加賀美健ととんだ林蘭による創作第2弾。日常にひそむ面白みを見逃さない

旅やパーティーの機会が減ったなか、心置きなく祝祭を楽しむことのできる状況が回復してゆくことを祈りつつ、日々の暮らしを新鮮な眼差しで点検し、楽しむことも忘れたくない。

誰もが目にしているはずの日常の場から独自の趣を見出し続けるアーティストの加賀美健と、とんだ林蘭による創作対談の第2弾となる今回は、リサイクルショップでお買い物をし、購入品を使って「クリスマス」をテーマに作品を制作してもらった。

取材場所への移動中、路上に落ちていた自転車のサドルカバーを発見するとすぐさま加賀美に教えていたとんだ林と、「みんながぼくに落ちてるものの写真を送ってくるんだよね」という加賀美。見慣れた景色のなかにひそむ面白みを見逃さない二人は、はたしてどのように日常を眺め、発想を広げているのだろうか。

とんだ林蘭(とんだばやし らん / 左)
1987年生まれ、東京を拠点に活動。コラージュ、イラスト、ぺインティング、立体、映像など、幅広い手法を用いて作品を制作する。猟奇的でいて可愛らしく、刺激的な表現を得意とし、名づけ親である池田貴史(レキシ)をはじめ、幅広い世代のさまざまな分野から支持を得ている。
加賀美健(かがみ けん / 右)
1974年東京都生まれ。現代美術作家。東京を拠点に制作活動を行う。国内外の数々の個展・グループ展に参加。ドローイング、スカルプチャー、パフォーマンスまで表現形態は幅広い。アパレルブランドとのコラボレーションも多数手がけるほか、自身の「STRANGE STORE(ストレンジストア)」を構え、店内では自身のコレクションや若手アーティストの展示なども行っている。

創作テーマは「クリスマス」。まずは、リサイクルショップでお買い物

二人が訪れたのは、都心から少し離れた大型リサイクルショップ、ハードオフ / オフハウス三鷹店。楽器や家電、ブランド品、スポーツ用品、洋服やおもちゃ、生活雑貨など、幅広いジャンルの商品が多数揃っている。

ハードオフやオフハウスをはじめ、リサイクルショップにはよく足を運んでいるという加賀美と、なかなか来る機会がないというとんだ林。今回決められた予算は2,000円。「足りるかな……?」と不安げな様子を見せつつ入店すると、早速それぞれに作品の素材を物色し始める。

店内を物色する二人
メロンのオブジェを手にとる加賀美

「赤いものが欲しいよねえ。あとクリスマスツリーないかな」と言う加賀美は、慣れているだけあって、広い店内をさくさくと、くまなく見ていく。まずは赤い蓋の瓶を手にとると、その後すばやくほかのアイテムも決定。開始からものの10分ほどでお会計に至った。

加賀美が選んだ、赤い蓋の瓶
レジ横商品もチェック中。クリスマスコーナーで、ステッキも発見
お会計中。3点で885円

一方のとんだ林はビンゴカードをかごに入れたあと、「これ、たまたま足元に落ちてたんです(笑)」と、偶然見つけた銀色のモールも入手。それから細かな雑貨がびっしりと並ぶ小物コーナーをチェックしていき、購入品を決定した。

レトロなおもちゃをチェックするとんだ林
細かな雑貨コーナーを物色中
お会計中。4点で775円

これでお買い物終了かと思いきや、再びCDコーナーを探し始める加賀美。マライア・キャリーの『All I Want for Christmas Is You』を見つけると、追加でこちらも購入。その間DVDコーナーを眺めていたとんだ林も『ホーム・アローン2』を発見すると追加で購入し、お買い物を終えた。

お買い物終了。滞在時間は約30分と、予定より早めに終えた

購入品で創作開始。それぞれの「クリスマス」

お買い物のあとは、レンタルスペースに移動。それぞれに作品を制作してもらった。

加賀美健の購入品

左から時計回りに、クリスマスコーナーで見つけたステッキ、赤い蓋の瓶、マライア・キャリーの『All I Want for Christmas Is You』のCD、箱入りマスク

とんだ林蘭の購入品

左上から時計回りに、ヘリウムガス、ペンライト、『ホーム・アローン2』のDVD、銀色のモール、ビンゴカード

制作開始

制作中の様子。5分程度でつくり終えた

―購入品で、各々作品を制作していただきました。お二人がつくった作品について説明してもらえますか?

