デンマークでの冬の過ごし方 甘いミルク粥を頬張るクリスマス

北欧での暮らしの真髄は、冬にこそ現れるような気がする。日本人イラストレーターが綴る、デンマークの冬

沈む気配のなかった夏の太陽が、昨日より少しだけ早く落ちていく。冷たい秋の雨が通り過ぎ、風がひんやりしてくると、冬支度を始める合図だ。デンマークの冬はあっという間に訪れる。

私はここで二度目の冬を迎えようとしている。初めてデンマークを訪れた一度目の冬、私はフォルケホイスコーレに滞在していた。フォルケホイスコーレというのはデンマーク発祥の全寮制学校で、国籍を問わず17歳以上であれば試験なく誰でも入学でき、学校によってさまざまな分野のことが学べる場所だ。そこで初めて過ごした長い冬は、暖かい部屋の中で編み物やボードゲームをしたり、コーヒーを片手に夜遅くまで友達と話し込んだりした、温かい記憶でいっぱいだ。その思い出に連れ戻されるように、私はまたデンマークへとやって来た。

北欧での暮らしの真髄は、冬にこそ現れるような気がする。冬至を迎える12月頃には日照時間が6、7時間程になるデンマーク。そんな暗くて寒い冬を心豊かに乗り切る方法を、彼らは良く知っている。クリスマスがデンマークでとりわけ大事な行事だというのも頷けるだろう。クリスマスに向けたプレゼント探しやデコレーション準備などは、冬場のデンマーク人をよく活気づけているなと感じる。

日本と違って、デンマークのクリスマスは家族と家で過ごすのが定番だ。家庭によっては親戚も交えてクリスマスイブに食卓を囲み、子供たちはクリスマスツリーの下に運び込まれた家族からのプレゼントを一つずつ開封していく。クリスマスツリーはほのかに深緑の香りを放っている。本物の木なのだ。

クリスマス用のもみの木の栽培はデンマークの重要な産業で、数年かけてすくすくと栽培されてきたもみの木がいっせいに伐採され、子供のいる家庭では特に、お金の惜しみなく毎年フレッシュなクリスマスツリーを飾る。エコ精神の高いデンマークでは少し不思議な光景だが、この時ばかりは例外らしい。

撮影:MIKA TAKAHAMA

子どもも大人も楽しむ、デンマークのクリスマス。アーモンド入りの甘いミルク粥や、クリスマスに訪れる小さな妖精のこと

そういえば、日本ではクリスマスにフライドチキンを食べる(もちろん家庭による)と話したところ、デンマーク人からの笑いがしばらく収まらなかったことがある。半信半疑だった彼らにお馴染みのテレビCMを見せると、またどっと笑いが起きた。デンマークのクリスマスでは、丹精込めて作った家庭料理が食卓に並ぶので、まさか家族でファストフードを食すとは思ってもみなかったらしい。

デンマークでの定番はというと、鴨のロースト、もしくはフレスカスタイ(Flæskesteg)という豚肉を皮の部分までしっかりと焼き上げたポークステーキ。ヨーロッパ屈指の養豚大国な、デンマークらしいご馳走だと思う。ステーキには飴色に炒めた主食のポテトと彩り豊かなレッドキャベツが添えられる。

食後のデザートとして出されるリスアラマン(Risalamande)は、ミルク粥にホイップクリームとバニラ、砕いたアーモンドを加えたもの。チェリーソースをかけて食べるこのお粥は、日本人にとっては不思議な味だ。面白いのが、ミルク粥の中に一粒だけホールアーモンドが入っていること。これを食べ当てた人は、プレゼントを貰えることになっている。子どもはプレゼントを逃すまいといっぱいに粥を頬張り、大人たちはホールアーモンドを誤って砕いてしまわないよう、神妙な顔をして食べているのが面白い。

デンマークでのクリスマスを語るうえで欠かせないクリスマスの妖精ニセ(Nisse)も、この日のミルク粥を心待ちにしている。彼らは赤い三角帽子を被り、時に白い髭をたくわえた小人として描かれる、さながら小さいサンタクロースのような存在だ。スウェーデンやノルウェーでも違った名前で親しまれており、言い伝えによると、彼らは家や納屋に住み着き、いたずらをすることもあるが、きちんともてなせば幸運を運ぶと言われている。

そのためデンマークではクリスマスイブにニセの好物であるリゼングロ(Risengrød)と呼ばれるシナモンと砂糖たっぷりのミルク粥を用意し、翌年の幸せを願う。

食事の後は皆が手を繋ぎ合ってクリスマスツリーを囲み、誰ともなく<Nu' er det jul igen(またクリスマスがやってきた)>と歌い始める。18世紀頃から歌遊びとして北欧で親しまれてきたという、デンマーク人なら誰もが知っている歌だ。これを繰り返し口ずさみ、ぐるぐるとクリスマスツリーを回っていると、その内の誰かが手をほどき、手を繋いだまま一列になって今度は家中を駆け回る。リビング、寝室、キッチン……。息を切らしながら歌っていると、自然と笑いが込み上げてくる。デンマークに来て、楽しむ心に年齢は関係ないのだと私は何度も教わった。

ほがらかなデンマーク人の気質は、厳しい冬を越す私の心を温めてくれる。デンマークでの二度目の冬がもうそこまで近づいている。

プロフィール
MIKA TAKAHAMA (みか たかはま)

海外の暮らしを綴るイラストレーター。訪問先の国では観光地そっちのけで市場やスーパーマーケットを覗き、暮らすように旅をするのがモットー。2019年よりデンマーク滞在中につき、北欧の日々を切り取った絵日記をInstagramにて更新中。また、自然をミニマルに表現する版画家としても活動中。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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