元問題児の小国士朗がNHKで学んだ、熱量を公共に生かすアイデア術

元問題児の小国士朗がNHKで学んだ、熱量を公共に生かすアイデア術

インタビュー・テキスト
唐川靖弘
撮影:升谷玲子 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

自分の中の怪物とどう付き合うか。小国少年の抱えた葛藤

久しぶりに会った小国さんはいつもと変わらずスマートないで立ちだ。元NHKディレクターで、いまはフリーでさまざまなアイデアを形にする彼のもとにいろんな人が自然に集まってくるのも頷ける。子どもの頃からそんな風だったのだろうか? ふと興味が湧いて尋ねてみると、彼の答えは意外な方向へと進んだ。

小さい頃から勉強も運動もできて、ある種クラスの人気者だったんです。クラスをすっかり掌握していたつもりだったんですが、実態は「頭のいいジャイアン」、あるいは「意地の悪い出木杉くん」だったんでしょう。10歳のある金曜日、突然起きたんですよ。クーデターが。クラスで「小国くんについて」というお題の学級会が開かれたんです。

驚きましたね、本当に。僕の目の前で、クラスの皆が「小国くんはファミコンの順番を守らない」とか「こういう部分が嫌いだ」とか、辛辣なコメントをいうんです。しかも僕はクラスの書記係だったから、それを逐一記録しなくちゃいけない。最後にクラスのみんなが僕のよくないところについて書くことになって。そして次の日の土曜日、先生に手渡されてそれを読みました。週末、何回も読み返しましたよ。そう、どこか極端に思い上がってしまう自分がいたんでしょうね。

小国士朗(おぐに しろう)<br>株式会社小国士朗事務所 代表取締役・プロデューサー。2003年NHKに入局。ドキュメンタリー番組を制作するかたわら、200万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」や世界1億再生を突破した動画を含む、SNS向けの動画配信サービス「NHK1.5チャンネル」の編集長の他、個人的プロジェクトとして、世界150か国に配信された、認知症の人がホールスタッフをつとめる「注文をまちがえる料理店」などをてがける。2018年6月をもってNHKを退局、フリーランスのプロデューサーとして活動。
小国士朗(おぐに しろう)
株式会社小国士朗事務所 代表取締役・プロデューサー。2003年NHKに入局。ドキュメンタリー番組を制作するかたわら、200万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」や世界1億再生を突破した動画を含む、SNS向けの動画配信サービス「NHK1.5チャンネル」の編集長の他、個人的プロジェクトとして、世界150か国に配信された、認知症の人がホールスタッフをつとめる「注文をまちがえる料理店」などをてがける。2018年6月をもってNHKを退局、フリーランスのプロデューサーとして活動。

その経験から小国少年は、「自分の中にはモンスターがいて、こいつとずっと付き合っていかなければならないんだ」と強烈に意識するようになったのだという。

大学を卒業し、2003年にNHKに入社した。もともとは民放のバラエティー番組が大好きで、入社するまでNHKは見たことがなかった。しかし入社するや否や、難しいことをわかりやすく深く伝えるNHKの番組作りに衝撃を受け、自分がいままで知らなかったテレビの面白さを痛感した。当時、先輩ディレクターが教えてくれた井上ひさしさんの言葉がいまでも強く心に刻まれている。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでもゆかいに」。

NHKという存在は、小国さんにとって、自分の中のモンスターを流し込む「水路」だったという。その「水路」とは、ときに狂気的にさえなるエネルギーを社会のために生かすという道。つまり、方向さえ間違えなければ、ありのままの自分を社会で存分役立てることができる。小国さんにとって自分の存在価値を認めることができた場所、それがNHKなのだった。

