高円寺メタルめし・ヤスナリオが語る、北欧文化とメタルへの愛

音楽の街・高円寺には「カフェめし」ならぬ、「メタルめし」なる飲食店があるのをご存知だろうか。ヘヴィメタルのバンドや、その作品名をもじったユニークなメニューを取り揃えた「高円寺メタルめし」は、メタル好きの、憩いの場。日々メタラーが集まり、夜な夜な「メタル話」に花を咲かせている。

そう聞くと、なにやら「一見さんお断り」の怖い店のように感じるかもしれないが、そうではない。壁にはメタルミュージシャンをモチーフとした可愛らしい絵が描かれ、木目を生かしたインテリアに、北欧デザインの食器が並ぶなど、まるでポートランドのカフェのような雰囲気。そのオシャレな内装と外観に惹かれ、思わず立ち寄る若いカップルや女子グループも少なくないという。ヘヴィメタルとカフェめし、さらに北欧デザインを違和感なくミックスさせ、居心地のよい空間を提供する「高円寺メタルめし」はいかにして生まれたのか。オーナーのヤスナリオに話を訊いた。

「メタルめし」は、しょうもないダジャレ感が特徴です(笑)。

—まずは、「メタルめし」とはなにかを教えてもらえますか?

ヤスナリオ:「メタルめし」というのは、ヘヴィメタルバンドやその曲名をもじったメニューのことです。たとえば、Metallicaの『Master Of Puppets』(1986年)というアルバムをもじった「マスター・オブ・ナゲッツ」という、でっかいナゲットを盛りつけたメニューを提供しています。

『Master Of Puppets』はメタラーにとって「経典」とも言えるアルバムなんですけど、そういうしょうもないダジャレ感が特徴ですね(笑)。外国のお客様にも通じるみたいで、メニュー見るとみんな「く、くだらねえ……」と失笑しています。

ヤスナリオ
ヤスナリオ

マスター・オブ・ナゲッツ
マスター・オブ・ナゲッツ

ヤスナリオ:「マスター・オブ・ナゲッツ」は、フライドポテトを十字架の形にしたり、赤く染まる雲を大きなナゲットで表現したり、ジャケットのイメージにも忠実なんですよ。


METALLICA“Master of Puppets”を聴く

ヤスナリオ:料理の傾向としては、がっつり食べられる肉料理や大盛りのスパゲティ、丼物が多いです。イカスミを使って真っ黒にしたドリアとか、スナック菓子など尖った食材を使って飾りつけたり、見た目のインパクトも大事ですね。味つけ的には、なぜかピリ辛系のものが多くなっています。

コーン・イン・ア・マッシュポテト / 元ネタはAnthraxの楽曲“Caught in a Mosh”(1987年)
コーン・イン・ア・マッシュポテト / 元ネタはAnthraxの楽曲“Caught in a Mosh”(1987年)

—ドリンクメニューはいかがですか?

ヤスナリオ:「アイアンサワー」「ブラッディアイアンサワー」っていうメタルっぽい名前のものがあります。どちらも鉄分たっぷりのエキスを、炭酸と焼酎で割ったもので。鉄分は肝臓にもいいし、ヘルシーなドリンクなんですよ。ちなみにブラッディアイアンサワーは、アイアンサワーにカシスを加えたものです。

それと、Rhapsody(イタリアのシンフォニックメタルバンド。現在は「Rhapsody Of Fire」と改名し活動中)の“Emerald Sword”(1998年)という有名な楽曲があって、メタラーはみんな「エメソ」と呼んでいるんですが、それにちなんだ「エメラルド・ソーダ」というドリンクもあります。ただのメロンソーダなんですけど、お客さんからは「エメソください」って頼まれます(笑)。

ヤスナリオ


Rhapsody Of Fire“Emerald Sword”を聴く

—ダジャレと言いつつもメニューを考えるのも一筋縄ではいかなそうですね。

ヤスナリオ:そうなんですよ。お客さんからもリクエストがあるのに、名前が思いつかなくて出せないものとかもありますから。たとえばSabaton(スウェーデン出身のパワーメタルバンド)とか、「鯖(サバ)」と「豚(トン)」でいくらでも思いつきそうだけど、そのままだと面白くないし、悩みどころなんですよね(笑)。

激しく過激なメタルを奏でている人ほど、ベジタリアンだったりビーガンだったりするのも興味深いですよね。

—メタラーだったらきっと一度は訪れたいお店なのかなと思いますが、有名なメタルミュージシャンも遊びに来ます?

