高木正勝×相良育弥 上辺の「新しさ」に惑わされない心の授業

高木正勝×相良育弥 上辺の「新しさ」に惑わされない心の授業

インタビュー・テキスト
野村由芽(CINRA.NET編集部)
撮影:森山将人

「新しいもの」ってどの仕事でも要求されるけど、「新たにする」は「改める」と一緒のこと。(高木)

さきほど、田舎では「自分がいなくなった後も、大丈夫なようにしておく」という話があった。住人数が少ない場所では、人が一人いなくなることが、極端に言えばひとつの文化の消失にもつながるのだろう。

そもそも高木にとって、「村の人たちが見ている豊かなイメージを未来に引き継ぎたい」というのが移住の大きな理由のひとつだったと言うし、相良は「茅葺き」という伝統を今の時代に引き継いでいる張本人だ。二人は、「伝統」や「受け継ぐ」ことをどう捉えているのだろうか?

高木:「伝統」や「受け継ぐ」というと、堅苦しく感じるかもしれませんが、意外といい加減だったりもするんですよ。前に、地元の秋祭りに演奏する曲を教えてもらったときに、三味線がチューニングされていなくて、間違ったままというか、よくわからないまま大人から子どもたちに伝わっていることがあって(笑)。それがいいなあと思ったんです。

きっと、自由にわからないことは減らしたり、時には勘違いしたりして横にずれたりしながら続いてきたものってたくさんあると思う。いっくうの茅葺きの仕事でもそういうのってある? みんなが、これは職人の仕事で、間違いがないって思っている分野でも。

相良:あるよ。縄の結び方ひとつにしても、盛大に勘違いしていたり。技や道具や屋根の部分の呼び方なんて、それこそ勘違いから定着してしまったものはたくさんあると思います。村で伝わっていることもそうですけど、茅葺きも基本的に口伝なので。

相良育弥

高木:もちろん、様式を守っていくことが必要な場面もありますよね。でも僕は、その時代に合っているというのは大事な要素だと思っていて。「新しいもの」ってどの仕事でも要求されるけど、「新たにする」ってことは「改める」のと一緒のことなんじゃないかなと。

どんなものもまったく新しいということはありえなくて。例えば、僕自身、前からずっとやっていたことがあって、それはすごくいいんだけど、今年またやるとなると、空気感が合わない……だから今に合うように、その年ごとに調整しているだけという感じがする。

高木正勝

―往々にして「新しいものなんてない」と言うときには、「過去に先人がいる」という考え方にもとづいていますが、高木さんが話されているのは、「新しさはその人のなかにある」ということですか?

高木:いっくうの茅葺きの仕事は、「新たにする」が「改める」に近いのがわかりやすい気がする。昔に作られた屋根の修繕もするし、誰も見たこともないような新しい発想の茅葺き屋根を作ったりもする。僕は、どっちを見ても、なにか昔の人たちが喜んでいる気配を感じて嬉しくなる。汗を流して、みんなで泣いて笑って、あるものでなんとか工夫してきた先人たちが、「おお、いっくう、良い仕事しとるな。わしらもそうしてきたんやで」って喜んでる気がする。

僕みたいに「毎年新曲を出します」というふうに見える音楽の仕事でも、自分の表現したい根本にあるものは毎年同じです。世の中が動いていて、まったく同じことをやっても合わないというか、僕自身も楽しくならない。今年よく効くやり方を探さないといけない。

―そのとき、「根本にある部分」というのはどういうものですか?

高木:屋根で言ったら、茅葺き屋根のあのなんとも言えない柔らかな包容力とかかな。音楽も「そこに触れたかった」という感じに近いかな。触りたいところに触れたような、潜っていけるような感覚を出したいし、共有したいし、しかもそれでなにか起こるかというと、ただ気持ちよかったり、嬉しいだけかも(笑)。大きな自然の中で自分が確かに生きている、生かされているという当たり前の気づきかな。でもそういうものって、空気のようにふっと移動してしまうものだから、去年うまくいっていても必ずしも今年うまくいくとは限らない。

相良:茅葺きの業界全体で言うと、現状維持が基本になっていて、改められていないなあ。でも僕はもっといろいろ改めたいから、いろんな技法を試しています。北欧やオランダの茅葺きがすごく進んでいるから、近所のえびす神社というところで、手法を取り入れてみたりしていて。いろんな意見はあるけど、恐れずにああやって改めていっているのは見習わないといけないなと思う。