NHKを内と外から見たからこそ見えてきた、自分のやるべき課題

こうして番組ディレクターとして着実に実績を積み重ねていた2014年、予期せぬ出来事に見舞われる。体調を壊し、番組作りの第一線から退かざるをえなくなったのだ。しかし禍福は糾える縄の如し、そこで舞い込んできた広告代理店への社内留学が新たな気づきをもたらす。NHKの外からはじめてNHKを眺めることで、その価値を改めて知り、復職後は「番組を作らないNHKディレクター」として、新しい仕掛けを次々と繰り出し話題を呼ぶようになる。

200万ダウンロードという大ヒットとなったアプリ「NHKプロフェッショナル 私の流儀」がその一例だ。予期せぬ出来事さえも、見事に自分の枠を突き破る力に変えながら「NHKを骨の髄までしゃぶり尽くす」と公言していた小国さん。なのに、2018年にNHKを退社することになる。いったいなぜ?

唐川靖弘(からかわ やすひろ)<br>1975年広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント、戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院Center for Sustainable Global Enterpriseマネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクトや新市場開拓プロジェクトをリード。自身のイノベーションファームEdgeBridge LLCを拠点に、企業の戦略顧問や組織・人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。フランスの経営大学院INSEADにおいて臨床組織心理学を研究中。
唐川靖弘(からかわ やすひろ)
1975年広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント、戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院Center for Sustainable Global Enterpriseマネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクトや新市場開拓プロジェクトをリード。自身のイノベーションファームEdgeBridge LLCを拠点に、企業の戦略顧問や組織・人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。フランスの経営大学院INSEADにおいて臨床組織心理学を研究中。

NHKのことが大好きだから、NHKが持つ膨大なリソースの価値も知っています。それを徹底的に生かすためには、中からだけでなく、外に出て動いたほうがいいのではないか。つまり、社外の他のリソースと縦横無尽に組み合わせることよって、もっともっと活動のスケールを大きくすることができるのではないかと考えたんです。

会社は社会の公器。ならば、ひとつの会社だけでなく、より多くの力を社会のために結集させたい。社会という、より大きな器が抱える問題に対してどのようなことができるのか、存分にチャレンジしてみよう。NHKという場所で実績を作ってきたいまだからこそできることではないかと思ったんですよね。

この思いは、番組制作を通じて小国さんが感じていた使命感にも端を発している。社会課題に関する番組を作るとき、課題先進国といわれる日本には取り上げるトピックがたくさんあるものの、いざソリューションとなると具体的な活動はあまりなく、海外の事例を紹介することが多かった。その度に、「もっと日本を土壌とするソリューションを自分で作りたい」と思っていた。だからこそ、会社という土俵から、社会という、より広い土俵に活動の拠点を移し、クリエイティブなアイデアを開発することに全力を注ぎたいと考えたのだった。

小国士朗
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連載『イノベーションを生む「うろうろアリ」の働き方』

変化のスピード増す現代において、既存の価値観や会社という枠組みに囚われないない「うろうろアリ」こそがイノベーションをリードする。自由な発想で新たな価値を生み出し続ける彼らの、最先端の働き方を紹介するインタビュー連載です。

プロフィール

小国士朗(おぐに しろう)

株式会社小国士朗事務所 代表取締役・プロデューサー。2003年NHKに入局。ドキュメンタリー番組を制作するかたわら、200万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」や世界1億再生を突破した動画を含む、SNS向けの動画配信サービス「NHK1.5チャンネル」の編集長の他、個人的プロジェクトとして、世界150か国に配信された、認知症の人がホールスタッフをつとめる「注文をまちがえる料理店」などをてがける。2018年6月をもってNHKを退局、フリーランスのプロデューサーとして活動。

唐川靖弘(からかわ やすひろ)

1975年広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント、戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院Center for Sustainable Global Enterpriseマネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクトや新市場開拓プロジェクトをリード。自身のイノベーションファームEdgeBridge LLCを拠点に、企業の戦略顧問や組織・人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。フランスの経営大学院INSEADにおいて臨床組織心理学を研究中。

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