コージ・トクダが、ハリネズミのしらたまと探る心の高揚

北欧デザインのモチーフとしても知られる「ハリネズミ」。フィンランドやスウェーデンには野生のハリネズミが数多く生息し、街中でも見かけるほどポピュラーな動物だという。北欧のものづくりに携わるアーティストにも愛され、さまざまな作品のデザインやモデルにもなっている。そうしたハリネズミのかわいらしさは日本でも注目され、最近はペットとして飼育する人が増えてきた。

今回インタビューしたお笑い芸人のコージ・トクダも、ハリネズミと暮らす飼い主の1人。アメリカンフットボールで鍛えた182cmの体躯をかがめ、20cmに満たないハリネズミの「しらたま」を愛でる。大学時代にアメフトの全国大会で決勝のフィールドに立った瞬間の「高揚感」を超える「心の充実度」を探す彼の人生に、しらたまが与えた影響とは。動物との共生を通して、人生の幸福度を考える。

子どもの頃から「人と違うことをしたい」という思いが強かったです。

―大きいコージさんと、小さいハリネズミの組み合わせって、不思議ですね。

コージ:僕はもともと動物が好きなんですよ。小学生の頃から犬を飼っていて、一人暮らしを始めてからはハムスターを飼ったこともありました。2年前に引っ越してから部屋が広くなった分スペースができて、それが寂しかったんですよね。そんなときにもう一度ハムスターを飼おうと思ってペットショップに行って、そこで見つけたのがハリネズミだったんですよ。

コージ・トクダ
1987年12月20日生まれ、大阪府出身。ワタナベエンターテインメント所属のお笑い芸人。法政大学のアメリカンフットボール部のキャプテンを務めたのち、コンビニエンスストアのアルバイトや移動販売のクレープ屋、漫才、殺陣の舞台を経て、お笑い芸人の道へ。ブルゾンちえみwithBとしてブレイク。2020年、2月23日にアメフト復帰宣言を行った。ハリネズミの「しらたま」と暮らしている。

―それが、しらたまちゃんだったんですね。

コージ:他のハリネズミは黒みがかっていたけど、しらたまは、ほぼ白だったんです。「コイツ、かわいいなあ」プラス、「ハリネズミを飼っている人を周りであんまり見たことないぞ」と気になって、2回くらい通ってお迎えすることにしました。他の子を踏みつけてバンバン歩き回っていたのも押しが強くていいなって。芸人はアピールが大事ですから(笑)。

僕は甘いものが好きだから白っぽいスイーツから名前をつけようと思って、「しらたま」「ホイップ」「ミルク」「マシュマロ」が候補でした。いろんな人に聞いたら、しらたまの人気が高かったですね。ハリネズミは丸くなるし、僕もしらたまがいいかなと思いました。

―スイーツもお好きなんですよね。意外な組み合わせです。

コージ:僕はずっと「かっこよく思われたい」と「強く思われたい」と思っていたけど、しらたまのおかげで「かわいく思われたい」も増えましたね(笑)。前はInstagramが筋トレの写真ばっかりだったのに、ヤツが現れてから急にかわいい写真も増えました。ハリネズミの魅力を伝えたいし、あわよくば僕のこともいいヤツなんだって知ってほしい。

コージの飼うハリネズミ「しらたま」

―ギャップといえば、大学生の頃はアメフト部の主将だったそうですね。

コージ:子どもの頃から「人と違うことをしたい」という思いが強くて。サッカーや野球ほどメジャーじゃないというのもあって、高校生のときからアメフトを始めたんです。強豪で知られる法政大学に進学して、4年生のときにはキャプテンになりました。

―卒業後は社会人リーグの道もあったのに蹴ったとか……。

コージ:決勝の「甲子園ボウル」(『全日本大学アメリカンフットボール選手権大会』の決勝戦のこと)のフィールドへ立ったときに、うれしさと同時に「この高揚感を超える瞬間は今後あるのかな」と思ったんですよね。どうしたら超えられるのかと考えて、一般企業への就職だけはやめようと思いました。

本当はキャプテンまでやったら、後輩の目標になるように大企業に就職しないといけないんですよ。でも人と同じことをするのは嫌なので、卒業後はコンビニのバイトになってやりました(笑)。真面目な話、アメフトを続ける気持ちは一切なかった。7年間でやり切ったから。

―高揚感を求めて試行錯誤が始まったわけですか?

