ケラリーノサンドロヴィッチが語るカウリスマキ「引退」への思い

ケラリーノサンドロヴィッチが語るカウリスマキ「引退」への思い

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:江森康之 編集:川浦慧

こんな映画を当然のように作れることに嫉妬しちゃいます。

ーカウリスマキの映画にはno-where感がありますよね。「どこだここ?」「いつだここ?」っていう。

KERA:どの作品にも少なからず寓話性がありますよね。昔とある俳優の友だちが映画を紹介するコラムを連載していて、ネタが無いと言うから『マッチ工場~』を薦めたら「こんなものを面白いというヤツの気がしれない!」と書かれた(笑)。たしかにたいして何も起こらないし、起きても悪いことしか起こらない。さしたるひねりもどんでん返しもない。だから合わない人もいるとは思うんだけどね。前向きな教訓もないし。

でも、人物造形やストーリーを極限まで削ぎ落とすことで、付随する感情を想像させてくれる。脚本のセオリーからいえばダメな脚本ってことになっちゃうんだろうけど、そういうところで勝負してないんだよ。そういえば前に、カウリスマキの映画を倍速で見たことがあるんですよ。

ー(笑)。何か変わりがありましたか?

KERA:倍速でもストーリーがわかるんですよ! つまり僕らのスピード感覚で言えば、倍速の方が普通なんです。でもやっぱり、正しいスピードで再生した方がいいんですよ。日常のスピードだとあの味わい深さはわからない。当たり前ですけどね。カウリスマキも「当たり前だ!」って言うと思いますけど(笑)。

カウリスマキにしかできない息継ぎの仕方というか、ブレスの感覚があるんですよね。今、僕はチェーホフの『ワーニャ伯父さん』(19世紀ロシアを代表する劇作家。変革期を生きる人々を多く描いた)の稽古をやっているんですが、チェーホフも僕よりも全然ブレスが長いんですね。本当に苦しくなるまで、書いて、書いて、書いて、やっとブレスするっていう。長いのと短いのではどちらがいいとは一概に言えないけれど、その長短が作家の大きな個性になっていくんです。

ーカウリスマキのブレスは特異?

KERA:うん。いきなり終わらせたりもするじゃないですか。あとはタバコを吸うシーンが独特の間を生み出している。ただただタバコを吸っている時間が、結構あるでしょ。カウリスマキの映画に出てくる人たちは、もはや強迫観念のようにタバコを吸う。10本以上タバコを吸ってない映画って、カウリスマキにはないんじゃないですか?

カウリスマキ作品に敬意を払いタバコをくわえるケラリーノ・サンドロヴィッチ
カウリスマキ作品に敬意を払いタバコをくわえるケラリーノ・サンドロヴィッチ

ー絶対に吸わずにいられない。

KERA:それも、まばたきをするように吸うんだよね。あと、映画内の時系列もでたらめでしょう。『愛しのタチアナ』では、主人公が冒頭でお母さんをクローゼットに閉じ込めて、最後に帰宅してしれっと解放するけれど、いったい何日間閉じ込められてたんだか。

それと、僕はサイレント映画が好きなので『白い花びら』(1999年)には「やられた!」って感じでした。20世紀末以降に作られたサイレント映画って、どれも作為的でしょ。過去の映画のパロディーかパスティーシュ、あるいはノスタルジーなんですよ。

でも、カウリスマキって普通に「今回はサイレントで撮る」みたいな感じで、憧憬も懐古趣味も感じさせない。まったく特別なことをしているように見えないし、気負いもない。こんな映画を当然のように作れることに嫉妬しちゃいます。

『白い花びら』(1999年) ©Sputnik OY
『白い花びら』(1999年) ©Sputnik OY

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公演情報

ナイロン100℃ 44th SESSION『ちょっと、まってください』ビジュアル
ナイロン100℃ 44th SESSION
『ちょっと、まってください』

2017年11月10日(金)~12月3日(日)
会場:東京都 下北沢 本多劇場

2017年12月6日(水)
会場:三重県 三重県総合文化センター 三重県文化会館 中ホール

2017年12月9日(土)、12月10日(日)
会場:兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

2017年12月12日(火)
会場:広島県 JMSアステールプラザ 大ホール

2017年12月16日(土)、12月17日(日)
会場:福岡県 北九州芸術劇場 中劇場(リバーウォーク北九州6F)

2017年12月20日(水)
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場

プロフィール

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

劇作家、演出家、音楽家、映画監督。1963年、東京都出身。劇団「ナイロン100℃」主宰。82年、ニューウェーブバンド・有頂天を結成。並行して85年に劇団健康を旗揚げ、演劇活動を開始する。92年の解散後、翌93年にナイロン100℃を始動。99年には『フローズン・ビーチ』で第43回岸田國士戯曲賞を受賞。以降、数々の演劇賞を受賞。12年より岸田國士選考委員を務める。音楽活動では、バンド「ケラ&ザ・シンセサイザーズ」のほか、13年には鈴木慶一氏とユニット「No Lie-Sense」を結成するなど精力的に活動中。

アキ・カウリスマキ

フィンランドを代表する奇才映画監督。『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』『真夜中の虹』『マッチ工場の少女』などで世界的に注目を集める。2歳年上の兄ミカ・カウリスマキも映画監督として活躍している。

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