M.I.A.、The xxが参加するドキュメンタリー映画祭『CPH:DOX』レポ

M.I.A.、The xxが参加するドキュメンタリー映画祭『CPH:DOX』レポ

北欧のハルキストたちが集結。図書館で行われた『Dreaming Murakami』の上映会

今年度は村上春樹についてのドキュメンタリーが図書館で上映されると聞いて、映画祭初日にチケットカウンターに訪ねました。しかし、即完売。村上春樹のドキュメンタリー上映はデンマーク人にとっても一大イベントのようです。滞在最終日のイベントということもあり、最後まで諦めきれずデンマーク最大級の王立図書館ブラック・ダイヤモンドに向かいました。開場10分前になんとか席を確保することができ、デンマークのハルキストたちが集まる上映会場へ。

ブラック・ダイヤモンドで行われた『Dreaming Murakami』のトークイベント
ブラック・ダイヤモンドで行われた『Dreaming Murakami』のトークイベント

『Dreaming Murakami』はデンマークの翻訳家Mette Holmがいかに村上作品を解読し読者に伝えようとしているか、その創作の過程を追ったドキュメンタリーです。実際に東京の空気に触れ、他国の村上作品の翻訳者と議論を交わしたり刷り上がった装丁のサンプルのデザインに容赦なく突っ込みを入れたりと彼女のプロフェッショナリズムが伝わってきます。翻訳に集中するため、ひとり日本で旅を続けるMetteは、村上春樹の生まれた国になぜ彼女が惹かれているのかを私たちの見慣れた風景をバックに語り始めます。

「人間はもう自国の小説だけ読んでいては生きられない」と翻訳者としての使命と覚悟も感じさせる彼女の語り口は、きっと多くの北欧の人々、そして日本人にも深い感銘を与えるに違いありません。終映後は、ブラック・ダイヤモンドで行われるMetteと監督のトークショーが行われ、他の地域の主要な図書館でも中継が配信されました。

M.I.A.の自伝ドキュメンタリー『Matangi / Maya / M.I.A.』上映&トークイベント

『Matangi / Maya / M.I.A.』の公開を記念してイギリス出身のミュージシャン / アーティストM.I.A.を迎えてのトークイベントが行われました。22時前からと非常に遅めのタイムスケジュールながら満席となった会場は、M.I.A.の口からどんな言葉が発せられるのかとたくさんのファンが集まり、熱気が充満した現場となりました。

この『Matangi / Maya / M.I.A.』という作品は、彼女の生い立ちを丁寧に編集した王道の自伝ドキュメンタリーでありながら、彼女が歩んできた道のりや尋常ではない経験を描いた型破りな傑作となっていました。

蛍光黄緑パーカのフードを被って会場に現れたM.I.A. ©Signe Elisabeth Sloth
蛍光黄緑パーカのフードを被って会場に現れたM.I.A. ©Signe Elisabeth Sloth

本名マタンギ(マヤ)・アラルプラガサム。両親はスリランカの少数民族タミル人であり、マヤの父は反政府活動家として活動していました。民族間の対立は内戦に発展し、マヤは10歳で難民としてロンドンに渡ります。そんな彼女が成長しイギリスで美大生活を送っていた頃、従兄弟がLTTE(タミル・イーラム解放のトラ)の自爆攻撃に加わったことをきっかけに自身のバックグラウンドに根付いた表現活動M.I.A.すなわち「missing in action(戦闘中行方不明)」を始動させます。

M.I.A.のアーティストとしての大きな特徴として、「辺境」と呼ばれる地域の人々との共同制作を行うことが挙げられます。それは彼女の創作の要となるものです。今回のトークイベントでは彼女と限りなく近い志を持つ「Turning Tables」という団体からメンバーが参加していました。彼らはコペンハーゲンで事業を立ち上げ、人種や政治などの問題のために疎外されて生きている世界中の子供たちが内なる声を発することができるよう、音楽というツールを持たせるために機材の提供やワークショップなどを行っています。

