ケラリーノサンドロヴィッチが語るカウリスマキ「引退」への思い

ケラリーノサンドロヴィッチが語るカウリスマキ「引退」への思い

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:江森康之 編集:川浦慧

カウリスマキと小津安二郎から「がっつかなくてもいい」の精神は受け継いでると思います。

ーKERAさんとカウリスマキの作品では、かなりテイストが違うと思いますが「ここは似ている!」と感じるところはありますか?

KERA:ありません。全然違うと思います。僕の場合はセリフを最強の武器としている。セリフが極端に少なく、「間」ばかりっていうのは映像では成立しても、舞台だとかなり危なっかしい。「死に間」っていうんですけど、スクリーンやモニターのようなフレームを持たない舞台では、その「間」が何を意味しているのが伝わらずに死んでしまう場合が多いんです。とくに広い劇場では「間」はなかなか生かせない。

ただ、間尺の取り方についてはカウリスマキから刺激されるところは大いにあります。あとは、これはカウリスマキからだけじゃなくて小津安二郎の影響も大きいけれど「がっつかなくてもいい」の精神は受け継いでると思いますね。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

ーカウリスマキも小津も、気負いのなさが魅力ですね。もちろん、精緻な技術なしには成り立たないものですが。

KERA:僕はいろんなタイプの作品を作ってきて、一時期、道徳性や善意、モラルみたいなものによって、むしろ残酷になってしまう世界に取り組んだことがあります。そこで参考にしたのが小津の登場人物でした。

小津の『晩春』の終盤に、笠智衆と原節子が演じる親子の名シーンがあります。嫁に行く娘と父親の会話なんですけど、僕の『消失』という作品で、まったく異なる設定でこの会話をそのまま引用したんです。兄弟の会話です。弟がロボットなんですが、自分がロボットであることを知らない。一種のディストピアものなんですけど、当然ながら、同じテキストでも響き方は全然違う。作りながら、なんとなくカウリスマキのことも考えていたんですよ。

ーカウリスマキも小津からは大きな影響を受けていると言っていますもんね。この二者は、繊細な行き違いから傷ついてしまう善き人をたくさん描いている。

KERA:そういうキャラクターの設定に対して、極めて抑制した演出を与えるでしょう? ほぼ棒読みの演技であるにもかかわらず、過不足なくイメージが伝わる。

ーカウリスマキも小津も、かなり削ぎ落としていますね。やはり、北欧の世界観と日本人の持っている性質には、通ずる部分がある気がします。

KERA:そうかもしれないですね。そして突如、ぶっきらぼうなまでに突如、飛躍する。『街のあかり』でも、警備員の主人公と、彼を騙そうとしている女がはじめて出会うカフェのシーンで、いくつか会話を交わした後にいきなり「俺と結婚するか?」と言っちゃったりする。そのリアリティー。日本では高倉健なら成立するかも、というようなぶっきらぼうな飛躍ですよ。

歪曲して歪曲して、ストレンジな方向に持っていこうとする会話よりも、よっぽど端的で、驚きがあって、おかしくて、美しくて、見事な会話です。僕も「ここぞ! というときにそういうセリフが書けたら」って心から思います。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

どこかで突然に人生がキャンセルになるかもしれないぞ、とは常に思っています。

ーそこで最初の質問に回帰したいと思います。KERAさんが59歳になったときも演劇を続けていると思いますか? それともカウリスマキのような引退宣言はありえますか?

KERA:もう4年後の58歳までの仕事が決まっちゃってるんですよね(苦笑)。だから倒れでもしない限りは続けているはず。心配なのは、急に体調が悪くなるケース。人間って、4年かけて次第に具合が悪くなっていくとは限らないから、どこかで突然に人生がキャンセルになるかもしれないぞ、とは常に思っています。

ーたしかに、そうですね。

KERA:だけど、50代で自分が働けなくなるかもしれないっていうことを生々しく考えてしまうと動けなくなっちゃうから、あるときからそう考えるのをやめたんです。今は、もうちょっとやれると思ってるし、50代のうちにやっておきたいこともいくつかあるから。

それと、歳をとってからの方が面白く書けること、面白く演じられることがあるのもわかっている。その上で、「これをやるには遅かった」「これはもっと先でもよかった」というのがあったりする。こんなこと昔はかけらも考えなかったことなんですけどね。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

KERA:ところでカウリスマキの引退の理由ってなんなんでしょう?

ー詳細はわからないですが、突如として言いそうな雰囲気はある人ですよね。

KERA:ファンとしては最後に『浮き雲』(1996年)みたいな映画を撮って、有終の美を飾ってくれたら嬉しかったですけどね。

『浮き雲』(1996年) ©Sputnik OY
『浮き雲』(1996年) ©Sputnik OY

ーでも、それこそ宮崎駿のように、引退撤回とかありえる気もします。

KERA:戻ってきたとしても、文句を言うファンもいないでしょうしね(笑)。僕の場合、引退ってことでいうと、劇団にしろ、バンドにしろ、自分一人でやっているものではないから、引退したり解散する理由がもはやないんですよ。

若い頃は誰でも、他のメンバーがいろんな意見を言うことで、自分が持っているビジョン、可能性がつぶされてしまうことに恐れるものです。そして結果として、解散に至る。でも、劇団員もみんな40代50代だし、バンドメンバーも僕とそんな歳は変わらないから、辞める理由がないんですよね。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

ーその感じは、とってもいいじゃないですか。

KERA:去年、古田新太とやってた企画が三部作として完結したんですよ。でも、またやりたくなるかもしれないから、そのときは三部作シリーズ第四弾としてやろうぜ、って話はしてます。

ー勝新太郎の映画で『悪名』ってありましたけど、あれも『続悪名』、『新悪名』、『続新悪名』と延々続きましたね。そんな感じで(笑)。

KERA:「あの二人が帰ってきた!」なんてことも言わず、しれっと「四作目でーす」って感じでやりたい。カウリスマキもそんな感じで帰ってきてほしいな。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

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公演情報

ナイロン100℃ 44th SESSION『ちょっと、まってください』ビジュアル
ナイロン100℃ 44th SESSION
『ちょっと、まってください』

2017年11月10日(金)~12月3日(日)
会場:東京都 下北沢 本多劇場

2017年12月6日(水)
会場:三重県 三重県総合文化センター 三重県文化会館 中ホール

2017年12月9日(土)、12月10日(日)
会場:兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

2017年12月12日(火)
会場:広島県 JMSアステールプラザ 大ホール

2017年12月16日(土)、12月17日(日)
会場:福岡県 北九州芸術劇場 中劇場(リバーウォーク北九州6F)

2017年12月20日(水)
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場

プロフィール

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

劇作家、演出家、音楽家、映画監督。1963年、東京都出身。劇団「ナイロン100℃」主宰。82年、ニューウェーブバンド・有頂天を結成。並行して85年に劇団健康を旗揚げ、演劇活動を開始する。92年の解散後、翌93年にナイロン100℃を始動。99年には『フローズン・ビーチ』で第43回岸田國士戯曲賞を受賞。以降、数々の演劇賞を受賞。12年より岸田國士選考委員を務める。音楽活動では、バンド「ケラ&ザ・シンセサイザーズ」のほか、13年には鈴木慶一氏とユニット「No Lie-Sense」を結成するなど精力的に活動中。

アキ・カウリスマキ

フィンランドを代表する奇才映画監督。『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』『真夜中の虹』『マッチ工場の少女』などで世界的に注目を集める。2歳年上の兄ミカ・カウリスマキも映画監督として活躍している。

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