ヤスナリオ:Arch Enemy(スウェーデン出身のメロディックデスメタルバンド)のマイケル・アモットさんというギタリストの方が来てくださいましたね。

2014年に『メタルめし』(DU BOOKS)の本を出したんですけど、そのときにArch Enemyをもじった料理を掲載したら、本人が気づいてくださって。「日本に行ったときは、ぜひ店に遊びに行くよ」みたいなことを、Twitter経由で言ってくれたんです。「社交辞令でも嬉しいなあ」と思ってたら、今年の6月に本当に来てくださって。そのあとも何度かご来店していただいているんですよ。

マイケル・アモットの壁画とサインとともに
マイケル・アモットの壁画とサインとともに

ヤスナリオ:アモットさんはベジタリアンで、前もって「ベジタリアン用のメニューはできますか?」って問い合わせがあったので、初めて挑戦してみました。大豆ミートを使ったミートボールを使って、名前は、Arch Enemyの“As The Pages Burn”(2014年)という曲をもじって、「アズ・ザ・ベジズ・バーグ」にしました。ダジャレもちゃんとウケたのでよかったです(笑)。料理も気に入っていただけて、「家で作るからレシピ教えてくれる?」って言ってくださいましたね。

アズ・ザ・ベジズ・バーグ
アズ・ザ・ベジズ・バーグ

—北欧のメタルミュージシャン、それもとりわけブラックメタルをやっている人たちにはベジタリアンが多いみたいですけど、なぜなんですかね?

ヤスナリオ:ブラックメタルは「死」がテーマの歌詞が多いんですけど、動物の死についてなど調べていくうちに、動物愛護の精神が芽生えるみたいで。「動物をわざわざ殺して食べなくたって、いいじゃないか」という考えに行き着くらしいです。

激しく過激なメタルを奏でているミュージシャンほど、ベジタリアンだったりビーガンだったりするのも興味深いですよね。たとえばCarcass(イングランド出身のエクストリームメタルバンド)というバンド名は、「死体」とか「死骸」っていう意味なんですが、メンバーは全員ビーガン。Arch Enemyのメンバーも革製品は一切身につけず、合皮にしているみたいです。

—徹底しているんですね。

ヤスナリオ:きっと、メタラーってオタク気質な人が多いんじゃないかと思いますね。なにかひとつのことを極めたいというか、追求したくなる人たちなんでしょうね。

アモットさんの他にも数々のアーティストが来店し、サインを寄せている
アモットさんの他にも数々のアーティストが来店し、サインを寄せている

高円寺にはゆるい感じのお店があることを知って。「この感じだったらやれるかもしれない」って思っちゃったんです(笑)。

—そもそものお話なんですけど、「メタルめし」を考案されたのは、どんなキッカケがあったんですか?

ヤスナリオ:今から7~8年くらい前に、男子ブロガーが流行ったので、それに便乗しようと思って料理ブログを始めまして(笑)。でも料理ブログといっても、小洒落た感じの料理っていうのは自分には合わなかったんですよね。それで、「もっと自分の好きなものに寄せていこう」と考えたときに、中学生の頃から大好きだったヘヴィメタルと料理を、無理やり結びつけることを思いついたんです。

—料理も昔からお好きだったんですか?

ヤスナリオ:学生の頃に自炊していて、「お金をかけず、いかに美味しい料理が作れるか?」ということを考えながらいろいろ工夫してたら、面白くなってきて。冷蔵庫のなかにある、あり合わせの食材だけで作れるような料理を、最初はブログに上げていたんです。それを読んだ出版社の方から書籍のお話をいただいて、『深夜特急めし109』(2013年 / 主婦と生活社)というレシピ本を出しました。そのあと「メタルめし」が書籍化したのは、そのレシピ本がキッカケとも言えますね。

ヤスナリオ

—高円寺にお店をオープンしたのは、どんな経緯だったのでしょうか。

ヤスナリオ:『メタルめし』の本を出して1年経った頃にはもう、自分のなかでやり尽くした感があったんですよね。メニューを考えレシピを検討し、ブログに上げて書籍化して、っていう一連のことに「飽きた」というわけではないんですけど、「これをこのまま続けていても、きっと面白くないな」と。

だったら、「次は店しかない!」と思って奥さんに相談したら、「やったほうがいいよ」と即答してくれたんですね。そのとき縁あって高円寺に引っ越してきたタイミングだったんですけど、ご飯を食べるところを探しつつ散歩してたときに、結構ゆるい感じのお店がいろいろあることを知って。「この感じだったらやれるかもしれない」って思っちゃったんです(笑)。それが2015年の始めくらい。それでその年の6月にはオープンしていました。

「普通のオシャレなカフェかな」と思った女子が間違って入って来ないかなと狙ってたりもする。(笑)

—実際にお店をオープンしてどうでした?