加賀美健の作品『クリスマスク』

加賀美:タイトルは『クリスマスク』です。今年のクリスマスも、みんなマスクつけてるでしょ。もともとはツリーにマスクをぶら下げたいと思っていたんだけど、いいのがなくて。この瓶を見つけたあとステッキを見つけたから、これにマスクをくっつけちゃおうかなって。

―いったんお会計をしたあと、マライア・キャリーのCDを追加で購入されましたね。

加賀美:なにか物足りない気がしてね。そういえばこの瓶とステッキって『All I Want for Christmas Is You』のジャケットと色合いが一緒だなと思って探したら、奇跡的にあったの。このCDがなかったらいまいちだったと思う。あってよかったよ~。相当売れたんだろうね、このアルバム。

とんだ林:この曲だけで一生暮らしていけそうですよね。

加賀美:山下達郎とWham!もね。瓶を見つけたとき、緑色の玉を大量に入れたら、緑と赤でクリスマスっぽいうえに、梅を漬けてるみたいで面白いかなとも思ったんだけど、緑色の玉なんて都合よく売ってるわけないよね(笑)。

とんだ林:ステッキとマライアの角度が平行で、寄りかかってるみたい。

加賀美:たしかに! 瓶のなかに歌詞カードを入れようか迷ったんだけど、最終的にCDのケースを残した方が面白いかなと思ってこうなったの。これが家にあったら怖いよね(笑)。外出のときは、ここからマスクを剥がして持って行ったりしてね。

とんだ林:それは怖いと思います(笑)。漬物の瓶とかマスクとか、クリスマスに関係ないものを選んでるのにクリスマスっぽいのがすごい。

―では、とんだ林さんも作品の解説をお願いします。

とんだ林蘭の作品『サンタさんの打ち上げ』

とんだ林:最初にビンゴカードを見つけたあと、銀色の飾りがたまたま足元に落ちてたのを拾って(笑)。それからこのライトを見つけて、テーマを「サンタさんの打ち上げ」にしようと思いついたんです。

加賀美:なるほど、打ち上げか! 散らかってるから、なにかが終わったあとなんだろうなとは思ったけど、説明を聞くと面白いね。

とんだ林:サンタさんがプレゼントを配り終わったあと、仲良しのサンタ仲間4人と「お疲れー!」って、ビンゴして歌って踊って、ケーキ食べて、『ホーム・アローン2』を見ているイメージです。24日の夜に配るから、25日はオフ。このヘリウムは声が変わるやつだと思って買ったら、風船用だったんですけどね(笑)。

―とんだ林さんも最後に『ホーム・アローン2』のDVDを追加しましたね。

とんだ林:私もクリスマスの時期に結構見てるんですよ。探したら「2」がたまたまあったので足しました。

加賀美:サンタさんのビンゴ、景品が気になるよね。間違えて多めに買っちゃったプレゼントとかなのかな。

「検索しても出てこない、どこに売ってるかもわからない」ものと出会える、リサイクルショップの面白さ

―各々余ったプレゼントを持ち寄ったんでしょうね。今回のお買い物はどうでしたか?

加賀美:予算が2,000円以内だと全然足りないかと思ったけど、余裕だったね。

とんだ林:あの場所で2,000円以上のものを買うの、すごく勇気がいりました。「安くていいものを見つけたい!」っていうモードにどんどんなっていくんですよね。

―加賀美さんは普段からリサイクルショップによく行かれるそうですね。

加賀美:昔から好きでしょっちゅう行きます。あとは前回の取材でも言ったけど、メルカリだね。カードの明細を見ると、ひたすら「メルカリメルカリメルカリ」って並んでる(笑)。

それと、捨てられているものを拾うのも好きですね。アメリカだと、スケーターの人が新しい靴を買ったあと、履き古したぼろぼろの靴をよくそのまま捨てて帰っちゃうんだよ。そうやって捨てられているVANSを拾って履いたりしてました。あとは自分の結婚式で着たタキシードも、サンフランシスコで拾ったもの。

―すごい出会いですね。リサイクルショップのどんなところに面白さを感じますか?

加賀美:まず、なによりも安い。それに、今回買ったステッキみたいなものを見つけちゃうとたまらないよね。

とんだ林:リサイクルショップじゃないと見つけられないようなものってありますよね。

加賀美:検索しても出てこないし、探そうと思っても、どこに売ってるかもわからないじゃないですか。もちろん面白いものがない日もあるんだけど、あったときの嬉しさが癖になって、また行きたくなるの。もの自体がほしいというよりも、見つけたときの感覚をまた味わいたくて行くのかもしれない。

―物欲ともまた少し違った感覚なんですね。前回の取材の際、加賀美さんはかっぱに関するものを集めるブームが来ていた時期があったとお話しされていましたけど、最近はそういうブームってありますか?(前回記事:加賀美健ととんだ林蘭による創作企画。2人に学ぶ「ひらめき方」

加賀美:「巨大」でよく検索してるかもね(笑)。なるべく売ってないものがほしいから、「巨大 非売品」で検索して、うまい棒の柄の180cmあるタオルをなにかに使えないかなって買ったりしました。筒状に縫って着れるようにすれば、うまい棒になれるでしょ。

―たしかに(笑)。とんだ林さんはリサイクルショップでの出会いで印象的だったものってありますか? 今日も私物としてジェニーのドレッサーセットを買っていましたね。

とんだ林が、私物として購入した「ジェニー ビューティールーム」

とんだ林:これは作品に使えるかもしれないと思って。ジェニー用の顔パックがついてるのがいいんですよね(笑)。あとは昔、伊勢のリサイクルショップで買った、男女の裸がモチーフになっている歯ブラシはいまだに作品に使っていて、大事にしてます。

