変えていく」とあります。そして最後に「実行に移す」と。

—何かが大きく変わるときには、必ず衝突が起きますよね。「#MeToo」以降、様々な問題が日本でも噴出して、立場の違う人同士の争いも起きています。そういう意味ではフェミニズムも過渡期にあるのかもしれません。

野中:歴史を振り返れば、これまでもそうやって衝突したり、そこで工夫したりしながら道を作ってきた人たちのおかげで現在があるわけですよね。これからも、人がもっと幸せになれる方法を探っていく必要があると思いますし、誰もが生きやすい世の中になってほしいと思いますね。

8月4日、神楽坂モノガタリにて枇谷玲子と野中モモによるトークイベントが開催される
8月4日、神楽坂モノガタリにて枇谷玲子と野中モモによるトークイベントが開催される(詳細を見る

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リリース情報

『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』

2018年5月19日(土)発売
著者:サッサ・ブーレグレーン
翻訳:枇谷玲子
価格:1,620円(込)
発行:岩崎書店︎

『世界を変えた50人の女性科学者たち』

2018年4月20日(金)発売
著者:レイチェル・イグノトフスキー
翻訳:野中モモ
価格:1,944円(税込)
発行:創元社

イベント情報

『枇谷玲子「北欧に学ぶ小さなフェミニストの本」&野中モモ「世界を変えた50人の女性科学者たち」刊行記念トーク』

2018年8月4日(土)
会場:東京都 神楽坂モノガタリ
時間:19:00~21:00
料金:2,000円(1ドリンク付)

『「北欧に学ぶ小さなフェミニストの本」読書会&ちゃぶ台返し!』

2018年8月25日(土)
会場:東京都 Readin' Writin'
開演19:00 開場18:30
料金:1,500円

プロフィール

枇谷玲子(ひだに れいこ)

北欧語翻訳者。1980年、富山県生まれ。2003年、デンマーク教育大学児童文学センターに留学。2005年、大阪外国語大学(現大阪大学)卒業。在学中の2005年に『ウッラの小さな抵抗』で翻訳者デビュー。北欧家具輸入販売会社勤務、翻訳会社でオンサイトのチェッカーの経験を経て、現在は子育てしながら北欧書籍の紹介を行っている。訳書に2015年東京都美術館で行われた展示『キュッパのびじゅつかん』の元となった絵本『キュッパのはくぶつかん』(福音館書店)、『カンヴァスの向こう側』(評論社)など。埼玉県在住。

野中モモ(のなか もも)

ライター、翻訳家。東京生まれ。立教大学社会学部社会学科卒業。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジで美術史修士課程を修了。自主制作出版物オンラインショップ「Lilmag」の店主を務める。訳書『世界を変えた50人の女性科学者たち』『いかさまお菓子の本』『ミルクとはちみつ』『バッド・フェミニスト』など。共編著『日本のZINEについて知ってることすべて』。単著『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』。

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