ヤスナリオ:いやもう大変でしたね。アルバイト含め飲食店の経験が全くなかったので、最初はなにをどうしたらいいのか全然わからなくて。でも、お客さんはみんな、「メタル好き」という共通項で集まってくれているので、とても優しいんですよ。ちょっとくらい料理を出すのが遅くなっても、「大丈夫、大丈夫」って言ってくださって。最初の数か月は、それで助けられましたね。

ヤスナリオ

—へえー! いい話ですね。メタルのアーティストたちを可愛くデザインした壁画もいいですよね。メタルが持つ、ポップでキッチュな側面が引き出されていて、とても和みます。

ヤスナリオ:この壁画は、ずっとファンだった漫画家の堀道広さんにお願いしました。メタルとかあまりご存知じゃなかったみたいなのですが、無理にお願いして、あえてゆるいタッチで描いていただきました。

マイケル・アモットの壁画

ヤスナリオ:ちなみにタイトルは、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』をもじって「最後のBurn餐」です(“Burn”はイギリスのハードロックバンド、Deep Purpleの代表曲)。このタイトルは堀さんが思いついて、「最後は食卓を燃やしちゃいましょう」と言って炎を描き加えてくださいました。

—(笑)。お店の内装もとっても素敵ですよね。真空管を模したライトとか、メタルと北欧雑貨が不思議と違和感なく馴染んでいます。

ヤスナリオ:ミックスカルチャーすぎて、ワケわかんないですよね(笑)。もともと僕は、メタルとは関係なく北欧カルチャーが好きで、食器なども集めていたので、その辺の趣味も自然と組み合わさっているんです。壁に貼ったタイルも北欧で人気のものだったりしますし。この界隈は古着屋さんとか多くて、「普通のオシャレなカフェかな」と思った女子が間違って入って来ないかなと狙ってたりもするんですよね(笑)。

 

イングウェイが好きなあまり、「イング米・マルメステーキ」というメニューも考案しました(笑)。

—メタルは様々なジャンルに細分化されていますけど、ヤスナリオさんが特に好きなのは?

ヤスナリオ:やっぱり北欧メタルですね。最近気づいたんですけど、北欧メタルのなかでも歌メロが美しく、ギターを構築していくような伝統的なスタイルが特に好きで。伝統的な北欧メタルは、とにかくメロディーが美しいんですよ。

僕の場合、どんなに激しいイントロがあっても、歌メロが綺麗じゃなきゃ受けつけなくて。なかでも好きなのがEurope(スウェーデン出身のハードロックバンド)なんですけど、僕ら世代の北欧メタル代表選手ですよね。

—今日、着ているパーカーはスウェーデン出身のイングウェイ・マルムスティーンのものですよね。イングウェイもお好きなんですか?

ヤスナリオ:大好きですね。彼はアメリカで速弾きを広めた北欧メタルの象徴的存在なんですよ。スウェーデンでも、ちょっとおもしろい人というか。オジー・オズボーン(ex.Black Sabbath)みたいな「おもしろキャラ」として捉えられているみたいで、「俺は貴族だ」と言いながらバラエティー番組に出てツッコまれたりしてるらしいんです(笑)。そういうところも含めて愛すべき人ですね。

ヤスナリオ

ヤスナリオ:音楽的には、もともとクラシック畑で、ジミ・ヘンドリックスやリッチー・ブラックモア(ex.Deep Purple)を聴いてロックに目覚めた人。なので、クラシカルで美しい旋律と、ロックを融合させているところが魅力ですね。それは、のちの北欧メタルにも受け継がれていると思います。


イングウェイ・マルムスティーン『Trilogy』(1986年)を聴く

ヤスナリオ:イングウェイが好きなあまり、彼の名前をもじった「イング米・マルメステーキ」というメニューも考案しました(笑)。「丸めたステーキ=マルメステーキ」ということでハンバーグなんですが、つなぎにパン粉ではなくお米を使っているので「イング米(ベイ)」。ちょっとモチっとした食感で女子にも人気なんです。

さらに、彼のバンドであるRising Forceにちなんだ「ライジング・チーズ」というオプションがあって。お客さまに「ライジング・チーズしますか?」ってお尋ねして、欲しいとおっしゃる方にはチーズを乗せています(笑)。

ヤスナリオ

イング米・マルメステーキ
イング米・マルメステーキ

メタルは懐が広い文化なのかなと思います。

—ヤスナリオさんはメタル以外にはどんな音楽を聴いていましたか?