コージ:まずはアルバイトで行動資金を貯めて、甘いものが大好きだから移動販売のクレープ屋を始めました。クレープは生地を焼いて具材をのっけるだけなので、事業としては始めやすいんですよ。

でも僕、経理が一切できなかったんです。「レジに残っているお金が少なくなってきたな」と思っているうちに資金がなくなってつぶれちゃった。

アメフトもハリネズミ飼いも、人口が少ないから逆にすごくコミュニティーのつながりが強いんです。

―思いつきを実行する行動力、すごいと思います。

コージ:これからどうしようっていうときに、友達とブルーマンのショーに行ったんです。今までの話をしたらバカみたいに盛り上がって、これは人を笑かすエンターテイメントも1つの道かなと思いました。

それでお笑いの養成所へ入ってオーストラリア人の相方と漫才をやっていたんだけど、相方のビザが切れて帰国しちゃったんですよ。お笑いも違ったか……って。挑戦してはダメの繰り返しです。それから俳優の道も試したくて演劇の舞台へ出たりしました。そこでブリリアンのときに相方だったダイキに会って意気投合したんですよ。

―それが、ブリリアン(3月10日に解散を発表した)の結成ですね。

コージ:ちょうど今の事務所(ワタナベエンターテインメント)の養成所が生徒を募集しているのを知って、ダイキを誘ったのがコンビのきっかけです。ネタ見せでおもしろければ授業料免除という告知を見て、漫才は厳しいと思ったからコントのネタを2人で考えてぶっつけ本番で。たぶんおもしろくなかったけど合格しました(笑)。

コージ:「養成所の中でみんなのまとめ役になってほしい」といわれたから、アメフトの主将の経験も買われたのかもしれませんね。

―養成所のリーダーとしてまとめるのは大変でしたか?

コージ:なんなくこなせましたね。アメフト部のキャプテンは投票で決まるから人望が必要になってきますけど、養成所は恐怖政治でよかったから(笑)。そうはいっても、あまりに騒がしいときに「静かにしよう」って呼びかけるくらいでしたけど、体が大きいから威圧感があったんだと思います。

―卒業後は「ブルゾンちえみ with B」を結成したり、ドラマにも出演したりして活躍の場を広げています。

コージ:自分になにが向いているかまだわからないんですよね。お笑いも俳優も表面をなでただけだから、突き進む道は決まってないといってもいい。アメフトと違って相手が見えないから難しいですね。

―しらたまちゃんを迎えて仕事やプライベートに変化はありましたか?

コージ:しらたまと一緒に『徹子の部屋』(テレビ朝日)に出演して、徹子さんになでてもらったことはありました。実はおしっこをしちゃったらどうしようかと思ってヒヤヒヤしてたんだけど(笑)。

ただ、仕事ではなくプライベートはかなり変わりましたね。泊まりで旅行には行けないし、温度管理にも気をつけないといけない。でも大変なことばかりではなくて、飼うことで便利になったこともあるんですよ。僕は大人数での飲みが好きじゃないので、そういうときに「ハリネズミにエサをあげないといけないんで」って断って帰る理由にできますから。

―ハリネズミのどういうところがお好きなんですか?

コージ:ハリネズミは夜行性なので、僕が電気を消して寝るときに動き出すんですよね。しらたまが夜中に回し車をカタカタ回しているときにパッと電気をつけると、ハッとして「見られた!」って固まる。そのときのしらたまの表情がたまらなく好きなんですよ。

あと、ハリネズミ仲間からもらったぬいぐるみやグッズと一緒に、しらたまを撮るのも楽しみなんです。Instagramで反響があるのは「しらたまを探せ」ですね。ぬいぐるみの中にしらたまを隠してどこにいるか探してもらうゲームです。Sっ気を出して、答えを教えてあげないまま終わらせたりします(笑)。

コージ・トクダのInstagramで行われた「しらたまを探せ」

―ハリネズミのコミュニティーにすっかり溶け込んでいますね。

コージ:「ハリネズミ界の父」である、あずきパパ(撮影を担当した、角田修一氏)が紹介してくれるんですよ。飼っている人が少ないから、逆にすごくコミュニティーのつながりが強い。そういう意味ではアメフトも似ていますね。規模が大きくないからこそ、人口が多いコミュニティーよりも内部の仲間意識が強いと思います。

角田修一が飼うハリネズミ「もなか」のInstagram

―コージさん主宰のスポーツコミュニティーの名前は「Hedgehogs」だとか。

コージ:そうなんです。ロゴにはしらたまを入れています。「スポーツを気軽に楽しむ」をコンセプトにしたコミュニティーで、スポーツをみんなで観に行こうっていう集まりです。興味はあるけど1人じゃ行けない人が結構いるんですよね。みんなで集まって行ったら大丈夫じゃないですか。僕も初めて観るスポーツや試合があって楽しんでいます。

コージ・トクダのスポーツコミュニティー「Hedgehogs」のステッカー

家に動物がいるって思うだけであたたかい気持ちになりますね。

―北欧では野生のハリネズミが街中にもいるそうですよ。

コージ:向こうにいるナミハリネズミは、日本のヨツユビハリネズミよりちょっと大きいんですよね。実はスウェーデン、フィンランド、ノルウェーに行ったことがあって、そのときにハリネズミを探してみたんですよ。ハリがチラッと見えたと思ったら、捨てられたただのブラシで(笑)。結局会えなかったですね。

―日本ではペットのハリネズミが捨てられて野生化しているのが一部で問題になっています。動物と暮らす飼い主の責任を感じることはありますか?