淡河えびす神社の新築茅葺き。ヨーロッパの茅葺き業界の最新の工法をとりいれた
淡河えびす神社の新築茅葺き。ヨーロッパの茅葺き業界の最新の工法をとりいれた

デンマークの茅葺き。国によって材料として使う素材が異なり、デンマークは海草葺きをおこなう
デンマークの茅葺き。国によって材料として使う素材が異なり、デンマークは海草葺きをおこなう

自分のまねをしていけば、他の人ができないことができる。(高木)

高木:小沢健二さんが久しぶりに新曲をリリースしましたよね。そのこと自体にはいろいろな見方ができるけれど、今話している流れで言うと、彼は根本ではずっと同じことをしているんじゃないかなと思ったんです。

『ミュージックステーション』で、“ぼくらが旅に出る理由”(1996年)のあとに、続けて新曲(“流動体について” / 2017年)を歌いましたよね。はじめは、新曲のほうも昔の曲かな? と思うぐらいそっくりだなと思って聴いていたのですが、最後まで聴くとやっぱりすごくかっこよくて。「オザケンがずっとやってきたことを今年やろうとするとそうなるのかあ、良い仕事してるな」って。その「改めている」感覚を職人だなと感じたし、勇気をもらったんですよね。
新曲を出すときって、いかにもオリジナルな新しいものを出したように映るけど、おそらく本人たちにとっては、出したいものはとっくの昔に見つかっているのではと思っていて。それは、表現者に限らなくて、たとえばいろんな仕事、生き方、日々を暮らしているあらゆる人に共通することなんじゃないかな。

左から高木正勝、相良育弥

相良:茅葺きは誰かが伝統的にやってきた技のアレンジをしていくのが、継続であると同時に、新しく作るということなんですよね。今作るならこう、この場所で作るならこうって。それに、自分のスキルや仲間によるところも大きい。今この瞬間に生きている僕たちがやると、こうなりましたっていう。

高木:前にやってきた人の思いは精一杯引き継ぎたいけれど、やり方は違うかもしれない。

相良:うん。茅葺きの場合は、そこは絶対にないがしろにしたらいけないところで、ものすごく永い時間の研鑽の上に成り立っているということが大前提。そしてその磨かれてきた宝物を、より良いものにして後の職人に渡すのが、今を生きる職人の役割かな。「改める」っていいですね。

高木:「新しい」を「改める」ことだと考えると、少し気楽になれるところもあって。先を見ちゃうとまだひとつも引き出しがないけど、歩んできた後ろを振り返れば莫大な数のストックがあるわけですよね。せっかく自分で開けたその引き出しを1回開けたきりで、他の人の引き出しの上辺だけをさらいに行ったりしがちだけど、それだとすごくもったいない。自分できちんと発見した引き出しの中身は、もう少しじんわり味わってもいいと思うんです。自分のまねは、自分にしかできないから。

高木正勝

高木:「自己模倣」ってどちらかと言うと悪い意味に使われがちだけど、自分のまねをしていけば、他の人ができないことができるってことが最近わかってきて。たとえばCMなどの曲を頼まれるとき、過去の曲のこういう感じでって言われるときがあるんですけれど、「このまま使ってくれたらなあ」と思っていたんです。それがもうできないから、違うことをやっていたのにって(笑)。でも、その曲を見つめながらさらに掘り下げてくってことを何度も繰り返したら、面白くなってきたんです。

子どものときから積み重ねてきたいろんな体験や経験が、自分の根っこのところに溜まっていて、その自分の栄養を使って作れば、面白いものになる。

相良:子どもの頃から積み重ねてきたものを実現できる力がついて、タイミングがきたときに花が咲くのか。面白いなあ。

高木:まわりを見ても、うまくまわり始めたときって、自己摸倣が始まったなあと思うことがあって。そういうときって、一見、似た曲が増えているようにも見えるけど、その人しか触れていなかったところを何度も何度も積み重ねていって、誰もまだ触っていなかった境地まで一気に飛び抜けたものを生み出したりするじゃないですか。職人ってそういう極みですよね。自己模倣の権化というか、自分のまねを繰り返してる。

相良:そうですね。修業時代は先輩の模倣だったけど、ある程度自分の技になってくると、自己模倣が始まるね。

左から高木正勝、相良育弥

―自分を掘ることは、自分を見つめて追求することでもありますよね。それは、楽しいけれど、しんどいことでもある。なぜそれを続けるのでしょう?

