AAAMYYYが「和の心」に抱く違和感 生まれ住む場所を愛するなら

ノルウェーの田舎町に息づく、神々の力。北欧神話を題材にしたNetflixドラマシリーズ『ラグナロク』

AAAMYYY(えいみー)
長野出身のシンガー・ソングライター / トラックメイカー。キャビンアテンダントをめざしてカナダへ留学、帰国後の22歳より音楽を制作しはじめ、2017年よりAAAMYYYとして活動を開始。2018年6月、Tempalayに正式加入。2019年2月、ソロとしての1stアルバム『BODY』をリリースした。

今回のコラムで取り上げる作品は、Netflixドラマシリーズ『ラグナロク』。まずは簡単にあらすじを説明したい。

美しい自然に囲まれたノルウェーの田舎町エッダに、母と弟3人家族で引っ越してきた冴えない少年マグネ。町の入り口で出会った老婆との接触によって彼の中で不思議な力が目覚める。人並外れた怪力や、雷雲を引き寄せることができる不思議な力に戸惑いながらも、転校先で環境活動家の少女イゾルデと友達になると、次第にエッダの奇妙な部分や環境汚染を知り、どうやらエッダの町に君臨する大企業ヨツール工業が裏で糸を引いていることを突き止める。

そんな中、イゾルデが突然ヨツール家の所有する山で謎の死を遂げてしまう。警察や学校の対応を不審に思ったマグネがヨツール家に赴くと、じつはヨツール家が巨人の一族であるという秘密を知る。さらに、マグネ自身がこの町で目覚めた力は、巨人の宿敵である雷神トールの力であり、マグネはトールの生まれ変わりであることも……。古代から続く神と巨人の戦い「ラグナロク」が現代のエッダの町で勃発する。

『ラグナロク』主人公のマグネ(左)と、その弟のラウリッツ(右)

内容を深く知らなくても、神話は私たちの日常に根付いている

北欧神話は日本人である我々にとってはあまり馴染みがないが、欧米圏で知られているギリシャ神話のように、ノルウェーやスウェーデン、アイスランド、デンマークなど北欧地方に伝わる神話だ。『マーベルシリーズ』に登場する『マイティ・ソー』は北欧神話の雷神トールから由来しており、『ハリー・ポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』のようなファンタジー作品、さらには日本の漫画『進撃の巨人』でも描かれる巨人も、ギリシャ神話や北欧神話が強く反映されている。

北欧神話における終末の日「ラグナロク」に備えて、リンゴを食べる神々の姿 / Idun and the Apples (1890) by J. Doyle Penrose.

神話という大きなくくりで言うと、世界的な時間基準となっている「曜日」も神話由来で、馴染みが深い。毎日使う曜日から、人々に楽しませるエンターテイメントまで、神話は我々の文化的背景において浸透しているものとして垣間見える要素であると言えるだろう。

ご存知の通り日本にも日本の神話があり、古来から現代の我々の教養文化背景に根ざす影響を及ぼしている。高校の古文や日本史の授業でも習った『古事記」や『日本書紀』『風土記』などは、我々の住む現代の日本社会に土着している神社寺院の起源にもつながっている。しかし、日本の神話の中に出てくる「三種の神器」だとか「八百万の神」「アマテラスの神」は聞き覚えがあるが、実際どんな神話であるかを知っている人の方が少ないだろう。

神々が国を作り、神の血を引く子孫が天皇となって人間を統治してゆくストーリーから始まり、それが何世紀も語り継がれるうちに民話のようにも語られ、それを聞いて我々は育ってきた。滝や森などの自然や「畏れ多いもの」には神様が宿っており、それらを聖地として崇めたり、ありがたいものとして祀ったりしてきた祖先からの言い伝えは、知らず知らずのうちに今でも我々にも深く根付いているはずだ。

神話というのは、世界のさまざまな地域に根付く、その地域に住む人間の独自性にも繋がる、重要な部分を形成するものなのである。だから『ラグナロク』でも取り上げられている北欧神話や、欧米地域のギリシャ神話などは、知っておくと異文化理解が深まるのでとても面白い。

日本で強調される「和」の心。「ピンチの時に一丸となって戦う」の言葉への違和感

撮影:AAAMYYY

先のコロナ禍で「日本の民度」という言葉が少しばかり話題となった。『オリンピック』の開催延期や、新型コロナウイルス感染症への政府の対応への国内外からの批判批評は記憶に新しい。あのときに語られたのは、欧米諸国の感染死者数と比べると偶然 / 奇跡的に数値が低かった日本は、「国民の民度が高い」がゆえの結果だというものだった。