コージ:めちゃくちゃありますね。しらたまは僕が守ってあげないといけない。食べさせていくために仕事もいっそうがんばらなきゃっていう気持ちでいます。犬はよく、人間のパートナーのような扱いをされていますけど、しらたまは自分の「子ども」に近い存在なのかな。しらたまを部屋に放して僕が寝転がっていると、頭とか関係なく登ってくるんですよ。人に対して警戒もしないし、そういうところも子どもに似てるでしょ?

コージ:飼い主の責任といえば、実家で飼っていた犬は、最初の飼い主に捨てられて保健所にいた犬だったんですよ。

―殺処分ゼロの活動が始まる前の保護犬ですね。

コージ:僕が小学4年生のときに、両親と一緒に保健所に犬をゆずってもらいに行ったんです。希望者が20人くらいいたけど、犬はその5倍くらいいたのを覚えています。今日選ばれなかったらもう……っていう状況ですね。希望者が抽選で順番を決めて選んでいくシステムで、母親が1番を引いたんです。それで元気な子を選んで、名前は1番だから「ラッキー」にしようって。

実はその場にラッキーを保健所に入れた家族も来てたんですよ。当時はそうした状況を理解していなかったけど、今思うとどういう感情で来ていたのか……。選ばれなかったら引き取るつもりだったのかな。

―家庭の事情はあると思いますが、無責任な印象をもってしまいますね。

コージ:それからラッキーは僕が高校を卒業して家を出るまで14年間一緒にいて、両親が看取りました。思い出して懐かしくなります。今はマンション住まいだから無理だけど、また犬を飼いたい気持ちもあるんですよね。

―犬は「人類最良の友」とまでいわれますから。ハリネズミとコミュニケーションの方法は違いますか?

コージ:僕の完全なエゴかもしれないけど、しらたまの感情は理解できる気がするんです。言葉が伝わらない分、感情は心の部分でつながっているんだろうなって。犬みたいに吠えたりリアクションを返したりしないけど、なぜかハリネズミのほうがつながっている気がします。

犬は、しつけで人間が犬をコントロールするじゃないですか。でもハリネズミはしつけやコントロールができない。ただし、吠えたりしない分、僕がしらたまの感情を勝手に解釈できるんですよ。「コイツは喜んでいるんだろうな」とかね。同じ状況でも「もしかしたら悲しいのかも」と感じることもできるんでしょうけど。そうやって自分の気持ちを投影できるので、コントロールするのではなく、自分の感情に寄り添っているように思えて、ちょうどいい距離感の付き合いができていると思います。

―北欧の国は幸福度が高いそうです。しらたまちゃんを迎えてコージさんも毎日が充実しているんでしょうか。

コージ:いつの間にかいるのが当たり前になっていて、強い感情が湧き上がるというより、癒やして心を満たしてくれる存在ですよね。

しらたまを飼い始めてから「いってきます」と「ただいま」をちゃんというようになりました。家に動物がいるって思うだけであたたかい気持ちになりますね。心の満足度が飼う前より高くなっていると思いますよ。

―心の満足度ということでいえば、「高揚感を再び」という目標には近づいていますか?

コージ:しらたまはあくまで癒やしで、アメフトの甲子園ボウルの瞬間を超えるためにはどうすればいいのかは、まだわからないですね。あの高揚感はなんだったんだろう。芸人として大きい会場でライブをやるとか、大金を目の前に積まれるとかではないと思います。

わからないことばかりですけど、しらたまに愛情をそそいで、今できることを一緒に楽しんでいきたいと思います。これからも僕のハリネズミブームは続きますから。もしかしたらその先になにかが見つかるのかもしれません。

プロフィール
コージ・トクダ

1987年12月20日生まれ、大阪府出身。ワタナベエンターテインメント所属のお笑い芸人。法政大学のアメリカンフットボール部のキャプテンを務めたのち、コンビニエンスストアのアルバイトや移動販売のクレープ屋、漫才、殺陣の舞台を経て、お笑い芸人の道へ。ブリリアン解散後、心機一転「コージ・トクダ」として活動することに。2020年、2月23日にアメフト復帰宣言を行った。ハリネズミの「しらたま」と暮らしている。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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