高木:好きになってくれた人への返答なのかもしれませんね。それは他人だけじゃなく、自分も含めて。自分の根本にあるもの、すごく深い部分を感じ取ったそのときに、音楽とか作品って湧いてくるんです。その不思議な豊かさに気づいてびっくりするんだけれど、勇気を出して誰かと共有してみる。わかってくれる人と出会えたら、それは本当に幸せなことです。そこをちゃんと大事にして、自分で肯定することができれば、それだけで生きていけるんじゃないかなと思います。自分のやったことを愛しなさいということなんだと思います。

二人の話を聞いていると、「新しいもの」も「昔ながらのもの」も、どちらもすでにその人のなかにあるのだ、ということに気づかされる。その人だけの宝物が、時間をかけて磨かれることで、再び外に出たときにまったくの「新しさ」として光ることがあるし、それによってその人は他人から愛されたり、自分自身を少しだけ愛することができたりするのだろう。その循環を生むために大切なのが、高木が話していた「細やかな集中力」を持ち得る環境をととのえることなのかもしれないーー。後編は、二人の暮らしや仕事場を訪れ、より豊かに暮らすためのヒントをもらう。

後編に続く
後編を読む(高木正勝と相良育弥の自宅訪問 いい仕事を生む暮らし方って?

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リリース情報

高木正勝『YMENE』
高木正勝
『YMENE』(CD)

2017年3月26日(日)発売
価格:3,024円(税込)
NOVUS-010

1. Dreaming
2. Tidal
3. Bokka
4. Homicevalo
5. Ana Tenga
6. Laji
7. Naraha
8. Philharmony
9. Grace
10. Mase Mase Koyote
11. Earth's Creation #1
12. Omo Haha
13. Ymene
14. Earth's Creation #2
15. Emineli

高木正勝『『山咲み』
高木正勝
『山咲み』(2CD+DVD)

2017年3月26日(日)発売
価格:4,860円(税込)
NOVUS-004~6

[CD1]
1. 祈り
2. あまみず
3. 風花
4. Nijiko
5. サーエ~サルキウシナイ~かぜこぎ
6. aqua
7. おおはる
8. うるて
9. 充たされた子ども
10. 夏空の少年たち
11. きときと―四本足の踊り
12. I am Water
13. やわらかいまなざし
14. 紡ぎ風
15. 風は飛んだ
[CD2]
1. うたがき
2. マクナレラ~ヤイサマ
3. 山咲き唄
4. かみしゃま
5. おやま
6. Girls
7. Rama
8. Wave of Light―音頭
9. Grace~あげは
10. 風花~カピウ・ウポポ
[DVD]
1. 祈り
2. あまみず
3. 風花
4. Nijiko
5. サーエ~サルキウシナイ~かぜこぎ
6. aqua
7. おおはる
8. うるて
9. 充たされた子ども
10. 夏空の少年たち
11. きときと―四本足の踊り
12. I am Water
13. やわらかいまなざし
14. 紡ぎ風
15. 風は飛んだ
16. うたがき
17. マクナレラ~ヤイサマ
18. 山咲き唄
19. かみしゃま
20. おやま
21. Girls
22. Rama
23. Wave of Light―音頭
24. Grace~あげは
25. 風花~カピウ・ウポポ

プロフィール

高木正勝(たかぎ まさかつ)

1979年生まれ、京都出身。2013年より兵庫県在住。山深い谷間にて。長く親しんでいるピアノを用いた音楽、世界を旅しながら撮影した「動く絵画」のような映像、両方を手掛ける作家。美術館での展覧会や世界各地でのコンサートなど、分野に限定されない多様な活動を展開している。『おおかみこどもの雨と雪』やスタジオジブリを描いた『夢と狂気の王国』の映画音楽をはじめ、コラボレーションも多数。

相良育弥(さがら いくや)

1980年生まれ。茅葺き職人。20歳くらいのころに、宮澤賢治に憧れて大地に生きる百姓を志すも、減反で米がつくれず「三姓」止まりに。そんな時に出会った茅葺きの親方に「茅葺き屋根は百姓の業でできている」との言葉で弟子入り。現在は、淡河かやぶき屋根保存会「くさかんむり」の代表を務め、ふるさとの神戸市北区淡河町を拠点に、茅葺屋根の葺き替えや、補修を生業とし、民家から文化財まで幅広く手がけ、積極的にワークショップも行なっている。

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