「民度」というのは、人民の知的・治安・雇用環境・道徳観・文化・行動様式などの水準を意味するが、日本で「民度」という言葉が使われるときには、日本神話から引き継がれる日本人の心にある、宗教に対するおおらかさや「禅」の教えと他者への思いやり、調和の和としての概念を尊重してきたという一種の誇りを思い出そうという意味が色濃く反映されているのではないかと感じる。

『東京オリンピック』のキャンペーンや、新年号令和の発表などの場面では、日本の「和の心」を強調することが少なくなかったし、スポーツ界では「なでしこジャパン」「侍ジャパン」と名付けられたチームも存在する。だからこの未曾有の事態においても、「和の心」で乗り切ろうというわけだ。

和の心は、日本の国内史において大きな価値観となってきた。例えば内戦では侍の士気を高めるもの、新撰組のように強い剣術で正義と教えられた道を全うさせるもの、第二次世界大戦では神風特攻隊のような洗脳的戦力をも生み出した。「ハラキリ(切腹)」も、終戦直後にいくつも起こったという「威厳のある自死」も、神話から派生したものと考えられ、その皇国史観や帝国主義的な国民性を恐れたGHQによって、戦後の学校では日本神話を教えることを禁じられることとなった。

撮影:AAAMYYY

このことから、私がはっきりと言いたいのは、神話から派生した和の心は、時に政治的パフォーマンスとして利用されてきたということ、そして我々はそれを決して忘れてはならないということだ。「ピンチの時に国一丸となって戦おう」、この一言に我々はそろそろ疑問を抱かなくてはならない時がきている。

前述したような日本が辿ってきた歴史もあってのことか、日本の神話を、我々は詳しく知らないはずだ。『古事記』の一部を高校の現代文で少し読み解いた程度で、日本昔話を幼い時に少し読んだ程度で、神社と寺のどちらにもお参りし、手を合わせては一体何を思うのだろう?

クリスマスもハロウィンも欧米諸国の行事をひとまとめに受け入れた日本人である我々の、誇るべき真の「民度」は、実は外部の文化を受け入れてきたと言う事実なのかもれない。

「責任を取る」行動は本当に美しいのか?

撮影:AAAMYYY

ギリシャ神話も北欧神話も日本の神話も、神秘的な物語が書いてるようなイメージがあるが、実際のところは、そんなことはない。面白おかしい神々の日常だとか、気の抜けたような神話さえあるくらい、カジュアルな物語なのである。だから神話自体は悪くはない。

罪があるとすれば、その神話から派生した善悪の考えや道徳観、価値観を作り出した人間や、社会だ。GHQに日本神話を禁じたタイミングから70年以上経つが、その間に我々の持つ和の心は、時代と共に形骸化してしまっているし、行き過ぎた美学となっているケースも散見される。

日本における「責任を取る」という行為の風潮を考えてみると、ハラキリも過去にはその方法の一つだった。しかし、本質的な意味を我々は履き違えてはいまいか。失態を犯した政治家や会社の責任者が「責任を取って辞任」するが、これが一体何の意味を成すのだろう? 問題の根本的な解決につながっていないように思える上に、後継者に後始末やすべての責任を押し付けているといっても過言ではない。だが社会ではこれが美しいとされている。

これを延々と繰り返してきた権力者たち、そして誰かの責任を追及したり、いざ辞任すると勝ち誇ったようになり、問題が解決していなくても過去を忘れる国民。我々国民こそ、この負のサイクルに盲目的に加担していることすら忘れている。

権力者も政治家も、自分が成り上がり成功するために、国民の和の心――思いやりや調和する心――に巧みに忍び込んで、グッと手の内に引き入れるのが最初の仕事だ。「日本人が一丸となって」と言われれば簡単に信じてしまう国民を量産すれば、話は早い。「仕事だから仕方ない」の美学で終わらせるのでいいのだろうか。見事に不感のマグロとなった我々が泳ぐ世界は、果たしてどうなるのだろうか。

『ラグナロク』では物語の中で権力者の堕落が描かれているが、まさに同じようなことが世界中で起こっているのはもう誰も見て無振りをできない事実だろう。それでも日本を愛する人として、生まれ育った故郷を想って和の心を唄うのならば、自ら持つ和の概念から一度洗い直した方がよさそうだ。

プロフィール
AAAMYYY (えいみー)

長野出身のシンガー・ソングライター / トラックメイカー。キャビンアテンダントをめざしてカナダへ留学、帰国後の22歳より音楽を制作しはじめ、2017年よりAAAMYYYとして活動を開始。2018年6月、Tempalayに正式加入。2019年2月、ソロとしての1stアルバム『BODY』をリリースした。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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