M.I.A.とTurning Tablesが登壇したトークイベントの様子 ©Signe-Elisabeth-Sloth
M.I.A.とTurning Tablesが登壇したトークイベントの様子 ©Signe-Elisabeth-Sloth

「子供たちのなかには深い傷を負ったものもいるが、生まれてくる音楽には聞いたことのないような遊びの効いた表現がある。ポジティブな力を感じるし、それはまた私の大きなインスピレーションになる。彼らはとんでもない人生を送ってきたんだから」というM.I.A.の発言に「Turning Tables」のメンバーも深く賛同していました。

「とにかく私は空から爆弾を落とすんじゃないと訴え続ける」。M.I.A.の言葉はあの夜、21世紀のポップ・ミュージックの世界に裏側で起こっている現実を私たち観客に突きつけました。イベントが終了したのは24時過ぎ。ライブあるいはデモ後のような雰囲気のなか、会場をあとにしました。

金子遊、吉田孝行ら日本人作家も多数参加。鬼才クリス・マルケルの日本への眼差しを出発点にした映像作品展『With or Without the Sun』

左から:『With or Without the Sun』を企画したChristopher Sand-Iversen、Staffan Boije
左から:『With or Without the Sun』を企画したChristopher Sand-Iversen、Staffan Boije

100年以上続く映画史のなかでもとりわけ異彩を放つ作家クリス・マルケル。彼が日本への興味を主軸にキュレーションを行なった作品群がSixtyEight Art Instituteというコペンハーゲンの中心地に位置するギャラリーに集まりました。展覧会名は『With or Without the Sun』。

参加作家は日本からは土本典昭、金子遊、吉田孝行、UMMMI.。他国からもヴィム・ヴェンダースを含め数名の作家による、日本についてのビデオ作品あるいは写真が展示されています。企画者のStaffan Boijeに事前に連絡を取り、昼時に訪ねると共同企画者のChristopher Sand-Iversenと共に温かく迎えてもらいました。シナモンロールにコーヒーが用意され、正しく「フィーカ」タイムです。

「SixtyEight=68」というギャラリー名について、クリス・マルケルや土本典昭(『水俣患者さんとその世界』などで知られるドキュメンタリー映像作家)の展示をしているという事前情報から「革命の時代を意識しているのかな」と思い由来を聞いたのですが、返ってきた「ギャラリーの平米数」という答えには拍子抜けしてしまいました。この作品群を繋ぐ共通項として「エッセイ映画」というものがあり、SixtyEightの二人はそれをフィクションとドキュメンタリーの境界線にあるものだと説明しています。

この展示で初めてその存在を知ったスペインの監督Jorge Suárez-Quiñones Rivasによる映画『The Eternal Virgin』は、小津安二郎作品に登場する原節子の仕草を何十種類も切り取り、程よいテンポで貼り付けた作品です。

『Sans Soleil』© Chris Marker
『Sans Soleil』© Chris Marker

日本人である私が、外国の作家の眼差しを通して再編集された作品を観ると、それは小津安二郎が描いた日本人にとっての日常風景なのだけれど、とても非日常的に感じられます。ステレオタイプな物の見方が剥がされていくような体験をしました。

2000年代に産声をあげ、世界で最も注目すべきドキュメンタリー映画祭にまで成長を遂げた『CPH:DOX』。市民にとっても参加しやすく、ドキュメンタリーを通じてさまざまな事象について目を向けさせるプログラムは、知が集結する「未来の図書館」とでも形容できそうな、新しい映画祭の様式を発信していると感じました。

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プロフィール

熊澤隆仁(くまざわ たかひと)

トーキョーノーザンライツフェスティバルのプログラム編成を担当。デンマークを中心とした北欧諸国を長期間旅し、ヨーロッパ各所映画祭で北欧映画シーンの盛り上がりを実地で体験してきました。

『CPH:DOX』

2018年3月15日(木)~3月25日(日)
ヨーロッパのドキュメンタリー祭のネットワーク「Doc Alliance」のうちの一つとして、2003年にコペンハーゲンでスタートした国際ドキュメンタリーの祭典。アーティストによるキュレーションなど、多彩なプログラム注目を浴び、年々その規模を成長させている。

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