日常にひそむ「面白いもの」をつねに探し、見逃さない

とんだ林:私は普段からよくリサイクルショップに足を運ぶわけじゃないけど、旅行で地方に行ったときに見かけたら立ち寄るんです。でも加賀美さんのように、いろんなもののなかから時間をかけて掘り出すことが得意じゃないかもしれません。お買い物はタイミングと偶然の出会いが多いかな。

―目的を持って探し求めるという感覚ではないんですね。

とんだ林:自分が作品のモチーフにしたくなるものとよく出会うのは、スーパーマーケットやコンビニが多いです。探すためにわざわざどこかへ行くというよりは、日常的に足を運ぶところで、「今日食べるもの、なにつくろう」っていうことと同じように作品のことを考えている感じです。

―普段の生活の一連のリズムのなかに、ものづくりについて考えることが組み込まれているような感覚なんですね。

とんだ林:アニメでも『サザエさん』や『コジコジ』みたいに日常生活がベースにあるものが好きなんですよ。日常のなかにあるみんなが知っているものの組み合わせを変えたり、タイトルをつけることで見え方が変わることに面白さを感じるんです。コラージュで作品をつくり始めたばかりのころは、それがまさに楽しくて。味気ない物撮りや料理本の写真も、コラージュすることでまったく違った感覚で見えてきますよね。

―加賀美さんは今年異なるものの組み合わせを楽しむ『くっつけてみよう』という絵本を出されていましたよね。

加賀美健『くっつけてみよう』(ケンエレブックス)

加賀美:くっつけたり、組み合わせることは好きですね。

とんだ林:今日の作品のタイトルも「クリスマスク」でしたよね。

加賀美:基本的に全部ダジャレだから(笑)。若いときからそうなんだけど、この歳になってやってると親父ギャグだよね。くっつけること自体は誰でもできるけど、なにをくっつけるかが大切。チョイスの仕方にセンスを要するし、そこが一番難しいかもしれない。

とんだ林:「組み合わせ」ということでいうと、仕事で制作をする場合、基本的にお題があるじゃないですか。それに対してどんなものを持っていったら面白くなるかは、私も毎回すごく考えます。

王道すぎてもつまらないし、どこまで違和感を出そうかなって。以前は一人で絵を描いたり、ものをつくることが好きだと思っていたけど、いまはそういう面も含めて、人が関われば関わるほど、一人でつくれないものをつくれる面白さを感じます。

加賀美:ぼくに来る仕事は、ぼくに頼むくらいだから基本的に先方も覚悟してるし(笑)、おまかせされることが多いけど、そのなかでいかに遊べるかは心がけてますね。

―二人とも、つくるのも選ぶのも、とにかく早いですよね。それは自分にとっての正解がはっきりとあるからですか?

加賀美:飽きちゃうんだよね。あとは慣れ。お店だったら、入った瞬間にざっと見たら、いいものがありそうなところがわかる。

とんだ林:すごい(笑)。

加賀美:これは訓練なの。海外のスリフトショップ(リサイクルショップ)だと、30分も経てば新しい商品が入ってきたりするから、一つの店に行ったあと、さっき行った店にまた戻ったりする。そういうことをずっとやってきたから、大体空気でわかるんだよね。それに、電車に乗っていても、街を歩いていても、面白い人やものや風景をつねに探してる。外に出かけたら、一つでも面白いものを見つけられたらいいなっていう感覚で歩くことが、ルーティーンになってますね。

とんだ林:私もよく外で道行く人を見ているんですけど、そういうふうに考えながら歩いていると、引き寄せますよね。加賀美さんが拾ってるものって、こんなのが落ちてるの見たことがないって思うようなものがあったりするじゃないですか。

加賀美:いつも「なにか落ちてないかな」って思いながら外を歩いてるからだと思う。なにか拾おうと思って歩いてる人ってあんまりいないじゃない(笑)。それだけでわくわくしちゃうもんね。

プロフィール
加賀美健 (かがみ けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。東京を拠点に制作活動を行う。国内外の数々の個展・グループ展に参加。ドローイング、スカルプチャー、パフォーマンスまで表現形態は幅広い。アパレルブランドとのコラボレーションも多数手がける他、自身の「STRANGE STORE(ストレンジストア)」を構え、店内では自身のコレクションや若手アーティストの展示なども行っている。

とんだ林蘭 (とんだばやし らん)

1987年生まれ、東京を拠点に活動。コラージュ、イラスト、ぺインティング、立体、映像など、幅広い手法を用いて作品を制作する。猟奇的でいて可愛らしく、刺激的な表現を得意とし、名付け親である池田貴史(レキシ)をはじめ、幅広い世代のさまざまな分野から支持を得ている。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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