ヤスナリオ:そこもやっぱり北欧で、The Cardigansを筆頭にスウェディッシュポップが好きでしたね。1990年代当時はブリットポップやオルタナティヴロックにはいかず、トーレ・ヨハンソン(スウェーデンの音楽プロデューサー。The Cardigansらを手がけた)の「タンバリンスタジオ」で録音したようなバンドを聴いていました。Cloudberry Jamとかいろいろいましたよね。


Cloudberry Jam『Another Moment Follows』(1996年)を聴く

—スウェディッシュポップと北欧メタルにも、なにか共通点ってあるものなんでしょうか。

ヤスナリオ:レトロで哀愁が漂っているところは共通点かもしれないですね。北欧メタルも、昔のメタルの要素を取り入れながら、哀愁漂うメロディーを歌っていますし。日本人の琴線に触れるのはなにか共通のものがある気がしますね。

そういえば、The Cardigansのピーター・スヴェンソン(Gt)とマグナス・スヴェニングソン(Ba)はメタル好きで、バンドでもBlack Sabbathの“Sabbath Bloody Sabbath”をカバーしていましたよね。


The Cardigans“Sabbath Bloody Sabbath””(1995年)を聴く

—お話を伺っていると、メタルっていろいろなものと融合しやすいジャンルなのかなと思いました。メタルと食べ物もそうですけど、音楽的にも、たとえばKORPIKLAANIはフィンランド民謡をメタルに取り入れて新たなジャンルを開拓しましたよね(参考記事:当事者・KORPIKLAANIに訊く、北欧はなぜメタルバンドが多い?)。各々が様々なスタイルと融合したからこそ、どんどん細分化していったのかなと。

ヤスナリオ:確かにそうですね。それだけメタルは懐が広い文化なのかなと思います。なんというか、「マイノリティー意識」があるからなのかもしれないけど、他のものと混ぜてもらうと喜ぶんですよね(笑)。それに、ちょっと自虐っぽいユーモアも楽しめる人たちが多いように思いますし。

—それはきっと、メタルとアイドルをかけ合わせたBABYMETALにも言えることで。様式美というか、メタルの伝統的なマナーを守りつつ、新しいものをどんどん取り込んでいくのは日本だと歌舞伎にも通じるかなとも思いました。様式美を大切にする文化が日本人は好きですよね。

ヤスナリオ:ああ、確かにそれはそうかもしれないですね。

ヤスナリオ

このお店で「メタル=怖いもの」というイメージを払拭できたらいいなと思う。

—今後の目標としてはいかがですか?

ヤスナリオ:多くの人にメタルの魅力を伝えたいですね。『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)という映画が公開されてからは特に、「メタル=怖いもの」というイメージがついちゃったような気がするんですよね(笑)。なので、このお店でそういうイメージを払拭できたらいいなと思っています。

ヤスナリオ

—音楽を聴くこととか、文化や演劇とかを好きな人が集まれる場所、コミュニティーみたいなものが、ネット空間ではなく実際にあるというのは、すごく素敵なことだなと思っていて。「メタルめし」が、そういう場所になっていると実感することはありますか?

ヤスナリオ:毎日実感していますよ。僕はこの店のカウンターに立って、毎日お客さんとメタルの話をしているから、それが当たり前のような気持ちになっていたんですけど、お客さんに聞くと、「こんなにメタルの話を思いっきりできる場所はここしかない!」って言うんですよね。特に20代の子たちには、周囲にメタル好きがあまりいないみたいで、ここに来てメタルの話をすることをとても楽しみにしてくれているんです。そうやって喜んでいただいて、繰り返し来ていただいているのはありがたいですし、お店を始めてよかったなって心から思います。

それにここでは、会話を楽しんでもらいたくて、普通のロックバーやクラブとは違ってBGMも小さめにしているんです。もちろん流しているのはメタルですが(笑)、音が大きすぎて会話が出来ないなんてことはないので、ぜひ気軽に遊びに来てほしいです。

ヤスナリオ

プロフィール
ヤスナリオ

三度のメシよりヘヴィメタル好き!かもしれない、自称「料理勉強家」。「ホントはこういうのが一番ウマいんだよねぇ」と唸らせる、シンプルでカンタンな料理をブログで発信。雑誌、WEB、TV番組などへのレシピ提供も行う。2015年6月より、「高円寺メタルめし」をオープン。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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